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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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フォークスの働き

 兄貴がライオス達と一緒にエレベーターシャフトを埋める作業を手伝いに行った後、結局心配で他の作業に身が入らなかった。

 大丈夫だ、ライオスも、セルージョも、ガドも一緒に行ったのだから心配ないと自分に言い聞かせても、悪い想像ばかりを巡らせてしまって落ち着かなかった。


「はぁ……鬱陶しいからウロウロしないでくれる」

「ウロウロなんて……してるか」


 呆れかえった表情のミリアムにツッコミを入れられても、気の利いた返しも出来ない有り様だ。


「そんなに心配なら見に行けばいいじゃないのよ」

「いや、それじゃあ兄貴を信用していないことになっちゃうから……」

「だったら、フォークス達が帰って来た時のために、食事でも用意しておいてやったら?」

「それだ! よし、腕に縒りを掛けて作るぞ!」


 たぶん、兄貴達は一日中肉体労働を続けているはずだから、体力的に疲れているだろう。

 ダンジョンの内部は、今の地上ほど寒くはないが、それでも暖かくはない。


 パッと食べられて、しかも体の中から温まるものが良いだろう。

 チョイスしたのは、カリサ婆ちゃん直伝のお焼きと、芋とベーコンを使ったスープだ。


 お焼きの中身は、クルミ、チーズ、ハムの三種類を作る。

 小麦粉に塩を入れて、熱湯を少しづつ加えて捏ねていく。


 頬っぺたぐらいの硬さになったら、空属性魔法で包んで寝かせておく。

 その間に、中に包む具材を用意する……といっても、クルミは既に剥いてあるし、チーズやハムは切るだけだ。


 寝かせておいた生地を棒状に伸ばして、適当なサイズに切り分けて具材を包んでいく。

 一人三個、合計二十四個では足りなくなりそうなので、全部で五十個ぐらい作ることにした。


 兄貴達が戻ってくるまでに間に合わせようと、せっせとお焼きを作っていたら、兄貴を心配する気持ちが和らいだ。

 スープは角切りにしたベーコンを炒めて、同じく角切りにしたニンジンと芋、水を加えたら干した貝柱をほぐして入れて煮込む。


 コンソメスープの素でもあれば便利なんだけどにゃぁ……。

 味の深みが足りないところは、ラーシで補う。


 こちらの世界の味噌だけど、豆の旨みとコクが加わるから塩味だけより美味しくなる。

 スープの味を調えていたら、レイラが様子を見に来た。


「んー……いい匂い、スープは出来上がり?」

「うん、あんまりグツグツ煮込んじゃうと芋が崩れちゃうから、後は兄貴達が戻って来てから温め直すよ」

「こっちは、お焼き?」

「うん、これから蒸し焼きにするんだ」


 具を包んだお焼きは、油を引いた浅めの鍋に並べて両面に焼き色を付けたら、お湯を加えて蓋をして蒸し焼きにする。

 空属性魔法で作った透明な蓋をしているので、中の様子が良く見えて楽しい。


「まだかにゃ、まだかにゃぁ……」

「ふふっ、食いしん坊のニャンゴが待ちきれなくなってる?」

「もうすぐ焼き上がるけど、焼きたては熱くて食べられないよ」


 本当は、出来立てをハフハフしながら食べたいところだけど、猫舌には無理なのだ。

 焼き上がったお焼きを皿に並べていたら、ライオス達が戻ってきた。


 ライオス、セルージョ、ガド……そして兄貴は、土埃にまみれた姿でガドの左腕に抱えられていた。


「あ、兄貴!」

「あぁ、心配いらんぞ、ちょいと魔力を使い過ぎただけじゃ」


 駆け寄った俺をガドが右手を挙げて制した。


「はぁ、心配させないでくれ」

「すまん、ニャンゴ……」

「いいや、謝ることなど無いぞ。フォークスは、今日の作業が終わるまで良く働いておった。周りにいた冒険者達も感心しておったぞ」


 ガドの話では、兄貴が魔力切れでへたり込んだのは作業が終わってからだそうだ。

 それまでは、周りで作業していた他の冒険者達とも遜色ない働きをしていたようで、猫人なのに大したものだと言われていたらしい。


「頑張ったな、兄貴。お焼きとスープを作ってあるから夕食にしよう」

「お焼きか、久しぶりだな」

「カリサ婆ちゃん直伝だから美味いぞ」


 みんなが戻って来たので、スープを温めて夕食にした。


「兄貴、これがチーズ、こっちがハム、こっちがクルミだよ」

「チーズにハムか、村にいた頃は山菜とか豆ばっかりだったけどな」

「そうだね、でもダンジョンの中じゃ山菜を手に入れる方が大変だからね」


 アツーカ村にいた頃は、肉とか乳製品はあんまり食べられなかった。

 お焼きの具も、俺が薬草摘みのついでに採ってきた山菜とか豆が殆どで、味付けも塩だけだったからあまり美味しくなかった。


「うみゃ、クルミがコリコリで香ばしくて、うみゃ!」

「ハムもうみゃいぞ、ニャンゴ」

「うん、うみゃいな、兄貴」


 兄貴は、俺の作ったお焼きとスープを美味そうに食べてくれたけど、よっぽど疲れているのか食べながらコックリ、コックリと船を漕ぎ始めた。


「兄貴、埃だらけだから、寝るなら風呂に入ってからのがいいぞ」

「うん……うん……」

「しょうがないなぁ……ほら、それ食べちゃいな」

「うん……」


 兄貴は半分以上寝ながら夕食を終えたけど、風呂に入る前に液状化してしまった。

 別に兄貴一人ぐらい抱えられる重さなんだけど、眠り込んで力の抜けた猫人は、ぐてーっと伸びてしまうから運びづらいのだ。


「どぉれ、ワシが運んでやろう。風呂は明日の朝でも構わんじゃろ」

「うん、そうだね」


 兄貴が寝床に使っている箱の上の毛布まで、ガドが抱えて運んでくれた。

 うん、なんだか兄貴を運ぶ手付きが、手慣れてる気がするにゃ。


 兄貴がグッスリと眠り込んだところで、作業の様子を聞いてみた。


「ガド、昇降機の穴は全部塞がったの?」

「とりあえず、最下層から数えて三階層分は塞ぎ終えたから、あそこからアースドラゴンが上がってくる心配は要らんじゃろう」

「それじゃあ一安心だね」

「いいや、全く安心は出来んようじゃぞ」

「えっ、どういう事?」

「他にもアースドラゴンが通り抜けられる場所があるそうじゃ」


 現在アースドラゴンがいる最下層は、殆どの場所がかつての駐車場だったと思われるスペースで、

 つまり、そこへ車が降りていけるスロープが設置されている訳です。


 我々がいる新区画から連絡通路を渡った両側、今は発掘した土を置くためのスペースと居住区になっているスペースがそのスロープへと通じています。


「こちらの階層へと上がって来られたら困るのは勿論じゃが、ギルドとしてはアースドラゴンは最下層に封じ込めておきたいらしい」

「でも、アースドラゴンが通ってきたと思われる横穴は、最下層の更に下だったよね。どうやって上がって来たんだろう?」

「ハッキリとしたことは分からんが、アースドラゴンの体格ならば、体を起こすだけでも上の階層に頭が出るじゃろう」


 確かに、体長三メートルぐらいになるレッサードラゴンを二口で平らげる四つ足の魔物が、後ろ脚だけで立ち上がれば天井を突き破って上の階に頭を出せるだろう。

 ここから下のダンジョンの階層は天井が高めに作ってあるが、それでも上がって来られる可能性は捨てきれない。


「じゃあ、明日からも作業が続くの?」

「モッゾからは、そのように聞いているし、協力せずにはおれんじゃろう」


 アースドラゴンの封じ込めは、安心して発掘作業を進めるためでもあるし、地上に戻る方法を確保するためでもある。

 もし万が一ダンジョンが崩壊するような事態となれば、俺達は地下深くに閉じ込められてしまう。


「ねぇ、ガド。仮に今ダンジョンが崩壊したとして、地上に戻れると思う?」

「そうじゃな……無理ではないが、なかなか厳しいじゃろうな」


 ガドが言うには、ダンジョン側が崩壊しても新区画まで崩壊するとは限らないし、土の質から考えても影響は少ないと思われるそうだ。

 そして、ショッピングモールの大きな空間があるので、そこに土を落とし込みながら地上に向かって掘り進めば脱出は可能らしい。


 ただし、斜め方向に向かって掘り進める事になるだろうし、地下に水脈とかがあれば避けて進む必要もあり、相当な距離を掘る必要がある。


「あまり考えたくは無い状況じゃな」

「そうだね、でも万が一には備えておかないと、起こってからじゃ動揺して良い考えが浮かばないと思う」

「うむ、そうじゃな。ちょっとライオスと相談しておくか」


 この後、ライオスや他のメンバーも交えて、万が一ダンジョンが崩壊した場合の対処方法について話し合った。

 空属性魔法は、地上では非常に使い勝手の良い魔法だが、地下に閉じ込められた……といった状況では出来る事に限りがある。


 万が一の際には、ガドや兄貴に頑張ってもらうしかなさそうだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] フォークスがカッコよくて可愛くてたまらんw
[気になる点] >現在アースドラゴンがいる最下層は、殆どの場所がかつての駐車場だったと思われるスペースです。 >つまり、そこへ車が降りていけるスロープが設置されている訳です。 >我々がいる新区画か…
[一言] うーんどうにもいかなくなったらニャンゴが一人残ってアースドラゴンとタイマンするしかないような
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