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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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賑わう村

「なんだ、なんだ、前に来た時よりも随分賑わってるじゃねぇか」


 馬車の外を眺めたセルージョの言葉通り、以前ロックタートルの討伐に来た時よりもラージェ村は賑わっているように見える。

 複数のオークが出没しているのなら、普通は村人は家に籠って身を守るはずだが、マルールを養殖する池の周囲には作業に勤しむ多くの人の姿があった。


「これは、あれじゃな。貧民街で暮らしておった者達じゃろう」


 手綱を取るガドの言葉で気付いたが、作業をする人の中に猫人やウサギ人など体の小さな人種の姿が多く見られる。

 マルールの養殖作業に、どの程度の割合で力仕事があるか分からないが、それでも普通の仕事場で見掛ける割合よりも多い気がする。


 貧民街で暮らしていた人達は、トモロス湖畔に設けられた職業訓練施設へと移送されたと聞いていたが、こちらにも何割かの人が回されているのかもしれない。

 依頼主である村長の屋敷で話を聞くと、やはり貧民街で暮らしていた人達らしい。


「そうなんですよ。みんな良く働いてくれますし、給料の半分は子爵様が払って下さるので、うちとしては安くて良い労働力を確保出来て助かっています」

「なるほどな、だがオークが出没しているのに、この状況は危なくないか?」


 ライオスの質問に村長は何度も頷いた後で答えてくれた。


「最初は、我々も危ないと思って家に籠って様子をみていたのですが、貧民街で暮らしていた者達が、鍋や釜を叩いて追い払うようになったんです」

「そんなもので、オークが追い払えるものなのか?」

「そりゃあ一人や二人では無理ですが、五人、十人、二十人、三十人が声と音で威嚇すれば、さすがにオークも引き下がるようです」


 貧民街で暮らしていた者達にとって、ここは新生活の基盤となる村であり、ここが失われれば、また悲惨な生活に戻ってしまうかもしれないと思ったらしい。

 それに、貧民街では半分ぐらい死んだように暮らしてきたから、今更死んでも惜しくはないという気持ちもあるようだ。


「なるほど、それでは住民には被害は出ていないのだな?」

「はい、家畜をやられた家がありますが、幸い住民には被害は出ていません」

「オークの数は二頭か三頭という話だが、それは間違いないか?」

「はい、今まで目撃されているのは三頭までです」

「分かった、目撃された場所を教えてくれ」

「池の西側が深い森になるので、そちらで目撃されることが多いです。逆に東側では目撃されておりません」

「では、西側を重点的に捜索させてもらう」

「よろしくお願いします」


 以前、ロックタートルの討伐に来た時には、使われていなかった漁師小屋を宿泊場所として提供してもらったのだが、今は元貧民街の住民達の宿舎として使われているそうだ。

 今回は、村長の屋敷に隣接する野営地で一夜を過ごすことになったのだが、ここにも臨時の小屋が幾つも建てられていた。


「おいおい、大丈夫なのか? 貧民街の一部がそっくり引っ越してきちまってるみたいだぞ」

「イブーロの貧民街とは違って、搾取する者もおらんし、まともな仕事があるのだから大丈夫じゃろう」


 確かにセルージョが心配するように、一瞬貧民街のバラックが移設されたのかと思ってしまう光景だったが、そこに出入りしている人には、あの独特の暗さは感じられなかった。

 たぶんガドの言うように、搾取されて人生に希望が持てない状況とは違うからなのだろう。


 ライオス、ガド、それにレイラが野営の準備を進め、俺とセルージョ、シューレ、ミリアムの四人で下調べに向かった。


「セルージョ、見つけたら討伐しちゃうの?」

「いや、今日は見つけても観察に徹する」

「なにか理由があるの?」

「三頭以上のオークだからな、この前のオーガみたいに繁殖していないとも限らない。出来れば根城も見つけて確かめておきたい」

「なるほど……」


 まだアツーカ村にいた頃に参加した、街道に出没したオークの討伐では、おびき出して殲滅するという手法を取った。

 その話をすると、違いの理由をセルージョが説明してくれた。


「いくら訓練されているとは言っても、村のオッサン連中に痕跡を辿って巣の有無を確かめるのは難しいだろう。それに、専門にやっている訳じゃねぇんだ、何日も討伐に掛かり切りになってられねぇだろう」

「確かに、農作業とか家畜の世話とかあるからね」

「だろ? だが、俺達冒険者は討伐が本職だ。巣を残しておけば、またオークが出没する可能性が高い。その場の結果だけでなく、将来への備えが出来るかどうかで評価が変わってくんだよ」


 冒険者の中には、三頭以上のオークであっても倒して終わりにする者も少なくないそうだ。

 そもそも、オークと戦う状況になってしまえば、倒さざるを得ない。


 気付かれず、観察、追跡して実態を見極めるには、それなりのスキルが必要だ。

 同じ頭数を倒しても、ギルドからの評価は変わってくるのも当然だろう。


 村長の屋敷があるのは池の南東で、そこから歩いて西側に向かったのだが、本当に多くの人が働いていた。

 とても複数のオークが出没している状況とは思えない。


「こんにちは」

「おぅ、いい天気だな」

「オークの討伐ですか? よろしく頼みますね」

「おぅ、任せときな!」


 途中の道で出会う人達も、にこやかな表情で声を掛けて来る。

 それに軽い調子でセルージョが応えているのを見ると、イブーロの市場でも歩いているような錯覚に陥りそうだ。


 時々、セルージョは手が空いてそうな人に声を掛けては、オークの噂話を仕入れていく。

 誰にでも気さくに声を掛けて話を引き出してしまうのは、セルージョの特技の一つでもある。


 前世はボッチオタクだった俺には、なかなか真似の出来ない行動だ。


「シューレ、ちょっと面倒そうだぞ」

「そうみたいね……」


 セルージョの言葉にシューレは軽く首を振って、軽く諦めたような表情を作ってみせる。

 シューレの腕に抱えられたミリアムが、なんでなのかと問い掛けるような視線を向けてくるが、俺にも理由は分からない。


「オークの出没範囲が広いのよ……」


 ミリアムの表情を察して、シューレが説明してくれた。

 セルージョが聞き取った噂話が全部本当だとすると、オークは池の南側から西側を回り込んで北側まで、あちこちで目撃されている。


 しかも、頭数は一頭だったり三頭だったりバラバラなのだ。

 シューレやミリアムは、風の流れや臭いによって魔物を探知するのだが、広い範囲を何度も行ったり来たりされると探知が難しくなるらしい。


「接近してくる相手を先に察知して倒すだけなら問題ないけど、観察、追跡には面倒な条件ね」


 セルージョが集めた噂話を元にして、池の南側から森に入って探索を始める。

 シューレの腕から下りたミリアムが、尻尾をピンっと立ててやる気満々だ。


「ニャンゴ、上から警戒してくれ」

「了解です」


 俺はステップを使って、木の枝葉に視界を遮られない高さに上がって周囲を見回した。

 進行方向左前方をシューレが、右前方をミリアムが担当し、池の南から西側へと回り込むように探索を進めていく。


 セルージョは前方の二人を見守りながら、後方への警戒も怠らない。

 池の西側まで来たところで、一旦森から抜け出して池の北側に向かう。


 今度は前方右側をシューレ、左側をミリアムが担当する。

 ようするに、森の深い側をシューレ、比較的浅い側をミリアムが担当しているのだ。

 探索を行っているミリアムだが、いつものような集中力を発揮出来ていないようで、時折不安そうにシューレの方へと視線を向けている。

 目線を向けられているシューレも、尻尾の先が小刻みに振られている様子から見て、探索の結果が思わしくないようだ。


 池の西側まで戻ったところで、再び森を出て池の畔まで戻った。


「確かに、複数の痕跡が残っているけど、痕跡がメチャクチャで追跡するのは難しいわ」

「だが、その感じだとハグレ者の集まりだろう」

「だといいけど、確認しないと何とも言えないわ」


 痕跡が少なくて追いきれないのではなく、痕跡が多すぎて判断が下せないらしい。

 確かに上から見ていても、踏み荒らしたような跡が幾つも見受けられた。


「西の森の奥が根城なのは間違いないけど、もう日が落ちるから続きは明日ね」

「よしっ、戻るとすっか」


 雨季が終わって本格的な夏も近く、冬に比べれば日は長いが、もう太陽は西の森に隠れようとしている。

 夜の森に入っての探索は、さすがに危険すぎる。


 村長宅に向かってトボトボと歩きだしたミリアムをシューレが抱え上げる。


「ふみゃ……ごめんなさい、上手く出来なかった」

「私も思い通りには出来なかったわよ」

「そうなの?」

「そうよ。いつでも思い通りに出来る訳じゃないわ。思い通りにならない時に、どうすれば良いのか、対策を幾つも考えられるようになりなさい」

「分かった……」


 ミリアムは抱えられた腕の中で、シューレの胸元にスリっと頬を寄せる。

 長く伸びた影を追いかけるように歩くシューレの尻尾は、上機嫌に揺れていた。

 黒と白の師弟百合……尊ひにゃ。


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― 新着の感想 ―
[一言]  貧民街の人たち、鍋釜持ってるんだ……と思ったけど、都市内と違って自分で煮炊きしないと食うものも食えないか。
[良い点] 師弟百合……w ヲタク心がくすぐられたな?ww
[良い点] 冒険者に求められるハードルはなかなかですね。 額面通りに討伐だけで終わらせちゃうようだと村人達による自力駆除と大差なし。 後顧の憂いを拭うプロの仕事をしてこその冒険者、と。 [一言] 楽勝…
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