三人の王子
ダンジョン内部の静止画の再生、その場での静止画撮影と再生。
以前撮影した大公アンブロージョの動画の再生、その場での動画撮影と再生。
スマホの機能の説明を進めていくほどに、俺の向かい側に座った三人の王子は身を乗り出してきた。
スマホを見詰める目も、心なしか血走っているように感じる。
最初は斜に構えていた第五王子エデュアールも、隣りにすわった第四王子ディオニージと肩を並べる程に前のめりになっている。
スマホの説明をしながら、国王陛下の様子を窺っていたのだが、俺の手元よりも三人の王子に視線を向けている気がした。
そして、最初に堪えられなくなったのは、第四王子ディオニージだった。
「エルメール卿、どうかそのアーティファクトを私に譲ってくれまいか。報酬ならば望む金額を出そう」
「いいや、私に譲ってくれ! 私は報酬の他に王都の貴族街に屋敷を提供すると約束しよう」
すかさず口を挟んだのは第三王子のクリスティアンで、当然のことながらエデュアールも黙っていなかった。
「二人とも、何を馬鹿げたことを言ってるのだ。金を出す? そんなものは献上しろの一言で済ませれば良いのだ。なぁ、エルメール卿……」
新しいオモチャを目の前にして我慢が出来なくなっている子供のような三人に、どう対処したものかと国王陛下に視線を向けたのだが、思わせぶりな笑みを返されただけだった。
このタヌキ親父め……と思いつつ、考えて来た返事をした。
「御安心下さい、こんな私の手垢のついたアーティファクトに拘らなくとも、同種の可動品は他にいくつも発見されております」
「本当か、それはいつ届けられるのだ?」
「落ち着け、ディオニージ。今はエルメール卿の説明を聞け」
「わ、分かっている……」
更に前のめりになったところをクリスティアンに嗜められたディオニージは、姿勢を戻しながらも不満そうな表情を隠そうともしなかった。
そんな二人の様子を横目に見ながら、エデュアールはニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべている。
てか、この中から次の王様選んで大丈夫なのか? 古いしきたりとか止めて、バルドゥーイン殿下にした方が良い気がするけど……。
「このアーティファクトは、魔力を充填することで作動いたします。現在、そのための魔道具の製作と運用のための仕組みを構築している最中だと聞いております。準備が整えば、学院の方から連絡されるはずです」
「そうか、ならば急ぐように伝えておけ」
「かしこまりました」
以前、ラガート子爵の屋敷を訪問した時にも感じたのだが、第四王子のディオニージは年齢よりも振る舞いが幼く感じる。
巣立ちの儀よりも前の様子は知らないが、第一王子であったアーネストが暗殺されて王位継承権を争う相手が同い年のクリスティアンになったことも影響しているのだろうか。
ラガート子爵の息子、ジョシュアから聞いた話によれば、クリスティアンとディオニージは母親が違い、誕生日は一ヶ月程度しか違っていないそうだ。
五つ以上離れていたアーネストが居た時とは違って、自分が次の国王に選ばれる可能性が高まり、少しでもクリスティアンを上回ろうと躍起になっている気がする。
自分達の分のアーティファクトは確保されていると知り、前のめりだった三人の王子も少し余裕を取り戻したように見えた。
そこでスマホの説明を打ち切って、ダンジョン新区画の発見の経緯や発掘中に発生した落盤事故や現在の発掘状況などに話を切り替えた。
スマホの本来の機能は通信機器なのだが、王族には写真や動画が撮れるアーティファクト程度に思わせておこうと思ったのだ。
その程度の機能ならば、弄っているうちに解析出来ましたと誤魔化せるだろう。
日本で生まれ育った記憶を持っていることを気付かれたら、何を要求され、何をされるか分かったものではない。
三人の中でも、特にエデュアールには注意が必要だ。
スマホの説明からダンジョンの説明に移った途端、三人の王子は俺の話に興味を失ったようだ。
ダンジョン内部に屋台を出す者もいる……なんて話には、全く興味が無いらしい。
なので、三人が興味を持たなそうな話題を選んで話を進めた。
「なるほど、ダンジョンも様変わりしてきているのだな……エルメール卿、説明ご苦労であった」
「いえ、長々と失礼いたしました」
国王陛下が話を締め括ると、三人の王子たちは次々に席を立って退室していった。
俺はどうすれば良いのかと迷っていると、国王陛下から声を掛けられた。
「エルメール卿、もう少し話を聞きたいのだが、良いか?」
「はい、勿論です」
「では、場所を変えるとしよう」
移動した先は、先程までの応接室よりも小ぢんまりとした部屋で、テーブルを挟んで国王陛下と向き合う形で座らされた。
国王陛下の隣にはバルドゥーイン殿下、俺の隣にはエルメリーヌ姫、その隣りにはファビアン殿下も同席している。
てか、何この席、まさかエルメリーヌ姫との縁談を進めるとか言い出さないよね。
少し不安を感じていたのだが、メイドさんが運んできた二色のケーキに目を奪われてしまった。
同じ大きさ、同じ形なのだが、一つは真っ白なクリームに包まれていて、もう一つはベージュのクリームに包まれている。
「さぁ、エルメール卿、存分に味わってくれ」
「い、いただきます……」
国王陛下に存分に味わえと言われたら、そりゃあ味わうしかないでしょう。
「うみゃ! こっちはチーズの濃厚な味わいでうみゃ! こっちはカルフェか……香りとほろ苦さが、うみゃ!」
「ふははは! 気に入ってもらえたようで何よりだ」
お咎め無しのようだから、存分にうみゃうみゃさせてもらった。
さすが王城、ケーキもお茶も文句の付け所が無いうみゃさだった。
「さて、エルメール卿、こちらに席を移したのは、もう少しアーティファクトについて突っ込んだ話がしたかったからだ」
「な、何でしょう……」
「ふふっ、そんなに身構えなくても大丈夫だ。冒険者には公にしにくい秘密があることぐらいワシも心得ている」
「きょ、恐縮です」
突っ込んだ話と聞いて、前世の記憶についても突っ込まれるかも……と心配になったのだが、どうやら大丈夫そうだ。
「それで、陛下、訊ねたいこととは何でございますか?」
「うむ、それはアーティファクトの交易品としての価値についてだ」
「国外に輸出するおつもりですか?」
「場合によっては……だな」
アーティファクトを輸出するとは考えていなかった。
現状、スマホやタブレット、ディスクドライブなどはオーバーテクノロジーの産物だ。
輸出した所で受け取った側の人間が、その価値を享受できるかは疑わしい。
ただし、その価値を正しく判断し解析するだけの能力を持つ者がいれば、もの凄い価値を持つ物だと気付くだろう。
世界全体の発展を考えるのであれば、積極的に輸出を行い、諸外国でも研究を進めてもらった方が良いのだろうが、シュレンドル王国のみの発展を願うならば状況は違ってくる。
オーバーテクノロジーであるアーティファクトに関する情報や実物は秘匿し、国内のみで研究を進めるべきだ。
アーティファクト以外にも、完全保存状態で発見した百科事典は物凄い価値を持つ情報の塊だ。
今すぐは無理だが、十年以内にシュレンドル王国は目覚ましい発展を遂げるはずだ。
そうした見立てを話すと、国王陛下は何度も頷いてみせた。
「世界の発展を目指すか、シュレンドル王国のみの発展を目指すか……なるほど、確かにそのような考え方もあるな」
「はい、アーティファクトや百科事典には、今よりも遥かに進化した技術が詰まっています。それを規制せずに国外に持ち出されてしまうと、場合によってはシュレンドル王国が攻め込まれるような事態が起こらないとも限りません」
「ふむ……やはり取り扱いには規制が必要だな」
現在、ダンジョンの新区画で発見されたアーティファクトに関しては、ギルドが全数の買い取りを行っているが、今後はその規制を強化していくようだ。
「エルメール卿、改めて確認するが、そのアーティファクトには底知れぬ価値があるのだな?」
「勿論です。見た目は細長いタイルですが、この中には当時の先端技術が詰め込まれています。これを解析して再現できたならば、世の中は大きく変わるでしょう」
「オリハルコンとどちらが価値があると思うかね?」
「オリハルコン……ですか?」
突然、予想もしていなかった言葉を聞かされて、咄嗟に返事ができなかった。
「エルメール卿はラガート子爵領の出身と聞いているが、隣国エストーレがオリハルコンの採掘に力を入れているという話は聞いておらぬか?」
「オリハルコンなのかは確認出来ませんでしたが、シュレンドル王国との国境付近の森を大規模に切り開いているのは見たことがございます」
「ほぅ、その話、詳しく聞かせてくれぬか」
別室へと移動しての国王陛下との会談は、どうやら俺の予想していなかった方向に転がっていきそうだ。





