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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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情報収集

 チャリオットのメンバーは、手分けをしてダンジョンに潜るための準備を始めた。

 ダンジョンで活動するには、七十階層下まで降りなけれならない。


 高さにすると三百メートルぐらいはあるはずだ。

 俺にはエレベーターシャフトに見える縦穴を使った昇降機もあるそうなのだが、時折ロープが切れて転落する事故が起こるらしい。


 真っ逆さまに落ちないように、一応の安全装置が付いているらしいのだが、それでも数回に一回は下まで転落して乗員全員死亡……なんて事態が起こっているそうだ。

 なので、よほど金になりそうな出土品を見つけた者とか、怪我などで緊急を要する者などを除くと、あまり利用はされていないらしい。


 以前は、地下から土を運び出すために、重しとして利用できる下へ降りる人間は無料で乗れていた時代もあったそうだが、土の搬出が減ったので割引は無いそうだ。

 なので、ダンジョンに挑む者は自分の足で階段を降り、そして登って帰って来る。


 片道三百メートル、往復六百メートルを毎日上り下りするのは大変なので、殆どの冒険者は一度下りたら何日か地下で活動するらしい。

 チャリオットも、一度ダンジョンに下りたら数日地上まで上がらず活動する予定だ。


 当然、そのための食糧や万が一のための医薬品などが必要になる。

 ただ、旧王都に来る前に想像していた、地下で一週間以上も暮らすような状況は、最近はなくなっているらしい。


 それも、出土品が出る割合が減っているからだ。

 ダンジョンは七十階層の縦に長い回廊と、十一階層の広いエリア、それに最下層の横穴で構成されている。


 縦に長い回廊は、長辺が約百メートル、短辺が約六十メートルの長方形で、十一階層のエリアは東西約二キロ、南北はその三分の二ぐらいのやはり長方形の敷地だ。

 最下層にある横穴は、北の方角に向かって一本だけ伸びているらしい。


 これが地下鉄のトンネルだとすると、ここは終点であり始発駅なのだろう。

 買い出しに出掛けたライオス達とは別れて、俺はレイラと共にダンジョンのロッカーを訪れた。


 目的は、布団を預けるためでも、ミリアムのドレスを預けるためでもない。

 ロッカーの管理人をしているブルゴスさんからダンジョンの話を聞こうと思ったのだ。


「こんにちは、ブルゴスさん」

「おぉ、これはこれはエルメール卿、何か御入用ですかな?」

「いえ、今日はダンジョンの話を伺えればと思いまして……」

「はいはい、構いませんぞ。どうせ、この時間は暇ですから」


 ダンジョンの内部は日が差さないので、時間の経過に縛られる必要は無いのだが、それでも出入りする人の多くは朝と夕方に集中するらしい。

 昼下がりのこの時間は、ロッカーの管理人としては一番暇な時間だそうだ。


 手土産のお茶菓子を渡して、早速ダンジョンについての話を聞いた。


「下部の広い階層について、ですか?」

「えぇ、一番下の階層から伺いたいのですが……」

「御存じかと思いますが、一番下にあるのが北に向かって伸びる横穴で、中央にある太い柱で支えられ、階段を下りた先にあるフロアを挟んで東西に分けられている感じです」

「その横穴は、ずっと柱で仕切られたままなんですか?」

「いえ、この横穴の下の部分には二本の太い鉄材が敷かれていまして、それがこう……横穴に入った先で交わるようになっていまして……あぁ、ちょっと図に書きましょう」


 ブルゴスさんが紙に描いてくれたのは、二本の線路と切り替えポイントにしか見えなかった。

 動力が電気なのか魔道具なのかは分からないが、地下鉄が走っていたのは間違いなさそうだ。


「この先は、どこまで続いているんでしょう?」

「さて、この階段から下りたフロア辺りは大丈夫なんですが、横穴に明かりを灯したまま入ると、その明かりを目印にして魔物が襲ってくるんですよ」

「どんな魔物なんです?」

「フキヤグモですね。毒の入った牙を飛ばしてきて、獲物が動けなくなったのを確認してから糸でぐるぐる巻きにして食っちまう狂暴な奴です」


 フキヤグモは、胴体だけで五十センチほどもある巨大なクモで、横穴には相当な数が潜んでいるらしい。

 その他にも、ヨロイムカデと呼ばれている巨大なムカデや、大型のネズミなども潜んでいるそうだ。


「横穴の上はどうなっているんですか?」

「一つ上と、その上の階層は『大いなる空洞』と呼ばれています」

「空洞というと、空っぽだったんですか?」

「そうです。横穴の二つ上の階層は、大崩落の影響で埋まっていましたが、一つ上の階層は最初からガランとした空洞だったそうですよ」

「大崩落……?」

「あぁ、大崩落というのは、この広い方の階層の中央部分が崩落して埋まったみたいなんです」


 再び、ブルゴスさんが図を描いて説明してくれたのだが、広い方の階層の中央部分には土が詰まっているだけで掘っても何も出て来なかったそうだ。


「魔導車の動力として使われている魔道具が見つかったのは、この空洞なんですか?」

「そうです。『大いなる空洞』の下の階層ですね。外周にそってスロープが作られて四階層上まで上れるようになっています」

「上がった先は、どうなっているんですか?」

「北側の端を敷地に沿って進んだ後、また下る通路へと繋がって……いや、どっちが上りだったのか下りだったのかは分かっていません」


 ブルゴスさんが描いてくれた図を見ると、地下駐車場へ出入りするためのスロープのように見える。

 ただ、そう思って次の質問をしたら、意外な答えが返ってきた。


「この敷地の外に繋がる道みたいなものは……」

「ありませんね。我々がダンジョンの端だと考える理由は、下から四階層の端は強固な岩盤になっているからで、その上の部分も同じところで床面が途絶えています」

「外側には……」

「何も無いでしょうね」


 どう考えても地下駐車場に見える空間があるのに、外に通じる道が無いのは何故なんだろう。

 横穴が地下鉄ならば外にも街があるはずだし、そこに通じる道があっても良いはずだ。


「えっと、下の四階層だけが岩盤なんですか?」

「はい、岩の層に突き当たったので、四階層分はくり抜いて作ったと考えられてますね」

「では、最下層の横穴も岩盤をくり抜いて作られているんですか?」

「そうです、そうです。横穴の先は重要人物だけが入れる場所、古代の王宮ではないかとも考えられてますね」

「なるほど、だから大規模な合同パーティーで挑んでるんですね?」

「あぁ、噂を聞かれましたか、たぶん、今日あたりから本格的に突入が試みられるはずですよ」


 この横穴こそが、旧王都のダンジョンに残された最後にして最大の難所であり、その先には未知のお宝が眠っていると考えられているらしい。

 ただ、どの程度先まで入り込めているのか分からないが、これが地下鉄の線路だとすると、次の駅に辿り着くには一キロ以上は進む必要がありそうだ。


「エルメール卿は、横穴の先には何も無いとお考えですか?」

「えっ、どうしてですか?」

「いや、浮かない顔をされていましたから」

「そうですねぇ……俺は、横穴の先には別の街があると思っています」

「ほう、別の街ですか。それが本当だとしたら、凄い発見じゃないですか」

「でも、今回の大規模な合同パーティーなら辿り着いてしまうかもしれませんね」

「あぁ、なるほど、先を越されたと思われているのですね」

「まぁ、それもありますけど、俺達は昨日到着したばかりで、まだダンジョンに潜ってもいないのですから、先を越された……なんて言う権利は無いですよ」


 実際、旧王都で長年活動している人達から見れば、チャリオットは余所者と言っても良い存在だ。

 むしろ、俺達が大きな発見をする方が、元々いる人からすれば先を越されたと思う事態だろう。


「もし……もしですが、今回行った連中が全滅したら、どうされます?」

「さすがに全滅は無いでしょうけど……もし、そんな事態になったら、別ルートでの攻略を考えますよ」

「ほぅ、別ルートですか? 例えば?」

「うーん……それは実際に潜ってみてですね」

「まぁ、そうなるでしょうね。私らも、結構長くダンジョンで活動してきましたが、功を焦る奴らは早死にしますから、どうぞじっくりと腰を据えて取り掛かって下さい」

「ありがとうございます。また分からない事があったら教えて下さい」

「どうぞ、どうぞ、私らで分かる事でしたら、いくらでもお教えいたしますよ」


 ブルゴスさんにしてみれば、退屈しのぎと誰かに教える優越感を満たせるのだろう、終始笑顔で対応してくれた。

 長年ダンジョンに関わって来た人だし、なによりもギルドの仕事をしている人だから話の信憑性を確かめる必要も無い。


 ダンジョンの形や規模は、イブーロにいた頃に想像したものとは違っていたが、まだ別の建物や街が見つかる可能性が無くなった訳ではない。

 ブルゴスさんの言葉通り、じっくりと腰を据えて取り掛かろう。


書籍版『黒猫ニャンゴの冒険』第二巻は4月5日発売予定です。

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よろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 高層オフィスビルかホテルみたいな建物の上からエレベーターシャフトを伝って下に降りていった先が線路? 結構高いけれど多分駅ビルなんだろうね。
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