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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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聞き込み

『依頼内容 船幽霊の討伐 報酬 大金貨二十枚』


 旧王都へ向かう途中で立ち寄った港町、タハリのギルドの掲示板には一番目立つところに船幽霊退治の依頼が貼り出されていた。

 大金貨二十枚は、前世で暮らした日本では二千万円ぐらいの金額だ。


 討伐依頼としては破格の金額で、それだけにタハリの街の人々が船幽霊に困っている様子が伺える。


「ただし、討伐を証明出来ない場合には報酬は支払われない……だとよ、どうする? ライオス」

「証明というのは引っ掛かるが、報酬額は魅力だな」


 タハリ周辺の状況を知るために立ち寄ったギルドで船幽霊退治の依頼を見つけ、ライオスとセルージョが依頼を受けるか検討中だ。


「失敗した時のペナルティと、この証明がどの程度の事を指すのか確認して、納得できるなら受けてもいいんじゃねぇか?」

「そうだな……そうするか?」


 ライオスがカウンターに確認に向かったところで、セルージョに訊ねてみた。


「ねぇ、セルージョは幽霊なんていないって思ってるんだよね?」

「あぁ、そうだぜ」

「だったら、この船幽霊は人の仕業だと思ってるの?」

「そうだ。どんな手を使っているかは分からねぇが、人の仕業だろうな」

「でも、何のために船幽霊なんてやってるんだろう?」

「そいつは、これから探るに決まってんだろう」


 つまり、理由や目的、手段や手口は分からないけど、たぶん人の仕業だろう……という感じみたいだ。

 俺も幽霊なんて居ないと思っているけど、火に包まれながら体当たりして、しかも生き残るなんて、どうやっているのか想像も出来ない。


「ここで考え込んでたって、たぶん答えは出ないぜ」

「じゃあ、どうするの?」

「まずは聞き込みで情報を集める。この時に重要な事は何だと思う?」

「聞き込みで重要な事? 情報の新しさ?」

「おぅ、それも重要だが、一番大事なのは直接見た人間に聞く事だ。家族に聞いた、友人に聞いた、知り合いの知り合いに聞いた……なんて情報はあんまり当てにならないからな」

「なるほど……たしかにそうだね」


 噂話に尾鰭が付くように、情報も又聞きになれば確度を失っていく。

 新しく、自分で目撃した人間の情報を集める必要があるようだ。


「まぁ、これまでの情報はギルドでも取りまとめているはずだから、ある程度の情報はライオスが持って帰って来るだろう……依頼を受けるならな」


 暫くして戻って来たライオスは、船幽霊に関する情報と思われる紙束を持って帰ってきたが、その量は多くない。


「どうだ、ライオス」

「あぁ、依頼失敗に関するペナルティは無い。討伐の証明については、人間の場合は犯人の確保と手口の証明、怪異だった場合は半年再発しない事が条件だそうだ」

「かぁ、半年なんて待ってられねぇな」

「まぁ、そうだが、そいつは人が絡んでいなければの話だ」

「だな……やるか?」

「その方向で動いてみよう」


 馬車に戻ったライオスは、ガドに橋を渡った対岸の港近くの野営地へ向かうように指示を出した。

 ひとまず拠点を設けて、それから情報収集と分析を行うらしい。


「でも、なんで対岸なの?」

「船幽霊は、川を挟んだ両岸に現れているそうだ。それが人の仕業とすれば、大きな仕事をした後は、対岸に移って狙いを誤魔化そうとするだろうと思ってな」

「狙いって……ライオスは船幽霊の狙いが分かったの?」

「そんなものは、考えるまでもないだろう。一番被害額の大きいものが本命だ」

「あっ……なるほど」


 港近くで野営の支度が終わった所で、ライオスがパーティーのメンバーを集めて説明を始めた。


「夕方話を聞いたオッサンの様子を見ると、タハリの住民の大半は船幽霊は怪異だと思っているようだが、俺は人の仕業だと考えている。まずは、ギルドでもらってきた資料を見てくれ……」


 ライオスが差し出した紙には、この半年ほどの間に起こった三十数件の船幽霊による被害がリストアップされていた。

 これだけを見ると、出現する間隔もバラバラだし、被害を受けた物にも関連性は感じられない。


「これだけの件数が起こっているが、本命はこの二件、それとリストには載っていないが夕方見た交易船の三件だな」


 ライオスが示したのは、どれも外洋を航海する大型の船だった。


「昨日燃やされたという船は入港したばかり、こっちは出航を翌日に控えていた。こいつは荷を積んでいなかったようだが、建造されてから半年も経っていない新しい船だ」

「ライバルの商会の力を削ぐためね」

「そうだ、船幽霊の目的はレイラの言う通りだろう」


 タハリの街には、毎日のように大型船が入港し、他国との交易も盛んに行われている。

 カルフェや米なども、他の国から伝わってきたらしい。


「ただし、タハリには両手両足を使っても数えきれない数の商会が商いを行っているそうだから、被害に遭った三隻の船だけでは黒幕である商会を焙り出すのは難しい」


 被害にあった商会のライバルである商会はいくつも存在していて、どこか一社が得をしたという状況では無いらしい。

 それに、船幽霊騒ぎを引き起こしているのは、なにも一つの商会とは限らない。


 数社が手を組んで、目障りな紹介を潰しに掛かっている……なんて状況も考えられる。


「だとしたら、実行犯を生け捕りか?」

「そうだ」


 セルージョの問いにライオスは力強く頷いてみせた。


「たまたまタハリに立ち寄った俺達では、商会の力関係や主要な人物の性格なんかは分からないし、調べている時間も無い。だったら、手っ取り早く調子に乗ってる奴を捕まえて、手口を吐かせればいい」

「そうじゃな、半年も捕えられずにいれば、調子に乗って尻尾を出しそうじゃな」


 ガドが言う通り、物事が上手くいっていると、調子に乗って失敗しがちだ。

 船幽霊の騒ぎが人の手によるものだとすれば、大きな船を沈めた直後は油断が生じ、俺達にも捕まえるチャンスがありそうだ。


 翌日、旅の途中の観光客を装って、街で情報を集める事にした。

 ガドと兄貴は、野営地で馬車と荷物を見張りながら留守番。 


 他の六人は、俺とレイラ、シューレとミリアム、ライオス、セルージョの四手に分かれて情報収集を行う。

 俺とレイラが向かったのは、タハリの商工ギルドだ。


 名誉騎士という地位を利用して、ちょーっとばっかし冒険者ギルドには無い情報が聞けないか訪ねてみるのだ。

 交易船が沈められた直後だから、もっと騒がしいかと思ったが、商工ギルドの中は至って普通の雰囲気だった。


 カウンターで名誉騎士のギルドカードを提示して、船幽霊の話が知りたいと告げると、別室へと案内された。

 少々お待ち下さいと言われ、お茶とお菓子が振舞われた。


「うみゃ! このエビセンうみゃ!」

「ホントのエビを食べてるみたいね、へぇ、エビセンって言うのね?」

「みゃっ……いや、薄く伸ばして焼いたものをセンベイって言うとか聞いたことがあったから……そう言うのかなぁ……と思って」


 つい前世のクセでエビセンなんて口走ってしまったけど、そもそも、転生してからまだ煎餅も見ていない。

 なんて名前で呼んでいるのかも含めて、店の場所も聞いておこう。


 エビセンをうみゃうみゃしながら待つこと暫し、額の汗を拭いながら立派な角を持つ五十代ぐらいの水牛人の男性が現れた。


「たいへんお待たせいたしました。お初にお目にかかります、エルメール卿。当ギルドを仕切っておりますイェスタフと申します」

「お忙しいところ時間を割いていただいてありがとうございます。ニャンゴ・エルメールと申します」


 俺が姿勢を正して挨拶をすると、イェスタフは少し驚いた表情を見せた後で、口許を緩めてみせた。


「なるほど、さすがはエルメリーヌ姫殿下が見染められた方ですな」

「えっ……?」

「王都で好評を博しておりました『恋の巣立ち』ですが、先週からタハリでも上演が始まりまして、連日長蛇の列が出来るほどの人気になっておりますよ」

「えぇぇぇ……」


『恋の巣立ち』とは、俺とエルメリーヌ姫が遭遇した『巣立ちの儀』への反貴族派の襲撃を題材とした劇で、王都で人気を博したものをタハリでも別の役者を使って上演し始めたらしい。


「いやぁ、まさか本物のエルメール卿とお会い出来るとは思ってもみませんでした」

「劇は見ていませんけど、色々と脚色されていると思いますよ」

「そうでしょうね。それでも、エルメール卿ご本人と直接言葉を交わせるとは、望外の幸せですよ」


 さすがは商工ギルドのギルド長とあって、俺に学位が授与された件も、マハターテで巨大なツバサザメを討伐した件も情報として知っていた。

 それらの件について補足的な説明をしてから、本日の目的である船幽霊についての情報が欲しいと切り出すと、イェスタフは表情を引き締めた。


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