使えそうで……
襲撃事件に首を突っ込んだり、レイラが肉食系の本能を発揮したおかげで、あまり休日という感じはしなかったが、買い出しした物資を携えてダンジョンへ戻った。
モルガーナ准教授たち旧王都の学院関係者からは、二度目の襲撃事件について質問を受けたが、学院には立ち寄らなかったので被害状況は答えられなかった。
それでも、襲撃犯の一部を生け捕りに出来たから、アジトの解明に繋がる情報が引き出せるかもしれないと伝えると安堵の声が上がっていた。
友人知人が多くいる場所を襲撃されれば心配になるし、帰りたくなるのは当然だが、調査隊の人達が地上に戻ったとしても襲撃への備えにはならない。
今、我々がやるべきことは、少しでも早く成果を出すことだろう。
襲撃犯の狙いは可動するアーティファクトのようだが、大量に発見されて、原理が解明されて複製が作られるようになれば、物の価値も下がってくるだろう。
価値が下がれば、命を懸けるだけのメリットが無くなる。
そうなれば、襲撃自体が行われなくなるはずだ。
ベースキャンプに戻った翌日、俺達は建物二の先行調査に戻った。
調査に向かうメンバーは前回と同じ顔ぶれに、研究室の若手二名が加わった。
犬人のエルデスはケスリング教授の書記、シマウマ人のリッテルはレンボルト先生の書記を務めるらしい。
二人が思いついたことを記録して、後々の発掘調査に役立てるそうだ。
「教授、今日は上ではなくて、地下を調べてみたいのですが」
「地下ですか……構いませんが、大丈夫でしょうか?」
「先行調査ですから、安全には最大限気をつけますから安心してください」
今現在、俺が一番探している物は携帯型のゲーム機だ。
可動品が見つかれば、これまでに発見されたディスクを再生できる可能性を秘めている。
既に百科事典という情報源を手に入れたが、映像による情報は文章だけでは伝わらない部分を補ってくれるし、情報量そのものが大きい。
たとえば、飛行機の写真や説明をみるのと、飛んでいる様子を映像で見るのとでは理解度が大きく違ってくるはずだ。
一階、二階、三階と見て回ったが、ゲーム機は見当たらなかった。
それならば……っと考えてみたら、四階以上を調べるよりも地下を調べた方が確率が高そうだと考えたのだ。
地下こそがゲームやオモチャの売り場のような気がしている。
「エルメール卿、どんな感じで進めますか」
建物二の入口を入った所で、学院関係者を護衛しているハウゾが話し掛けてきた。
「とりあえず、下の様子を探知してから降りましょう」
降り口は中央のエスカレーターではなく、建物の端に位置している階段を選んだ。
全周から一気に寄って来られるよりも、幾分対処しやすいと思ったからだ。
空属性魔法で作った灯りの魔法陣を先行させて階段を照らしていくと、踊り場の壁に取り付けられた照明器具の上にフキヤグモがいた。
すかさず、雷の魔法陣をぶつけると、バシっという音と共に火花が散り、フキヤグモは足を全部折り畳んだ状態で落ちて来て動かなくなった。
そのまま放置すると別の魔物が寄って来るので、ボードに乗せて地下のフロアまで降ろした。
地下一階の階段周辺の安全を確認して、ケスリング教授達を呼び寄せる。
「エルメール卿、あれは望遠鏡じゃないですか?」
「そうみたいですね。おそらく、現在使われているものよりも高性能だったと思いますよ」
「無事な品物は残されているでしょうか?」
「光学機器は高価ですから、固定化の魔法陣が付いた梱包がされているんじゃないですかね」
階段を降りたところには、三脚に据え付けられた色んな種類の望遠鏡が並べられていた。
目的の携帯ゲーム機ではないが、これはこれでワクワクしてくる。
珍しく、レイラも興味を示している。
「ニャンゴ、あの太い筒も望遠鏡なの?」
「うん、あれは星を観測するための反射式の望遠鏡だと思う」
「星って、そんなに遠くが見れるの?」
「望遠鏡の性能にもよるけど、月の表面とかは綺麗に見えると思うよ」
「へぇ、あっちの筒が二つ付いてるのは?」
「双眼鏡だね。性能が良いのがあったら持って帰ろう。索敵がぐんと楽になるよ」
とは言え、猫人の体では口径の大きな双眼鏡は重たすぎる。
せいぜい二十五口径程度が持ち歩く限界だろう。
本当は、デカイ口径の双眼鏡で獲物を探して、魔銃の魔法陣で狙撃して仕留める……みたいなこともやってみたかったけど、適当な大きさで我慢しよう。
そして、光学機器が置いてあるということは……。
「あった……カメラだ」
大口径のレンズが取り付けられた機材が幾つも展示されている。
前世の日本にあった一眼レフとは形が違っていて、ピストル型のグリップが付いているが、カメラなのは間違いないだろう。
スチルカメラとビデオカメラが融合した形なのだろうか。
大型のカメラはレンズが交換できるようで、沢山の種類のレンズも置かれている。
小型のカメラは、スティック状でファインダーすら付いていない。
全周カメラと思われる物も置かれていた。
ただ、全体的な数や種類は少ない気がする。
スマホにあれだけのカメラが付いているのだから、カメラ専用の機械は衰退し始めていたのかもしれない。
「ニャンゴ、これは何をするものなの?」
「写真集に載せるための鮮明な写真を撮るためのものだよ」
「ニャンゴが持ってるアーティファクトとは違うの?」
「アーティファクトは、色んなことが出来るけど、これは写真を撮ることに特化しているから、より鮮明な写真が撮れるんだ」
レイラの写真集とか作れば飛ぶように売れると思うけど、印刷方法がないから作れない。
ケスリング教授達にもカメラの説明をしながら見て回ると、プリンターらしき物があった。
ハガキ大の用紙に写真を印刷する専用プリンターのようだが、これも魔導線からの魔力で動くタイプだった。
ボロボロになった樹脂製のカバーを開けると、インクのタンクらしき物があった。
基本的には、前世の日本でよく目にしたインクジェットタイプのプリンターのようだ。
だとすると、本体の他に動力源となる魔力、インク、用紙、そしてスマホからデータを送る必要がある。
セルージョがエロい計画を立てていたけど、実現するまでの道程は遠そうだ。
そんな中、一つの物に目が留まった。
ボロボロの樹脂の箱にしか見えなかったが、店頭POPを見ると携帯型のプリンターのようだ。
「あっ、魔力補充型だ」
ボロボロの本体をそーっと持ち上げてみると、土台に魔力回復の魔法陣が刻まれていた。
つまり、スマホと同様に魔力を補充して使えるタイプという訳だ。
見た感じだと、魔力回復の魔法陣はスマホ用のものと共通のように見える。
統一規格が作られていたのだろう。
「ニャンゴ、それも印刷する機械なの?」
「たぶん……でも、こっちは専用の用紙を使うタイプじゃないかな」
前世の日本でも、撮った写真をその場でプリント……みたいな携帯型のプリンターがあったけど、こちらの方が薄いし軽い。
スマホとほぼ同じ大きさで、横から用紙を入れて通過するうちにプリントされるようだ。
「これは、ちょっと欲しいにゃ」
「じゃあ、倉庫を探さないとね」
「いや……たぶん、この下に……あった」
プリンターの本体は、展示台の下に置かれていた。
箱はボロボロだったけど、中には固定化の魔法陣が付いた梱包材で包まれていたから大丈夫そうだ。
空属性魔法で魔力回復の魔法陣を作って載せると、赤いランプが点灯して魔力の補充が始まった。
これで本体が使える目途は立ったが、問題は用紙だ。
据え置き型はインクジェットタイプだったが、これは用紙自体が発色するタイプのはずだ。
用紙が残っていなければ、何の役にも立たなくなる。
本体と一緒に梱包されていた十枚ほどの用紙は使えるかもしれないが、出来ればもっと確保しておきたい。
それともう一つ、スマホとの接続も問題だ。
もし、専用アプリが必要で、サイトからダウンロードする方式だったらお手上げだ。
通信インフラも、サーバーも稼働していないだろう。
こうして考えてみると、凄く便利な世の中は、自分の知らない場所で知らない人々の手によって支えられていたことが良く分かった。
「うーん……なかなか思うようにいかないなぁ」
「使えないの?」
「うん、今のままでは使えない」
「動かなくなってるの?」
「そうではないんだけど、こっちとこっちを繋ぐ方法が……あれ? これって有線のコネクターなのか?」
「使えそう?」
「うーん……何とか使えるようにしたい。写真が印刷できたらカリサ婆ちゃんに手紙を添えて送るんだ」
「じゃあ、頑張って使えるようにしないとだね」
「うん」
建物二の地下には、この他にも撮影用の機材が沢山眠っているようで、時間をかけて探索してみたくなった。





