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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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不穏な兆し

 建物二の先行調査を終えてベースキャンプへと戻って来ると、ダンジョンとの連絡通路の方角が何やら騒がしい。


「セルージョ、何かあったの?」

「おぅ、昇降機がレッサードラゴンに襲われたらしい」

「えぇぇぇ……怪我人とか出てるのかな?」

「詳しい話は分からないが、昇降機は止まってるらしいぞ」


 レッサードラゴンは、ダンジョン内部においては最も危険度の高い魔物の一種だ。

 俺達が、この新区画を発掘している時にも、下の階から上がって来て襲い掛かろうとしてきた。


 発達した後ろ脚で立って移動するのだが、暗闇でも敏捷に動くらしく、視覚以外にも周囲の様子を感知する器官を持っているのだろう。

 二足で立った時の体高は三メートルぐらいあり、体重は正確に測った訳ではないが二百キロを優に超えているはずだ。


 群れで狩りをする習性があるので、討伐は基本的にパーティーでないと難しい。


「ニャンゴ、ここを頼む。ちょいと情報を仕入れてくる」

「うん、分かった」


 建物一のショッピングモールを発掘した当初は、ダンジョンとの通路は大人二人が通れる程度の大きさだったが、今は発掘品を運びだす都合もあるので拡張してある。

 レッサードラゴンでも楽に通れる大きさだが、連絡通路の袂にはギルドが開設した居住区があって多くの冒険者が滞在しているから、ここまで来ることはまず無いだろう。


 それでも兄貴は、不安そうな顔でセルージョが出ていった方向を見ている。


「ニャンゴ、大丈夫なの? 地上に戻れなくなったりしないよな?」

「さすがにそれは無いよ。俺達以外にも冒険者がいっぱいいるから問題無いよ」

「そうか、そうだよな」


 昇降機が使えないとなると、地上まで階段を使って自分の足で上がらなければならなくなる。

 猫人の場合、階段一段一段が歩幅に対して高いから普通の人の倍ぐらいは疲れる。


 まぁ、俺は空属性の魔法のボードを使って、エレベーターシャフトを上がっていけるし、兄貴やミリアムはガドやシューレが抱えて上がってくれるだろう。

 特に問題は無いだろうと思っていたのだが、戻ってきたセルージョは難しい表情をしていた。


「あんまり良くねぇな……」

「何があったの?」

「最下層の魔物が急激に増えているって話だ」

「それって、攻略を試みる人が減ったから?」

「たぶん、そうじゃないかと言われている」


 ダンジョンの最下層には、俺が地下鉄の線路だと推測している横穴がある。

 俺達が今いる場所よりも更に深い場所を北に向かって伸びていて、その先には別の駅、別の街があるはずだ。


 ただし、この横穴には大量の魔物が生息しているらしく、俺達が初めてダンジョンに潜った数日前には、複数のパーティーが共同で踏破に挑んで惨敗している。

 それ以後は、俺達が新区画を発見したこともあって、最下層の横穴に挑む者はめっきり減っていたらしい。


「最下層から溢れた魔物どもが、生息地域を広げて来ているんだろう」

「今は、どの辺まで広がってるの?」

「横穴よりも一つ上、以前は昇降機が降りていた一番下の階は、ほぼほぼ魔物の勢力圏らしいぞ」

「ギルドは、どういう対応をするんだろう?」

「とりあえず緊急の通達を出して、ここより下の階段への出入口は封鎖するらしい」


 ギルドの方針としては新区画での発掘作業を優先し、そのために必要な昇降機の安全を確保することにしたらしい。

 ここのフロアーから最下層のベースがある階まで、五階分の階段室とエレベーターシャフトの部分は、外部から封鎖して魔物の侵入を食い止める作戦だ。


 ただし、これをやると人間も通れなくなってしまう。

 魔物から逃れて命からがら階段室に辿り着いたら、封鎖されていて逃げ場を失う……なんて状況にもなりかねない。


 そのため実際に封鎖作業を行うのは、緊急の通達を出してから五日後になるらしい。

 それまでは、ギルドが依頼という形で階段室の入り口には護衛の冒険者を配置するそうだ。


「モッゾの話では、魔物が増えれば討伐系の冒険者共が戻ってくるだろうし、そうなれば状況も落ち着くらしいぜ」

「でも、討伐系の人達って、旧王都に残ってるのかな?」

「どういう意味だ?」

「俺達がダンジョンに潜る前に、大規模な討伐が失敗に終わってたよね」

「あぁ、相当な死傷者を出して惨敗したらしいな」

「その怪我人が運び出される様子を見たんだけど、周りにいた冒険者パーティーが移籍の相談をしてたんだ」

「なるほど……腕の立つ冒険者であるほど決断は早いからな、確かに移籍した連中も多そうだな」


 腕の立つ冒険者ならば、なにもダンジョンに固執する必要は無く、護衛とか討伐の依頼でいくらでも稼げる。

 ダンジョンに拘るのは、新しい発見をした者はギルドの歴史に名を刻めるからで、その可能性が無くなれば移籍を考えるのは当然の流れだ。


「討伐の人員が足りなくなったら、俺達も手伝った方が良いのかな?」

「何言ってんだ、討伐は他の冒険者でも出来るけど、発掘の助言はニャンゴじゃなければ無理だろう」

「まぁ、そうだね」

「俺達がやるべき事は、発掘で成果を出し続けて、ここの安全確保がいかに重要かアピールする事だぜ。金になる場所を守るためなら冒険者は動くし、そもそも討伐もやりかたしだいで金になるからな」


 レッサードラゴンは、革が高級素材として高値で取り引きされるし、肉は食用として用いられる。

 魔石も良い値段で買い取ってもらえるので、黒オークを倒すよりも実入りは良いはずだ。


 しかも、相手は群れで行動するのだから、合同のパーティーで討伐しても十分に儲けは出る。


「でも、横穴の攻略の時には、相当な被害が出てたけど、大丈夫なのかな?」

「あれは、不意を突かれたのもあるし、密集していて逃げ場を失ったかららしいぞ。もっと広くて動ける場所ならば、結果は変わってたんじゃないのか」

「なるほど、確かにこっちが有利な場所で仕掛けるのと、相手が有利な場所で襲われるのでは全然違うよね」

「そういう事だ。先を探索するためではなく、最初から討伐が目的ならば、待ち伏せとか罠も仕掛けられる。馬鹿正直に遭遇戦なんて挑む必要はねぇからな」


 セルージョと交代して、居住区辺りの様子を見に行くと、多くの冒険者が情報交換を行っていた。

 また、居住区の入り口には、ギルドからの緊急通達が既に張り出されていた。


 その隣りには、レッサードラゴンの肉買い取ります……なんて張り紙がしてあった。

 地上にまで持って上がらなくても買い取ってもらえるならば、討伐のモチベーションが上がるだろうというギルドの策略なのだろう。


 俺達以外の発掘作業に携わっている連中は、今度は落盤事故を起こさないようにするために、通路を慎重に掘り進めているため、自分達の担当する建物まで辿り着けてないようだ。

 それならば、空いている時間にレッサードラゴンの討伐で一稼ぎして来ようと相談しているようだ。


 殆どの冒険者は新たな金稼ぎが出来たことで、悲壮な表情よりも明るい表情をしている者が多い。

 これならば、発掘を中断して地上に逃げ戻るというような状況にはならないだろう。


 ベースキャンプへと戻り、夕食を終えた後は充電していた携帯型のプリンターを弄ってみた。

 魔力が溜まった事を知らせるグリーンのランプが点灯したので、スマホを起動して画面のロックを解除してからプリンターの電源を入れた。


 すると、スマホの画面にポップアップウインドウが開いて、何やら文章とともに赤いボタンとグリーンのボタンが表示された。

 全然文章の内容は理解できなかったけど、迷わずグリーンのボタンをタップした。


 この後は……と身構えていたのだが、何も起こらなかった。


「あれっ? 接続できなかったのかな?」


 やはり、どこからか専用のアプリをダウンロードしなければならないのだろうか。

 だとしたら、完全にお手上げ状態だ。


 スマホの接続設定を確認したいのだが、こちらも文字が読めないので、どこを確認したら良いのか分からない。


「うーん……これって思ってたよりも大変だな」


 おそらくだが、この携帯プリンターはスマホで撮った画像をその場で印刷するのが売りなんだと思う。

 だとしたら、簡単に繋いで、簡単に印刷できるはずなのだが、初期設定は面倒なタイプなのだろうか。


「んー……婆ちゃんに写真を送りたいのになぁ……」


 送るとしたら自撮りの写真か、チャリオットのみんなとの集合写真だろう。

 とりあえず自撮り写真を撮ってみようと灯りの魔法陣を作って、カメラをイン側に切り替えて構図を決めていたら、レイラがフレームインしてきた。


「何してるの?」

「今、写真を……えいっ!」


 ピピっという電子音が響いて、レイラとのツーショット写真が撮影されると、画面に何やらウインドが開いた。


「にゃっ!印刷できるかも……用紙、用紙……」


 用紙も裏表はプリンターのボディーに向きが指定されていたので、間違わないようにいれて、プリントマークのボタンをタップした。

 ジッ、ジジッ……という小さな音がした後、ゆっくりとプリンターへと用紙が引き込まれていき、印刷されて反対側から排出された。


「すげぇ! カラーだ!」

「どうなってるの?」

「詳しい仕組みは分からないけど、こういう物なんだよ」

「ふーん……でも、どうせだったらお化粧してから撮り直しね」

「ふふっ、それは次に地上に戻った時にでもね」


 カリサ婆ちゃんに手紙を送るなら、チャリオットのみんなとの集合写真とか、旧王都の街並みとかも見せてあげたい。

 次の休みは、いっぱい写真を撮影しよう。


黒猫ニャンゴの冒険のコミカライズが、コミックウォーカーとニコニコ静画でも連載開始となりました。

漫画になったニャンゴの冒険もお楽しみください。


コミックウォーカー

https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_FS01203328010000_68/


ニコニコ静画

https://seiga.nicovideo.jp/comic/60098?track=mym_favorite

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― 新着の感想 ―
[一言] 注)間違い指摘じゃないです >体高は三メートルぐらいあり、体重は正確に測った訳ではないが二百キロを優に超えているはずだ。 サラブレッドで500kgほど ばん馬なら更に倍 体重200とする…
[良い点] ニャンゴがスマホとプリンターを解析するモチベが 婆ちゃんに手紙を送るためというのは、実に良いですね。 ふつうの知識チートも嫌いじゃないですがほっこりします。
[良い点] 写真見た婆ちゃん反応見たいね [気になる点] レッサードラゴンの体重200キロはない アフリカ象が5tなんだから同じくらいはあるはず
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