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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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崩落への対応

 ダンジョンから地上に戻った翌日、俺と兄貴は拠点の屋根の上にいた。


「昨日の晩は大失敗だったな、兄貴」

「まったくだ、全部お魚と酒が美味かったせいだ」


 酔っぱらって前後不覚に陥り、俺はレイラに、兄貴はシューレに抱き枕にされて朝を迎える羽目になった。

 せっかく地上に戻ったのに、ふかふかお布団で一夜を過ごせないなんて、もったいないにも程がある。


「おぉぉ、膨らんできたぞ、ニャンゴ」

「当然だよ、兄貴。冬の日差しは弱いからな、下から温風を当ててるんだ」

「そうか、お日様と温風の合わせ技なのか、さすがだなニャンゴ」

「任せてよ、兄貴。敷布団も掛け布団もふっかふかに仕上げるよ」


 空属性魔法のケースに入れ、上からは日光、下からは温風を当てると、布団がふわぁっと膨らんでいく。

 この布団が膨らんでいく様子は、何度見ても良いものだ。


「しまった、失敗した」

「どうした、ニャンゴ」

「布団が膨らむ様子を撮影するのを忘れてた」

「撮影って、あの動く絵に残すってことか?」

「そうだよ。動画として保存しておけば、いつでも再生して見られるんだぞ」

「なんだって、もしかして何度でも見られるようになるのか?」

「そうだよ。いつでも、見たい時に見られるんだよ」

「あぁ、どうして忘れたんだよ、ニャンゴ」

「ごめんよ、兄貴。一刻も早くペシャンコの布団を膨らませたかったんだよ」

「そうか……それじゃあ仕方ないな」


 俺たちが、お布団膨らむ動画を撮り忘れたショックから立ち直ろうとしていたら、ミリアムが声を掛けて来た。


「ちょっと、そこの布団中毒者」

「えっ? 布団中毒者?」

「なんで二人して首を傾げてるのよ。あんたたちしか居ないでしょ。そんなことよりも、あたしのドレスも虫干ししてくれない?」

「えっ? なんのために?」

「だから! 虫干しって言ってんでしょ! 大事なドレスなんだから、日焼けとかしたら困るのよ」

「だったら、外に干さない方が良くない?」

「でも、虫に食われたら困るでしょ。大事なの!」

「それなら、熱風を当てた方が確実だと思うけど……」

「じゃあ、それやって」

「でも、今は布団を干してる最中だから……」

「おねがい!」


 ミリアムは尻尾をボフっと逆立てて、ドレスの虫干しを頼んできた。

 てか、買っただけで一度も着てないよね。


「ニャンゴ、ミリアムは自分のお布団を持っていないから、代わりにドレスを干して欲しいんじゃないのか?」

「そうか、ミリアムにとってはドレスがお布団なのか」

「違うわよ! 違わないけど、違うわよ!」

「暫くダンジョンには潜れないみたいだし、この機会にミリアムもお布団を……」

「それよりもドレスなの!」

「はぁ……しょうがないなぁ」


 一夜が明けても崩落が続いているようで、時折小さな揺れを感じる。

 この分では、ダンジョンに潜れるようになるまでには暫く時間が掛かると思われる。


 だとすれば、その間は地上で過ごさなければならないし、だったらドレスなんかよりも自分用のお布団を手に入れるべきだろう。

 というか、ドレスなんて何処に着ていくつもりなんだろう。


 まぁ、ミリアムにとっては大切なドレスらしいので、温風で虫干ししてあげた。

 俺たちの布団とミリアムのドレスの後は、シューレとレイラの布団もふかふかに仕上げた。


 これで今夜は、抱き枕を務めなくても済むかなぁ……。

 昨晩、俺と兄貴が酔いつぶれたので、レイラとシューレは一緒に拠点に帰ってきたそうだが、ライオス、セルージョ、ガドの三人は二軒目、三軒目とハシゴしていたらしい。


 三人が起きてきたのは昼前で、昼食を食べに行った後でライオスと一緒にギルドに情報収集に向かった。


「というか、ライオス酒臭いよ」

「あぁ、昨日は久々に何の警戒もしなくて良かったから、ちょっと飲み過ぎた」

「情報収集は、明日でも良いんじゃない?」

「まぁ、そうなんだが、今後の動きは気になるからな」


 ギルドには俺たちと同じように、情報を求めて多くの冒険者が集まっていた。

 そうした者たちの最大の関心事は、いつからダンジョンに潜れるようになるかだが、これについては全く見通しが立っていないようだ。


 少なくとも崩落が止まり、これ以上の拡大は無いという見極めができなければ立ち入りの再開はできないだろう。

 いくら冒険者の行動は自己責任とは言え、大きな災害になる可能性が残されている状態では立ち入り規制はやむを得ないだろう。


 ダンジョンへの立ち入り再開の目途が立たない状況での冒険者たちの次なる関心事は、ダンジョン以外での依頼だ。

 新区画の発掘作業で既に利益を上げている者たちならば、立ち入りが再開されるまで待っているという対応が取れるが、これから稼ごうと思っていた者たちは遊んでいられない。


 潤沢な蓄えがあるなら良いが、無ければダンジョン以外での依頼を受けて稼がなければ食っていけない。

 俺たちが最初に発見した商業施設から運び出された品物が、既に商品として各地へと運ばれているらしい。


 そうした品物を買い付け、旧王都以外の街で高く売ろうと考える商人も増えているそうで、道中の護衛の依頼も増えているようだ。


「ライオス、俺たちも護衛の依頼を受ける?」

「いや、俺たちは旧王都を離れない方が良いだろう。たぶん、ニャンゴは学院に呼び出されるんじゃないか?」

「まぁ、立ち入り禁止が長期化したら、間違いなく呼び出されるだろうね」


 新区画で発見されたアーティファクトは、魔道具と家電品の違いはあっても、前世で使用していた物によく似ている。

 スマホやパソコンなどを使った経験のない人に比べれば、俺には前世の知識というアドバンテージがある。


 学術調査隊には前世の記憶のことは話していないが、解析作業が行き詰まればお呼びが掛かるだろう。

 そう考えるとライオスの言う通り、旧王都を離れない方が良さそうだ。


 集まっている冒険者たちの話に耳を傾けたり、依頼が貼られた掲示板のようすを眺めていたら、ギルドの職員の女性が声を掛けて来た。


「エルメール卿、お時間がございましたらギルドマスターが話をしたいと申しているのですが……」

「構いませんよ。うちのリーダーも一緒でいいですよね?」

「はい、勿論です。どうぞ、こちらへ……」


 案内された応接室では、ギルドマスターのアデライヤが二人の男性と打合せを行っているところだった。

 一人は長身痩躯のキリン人、旧王都の学院長ユゴーで、もう一人は見覚えの無い四十代ぐらいの虎人だが、後ろに騎士が控えているところをみると大公家の関係者だろう。


「御足労いただき申し訳ありません、エルメール卿」


 立ち上がって俺達を迎えたアデライヤは、崩落事故を受けて動きやすさを重視したのか、今日はパンツスーツに身を包んでいる。

 武術のたしなみを思わせるしなやかな動きだが、表情には少し疲れの色が見えた。


「いえいえ、ダンジョンに入れないので時間はありますから、お気になさらず」

「ありがとうございます。エルメール卿は学院長とは面識があると聞いていますが……」

「はい、百科事典をお届けした時にお会いしました」


 立ち上がって頭を下げた学院長に会釈を返すと、学院長の隣に立った虎人の男性が挨拶してきた。


「お初にお目にかかります、エルメール卿。私は大公家の家宰を務めておりますオヴォーラと申します、お見知りおきを……」


 オヴォーラは、いかにも実務家という感じだが、身のこなしや姿勢を見ると武術の心得があるように感じる。

 陰険なインテリとは真逆の腕力で物事を解決しそうなタイプで、あの主人にしてこの家宰ありという感じだ。


「ニャンゴ・エルメールです。こちらは、所属しているパーティーのリーダー、ライオスです」

「ライオスだ、よろしく頼む」


 一通りの挨拶を終えた後、テーブルを囲んで話を進めることになった。

 大公家、学院、そしてギルドのトップクラスが集まって話し合っていたのは、ダンジョンの今後についてだった。


 俺とライオスが加わったところで、改めてアデライヤが議長役を務めて話し合いが再開された。


「エルメール卿もご存じの通り、未だにダンジョンの崩落は続いています。部下からの報告によると西側への波及が大きいようです」

「西側というと、階段や昇降機がある方ですよね?」

「おっしゃる通りです。勿論、崩落が止まってくれることを願っているのですが、どこまで進むのか予測がつきません。仮に階段部分まで崩落してしまった場合。我々は発掘の手立てを失うことになります」


 現在、ダンジョン内部へと通じているのは、かつての超高層ビルと思われる部分だけだ。

 ここが崩壊してしまったら、数々のアーティファクトが眠っている新区画へ向かう手段も失われてしまう。


「新たな発掘調査の道が断たれてしまうのは、国としても、ギルドとしても、学術調査の面でも大きな損失となります」

「確かにそうですよね……」

「そこで、ダンジョンの新区画に通じる地下道を新たに作れないか……という案が出されました」

「地下道……ですか?」

「はい、現在ある縦穴ではなく、傾斜をつけて馬車が入れるような形にすれば、発掘品の運び出しも容易になりますので」

「なるほど……」


 現在、検討が始まっている案は、地上からつづら折れのような形で傾斜を作り、旧区画と新区画の連絡通路のところへ繋げるというものだ。

 馬車が通れるようになれば、これまでよりも多くの品物が運び出せるようになるし、発掘を行う人員も多く入れるようになる。


 発掘品の枯渇によって都市としての活気が失われつつある状況から脱出するためにも、大きなテコ入れが必要だと考えているようだ。


「でも、地下道の建設には、俺はあまり役に立たないと思いますよ」

「とんでもない、エルメール卿は古代の詳細な地図をお持ちだと聞いております。どの方向から掘り進めるのが良いか、検討する材料として提供していただけませんか?」

「なるほど、それでしたらお手伝いできますね。勿論、構いませんよ。我々としても発掘品を運び出すのが楽になれば、それだけ早く稼げるようになりますからね」


 まだ地下道を建設すると決まった訳ではないそうだが、その検討材料として地図データの提供を了承した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ニャンフォー劇場好きw でも後半は深夜の洋モノ通販番組www
[良い点] 冒頭の猫み溢れるぽかぽかなやりとり
[一言] この安請け合いがあんな結果を真似こことになるなんて!!(適当)
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