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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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調査依頼

「調査……ですか?」

「はい、昨日アースドラゴンが破壊したと思われる場所が、どうなっているのか調べていただきたいのです」


 スロープの登り口を封鎖する作業を行った翌日、ベースキャンプを訪ねてきたヘリングから調査を依頼された。

 帰還の途中で感じた大きな振動は、アースドラゴンがダンジョンの内部を破壊したことに伴うものだと思われるが、実際の状況が確認出来ていない。


 現場は最下層の南西部で、そこに辿り着くにはヨロイムカデの大群を越えていく必要がある。


「エルメール卿ならば、床から浮いた状態で移動が出来ますし、周囲の探知もお手のもの。その上、自前の明かりも灯せますから調査には適任だと考えております」

「まぁ、確かにそうですね」

「あと、可能であれば、シビレアザミの汁を使って、ヨロイムカデを分散させていただきたいのです」


 現状、ヨロイムカデはダンジョン西端の最下層と一つ上の階層に固まっていると思われる。

 この群れている状況がアースドラゴンを引きつけてしまっているので、これを分散させたいそうだ。


「本音を言えば、全部討伐してしまいたいのですが、あれだけの数になりますと討伐自体が難しいですし、仮に討伐できたとしても後処理が問題になります」


 ヨロイムカデは、その名前の通りに鎧のように固い殻を持っていて、防具などの素材として使われる。

 肉も食用として用いられるし、小さいながらも魔石も持っているので、本来倒せばお金になる魔物だ。


 ただし、お金にするには買い取ってもらえる場所まで持ち込まなければならない。

 従来であれば、最下層で討伐しても昇降機を使って地上に運べていたが、エレベーターシャフトの下部を埋めてしまったので、発掘が行われている階層までは人力で持ち上げるしかない。


「一匹、二匹ならば担いで持ち上げることも可能でしょうが、あの群れ全部は……」

「確かにそうですね……」


 床一面を埋め尽くすようなヨロイムカデの群れを思い出せば、ヘリングが顔を顰めてみせるのもよく分かる。


「ヨロイムカデにシビレアザミの汁は効くんですか?」

「実は、効果があるという話と、あまり効果が無いという話があります」


 最下層の横穴の討伐の時に、集まった冒険者たちはシビレアザミの汁を撒きながら進んだそうだが、それでもヨロイムカデに襲われて敗走することになったらしい。

 その一方で、効かなかったのは撒く範囲が足りなかったからで、実際にヨロイムカデの近くにシビレアザミの汁を撒くと嫌がって逃げるという話もあるそうだ。


 これまで、あまりシビレアザミの汁が使われなかったのは、一つには臭いがキツいからだ。

 閉鎖空間であるダンジョンで使えば、臭いはいつまでも籠ったままだ。


 それに、人が不用意に触れれば毒性の影響を受けてしまう点でも、使い勝手は良くないらしい。


「今回は、撒いてしまっても構わないんですね?」

「はい、ギルドとしては、ヨロイムカデの群れがバラけるまでは、ダンジョン下部への立ち入りは制限しようと考えています」

「あの群れに囲まれて逃げ場を失ったら終わりですもんね」

「はい、そうした状況を解消するためにも、調査をお願いします」

「分かりました、俺も状況を見ておきたいので、行ってきましょう」

「ありがとうございます」


 一人で行って来ようと思ったのだが、当然のようにレイラが同行することになった。


「ニャンゴは一人だと無茶するからね」

「無茶するって、調査に行くだけだよ」


 大丈夫だと言ったのに、セルージョにも突っ込まれた。


「いやいや、ニャンゴを一人で行かせると、アースドラゴン倒しちゃいました……とか言いそうだからな」

「信用されてないなぁ……」


 まぁ、調査だけだから、レイラが一緒でも問題ないだろう。

 連絡通路を渡って、ギルドの出張所に立ち寄ってシビレアザミの汁を受け取った。


 小さい樽に入れられていたので、途中までは空属性魔法で作った台車に載せていく。


「ニャンゴ、どこから降りるの?」

「北西の階段から最下層の上の階まで降りて、そこから南に向かって移動するつもり」

「分かったわ」


 発掘が行われている階は、ダンジョンが埋まる前の地上一階にあたる。

 最下層は地下四階になるが、かつて駐車場として使われていたらしく、他の階よりも天井が高く作られている。


「階段からはボードに乗っていこう」

「もう乗っていくの?」

「うん、樽を運ぶの大変だしね」

「そうね」


 普通の体格の人にとって小振りの樽でも、猫人の俺にとっては大きな荷物になる。

 二人乗りのボードを作り、前方に荷台を作って樽を載せた。


 レイラに後ろから抱えられる格好で座ったら、上側にもドーム状のシールドを作った。

 階段の幅は二メートル以上あるので、ボードに乗ったままでも楽に通り抜けられる。


 地下二階にはヨロイムカデの姿は見えなかったけど、地下三階まで降りると探すまでもなく見つけられた。


「もう結構広がってきているみたいね」

「固まっていたら餌にも困るだろうしね」

「何を食べているのかしら?」

「さぁ、ネズミとかじゃない?」


 空属性魔法で明かりの魔法陣を灯して廊下を南に向かって進むと、ヨロイムカデの数はどんどん増えていった。


「どうする、先にシビレアザミの汁を撒いてみる?」

「うーん……先にアースドラゴンが壊したところを見てみたい。それと、一番群れている場所に撒いた方が効果的じゃない?」

「それもそうね、じゃあ先に進みましょう」

「うん、ちょっとアースドラゴンがいないか探知してからね」


 これ以上先に進むと崩落した場所から光が漏れそうな気がするので、まずは探知ビッドを使って近くにアースドラゴンがいないか調べてみた。

 探知ビッドで廊下の様子を探っていくと、五十メートルほど先で床が無くなっていた。


 昨日見せてもらった地図を思い出すと、かつて階段があった辺りのはずだ。

 当然ながら、アースドラゴンの姿はこの階層には無い。


 こっちまで上って来ようとしたかどうかは不明だが、上ろうとしても床がアースドラゴンの重さに耐えられなかったと思う。


「グォォォォォ……」


 床が抜けて崩れた場所から探知ビッドを最下層に下ろして更に周囲を探っていたら、アースドラゴンの咆哮が響いてきた。

 念のために、ボードの周囲に発動させていた明かりの魔法陣を消した。


「後ろから聞えたわね」

「うん、たぶん北側にいるんだと思う」

「調査には丁度いいんじゃない?」

「そうだね、先に調査を進めよう」


 兄貴に土で作ってもらった筒の中に明かりの魔法陣を作り、前方だけを照らして進む。

 南に向かって進むほどにヨロイムカデの数は更に増えていき、折り重なるようになっている場所さえあった。


「うわっ、これは凄いな」

「完全に床が抜けちゃってるわね」


 かつて階段があった場所を中心として、半径二十メートルほどのフロアが無くなっていた。

 天井から上への階段が宙ぶらりんになっていて、陥没の周囲では床に埋め込まれた鉄筋が引き千切られているのが見える。


 まるでビルの取り壊し現場のような状態だ。

 陥没の上をボードに乗って移動しながら、スマホで動画撮影していく。


 床が抜けて出来た穴から最下層へと下りて、下に積み上がった瓦礫の山も撮影しておいた。


「かなり頑丈そうな床だけど、アースドラゴンは上の階へ上がらなかったのかしら? それとも上がれなかったのかしら?」

「どっちだろうね。最下層は天井が高いけど、上の階はそれほど高くないし、上がるのを躊躇したのかも。それか、崩して落ちてきたヨロイムカデを食べるのに夢中で何も考えていなかったかもよ」


 陥没した穴から上の階層へと戻って撮影を終えて、次はヨロイムカデにシビレアザミの汁を撒いてみることにした。

 ヨロイムカデが一番多く固まっている場所の上へ移動して、樽の栓を緩めて汁を振り掛けてみると効果はてき面だった。


「うげぇ、気持ち悪っ!」

「見て、ニャンゴ。あそこ同士討ちしてるわよ」

「あっ、ホントだ」


 シビレアザミの汁を掛けられたヨロイムカデは激しく蠢き始め、一部は仲間割れのように噛み付き合い絡み合いを始めた。


「どういうこと?」

「シビレアザミの毒で興奮状態になっているのかもしれないわね」

「うん、これも撮影しておこう」


 明かりの魔法陣で照らしながら、ヨロイムカデにシビレアザミの汁を掛けていく。

 掛けたそばから動きが活発になり、それが周囲に波及していく感じだ。


 それまでは折り重なるようになっていたところも、活発に動くことで床が見えてきている。

 これで同士討ちや共食いをしてくれるならば、討伐の手間が省けそうだ。


「よし、このまま汁を撒きながら戻ろうか」

「そうしましょう」


 ボードに乗ったままシビレアザミの汁を撒き散らし、ヨロイムカデをパニックに陥れながら、元来た道を引き返した。


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