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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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帰路

 口コミ宣伝を行った翌朝、俺とゼオルさんは朝食を済ませ、ゆっくりとお茶を楽しんだ後でオークの足跡亭を出発した。

 なんでオークの足跡なんて変わった名前なのか訊ねてみると、冒険者にとってオークは魔物であり、獲物であり、素材だから、キチンと足跡を辿れれば金になる……という意味だそうだ。


 俺は、これまで四頭のオークを倒したけど、一頭はたまたま見つけたもの、他の三頭は討伐に参加して遭遇したもので、自分から探して仕留めたことは無い。

 本来、オークの討伐は依頼の場所に向かい、痕跡を辿って発見し、狙って倒すものなのだ。


 ステップを使って高い位置から見渡して、たまたま発見したから倒すやり方では、今後冒険者として依頼をこなせないかもしれない。

 ブロンズウルフの騒動が終わったら、ゼオルさんに獲物の追跡方法を教えてもらおう。


「見てみろ、ニャンゴ。あれが俺達の奮闘の成果だぞ」

「うわっ、行列が出来てる……」


 普段、イブーロで混雑するのは王都方面に向かう南門で、アツーカやキダイの方面に向かう北門は混雑しているのを見たことが無い。

 ところが今朝は、街を出る人や荷物の検問所に行列が出来ている。


 並んでいる人の多くは冒険者と行商人で、特に行商の荷物を検める作業に時間が掛かっているようだ。


「荷物の多くは食料や酒みたいですし、厳しく調べなくても大丈夫なんじゃ……」

「そうじゃねぇぞ、ニャンゴ。禁制品を取り締まるチャンスは、こうした街の出入りの時が一番やりやすい。一旦検問を通過しちまえば、追い掛けるのが難しくなる。特に、冒険者相手の商売の場合には、色々とヤバい品物が動くからな」

「ヤバい品物っていうと……?」

「簡単に言うと麻薬、禁止された薬の類だ」


 魔物と対峙する冒険者の中には、恐怖心を払拭するために、薬に頼る者が居るそうだ。

 どこの世界も共通なのだろう、気分を高揚させたり、疲れを感じにくくさせるような薬は、幻覚、幻聴などを引き起こし、精神を病む原因となるので禁止されている。


 前世の日本では、空港で麻薬探知犬などが活躍していたが、こちらの世界では犬人が同じような役割を担っている。

 テストを受けて、鼻の利く者が検査官として子爵家に雇われ、こうした街の門で検査を担当している。


 行商人の検査では荷物に紛れ込んだ禁制品の取り締まりが主となるが、冒険者や旅人の検査は身分証の照合によって、逃亡を企てている犯罪者が居ないか調べるのが主な目的だ。

 罪が確定していなくても、容疑を掛けられただけでも街からは出られなくなる。


 下手に犯罪者を街の外に出してしまえば、近郊の村で犯罪を重ねるかもしれないし、山賊や盗賊の類に身をやつす恐れが出て来る。

 ラガート子爵とすれば、領地の治安を守るためにも、街の出入りには気を使う必要があるのだろう。


 街を出てからも、ゼオルさんはのんびりとしたペースで馬を進めている。

 騎士団への応援依頼と冒険者ギルドへの討伐依頼を済ませてしまえば、一先ず俺達の役目は終わったからだ。


「ニャンゴ、討伐に参加してみたいか?」

「うーん……でも、硬いんですよね、ブロンズウルフって」

「そうだな、金属製の槍でも、毛並みを掻き分けないと上手く刺さらないほどだ」

「俺の攻撃は、相手の勢いと体重を利用するものなんで、弾かれそうな気がします」


 自分の毛並みを参考にしてみても、突っ込んで来る狼に対しては、目や口、鼻などをピンポイントで攻撃出来ないと、体毛の表面を擦るだけでダメージが通らないだろう。


「まぁ、討伐の様子は見てみたいので、遠くから見物しには行くかもしれません」

「がははは、それが妥当な線だな。お前の場合は、前に出て戦うタイプでも無いから、いずれにしても参加するのは後方からの支援だ」


 今回のブロンズウルフの討伐で、一番活躍するであろうポジションは盾役だそうだ。

 ブロンズウルフの攻撃を前に出て受け止め、動きを押さえ込み、味方に攻撃しやすい状況を作り上げる。


 魔物に止めを刺す役割は、攻撃役が担うことが殆どだが、盾役の存在なくして大型の魔物の討伐は成立しない。

 魔物の攻撃を受け止める膂力、立ち向かう胆力、有能な盾役には、剣士や槍術士と同等以上の評価が寄せられる。


「そう言えば、大きな盾を担いでいる人が目立ちますね」

「あいつらにとっては、今回の討伐は腕の見せ所だからな」


 この目で見たブロンズウルフの姿を思い出して、接近戦を挑む勇気があるかと聞かれれば、ノーと答えるしかない。

 実際、尻尾を巻いて逃げ出して来ているし、突っ込んで行く勇気は持ち合わせていない。


「がははは、別に恥じる必要なんか無いぞ。敵わないと分かっている相手に、何の策も無く突っ込んで行くのは蛮勇だ。無駄に命を落とすだけで、何の役にも立ちやしない。実際、お前が逃げ帰って知らせてくれたから、これだけの準備が整えられたんだ。何の支度もしていなければ、何人犠牲になったか分からんぞ」

「ブロンズウルフは村に下りて来ますかね?」

「分からんが、可能性は高いと見ている。今はゴブリンどもを餌にしているのかもしれんが、手近な場所に獲物が居れば、当然襲い掛かって来るだろう」


 ゼオルさんは、騎士団は村の南東側を中心として、東から南に掛けての村の境界線を守る体制を敷くと予想しているそうだ。


「他の場所は?」

「騎士が巡回して警戒し、異変があれば呼子や魔法で知らせるはずだ」


 火属性の魔法や水属性の魔法を空に向かって打ち出すことで、離れた場所に居る騎士や兵士にも知らせるらしい。

 騎士団としては、まずは住民の安全の確保が最優先で、可能であれば討伐を行うというスタンスのようだ。


「なるほど、それで冒険者が必要になる訳ですね」

「そうだ、騎士団が村を守る盾で、冒険者達が山に踏み入り攻める剣だ」


 昼前にキダイ村に到着すると、昨日のうちに騎士団の応援が到着したと知らされた。

 俺は、アツーカ村のことしか頭になかったが、騎士団ともなれば領地全体に目を向けているのだ。


 キダイ村でも、まだブロンズウルフを目撃している者はいないが、存在を知らされた直後に騎士団の応援が到着したので、村民に大きな動揺はみられなかったそうだ。

 替え馬を待っている間に、村長とオリビエが挨拶に現れた。


「ゼオルさん、迅速な手配をしてもらったそうで、助かりました」

「村長、礼ならばニャンゴに言ってやって下さい。ブロンズウルフの存在を知らせたのも、ビスレウス砦まで応援要請に行ったのも、全部こいつですからね」

「ほほぅ、それはお手柄だったね、ニャンゴ君。キダイ村にとっても恩人だよ、ありがとう」

「いえ、俺はやるべき事をやっただけですし、まだブロンズウルフが討伐された訳でもありませんから……」

「でも、凄いですよ、ニャンゴさん。こんなに小さな体で大人顔負けの大活躍です」


 話を聞いて、オリビエが興奮した様子で抱き付いて来たけど、こういうのはミゲルの前では控えてもらいたい。

 まぁ、俺の自慢の毛並みをモフりたいという欲求は、十分に理解出来るけどね。


「ニャンゴさん、アツーカ村へ向かう街道は危険じゃありませんか? ブロンズウルフが討伐されるまで、キダイ村に滞在されたらいかがですか」

「ありがとう、オリビエ。でも、他の冒険者や馬車もアツーカに向かうし、ゼオルさんも一緒だから大丈夫だよ。それに、危なくなったら、俺は逃げるからね」

「そうですか……残念です」


 たぶんオリビエは、モフれるチャンスを見逃さない、生粋のモフラーなのだろう。

 いかにも残念そうに、ちょっと膨れてみせる姿は可愛らしい。

 ミゲルが熱を上げるのも、ちょっと理解できるな。


「さて、ニャンゴ、雲行きが怪しいから、少し急ぐぞ」


 替え馬へと乗り換えて、アツーカ村とキダイ村の境となる峠を上り始めると、雲が出て日が陰り始めた。

 ゼオルさんが馬を走らせるペースを上げ、上り切った峠をアツーカ村に向けて下り始めた時だった。


「あっ!」


 街道の左側の林から、青銅色の大きな影が横切ったと思ったら、前を歩いていた三人組の冒険者の一人が姿を消した。


「ぎゃぁぁぁぁぁ……」


 あまりの素早さに、林の奥から悲鳴が聞こえて来るまで、その場にいた全員が棒立ちしていた。


「ニドル! くそっ、レーブ追うぞ!」

「畜生、ぶっ殺してやる!」


 攫われた冒険者の仲間二人が、林の中へと踏み込んで行く。


「ゼオルさん……」

「俺達は報告だ。あいつらが、どの程度の実力かは分からんが、俺達を加えても四人じゃブロンズウルフには太刀打ち出来ん。それよりも騎士団の連中に知らせて、街道を突っ込んできた場合に備えてもらう方が先決だ」


 ゼオルさんは馬の腹を蹴り、アツーカ村を目指して一気にスピードを上げた。


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