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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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立ち入り禁止は続く

 ダンジョンを出てから五日目、頻度は少なくなってきているが、相変わらず崩落が続いている。

 これまで保たれてきた建物の強度と堆積した土の重みのバランスが、根本的に崩れてしまっているように感じる。


 いつになったらダンジョンに入れるのか分からず、冒険者たちは落ち着かない日々を過ごしているが、それは旧王都の街の住民にとっても同じのようだ。

 いったいどこまで崩れるのか、自分の住んでいる場所は大丈夫なのか、不安を感じつつも日々の暮らしを続けなければならない。


 これまで主に発掘が行われてきたダンジョンの旧区画は、大規模な海上都市と超高層ビルで構成されている。

 地下に通じる階段塔と思われていた場所が超高層ビルで、地下都市と思われていた区画が海上都市だ。


 海上都市の部分は、旧王都の街並みの半分ほどが収まってしまう広さがある。

 つまり、ダンジョンの旧区画の全てが崩壊した場合、街の中心部や南に向かう街道まで巻き込まれてしまう恐れがあるのだ。


 ただし、ダンジョンの旧区画の中央部分は吹き抜けの構造になっているので、これ以上陥没する恐れは少ない。

 それでも、周囲がドーナツ状に陥没すれば、何らかの影響を受ける可能性は否定できない。


 俺がアーティファクトの中から見つけ出した海上都市時代の地図と現在の街並みを重ね合わせてみると、チャリオットの拠点はギリギリ吹き抜けの範囲に入っている。

 崩落が一区画ちょっと先で止まっているのは、そのおかげなのだろう。


 現在、崩落は東に向かってジワジワと広がっているようだ。

 崩落現場から北西の方向になるダンジョン入口の方へも崩落が広がったが、こちらの進行はほぼ止まっているような状態だ。


 これは、ダンジョンに潜って活動する冒険者達にとって喜ばしい状況ではあるが、地上に暮らす者にとっては心配な状況だ。

 というのも、崩落が南に向かう街道に近付いているからだ。


 南に向かう街道は、他国との交易の玄関口となっている港町タハリへと続いている。

 タハリから旧王都、旧王都から西に向かって新王都というルートは、貿易を行っている者たちにとっては重要なルートだ。


 そこの通行が途絶えることになれば、経済的な損失は旧王都に留まらず国全体に影響を及ぼしかねない。

 ダンジョン新区画へと降りる新たな地下道の開設と共に、崩落の危険性がない新たな街道の敷設も検討されているらしい。


 そのダンジョンの地下道建設に必要な地図データは、四枚に分割して写真用のプリンターでプリントアウトして渡してある。

 ついでに、俺が上空からアーティファクトを使って旧王都の街並みを撮影した写真データもプリントして渡した。


 縮尺が異なっているので、測量してもらう必要はあるだろうが、地下道建設のためには有用なデータとなるはずだ。

 現在、発掘品の運び出しに関してはエレベーターシャフトを利用した昇降機頼みで、効率の面でも安全性の面でも問題がある。


 馬車が入れる地下道を建設すれば、そうした問題も解決できるはずだ。

 ただし、建設には多くの土属性の魔導士が必要で、チャリオットからもガドと兄貴が参加を検討している。


 ガドと兄貴以外のメンバーも、ダンジョンの外での依頼を受けるかどうか検討を始めている。

 実際、ダンジョンへの立ち入り規制は長期化しそうだし、蓄えは潤沢にあるけど遊んでいたら体が鈍る。


 俺は学術調査への協力を要請されているので学院に通う予定でいるが、ライオスやセルージョは護衛の依頼を請け負って旧王都の外に出ることも検討しているそうだ。

 いずれにしても、暫くの間は拠点に滞在して活動することになるので、自炊の準備もしておくことにした。


 なにしろ、旧王都なら米が手に入るし、魚も手に入りやすい。

 それにラーシなどの調味料も手に入るから、和食の再現もしやすいのだ。


 やっぱり、朝はご飯と味噌汁、それに魚の干物というゴールデンメニューだよね。

 食材を仕入れるお店は拠点の近くにもあるが、学院までの道筋にも商店街がある。


 魚屋や肉屋も何軒かあって、店先の品物を比べながら買い物をするのは楽しそうだ。

 旧王都は、イブーロよりも何倍も大きな街だし、住んでいる人の数も遥かに多い。


 そうした人々の生活を支えるために、商店の数も多いし同業者に負けないように、商売にも工夫を凝らしているようだ。

 俺の学院での仕事は、基本的に朝から昼までとなっている。


 この時間に、学院にいる教授たちとアーティファクトや文献の解析についてアドバイスをする。

 教授たちはアドバイスを基にして午後から調査や研究を進め、また翌日に研究結果を持ち寄って方針を検討するという繰り返しになる。


 俺は学院で昼食を取ったあとは自由で、誰かの研究の手伝いをしても良いし、帰っても構わないと言われている。

 教授たちの研究に付き合うのは楽しいのだが、途中で切り上げないとキリが無いのは初日で理解した。


 これまでダンジョン内部で行われてきた発掘調査は、運び出すための仕分け作業が殆どで、発見した品物の調査は殆ど行われて来なかった。

 学術調査に参加している人間にとっては、発掘調査も楽しいのだろうが、一番やりたい事は発掘品の研究だそうだ。


 なので、ダンジョンの立ち入りが禁止されたのは、発掘チームにとっては一種のご褒美らしい。

 現地での調査ができない以上は、地上で発掘品の研究をするしかないからだ。


 当然研究には熱が入っているようで、二回目の打ち合わせに出向いたら、参加者の殆どが寝不足状態だった。

 午前の打ち合わせの後は、食事や休憩を取るのも忘れて研究に没頭し、そのまま研究室に泊まり込んで朝を迎えたらしい。


 先史時代のアーティファクトには興味があるが、徹夜してまで研究する気はない。

 てか、モルガーナ准教授やレンボルト先生は倒れやしないか心配になる。


「じゃあ、そろそろ帰ります。皆さん、あんまり根を詰めすぎないで下さい」

「お疲れさまでした、エルメール卿」


 朝もゆっくりめだし、夕方には学院を出るようにしたので、なんとなく重役出勤ぽい感じだ。

 夕方早目に切り上げて帰るのは、翌朝の食材を買い物して帰りたいからだ。


 夕方の商店街を食材を探しながらウロウロするのは楽しすぎる。

 美味しそうなものがあれば、夕食の食材として買って帰っても良いし、お惣菜を買って帰るのも良し。


「買い物ニャンゴが、にゃんにゃにゃん、お魚ください、にゃんにゃにゃん」


 商店街の店先を眺めながら歩いていると、鎧に身を固めた騎士の姿が見えた。

 別に騎士たちが買い物したって良いのだろうけど、鎧姿のままというのが違和感を覚える。


 ちょっと興味があるので、空属性魔法の集音マイクで話を聞かせてもらおう。

 騎士が立ち寄ったのは、キツネ人の女将さんがいる魚屋だ。


「こんにちは」

「いらっしゃい……ませ、何か御用でしょうか?」

「あぁ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。ちょっとお知らせをして回っているだけですから」

「お知らせ……ですか?」

「はい、近頃ダンジョンを含めて街の治安が悪くなっているので、身元調査を少し厳しくしていく予定です。と言っても、住民登録をされてる方やギルドなどの身分証を持っている方は確認するだけですから、何の心配もありませんよ」

「それは、お尋ね者とかを見付けるためでしょうか?」

「そうです、そうです。なので、一般市民の皆さんにとっては単なる確認作業なので御安心下さい」


 これは、ダンジョン崩落の翌日にギルドマスターたちと面談した時に、大公家の家宰が話していた取り締まり強化の一環なのだろう。

 確か、魚屋はキツネ人の女将さんとタヌキ人の旦那、それに娘がいるだけだったと思う。


 訪ねて来た騎士が言う通り、元々街に根を張って生活している人にとっては単なる確認作業なのだろうが、キツネ人の女将さんの表情に陰りがあるように感じた。

 騎士が店先から離れるのを待って、魚屋を覗いてみた。


「いらっしゃいませ!」

「こんにちは、今日のおすすめは?」

「今日はスラットの良いのが入ってますよ」


 スラットは鯖に似た青魚で、丸々と太っているし目がキラキラしていて鮮度も良さそうだ。

 うん、今日はサバの味噌煮にしよう。


「じゃあ、それを二匹、三枚に下ろしてもらえる?」

「はい、毎度あり! あんた、スラットをおろしておくれ!」

「あいよ!」


 なかなかの美人なキツネ人の女将さんと、冴えないタヌキ人の旦那。

 ちょっと釣り合いが取れていない感じもするけど、何処で知り合ったのかね。


 まぁ、俺は美味しい魚が食べられればオッケーだけどね。

 さぁ、早く帰って鯖の味噌煮を作ろう。


 味噌汁の具は何にしようかにゃぁ……。


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― 新着の感想 ―
ライオスたちはもともと体動くうちにダンジョン行ってみたいって話だったから 十二分に稼いだ今なら普通の冒険者に戻るか引退するかしそう
[一言] そんな燃料を投下されると、「さては貴族ご令嬢と料理人の駆け落ち夫婦か?」と妄想が捗ってしまいますな。そういう方向の訳ありの方々も結構いるんじゃないでしょうか。
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