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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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地上への道程

 ダンジョンからの全員退避が通達され、地上に向かう階段には長い行列ができていた。

 人の流れが途絶えずに続いているので、階段には下から上まで明かりが灯されている。


 かつて、ここが超高層ビルだった頃には、こうした風景が当り前だったのだろう。


「土属性の者は、可能な限り硬化の魔法を掛けながら上がれ! ここが崩れたら稼ぎが失われちまうぞ!」


 階段のあちこちにはギルドの職員が配置され、土属性の冒険者に階段の保全を呼び掛けたり、退避する人々がパニックに陥らないように声を掛けている。

 行列には冒険者だけでなく、連絡通路がある階層で商売をしていた人たちも加わっている。


 いくら人の往来が増えて安全になったとはいっても、ダンジョンの内部で商売をするのはリスクが伴う。

 ただし、リスクがある分だけ儲けが大きいのも確かなようだ。


 実際、昇降機の乗り場から連絡通路までの間には、日を追うごとに屋台が増えていた。

 飲食や服、薬などの販売に加えて、防具や靴、武器などの修理を請け負う者もいた。


 商売人の半数ほどは、いつでも退去できるように自分が持ち運べるだけの荷物しか持ち込んでいなかったようだが、残りの半数は多くの商品を残していく羽目になったらしい。


「終わりだ……なけなしの金を注ぎ込んで食材や酒を持ち込んだのに……」

「頼むから魔物に食い荒らされないでいてくれ……」


 日持ちのする乾物や酒は、早期にダンジョンへの立ち入りが再開されれば使えるチャンスが残っているが、それも魔物やネズミに食われなければの話だ。

 そして、日持ちのしない食材を持ち込んだ者たちは、死んだ魚のような目をしながら、ヨロヨロと階段を上がっていた。


 俺たちチャリオットは、学術調査隊のメンバーや護衛の冒険者と共に隊列を組んで地上に向かっている。

 先頭を歩くガドが床や壁、兄貴が天井を土属性魔法を使って補強硬化している。


 ガドの半分程度しか背丈の無い兄貴が、どうして天井の補強ができるのかと言えば、俺が空属性魔法で作ったボードに載せて運んでいるのだ。


「ニャンゴ、もうちょい右」

「ここか?」

「もうちょい……止めて!」


 兄貴には、念のためのヘルメットと魔力回復の魔法陣を組み込んだ防具を着せてある。

 これならば、安全かつ魔力切れを起こすことなく作業が続けられる。


「おい、あの猫人浮いてるぞ」

「それに、さっきからずっと補修の作業を続けてる。どんだけ魔力あるんだ」

「あれがエルメール卿なのか?」

「違うだろう、エルメール卿は黒猫人だって聞いてるぞ」

「じゃあ、他にも凄い猫人がいるのか」


 兄貴の働きを評価する声を聞くと、自分が褒められているよりも何倍も誇らしい気持ちになる。

 周囲の驚く声は俺の耳には入ってきているけど、夢中で作業を続けている兄貴の耳には届いていないようだ。


 この誇らしい気持ちは、後でちゃんと兄貴に伝えよう。


「また揺れてるぞ! 落下物に気を付けろ!」


 大きな揺れは収まっているが、その後も崩落は続いているようで、バキバキ、ミシミシと何かが壊れる音が地下から響いてきて、震度二から三程度の揺れがくる。

 地上に向かう土属性の冒険者が補強を試みているが、揺れの度に壁や天井の一部が剥がれて落下している。


「うぉぉ、危ねぇ!」

「がぁ……痛ぇ!」

「頭を守れ! でかい破片に気を付けろ!」


 階段に人の列が続いているので、逃げる場所の確保が難しい。

 俺たちのところには学術調査隊のメンバーもいるので、揺れた時には壁の上部と天井近くの空気を固めて崩れないように支えている。


 なにしろ、正確な年代は分からないが、相当古い建物なので、あちこち老朽化が進んでいる。

 いくら土属性の冒険者が補強しているとはいっても、見落としなく硬化を掛けられている訳ではない。


 硬化が掛かった部分は大丈夫だが、抜け落ちた所が脆くなっていて、一気に剥がれ落ちる可能性もあるのだ。

 揺れが襲ってくる度に地上に向かう行列が止まり、崩落に怯えながら息を殺す時間はとてつもなく長く感じる。


「くっそう、最近は昇降機に慣れちまっていたから、地上までが果てしなく遠く感じるぜ」


 セルージョがもらした愚痴に、周りにいる調査隊のメンバーが頷いている。

 ただでさえ七十階の階段を上がるのは大変なのだが、そこに崩落の恐れが加わるのだから肉体的にも精神的にも消耗する。


 階段の半分ほどを上がり終えたところで、殿をつとめるライオスがガドに声を掛けた。


「ガド、少し休もう。安全を確認しながらフロアに出てくれ」

「分かった!」


 空属性魔法で明かりの魔法陣を作って周囲に配置し、フロアの安全を確保する。

 辺りを探知していたシューレとミリアムが問題無いと告げると、調査隊のメンバーは荷物を床に下ろして座り込んだ。


 普段から体を使って活動している冒険者に比べると、いくらフィールドワークが多いといっても学者である調査隊は体力的に劣る。

 それに加えて、学術調査で得られた資料を可能な限り運び出そうと分担して背負っているので、よけいに負担が増しているのだ。


 ダンジョン南側の崩落が収束して、昇降機の運航が再開すれば今回の資料の持ち出しはかなりの部分が無駄になる。

 それでも、万が一失われてしまった場合には、とてつもない損失になるから持ち出すらしい。


 レンボルト先生も資料が詰まっているらしい重そうな鞄を床に下ろして、袖で額の汗を拭いながら荒くなった息を整えていた。


「レンボルト先生、大丈夫ですか?」

「いやぁ、しんどいねぇ。我々は降りる時も昇降機だったから、あらためてダンジョンの深さを実感しているよ」

「何も起こっていない時ならば、俺の魔法で何人かをまとめて地上まで運べますけど、今は地上までのシャフトが崩れる恐れがありますからね」

「うん、安全第一だと分かっているが……このまま調査ができなくなってしまったら、私は死んでも死にきれないよ」


 ダンジョンの南側で起こっている崩落が収まるまで、立ち入りは出来なくなるであろうし、当然調査も行えなくなる。

 学術調査隊にしてみれば、一度は目にした宝の山が、成す術も無く再び埋もれていくような気分なのだろう。


「人類の英知を埋もれさせる訳にはいかない。私たちは地上に戻り次第、国王陛下や大公殿下に支援を要請するつもりだよ」

「そうですね、まだまだ地下には貴重な品物が眠っていますからね」


 新品の状態を維持しているアーティファクトは勿論だが、街全体に魔力を魔導線を通じて供給する仕組みなどは、絶対に解明したいし再現したい。

 電池やバッテリーのように魔力を蓄えておく仕組みも解明、再現しないと、いずれこの世界は魔石不足で発展が頓挫してしまうはずだ。


 百科事典や電子辞書など、資料となるものも見つかっているが、やはり実物に勝るものはない。

 壊れてしまっている物も検証用としての価値は高いし、動作の検証ができる完動品の価値は計り知れない。


 二十分ほどの休憩を終え、俺たちは再び地上を目指して階段を上り始めた。

 俺達が休憩している間に、冒険者の多くは地上まで昇りきってしまったらしく、階段はところどころ明かりが消えていた。


 幸い、明かりの魔道具が故障している訳ではなかったので、俺たちの行動に問題は起こらなかったが。

 念のために、補助的な明かりを空属性魔法で作っておいた。


「ニャンゴ、こっちも明かりを貰えるか?」

「いいよ、兄貴」


 作業しやすいように、兄貴が乗ってるボードに明かりの魔法陣を付けたのだが、フットライトに照らされてゴンドラステージにいるアイドルみたいに見えて笑ってしまった。

 休憩後も何度か揺れを感じて足を止めることになったが、どうにか一人の怪我人も出さずにダンジョンの入り口まで戻ってこられた。


 太陽の光にほっとさせられたのも束の間、ダンジョンの崩落騒ぎは地上にまで影響を及ぼしていた。


「また家が飲まれたぞ! まだ崩落が止まっていない!」

「土属性の連中は何やってんだ!」

「自分も飲まれるかもしれない場所に行く馬鹿なんかいねぇよ!」


 新区画で起きた落盤事故は地上に届く前に止まったが、今回の崩落では地上でも落盤事故が起こっているようだ。


「ライオス、ちょっと上から様子を確かめてくるよ」

「ニャンゴ、行くなら通信機を置いていってくれ」

「了解。兄貴、ボードは解除するから降りてくれ」

「分かった」


 兄貴がガドの肩に移動したところでボードを消し、自分のボードを作ろうとしたらレイラにシャツを引っ張られた。


「まさか、置いていかないわよね」

「はいはい、分かりました。乗って」

「よろしい」


 ライオスに空属性魔法で作った通信機を渡し、レイラと一緒にボードに乗って旧王都の上空へ上がった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 地下が崩落したから地上は陥没してるのか汗 死人が出かね無いな……
[一言] 思いのほか被害が出てるなぁ ここまでしてジントンたちが得られたものは何もないどころか本人たちが死んでるから犬死どころの話じゃない
[一言] 被害規模が思ったよりデカいけど、責任の所在は一体誰が背負うことになるのか…元凶のアホどもは死んでるしなぁ
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