表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

351/754

酒のツマミ(ライオス)

※ 今回はチャリオットのリーダー、ライオス目線の話です。


「はぐれたな」

「はぐれたわね……」


 王都の風景が物珍しいのは分かるが、宿を出てから三十分としない間に俺の近くにはレイラしかいなくなっていた。

 こんな調子でダンジョンを攻略出来るのかと少々心配になる。


「フォークスはガドが肩に乗せてたし……」

「ミリアムはシューレに抱えられていたから大丈夫でしょう。というか、あの二人だって別に一人では駄目って訳じゃないでしょ?」

「まぁな、猫人だって訓練次第で人並以上の冒険者になると、ニャンゴを見て分かっているつもりなんだがな……」


 俺自身、人種による差別はしていないつもりだが、猫人であるフォークスやミリアムを心配してしまうのは、一種の差別なのかもしれないと気付いて少し驚いた。

 世間では、猫人は劣っている、人並の生活なんて無理だ……といった考えが当り前の状況で生まれ育ってきたから、染み付いた考えは簡単には抜けてくれないのだろう。


「さて、どうしたもんか……」

「とりあえず、涼しいところがいいわ」

「聖堂でも覗いてみるか?」

「そうね……」


 他の連中も、どうせ思い思いに王都見物をするだろうから、俺達も勝手にさせてもらおう。

 とりあえず、ミリグレアム大聖堂に向かっているが、特別に興味がある訳ではない。


 それはレイラも同じのようで、大聖堂の方角へと向かっているが、その高い塔には視線すら向けていない。

 レイラという女性を言葉にするならば、自由奔放という言葉がピッタリだろう。


 チャリオットを結成する前から知っているが、別のパーティーの冒険者と浮名を流していたかと思うと、アッサリと別れた末に付きまとった男を叩きのめしたり、チャリオットに途中参加したケビンにベタ惚れして、その死後は冒険者を休業して酒場の給仕に転職したり、とにかく行動が読めない。


 今はニャンゴというオモチャに夢中のようだが、どこまで本気なんだか全く読めないでいる。

 まぁ、俺が女心なんて代物を理解できるはずもないのだが……。


 第三区画から第二区画へ入る検問所を抜け、大聖堂の内部に足を踏み入れてもレイラの興味を引くような物は無かったらしい。

 見上げるほど大きなファティマ像や祭壇の装飾などは見るべきものだと思うのだが、レイラはチラリと一瞥しただけで興味を失っていた。


「ここがニャンゴが活躍したところなのよね。襲撃の痕跡とかは残っていないのね」

「ニャンゴが襲撃を撃退したのは、聖堂の中ではなくて外の儀式場だぞ」

「あら、そうなの? じゃあ、そっちを見に行きましょう」

「外は暑いぞ」

「別に構わないわ」


 興味の無いものは、世間でどんなに評価されていても放り出す、興味が湧けば身軽に歩み寄っていく。

 今もレイラの尻尾は上機嫌に揺れている。


 大聖堂を出た先の儀式場では、復旧工事が行われていた。

 既に三分の二程度は工事を終えて真新しい石段へとなっているが、一部には割れたり抉れたりしている石段が残っていた。


「へぇ……あれだけの被害が出る攻撃を跳ね返しちゃうのか……」

「たぶん、魔法を使った防御という点では、ニャンゴを超える奴は存在していないんじゃないか?」

「そうかもしれないわね。この広い儀式場が全体が、あんな攻撃に晒されていたんでしょ?」

「しかも、ぎっしりと満員だったそうだぞ」

「へぇ……」


 レイラは、瞳を輝かせながら唇を舐める。

 それだけを見ればレイラの美貌も相まって艶っぽい姿に見えるだろうが、実際には襲撃の現場に自分が居合わせたら、どうやって暴れてやろうか考えているに違いない。


 レイラは、黙っている時の姿からは想像も出来ないほど、血の気が多く物騒な女なのだ。

 チャリオットのリーダーという立場としては、ニャンゴが食われやしないか心配にもなるが、恋人同士というよりは母と子という感じだから大丈夫だろう。


 二十分ほど儀式場の周囲を歩くと、レイラは満足してしまったようだ。


「ライオス、どこか見る用事はあるの?」

「いいや……」

「じゃあ、どこか涼しい店にでも行きましょう」


 そう言うとレイラは、礼拝に来ていたらしい身なりの良い女性に話し掛け、聞き込みを行った。


「涼しい店を教えてもらったから行きましょう」

「あぁ、そうするか」


 店の場所を聞いたレイラが先に立って歩いていくが、儀式場に出たほど尻尾は振られていない。

 特別に興味は無いけど、暑さしのぎに早く辿り着きたいといったところだろう。


「学院とかは興味無いのか?」

「別に……んー、でもお城はちょっと興味があるかな」

「あっても入れないけどな」

「まぁね……」


 ここ第二区画には、Bランクの冒険者ならば比較的容易に入れるが、王城の警戒は別次元という話だ。

 基本的に城の仕事に関わる者や護衛の騎士以外は、貴族の身分を持たない限り足を踏み入れることすら難しい。


 希少な生糸を献上したカペッロでさえも、王城の敷地には入れないのだ。


「ニャンゴがラガート子爵の護衛で王都に出掛けている時に、ジェシカと酒場で飲む機会があってね。その時に、意外とお城の中にまで入り込んでるんじゃない? なんて冗談を言ってたんだけど、まさか本当に入り込んでいて、しかも名誉騎士に叙任されるなんて思ってもみなかったわ」

「まったくだ、ニャンゴはいつでも俺達の想像を遥かに超えていくからな」

「本当、この世界で一番退屈しないで済む方法は、ニャンゴと一緒に行動する事だって断言出来るわ」

「間違いない」


 レイラが教えてもらったのは、席が全て個室となっている料理屋で、中庭には魔道具を使って小さな滝と清流が設えられていた。

 どこかに風の魔道具も仕込まれているようで、中庭に向かって開いた窓からは涼しい風が入って来る。


「うん、ちょっとお値段張るけど良いわね……」

「あぁ、こういった凝った造りの店はイブーロでは見掛けないな」

「まだまだイブーロは田舎ってことよ。でも、この道中三つの領地を抜けてきたけど、子爵様は頑張ってるんじゃない?」

「それは間違いないな。あの職業訓練所には驚かされた。ニャンゴという存在があったからだろうが、猫人達の意欲もこれまででは考えられないレベルだった」

「そうそう、ミリアムのお兄さんも影響受けてたしね」

「ははっ、ミリアムが頭を抱えてたな」


 オーガに襲われて殺されてしまったと思っていたミリアムの兄貴は、実は小銭を握り締めただけで家出した間抜けな若造だった。

 別件の依頼で訪れた村で再会して、あまりの無計画さにミリアムが頭を抱えていた。


「お待たせいたしました……」


 注文しておいたエールと軽いツマミが来たので、とりあえず乾杯といこう。


「むっ、さすがに良く冷えてるな」

「そりゃ、これだけの値段を取るのに、エールがぬるかったら文句を言われるでしょ」


 エールと軽いツマミだけで、イブーロの三倍以上の値段がする。

 更に、そこに席料を取られるのだ。


「では、ここまでの無事に乾杯しよう」

「ここからの無事も願って……」


 軽くグラスを合わせて、エールを喉に流し込む。

 ほろ苦さとコク、なるほどエール自体も洗練されている。


「はぁ……さすが王都ね、このエール美味しいわ」

「だな、何というか雑味が少ない感じだな」

「そうそう、イブーロのエールも野性味があって悪くないけど、これと比べると少し落ちるわね」


 レイラはエールを半分ほど飲むと、ツマミのチーズを楊枝で刺して口へ運ぶ。


「うん、チーズはカバーネの方が美味しいわ」

「あぁ、カバーネのフレッシュチーズは美味いからな」


 イブーロの東に位置するカバーネでは牧畜が盛んだ。

 搾りたてのミルクを使って作ったチーズが名物で、特に現地で味わうフレッシュチーズは絶品だ。


「この辺りでは、あれだけの物は味わえないだろうな」

「お城の中なら味わえるのかもよ。ニャンゴがヒツジが飼われてたって言ってたわよ」

「そうか、ヒツジを飼ってるなら他の家畜も飼ってそうだな」

「そうそう、チーズケーキがうみゃかったって言ってたわ」

「今日も、うみゃうみゃ言ってそうだな」

「そうそう、うみゃうみゃしてるわね」


 ニャンゴの話をする時のレイラの表情は、実にイキイキとしている。

 大聖堂の中にいた時とは、天と地ほどの差がある。


「ライオス……」

「なんだ?」

「ニャンゴが帰ってきたら、さっさとダンジョンに行きましょう」

「そうだな、賛成だ」

「あぁ、楽しみだわ、旧王都で何をやってくれるかしらね」

「たぶん、また俺達の想像を遥かに超えることをやらかしてくれると思うぞ」


 ニャンゴがダンジョンは地下都市ではなく、古代の都市が埋まったものだと言い出した時には、何を言っているのかと思ったが、話の筋は通っている。

 まだ俺達には話していないが、もっと別なことも考えているような気もする。


「いったい、どこからあんな発想が出て来るんだろうな?」

「さぁ……もしかしたら、ニャンゴの中には誰か別の人が潜んでいるのかもよ」

「はぁ? 別の人だと……」

「そう、遠い遠い昔、まだダンジョンが埋もれる前の時代に生きていた人の魂が宿っているとか……」

「そんな馬鹿な……」

「でも、その時代には空属性の魔法が凄い魔法として使われていたとしたら?」


 レイラの話を聞いて、背筋がゾクっとした。

 俺は人間の魂とか、神や悪魔なんてものは信じない主義だが、思わずあり得るのでは……と思ってしまった。


「太古の時代に生きた魂を宿した猫人か……」

「嘘か真かは、ダンジョンに行ってみたら分かるんじゃない?」

「あぁ、かもしれないな」


 これは、レイラがニャンゴに夢中になる訳だ。

 今すぐニャンゴを連れて、宿を引き払って出発したくなったが、王家絡みでは待つしかない。


「今すぐ出発したくなったが、それは無理だからエールをお替りするか……」

「二杯目は、もう少し強いのにしない?」

「そうだな……賛成だ」


 この後、ニャンゴを酒のツマミにして、若造に戻った気分でレイラとダンジョン攻略について語り合った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[良い点] ツマミがニャンゴで〆てるのが捻りがあって良いですね。 【こぼれ話】的なものも良いですね。同じ日のそれぞれの目線での日常の違いが新鮮に感じました。
[良い点] こう言う日常の一コマみたいな話しってイイですね! キャラや話しに厚みが増すというか、愛着が湧きます。 更新ありがとうございます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ