新王都の調査隊
連絡通路の対岸にある居住区に出向き、俺達チャリオットが隣の建物を発掘した件を伝えると、ギルド職員のモッゾは渋い表情になった。
まさか建物の中を通り抜けて、隣の建物までショートカットするとは思っていなかったようだ。
冒険者による一斉発掘は許可されたから、俺達が掘ってはいけないという理由は無いが、他の冒険者に比べて優位性が大きすぎると思われたようだ。
「でもまぁ、もう掘り当てちまったからな」
「そうなんですけど……」
セルージョの軽い口調にイラっとしたようで、モッゾは顔を顰めた。
人をイラつかせる事において、セルージョは天才だと思う。
でも、チャリオットの権利を認めてもらわないといけないのに、大丈夫なのかな。
モッゾの表情に気付いているのかいないのか分からないが、セルージョはどこ吹く風といった感じで話を続けた。
「てかよ、俺らが独占するのが悪い……みたいな話をしてっけど、そもそも俺らが見つけなければ、あっち側に街並みがあるなんて誰も思わなかったんだろ? ギルドにも報告して、学術調査も受け入れて、貴重な資料を見つけ出して……感謝はされども文句を言われる筋合いなんて無ぇんじゃねぇの?」
「それは、そうなんですが……」
セルージョの言う通り、これまでダンジョンは先史時代の地下都市だと考えられていて、誰も更に外側に街があるなんて考えなかった。
既にダンジョンは掘り尽くされたものだと思われていたし、俺達が発掘を進めていなければ、十年先、二十年先、五十年先でも発見されていなかった可能性が高い。
「それによぉ……」
セルージョはチラっと周囲を確認してから、声を潜めてモッゾに囁いた。
「ニャンゴが言うには、アーティファクトの宝庫らしいぜ」
「えっ、本当ですか?」
現金なもので、アーティファクトの宝庫と聞いた途端、モッゾはパーっと目を輝かせた。
どうやらセルージョは、都合の悪い話を先にしておいてから美味しいネタを披露して認めさせる作戦のようだ。
「稼動品がどれだけ残されているか分かりませんが、期待できると思いますよ」
「隣の建物も、俺らに所有権を認めて学術調査を入れた方が良いんじゃねぇの? 他の連中に掻き回させたら貴重な品が壊れちまうかもしれないぜ」
「確かに、その通りですね。分かりました、その方向でギルドに報告をあげさせてもらいます」
一時はどうなる事かと思ったけど、どうやらチャリオットの権利は認められそうだ。
隣の建物にも、学術調査が入るので無断の立ち入りを禁止する立札をギルドの名前を使って設置する許可も得た。
予定していた目的を達成したので、戻って書店の掃除を再開しようと思ったら、昇降機の方向から大人数の一団が近づいて来るのが見えた。
何やら賑やかに話しながら歩いている様子は、冒険者のパーティーではないようだ。
「新王都の学院から派遣された調査隊だと思います」
モッゾの一言で思い出したが、嵐のように現れて去っていったバルドゥーイン殿下が新王都の調査隊と一緒に来たと話していた。
学院での調査が終わったのか、百科事典などの解析を行うチームと別れた現場調査チームなのかは分からないが、新たな学者チームが到着したのは確かだろう。
みんな初めてダンジョンの下部まで降りたのだろう、天井や柱、床などを指差しながら意見を交わしている。
その隊列の後方で列からはみ出しては、護衛の冒険者に襟首を掴まれて引き戻されている、ボサボサ頭の羊人の男性には見覚えがあった。
「ニャンゴ、丁度いいから一発かましとけ」
「かますって……?」
「ここには貴重な資料が山ほど眠っているが、妙なプライドにこだわって雑な扱いをすれば台無しにしちまうって……名誉騎士様から忠告しておくんだよ」
「あぁ、クブルッチ教授みたいな事にならないように?」
「そういう事だ」
「まぁ、大丈夫じゃないかな」
一団が近付いてきたところで、モッゾが挨拶に行くようなので同行した。
「新王都の学院の皆様ですか?」
「そうですが、貴方は?」
「こちらの発掘現場を統括しております、ギルド職員のモッゾと申します」
「私は学院の考古学部、学部長のネルデーリです、よろしく頼みます」
ネルデーリはにこやかに微笑んでモッゾと握手を交わしてから、斜め後ろに控えていた俺に視線を向けた。
「失礼ですが、ニャンゴ・エルメール卿でいらっしゃいますか?」
ネルデーリ学部長の言葉を聞いて、同行してきた者達がざわめいた。
「はい、ニャンゴ・エルメールです。初めましてネルデーリ学部長」
視線を合わせやすいように、階段状にしたステップを上がっていくと、ネルデーリ学部長は大きく目を見開いた後でパッと笑みを浮かべて右手を差し出してきた。
「早速お会いできるとは思ってもいませんでした。ネルデーリです、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
俺がネルデーリ学部長と握手を交わすと、紹介を待ちきれなくなった人物が列の後ろから歩み寄ってきた。
「エルメール卿!」
「お久しぶりです、レンボルト先生。再会は新王都の学院の約束でしたけど、まさかダンジョンとは思っていませんでした」
「えぇ、私も驚いていますが、再会できて嬉しいですよ」
レンボルト先生は、チャリオットがダンジョンに向かったすぐ後に王都の学院への移籍が決まり、王都に到着したと思ったら、引っ越し荷物の整理も終わらないうちにダンジョン行きを命じられたそうだ。
俺と共同研究をしていたから、関係を築くのに丁度良いと白羽の矢が立ったようだ。
「エルメール卿、実動するアーティファクトをお持ちと聞きましたが……」
「えぇ、持ってます……けど、予定があるのでは?」
「えっ……そうですね」
たぶん旧王都の学院で話を聞いて、アーティファクトのことで頭が一杯だったのだろうが、横で話に割り込まれた格好のネルデーリ学部長が額に手を当てていた。
「まぁ、学者なんてこんなものですが、レンボルト、この調査は歴史に残る重要なものだ、もっと落ち着いて行動したまえ」
「はい、すみませんでした」
うんうん、いい大人なんだから、もうちょっと落ち着こうね。
新王都からの調査隊は、現在活動しているモルガーナ准教授のチームと合流して活動するらしい。
「エルメール卿、ご心配でしょうが我々も今回の調査の重要性は認識しております。下らない見栄や縄張り意識は捨て去って、先史文明の解明、そして現代への還元を最優先に活動する所存です」
「俺も出来る限りの協力をしますので、何かあれば気軽に声を掛けてください」
「ありがとうございます」
「では、ベースキャンプに向かいますか?」
「はい、よろしくお願いします」
俺がネルデーリ学部長やレンボルト先生と挨拶を交わしている間に、セルージョは学院の護衛として同行してきた冒険者と言葉を交わしていた。
こういう抜け目ないところは、さすがだと思う。
新王都の調査隊は、調査員が四十名、専属ポーターが十名、護衛の冒険者が十五名という大所帯で、そこにギルドの査定員三名が同行している。
発見したアーティファクトの本格的な解析作業はダンジョンの中では無理なので、とにかく分類して運び出す作戦のようだ。
ベースキャンプに一行を案内した所で、ライオスに通信機で連絡をしてモルガーナ准教授のチームに戻ってもらうように伝えた。
その様子を見ていたネルデーリ学部長が話し掛けて来た。
「エルメール卿、今のは?」
「あぁ、空属性の魔法で六階にいるリーダーと連絡を取っていました」
「えぇぇ、そんなことが可能なんですか?」
「ちょっとしたコツや練習が必要ですけどね。それに、アーティファクトは遥かに高度な通信機能を備えていたと思いますよ」
「おぉぉ、それが!」
鞄からスマホを取り出して起動すると、調査員だけでなく護衛の冒険者やポーターまでもが俺の周囲を取り囲んだ。
「このアーティファクトには複数の機能が搭載されていますが、基本は先史文明の通信機器だったと思われます」
「離れた場所にいる者と話ができたのですね?」
「話だけでなく、姿を送って見せたり、文章や撮影した写真や映像も送れたはずですよ」
話をしながらスマホを操作して、撮影した写真や動画を再生してみせると、驚愕の声が上がった。
ここにいる人達は、ダンジョンに潜る前に話を聞いていたと思うが、それでも実物を見れば驚くのも無理は無いだろう。
先程までは落ち着いていたネルデーリ学部長までが、前のめりな感じで訊ねてきた。
「エルメール卿、まだ他にもアーティファクトは見つかるでしょうか?」
「はい、見つかるはずです。モルガーナ准教授が戻られたら話す予定ですが、隣の建物の内部を確認したところ、こちらの建物以上のアーティファクトが見つかる可能性が出てきました」
「おぉぉ、素晴らしい! エルメール卿、共に歴史に名を残しましょう!」
さっきはレンボルト先生に落ち着けと言ってたけれど、やはりネルデーリ学部長も根っこの部分は生粋の学者のようだ。
これなら調査も早く進みそうだし、そうなればチャリオットの収入も増える。
調査隊同士の顔合わせも終わったし、お掃除ニャンゴ、フルパワーで頑張りますかね。





