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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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討伐を目論む者達(ジントン)

※ 今回は元イブーロのBランク冒険者でお尋ね者のジントン目線の話です。


「なぁ、あんた、一緒にやらないか?」

「やらないかって、地竜の討伐をか?」

「そうだ、あんた元は冒険者なんだろう?」


 イブーロの貧民街を仕切っていたガウジョの右腕であるワズロと共に訪れた、旧王都に潜伏している反貴族派に潜入してから一週間ほどになる。

 最初は面倒事を押し付けられたと思っていたが、意外にも反貴族派のアジトの居心地は悪くなかった。


 構成員の多くは貧しい村の若者のようで、ちょっとした揉め事を腕っぷしで収めてやったら一目置かれるようになった。

 若い羊人の男も、俺の腕を見込んで話を持ち掛けて来たのだろうが、ヒヨッコを捻るのと地竜の討伐では難易度が天と地ほども違う。


 腕ずくで物事を解決するのは冒険者の間では珍しくもないし、俺はそうした環境で生きて来たから何も知らない若造よりはコツを心得ているだけだ。

 一方の地竜は、この世界の頂点に位置していると言っても過言ではない存在だ。


 軽々しく承諾などできやしないが、かと言って反貴族派の内部を探っている立場としては無下に断る訳にもいかない。


「まぁ、確かに俺は元Bランクの冒険者だが、竜種は簡単な相手じゃないぞ」

「あんた、竜種の討伐に関わったことがあるのか?」

「関わったと言えば関わったことになるんだろうが、結局は周りからワーワー賑やかしていただけだぞ」


 ここで言う竜種の討伐とは、ブーレ山に現れたワイバーンのことだが、本当は現場にも行っていない。

 実際は話を聞いただけだが、地元ラガート領での討伐とあって参加した連中も多く、様々な視線から話を聞いている。


「すげぇな、話を聞かせてくれよ」

「話といっても、地竜と飛竜じゃ生態も違いすぎるだろうし、参考になるとは思えないぞ」

「でも、竜種の防御の硬さは参考になると思うし、なぁ一杯奢るから頼むよ」

「仕方ねぇな……」


 地竜の討伐に参加する気は無いが、俺も冒険者として生きてきたから、討伐に関わる話をしたり聞いたりするのは嫌いじゃない。

 羊人の若造の誘いに乗って、反貴族派のアジトにほど近い酒場に足を運んだ。


「来てもらったぜ、まだ参加してくれるか分からないけど、飛竜討伐の話をしてくれるってよ」

「マジかよ! あっ、よろしくお願いしやす」


 酒場には、羊人の仲間らしい若造が三人待っていた。

 全員、同じぐらいの年代のようで、ニキビ面のガキばかりだ。


 貧しい農村を飛び出して反貴族派に加わり、旧王都の華やかな街の片隅に潜んでいるだけで、自分が何事かを成し遂げたかのような気分になっているのだろう。

 反貴族派なんてものに加わっているから、余計に自分が選ばれた存在のように感じているのかもしれない。


 こいつらが地竜に挑んで死のうが食われようが知った事ではないが、ガウジョの取引相手である組織が弱体化するのは見逃せない。

 どうやって地竜を討伐する気でいるのか知らないが、嫌というほど聞かされた飛竜討伐の様子を脅しを込める意味で尾鰭を付けて話してやった。


 一度の襲撃で、十人以上が命を落とし、二人の冒険者が連れ去られて食われたと話すと、ガキどもは顔を蒼ざめさせていた。


「で、でも……飛竜は空を飛ぶから討伐が難しかったんですよね?」

「まぁ、そうだな。手の届かないところにいられたら攻撃のしようがないからな」

「その点に関しては地竜は大丈夫ですよ。なにせ天井のある穴倉の中にいるんですから、攻撃は確実に当てられます」


 羊人の若造は、やけに自信ありげに見える。


「攻撃ねぇ……竜種に一撃でダメージを与えられるような攻撃ができるなら、お前ら名のある冒険者になれるぜ」

「マジっすか! おい、名前売れちゃうってよ」

「すげぇ! 一杯稼いで、いい女とか抱けちゃうかな」


 嫌味のつもりで言ったのに、若造どもは本気で竜種にダメージを入れられる気でいるらしい。


「お前ら、どうやって地竜を攻撃する気なんだ?」

「あっ、やる気になりました?」

「やり方次第だ」

「それはですねぇ……」


 羊人の若造は、周りで聞き耳を立てている者がいないか確かめるように視線を巡らせると、声を潜めて手の内を明かし始めた。


「地竜の討伐には、粉砕の魔法陣を使います」

「はぁ、あれは……」

「しぃ! 声がデカいっすよ……」

「すまん。だが、あれは組織の持ち物じゃねぇのか?」

「そうっすよ。でも、持ち出した結果、地竜を討伐して大儲けできれば、倍の値段でも余裕で支払えるでしょ」

「まぁ、そうだろうな……」

「それに……」


 羊人の若造は、もう一度周囲を見回してから囁いた。


「地竜を討伐して大儲けできたら、組織を抜けて冒険者として食っていけますからね」

「そうそう、名前が売れれば、表の世界でいい思いができるっすよ」


 羊人の言葉に、他の若造どもも揃って頷いてみせた。

 つまり、こいつらは反貴族派の武器を勝手に持ち出して地竜を討伐し、富と名声を手に入れて組織から足抜けしようと考えているようだ。


「ぶっちゃけ、今のまま活動を続けていても、俺らが生きている間に貴族社会が引っくり返るかどうか分からないじゃないっすか」

「まぁ、そうだな。簡単ではないな」

「でしょう? 俺らだって、いつ自爆しろって言われるか分かったもんじゃない。どうせ命を懸けるなら、自分らの人生が変わるような勝負をするべきじゃないっすか?」


 あまりにも安直な若造たちの計画に、半ば呆れながら話を聞いていたのだが、最後の一言で心が揺らいだ。

 俺は、自分の人生を懸けた勝負をやってきたのだろうか。


 力のある者や勢いのある者に依存して、人生を懸けた勝負から逃げ続けた結果が今の情けない姿ではないのか。

 嫁も子供も家庭も無いどころか、お尋ね者として世間の裏側で息を潜める……俺だって、そんな生活を好き好んで続けている訳ではない。


「もう少し詳しい話を聞かせろ」

「いいっすよ」


 羊人の若造が言うには、切っ掛けはこの酒場で耳にした冒険者の話だそうだ。

 最下層で暴れ始めた地竜に対して、ギルドはダンジョンの崩壊を未然に防ぐために討伐する意志を固めたらしい。


 そうした話を聞いている時に、一人の老齢の元冒険者が守りの硬い魔物の倒し方を語り始めたそうだ。

 その爺さん曰く、地竜は背中よりも腹が柔らかいらしい。


 背中への攻撃は硬い鱗に阻まれてしまうが、腹ならば攻撃が通るそうだ。

 地竜は四つ足で這って暮らしているために、地面に付いている腹は守りを固める必要が無い、だから腹側は柔らかく攻撃が通るらしい。


「なるほど、それで粉砕の魔法陣ということか」

「そうです。あいつを地面に埋めておき、地竜が来たところでドーンで終わりっすよ」

「なるほど……」


 反貴族派のアジトに潜入してから、奴らがつかっている武器についても色々と話をきいた。

 一番の武器は粉砕の魔法陣で、かつては構成員が抱えて自爆していたそうだが、最近は魔導線や土管などと組み合わせて使うようになっている。


 特に、魔導線を使えば離れた場所から魔法陣を起動させられるので、攻撃を仕掛ける人間は自分の命を危険に晒さなくて済む。

 それに、待ち伏せでの攻撃ならば、特別に戦闘能力を持っていなくても攻撃を仕掛けられるのだ。


「粉砕の魔法陣は、何枚持ち出すつもりだ?」

「二枚を予定してます。一枚は、もう一枚が駄目だった時の予備ですね」

「やっぱり考えることが素人だな」

「どうしてですか!」


 計画をちょっと否定しただけでも感情を露わにする辺りは、若いというより幼いとさえ感じてしまう。


「やるなら最低でもこれだけ必要だ」

「えっ……四枚も?」


 俺が指を四本立ててみせると、羊人の若造は目を丸くした。


「それじゃあ、四段階で仕掛けるんすか?」

「違う、一度に四枚だ。竜種を舐めるなよ」


 地竜どころか、飛竜すら実際に見た訳ではないが、聞いた話から考えれば最大の火力を集中する必要がある。

 粉砕の魔法陣については、イブーロの貧民街の崩壊を招いた様子から、ある程度威力を推測できる。


 貧民街の時にも複数の魔法陣を一気に発動させていたし、あれから威力が上がったとしても、一枚で竜種を仕留められるとは思えない。


「分かりました。何とかします」

「それと食糧と水だ。一度持ち出したら、成功するまで組織に顔は出せないからな」

「うっす……」


 俺が順番に睨み付けると、若造どもは自信無さげに目を泳がせた。


「けっ……駄目だな、俺に睨まれた程度でビビってるようじゃ地竜なんか倒せねぇよ」

「そんな事は無いっすよ!」


 俺の言葉に、四人は一斉に眉を吊り上げてみせた。

 ここで下を向くようならば、本当に目は無いと思ったが、ほんの僅かではあるが可能性はあるのかもしれない。


「お前らがやろうとしてる事は、組織を裏切って自分が儲けようという計画だ。成功しても、多額の金を支払わなきゃ裏切者として狙われるようになる」

「それは、分かってるっすよ」

「いいや、分かってねぇ」

「下手をすれば、名前を売っても。組織に属した過去をバラされて、官憲に追われるようになるかもしれねぇんだぞ」

「それは、今だって変わらないじゃないっすか。このままじゃ、俺達に未来なんか無いんすよ」


 二度目の煽りは、若造どもを焚きつけただけだった。


「覚悟はできてんだな?」

「勿論っすよ!」


 もう一度、順番に睨み付けてみたが、四人とも強い視線で受け止めてみせた。


「いいだろう、話に乗ってやる……」

「マジっすか!」

「ただし、お前らは圧倒的に経験不足だ。罠を仕掛ける場所、タイミング、全部俺が仕切る。分け前は俺が四割、残りをお前ら四人で分ける。それで良ければやってやる」

「四割っすか……」

「嫌なら、お前らだけでやるんだな」


 四人は顔を見合わせて少し迷った様子を見せたが、頷き合って受け入れた。


「分かりました。それでお願いするっす」

「よし、それじゃあ詳しい話をするぞ……」


 こんな若造四人と組んでも、地竜を討伐出来る可能性は一割も無いだろう。

 だが、俺も今の生活には心底うんざりしている。


 それに、例え駄目だったとしても、四人を囮にして逃げれば済むだけだ。

 もう落ちるところまで落ちてるんだ、これ以上落ちることを恐れて勝負をしないなんて馬鹿げている。


 もし地竜を討伐できたなら、さっさと金を懐に入れて姿を晦ませてやる。

 ガウジョの野郎ともおさらばして、若い女でも囲って一生遊んで暮らしてやる。


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― 新着の感想 ―
[一言] ダンジョン崩落させて死にそうやな
[一言] >最近は魔導線や土管などと組み合わせて使うようになっている。 まさか土管でドカン!という駄洒落が隠されているとか? (^^;)
[一言] 地下の坑道のような場所で爆発系は危険すぎるな。 知識が無いからしかたないともいえるが・・。
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