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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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アトラクション

 ツバサザメの討伐当日、まずは餌となるゴブリンを捕まえに岸壁上の林に入った。

 こちらの世界で少し街を離れた森や林に入れば、前世日本で野良猫を見掛けるよりも多くのゴブリンに遭遇する。


 三頭ほどを雷の魔法陣で昏倒させ、縄で縛り上げて生きたままライオスとガドに討伐を行う岩場へと運んでもらった。


「おいおい、どうなってやがるんだ、これは……」


 セルージョが驚きの声を上げたのも当然で、昨日は急こう配の岩場しか無かった場所に洒落たテラスが出来上がっていた。

 岩場に通じる細い急な道も、広い階段へと整備され、テラスには大きなパラソルが七つも広げられている。


 パラソルの影にはテーブルと椅子が並べられ、いかにも金持ちという雰囲気の人々が思い思いに寛いでいた。

 昨日の午前中、俺がここでゴブリンを使ってツバサザメの様子を観察した時には、ゴツゴツとした岩場しか無かったのだから、昨日の午後からの僅かな時間に整備したのだろう。


 テラス以外の急な岩場にも、マハターテの街の人々が平らな場所を見つけては座り込んで海を眺めている。

 昨日の昼に宿で会談した観光協会のネッセルがテラスを作らせ、その過程で討伐の話が漏れ伝わったのだろう。


 たぶんネッセルが、ツバサザメの出没によって街の売りである海水浴が出来なくなり、娯楽を失った客のためにテラスを用意したのだろう。

 昨日の下見の様子からすると、ツバサザメが岩場にダイブするとは思えないから、一応観客の安全は確保されているのだろうが、商魂逞しすぎるだろう。


「おはようございます、エルメール卿」

「どうも……」


 そのネッセルは、スカイブルーのスーツ姿で悪びれる様子もなく挨拶をしてきた。


「あれは、昨日の午後に作ったのですか?」

「少し遅くまで掛かりましたが、これほどの討伐劇を間近で見られる機会などありませんからね」

「そうは言っても相手は鮫ですから、こちらの都合に合わせてくれるとは限りませんよ」

「分かっております。その時はその時です」

「それと、万が一の可能性がありますから、あまり僕らや海には近付かないようにして下さい」

「かしこまりました」

「はぁぁぁ……」


 恭しく頭を下げてみせるネッセルに、思わず溜息が漏れてしまった。

 テラスから一段下がった岩場にゴブリンを下ろし、ツバサザメ討伐の準備を始める。


「さて、どうする? ニャンゴ」

「まずは一匹放り込んで食わせて、直後にもう一頭放り込んでみようか」


 ライオスに、昨日の打ち合わせから少し変更した作戦を伝えた。

 金持ちへのサービスではなく、岩場に座り込んで見守っている漁師らしき人達にツバサザメの捕食の様子を見せておこうと思ったのだ。


「よし、始めるか」


 当初の予定では、岸壁から傷付けたゴブリンを投げ込む予定だったが、見物人に血が飛び散るとマズいので、放り込んだ後に傷付けることにした。

 準備を始めると、見物人達が近付いてこようとしたので、セルージョやシューレが追い払った。


 蹴飛ばされて海に落ちたら困るから、兄貴やミリアムはウロウロしないでくれよ。

 ゴブリンを縛っていた縄を解く前に、空属性魔法のラバーリングで拘束しなおしてから、ガドに海に向かって放り投げてもらった。


「じゃあ、ガド、よろしくね」

「おぅ、任せておけ、すぅぅぅりゃぁ!」


 身体強化魔法を使ってガドが放り投げたゴブリンを追って、俺もステップを使って宙を駆ける。

 空属性魔法を使って空中を走る人間を初めてみたのだろう、見物人からはどよめきが起こった。


「見ろ! 空を走っていくぞ!」

「エルメール卿だ、あれがエルメール卿の空属性魔法だ!」


 ゴブリンは重力に引っ張られて海面へと落ちていくが、俺は逆に高度を上げて海面から距離を取る。

 岸から四十メートルほど離れた海面に落ちたところでラバーリングを解除して、とりあえずゴブリンが浮かんで来るのを待った。


「うわっ、溺れかけてる……」


 昨日のゴブリンは器用に泳いでいたが、今日の奴は泳ぎが苦手なようで、一度浮き上がった後で沈みかけながら藻掻いていた。

 死んで沈み込まれてしまうと意味が無いので、空属性魔法で浮き輪を作って掴まらせた。


「ガフッ……ゲフッ……」


 相当水を飲んだらしく、ゴブリンは浮き輪に掴まりながら海水を吐き戻している。


「それじゃあ、デスチョーカー・タイプR」

「ギッ、ギャウ!」


 浮き輪に捕まってグッタリしているゴブリンの首の周囲をダガーナイフで取り囲む。

 致命傷にならないように素早くダガーナイフを解除したが、たちまち右の首筋から血が溢れて海へと広がり始めた。


 更に、浮き輪を解除すると、ゴブリンは溺れかけながらジタバタと海面で暴れ始めた。

 首筋から流れ出た血が、かき混ぜられながら広がっていく。


「ありゃ……違う鮫が来ちゃったよ」


 本命のツバサザメが来る前に死なれると困るので、再び浮き輪を作ってゴブリンを掴まらせたが、息遣いが荒く、かなりグッタリとしていた。

 その足下の海中を、体長三メートルほどの鮫がグルグルと泳いでいる。


「にゃーにゃ……にゃーにゃ……にゃん、にゃん、にゃん、にゃん、にゃにゃにゃー……」

「グギャァァァァ!」


 グルグルと泳いでいた鮫が、ゴブリンの右足に食らい付いた。

 痛みと恐怖でパニックになったゴブリンは、浮き輪にしがみ付いたまま猛烈に左足を動かして暴れたが、鮫が離れた時には右足は膝の上から無くなっていた。


「おぉぉぉ……」


 激しく飛沫を上げながら必死に暴れるゴブリンの様子を見て、見物人から驚きの声が上がった。


「ニャンゴ! 奴なのか?」

「違う! 他の鮫!」

「あぁぁぁ……」


 ライオスの問い掛けに大声で返事をすると、今度は見物人から失望混じりの声が上がった。

 右足を食い千切られて、更に血と体力を失ったゴブリンは、もう浮き輪に掴まっているのがやっとの状態だ。


 右足を腹に収めた鮫が、再びゴブリンに狙いを定めるように回遊を始める。

 その時だった、俺とゴブリンの浮いている場所を挟んだ反対方向、港寄りの沖合にスーっと大きな背ビレが浮かび上がって来た。


 慌ててステップを蹴って、海面からの距離を取る。

 回遊していた鮫が、クイっと向きを変えてゴブリンへ接近した所へ、巨大なツバサザメが牙を剥いて襲い掛かった。


 ガバっと海面が盛り上がり、ゴブリンを咥えた鮫の腹にガッチリと食い付いたツバサザメが飛び出して来る。

 テーマパークのアトラクションが子供だましに思えるほどのド迫力に、見物人から悲鳴のような声が聞えた。


「ファランクス!」


 俺に向かって真っすぐに突っ込んで来るツバサザメに向けて、騎士団訓練所の的を粉砕した十連射の砲撃を叩き込む。

 ズドドドドド……という轟音と共に咥えられていた鮫がズタズタに引き裂かれ、ツバサザメの頭も吹き飛ぶが、それでも胴体の上昇が止まらない。


「粉砕!」


 迫って来るツバサザメの胴体に向けて、全力で粉砕の魔法陣を展開する。

 こちら側はガチガチにシールドで固めて、爆破のエネルギーは全てツバサザメに叩き込むように発動させた。


 ズドーン……という爆発音と同時に、迫って来ていたツバサザメが粉々に弾け飛び、海底まで届くかと思うほど海面が凹み、巨大な波飛沫が立ち上がった。


「うわっ、怖っ……俺まで食われるかと思ったよ」


 小型の鮫しかいないと油断していた所に、急にツバサザメが現れたので危うく逃げ損なうところだった。

 ほっと胸を撫で下ろしていたら、岸から悲鳴が聞こえて来た。


 何事かと思って振り返ると、粉砕の魔法陣によって引き起こされた高波に見物人どころかチャリオットのみんなまで巻き込まれていた。


「うわっぷ……馬鹿ニャンゴ! やりすぎだ!」


 セルージョに怒鳴られるまでもなく、一目瞭然見れば分かる。

 ステップを使って慌てて岸へと駆け戻り、波間に漂っている人達に空属性魔法で作った浮き輪を配って歩いた。


 兄貴はガドが、ミリアムはシューレが捕まえていてくれたけど、波に巻かれた時にしこたま水を飲んだらしく、ものすごく恨めし気な表情を向けられてしまった。

 一方、テラスで見物していた人達は、波しぶきを被って濡れはしたが、海に引き込まれるほどではなかったようだ。


 むしろ、大スペクタクルなアトラクションを楽しんだようなもので、全員が立ち上がって俺に向かって拍手と歓声を上げていた。


「素晴らしい! さすがはエルメール卿だ!」

「見たか、あの威力! あれこそが『不落の魔砲使い』だ!」


 テラス以外の場所で見ていた人達も、高波に巻き込まれないで済んだ人達は歓声を上げている。

 何しろマハターテを経済危機に陥れる存在が、文字通り目の前で粉砕されたのだ。


 ただし、波に巻かれて海に落ちた人達は、やっぱり恨めし気な表情をしていた。

 海に落ちた人達を岸まで引き上げて、俺も岸壁へと戻ると満面の笑みを浮かべたネッセルが歩み寄ってきた。


「素晴らしい! 本当に素晴らしい! あの巨大なツバサザメをたった一人で粉々にしてしまうとは、さすがエルメール卿です。ありがとうございました。これでまた海水浴も解禁できます」

「お役に立てたようで何よりです。俺は、この後ちょっと反省会みたいですけど……」

「そうですか……でしたら、夕食は是非私共のホテルのレストランにいらして下さい。シェフが腕に縒りをかけて作ったメニューを存分にご堪能下さい」

「にゃっ、食べ放題?」

「もちろんです!」

「よしっ! 夕方、必ずお伺いします」

「はい、お待ち申し上げております」


 ネッセルと握手を交わしてから振り向くと、チャリオットの面々が腕組をして横一列に並んでいた。

 ニッコリと微笑んだレイラが歩み寄って来て、自然な動きで俺を抱え上げたけど……目が全然笑っていにゃい。


「ニャンゴ、帰ったら何をするか分かってる?」

「えっと……お風呂の支度と洗濯……?」

「分かってるみたいね。じゃ、帰りましょう」

「はい……」


 仕方なかったんだ……不可抗力なんだ……なんて言っても通用しないんだろうなぁ。

 うみゃうみゃな夕食を楽しみに、もうひと働きするしかないか……。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 一日目ってところ [一言] もう一匹くらい居そうな予感
[一言] お魚?食べ放題GET♪ 砂かぶり席じゃなく潮かぶり席での観戦なんだから濡れるのは仕方がないことですよ 対海中戦なんだから攻撃で海面が荒れて波が立つのを予想しておかなきゃ っていうかレイラ達は…
[良い点] 鮫映画のテーマ曲は草
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