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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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夜の港

 冬枯れオークの討伐に時間を取られてしまったせいで、タハリに到着したのは日が暮れようかという時間だった。

 調査を始める前には王家から派遣されているタハリの行政官に挨拶する必要もあるので、とりあえず宿に向かうことになった。


 行政官のところには、護衛として同行した騎士が大公殿下の書状を持参して、来訪の目的と明日我々が挨拶に出向くことを伝えにいった。

 面倒な手続き的なものは全て代行してくれるので、調査に専念できるのは有難い。


 漂着した船については、タハリでも話題になっているようで、俺達が旧王都から調査のために来たと知ると、夕食の時に宿の主人が色々と教えてくれた。

 それによると、船は港に係留されていて、内部には立ち入れないものの、外観は誰でも見られる状態になっているらしい。


 宿の主人は、実際に船を見物に行ったそうだ。


「外から見た印象はどうでしたか?」

「そうですね、私はそんなに船には詳しくありませんが、それでも外国の船だと感じましたね」

「それは、外見からしてタハリで良く見掛ける船とは違っているってことですね?」

「そうです、何と言うか……子供が絵に描くような船ですね」


 夕食が終わったら、部屋の布団をフカフカに仕上げて、のんびり風呂に浸かってから、ぬくぬくしようと思っていたのだが、ケスリング教授から港まで行ってみないかと誘われた。

 調査のことも考えてなのか、それとも偶然だったのか分からないが、俺達が泊まっている宿は港から歩いて五分ほどの場所にあった。


「でも、もう真っ暗じゃないですか?」

「そうですね。それでも一目見ておきたいのですが……」


 どうやら宿の主人の話に感化されてしまったらしく、マシップ教授も一緒に行くと言い出した。

 別に俺は行かなくてもいいかなぁ……と思ったけど、お付き合いして港に行くことにした。


 宿から港に向かう道には街灯が無く、ケスリング教授が明かりの魔道具を借りてきたけど、足元程度しか照らせていない。


「ちょっと暗いですね。明かりを点けましょう」


 空属性魔法で明かりの魔法陣を作って、街灯のように道の前方に並べた。


「おぉ、これは明るいですね。いやぁ、これなら魔導具を借りてこなくも良かったですね」

「まぁ、何も起こらないとは思いますが、念のために持って行きましょう」


 港の方から吹いてくる風が、潮の香りを運んでくる。

 空は晴れ渡っていて星が良く見えるが、放射冷却によって冷え込んでいる。


 ケスリング教授とマシップ教授は、外套を着込んで、襟元にはマフラーを巻き、革の手袋を嵌めているが、それでも寒そうだ。


「いや、思ったよりも冷えますな」

「これでは長居はできそうもありませんね」


 二人は、今夜中に一目見ておこうなんて考えるんじゃなかった……などとボヤきつつも、どこか楽しそうだ。

 まぁ、実のところ、俺も結構楽しんでいたりする。


 星空の下、港に漂流船を見に行くなんて、ちょっとロマンチックだ……なんて思っていたのは港に着くまでだった。

 真冬の夜の港には、我々以外に人の気配はなく、しかも海から寒風が吹き付けて来る。


「うー……これは、寒くない?」

「あまりにも寒すぎるから、空属性魔法で周りを囲いました」

「おぉ、確かに見えないけれど壁がありますね」


 俺達三人の周囲をドーム状のシールドで覆って、ついでに温風の魔道具も発動させたから寒いどころか暖かい。


「いやはや、エルメール卿が一緒でなかったら引き返すところでしたね」


 マシップ教授も寒風から逃れられて、ほぉっと息をついて竦めていた肩を下ろした。


「明日から、じっくり調査できますから、とりあえず外観を確認したら帰りましょう」

「そうですね」


 余程さっきの寒風が堪えたのか、ケスリング教授も長居する気は無いようだ。


「エルメール卿、あれじゃないですか?」


 マシップ教授が指差す方向に、岸壁に横付けに係留されている船が見えた。

 船の全長は五十メートル弱といったところだろうか、かなり長期間漂流していたのか、あちこちに損傷が目立つ。


「なるほど、これじゃあ幽霊船って言われるのも無理ないですね」


 漂流船は、マストがポッキリと折れている。

 焼け焦げたような跡が見えるから、もしかすると嵐に遭遇して落雷によって失われたのかもしれない。


「なんというか、外洋を行く船には見えませんね」


 ケスリング教授が言うように、大きさはそれなりに大きいのだが、キャビンのような物が無い。

 ぱっと見た感じは、大きなヨットのような形だ。


「しかし、これだけあちこち壊れているようなのに、よく沈みませんでしたね」

「何か特殊な構造になっているのかもしれませんね」


 ケスリング教授もマシップ教授も、空属性魔法で作ったドームの壁面に両手をついて、食い入るように船を眺めている。

 船の全体が眺められる所から始めて、前から後へと、岸壁に沿って移動しながら眺めていた。


 空属性魔法のドームがあるので、夢中になりすぎて岸壁から落ちる心配は要らないが、ちょっと見たら帰るどころか、あれこれ意見を交わし始めた。

 二人の一致した意見だが、漂流船は船室や船倉を全て甲板の下にする事で、転覆しにくい作りになっているらしい。


 嵐で帆を失ったが、転覆するような事態には陥らずに漂流を続けて来たのだろう。

 一応、船の後部に櫓を据え付けられるようになっているようだが、これは港の近くでは人力で自走するための物のようで、ガレー船のように航海に使うものではないらしい。


「舵も破損しているようですね」


 船の後部まで辿り着いた所で、ケスリング教授が沈痛な表情で指差した先は舵を操る場所のようで、舵棒の先は途中で折れていた。

 マストが折れ、舵も壊れた後、乗組員は何を考えていたのだろう。


 絶望的な状況でも、家族や恋人、友人などとの再会を夢見ていたのだろうか。

 そんな事を考えていたら、本当に幽霊でも出てきそうな感じがしてきた。


「さぁ、続きは明日にしましょう」


 船を照らしていた明かりの魔道具を消し、宿へと向かう道に明かりを灯すと、ケスリング教授も渋々といった感じで、ようやく船に背を向けて歩き始めた。


「ケスリング教授、ざっと見ただけですけど、何か気付きましたか?」

「そうですね、外観だけなので何とも言えませんが、船体を作る技術は高いように見えました。船の形は特殊ですが、技術的に劣っているようにはみえませんね」

「マシップ教授はいかがです?」

「私も木工技術は高いと感じましたが、逆に金属加工の技術はそんなに進んでいないように感じました」


 漂流していた船だし、あちこち損傷がみられるが、船体に金属製の部品が使われておらず、木組みだけで作られているようにも見える。

 その辺りは、許可を得て内部を見てみれば分かるだろう。


 宿に戻った後、ケスリング教授とマシップ教授は酒を酌み交わしながら、明日からの調査方針について話し合いを始めた。

 実物の漂流船を目にしたことで、刺激を受けたようだ。


 俺は、乗組員の遺体の扱い次第で、どちらに同行するか決めるつもりでいる。

 既に埋葬されているなら、墓を暴いて掘り出す必要がある。


 そもそも、掘り出す許可が下りるかどうかも分からない。


「ケスリング教授、タハリの行政官というのはどんな人物なんですか?」

「さぁ、私もお会いしたことは無いので、詳しい事はわかりませんが、確か侯爵家の子息でキレ者だという噂です」


 タハリは、海路による貿易の玄関口だ。

 国の財政すら左右しかねない街を管理する役割を王家から任されているのだから、行政官が凡庸な人物であるはずがない。


 円滑な調査のためにも、できれば敵対するようなことは避けたい。

 とりあえず、グロブラス伯爵のような猫人を見下す人物でないことを祈ろう。


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