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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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追放と討伐

 キンブルが不安を感じないように、ステップを使って目線の高さを合わせて歩きながら、空属性魔法の探知ビットを使って周囲を警戒する。

 まだカリサ婆ちゃんに弟子入りしたばかりで勉強中のキンブルに、薬草の種類や生えている場所も教えていく。


 この辺りは、俺にとっては庭みたいな場所だし、ここ最近は人が入っていなかったから薬草も沢山採れた。

 俺のことは砲撃馬鹿とでも思っていたのか、同行した騎士達が驚いている。


「いやぁ、エルメール卿がこれほどお詳しいとは思いませんでした」

「元々、これで稼いでましたから、駆け出しのキンブルには負けませんよ」


 どれだけ採って、どれだけ残すか、採った後の下処理まで丁寧に教えていく。

 これらの知識は、全部カリサ婆ちゃんに習ったものだ。


 薬草の採取をしながらなので、山を歩くペースはゆっくりだが、胴金、手甲、脚甲などを身に着け、盾と槍を携えた騎士にとっては重労働のようだ。


「この先に冷たい水が湧いているので、そこで休憩にしましょう」

「冷たい湧水ですか、それは有難い」


 騎士たちは、順番に手甲を外して顔を洗い、湧水で口を漱いで一息ついた。

 青々と茂った広葉樹の葉が日差しを遮り、吹き抜けてゆく涼しい風が心地よい。


「いや、生き返りますね。この場所は騎士団の他の者にも伝えさせてもらいます」

「どうぞどうぞ、俺の持ち物じゃないですから、皆さんで活用してください」


 キンブルも背負っていた籠を下ろして顔を洗い、ほっと一息ついている。

 炭焼き小屋の辺りではパニックになりかけたが、もう大丈夫そうだ。


「エルメール卿、まだ先に行かれますか?」

「そうですね、もう少し先にヨツバユリの群生地があるんです。花を咲かせる前の根の部分が毒消しの材料になるので、それは採って帰りたいですね」

「分りました。そろそろ魔物の群れに出くわしてもおかしくないので、一応注意なさって下さい」


 休憩を終えて、ヨツバユリの群生地を目指して歩き出し、三十分ほど経ったところで探知ビットに反応があった。


「何か来ます。オークかオーガか……少し左に向かって進んで下さい。そちらの方が見通しが利きます」

「了解です」


 距離にすると、まだ五百メートルぐらい離れているので姿は見えないが、大型の魔物らしい反応がある。

 魔物が近づいていると知って、またキンブルの顔が強張り始めていた。


「大丈夫だよ、キンブル。相手は一頭だけだし、こちらは俺を含めて四人も戦える人間がいるんだ。心配は要らないよ」

「そうですね、分りました……」


 勿論、前ばかりに気を取られて、後ろから接近に気付かなかったらピンチを招くので、周囲の探知ビットは維持しておく。

 ステップを使って目線を上げて、木立の間を透かして見ると、遠くに動く影を見つけた。


「オーガのようです。たぶん、北の奥山から下りてきた個体だと思いますが、どうします? 討伐しますか、それとも追い払うだけにしておきますか?」

「こちらの存在を悟られる前に追い払えますか?」

「やってみましょう。皆さんは、この辺りで隠れていて下さい」


 討伐するのであれば、姿を晒しても問題無いが、オーガやオークなどの体の大きな魔物はこちらの存在を察知すると力を誇示するために襲い掛かって来る場合が多い。

 追い払うだけならば、姿を見せずに魔法や弓などの遠距離攻撃で脅した方が良い。


 ステップで木の上へ移動し、体を小さくしながら魔法を発動させる。


「バーナー」


 火の魔法陣と風の魔法陣を組み合わせ、オーガを正面から火炙りにした。


「ウボァァァ……」


 突然炎を浴びせられたオーガは、悲鳴を上げて転げまわった。


「次は……雷」

「ウバァ……ウボォァ……」


 強めの雷の魔法陣をオーガの周囲にいくつか設置してやると、触れる度に悲鳴を上げて体をビクつかせた。

 オーガは何が起こっているのか理解できないようで、雷の魔法陣を消してもキョロキョロと辺りを窺って動かなくなってしまった。


「うーん……なかなか追い払うのは難しいな。じゃあ、遠目から炙ってみるか……バーナー」


 バーナーの向きを変えて、足元から火柱が吹き上がるようにして、それを木に燃え移らないように注意しながら、ジグザグにオーガの方向へと近づけていく。


「ウォ……ウボォ……」


 五メートルぐらい離れた位置から、五十センチ刻みぐらいで接近させると、二メートル程まで近付いたところでオーガは後ずさりを始め、一メートル程に近付いたところで背中を向けて逃走を始めた。


「ほらほら、のんびりしてると尻に火が着くぞ。バーナー」

「ウバァァァァ……」


 直接尻を火炙りにしてやると、オーガは悲鳴を上げながら全力疾走で逃げていった。


「もう少し脅しておくか……粉砕!」


 オーガが逃げて行った方向へ向けて、粉砕の魔法陣を発動させる。

 爆竹を何倍にもした破裂音が木立に響き渡り、羽を休めていた野鳥が一斉に飛び立っていった。


「おっと、とばっちりだね、申し訳ない」


 探知ビットでさぐると野鳥を驚かせた甲斐があってか、オーガは北の奥山の方角へと足を止めずに逃げていった。

 これだけ脅しておけば、村の近くに縄張りを持とうなんて考えないだろう。


 キンブル達の所へと戻ると、三人の騎士はそれぞれが別の木の幹に体を隠しながら、オーガの叫び声が聞こえていた方向を窺っていた。


「お待たせしました」

「エルメール卿、さきほどのが砲撃ですか?」

「いえ、さっきのは砲撃ではなく粉砕の魔法陣による脅しです。音と振動で脅すには、粉砕の魔法陣の方が使い勝手が良いんですよ」

「なるほど……こちらからは殆ど見えませんでしたが、オーガはもういなくなったのですね?」

「えぇ、北の奥山の方角に足を止めずに逃げて行きました。あのオーガはもう下りて来ないんじゃないですかね」


 別に、村の方角へと下りてこなくても、山の深いところにも森は広がっている。

 ただ、他のオーガとの縄張り争いに負けたら、また押し出されるようにして下りてくるかもしれない。


「魔物の数が増えているんでしょうか?」

「その可能性はあります。騎士団の内部でも増員や、さらに奥地への調査討伐隊を送るべきだという意見もあります。いずれにしても、村人の安全を確保できるように、万全の体制を講じる所存です」

「分りました。よろしくお願いします」


 この後、十五分程山を登ってヨツバユリを採集したら、進路を東にとって沢を渡って村まで下りることにした。

 こちらのルートを選んだのは、例年ゴブリンやコボルトが巣を作る洞穴があるからだ。


 探知ビットを使って慎重に接近していくと、やはり魔物の反応が多数現れた。


「どうですか、エルメール卿」

「あまり好ましい状況じゃないですね。五十頭近くいます」

「そんなに大きな群れなんですか」

「えぇ、これは討伐した方が良い気がします」


 巣を作っていたのはコボルトで、三割ぐらいはこの春生まれた子供のようだ。

 そして今更ながらに気付いたが、今朝山に入ってからここまで、一頭も鹿の姿を見ていない。


 もし、こいつらが食べつくしてしまったのだとしたら、遠からず村まで下りてくるだろう。


「エルメール卿、討伐するならば準備を整えてからにしましょう」

「いえ、ここで討伐しちゃいます」

「しかし……」

「全部洞穴に追い込んで、そのまま一気に焼き殺してしまいます」

「そんな事が可能なんですか?」

「はい、素材は全部駄目になっちゃいますが、それよりも村の安全を優先したいです」


 コボルトは基本的に夜行性なので、巣穴を見張る成体と子供が数頭外にいるだけだ。

 そいつらをバーナーで脅して巣穴に追い込み、出入り口を空属性魔法の壁で塞いだら、内部で複数のバーナーを発動させてコボルトを焼き殺した。


「エルメール卿、どうなっているんですか?」

「今は、巣穴の中で火の魔法陣を発動させています。たぶん、もう生きているコボルトはいないと思いますが、血肉が炭になるまで焼いてしまいましょう」

「えっ、もう討伐は済んでいるんですか?」

「はい、後始末の段階ですね」


 洞窟の入り口はピッタリ塞いでしまっているので、コボルトが逃げ込むときに鳴き声が聞こえた後は、物音一つ伝わって来ない。

 三人の騎士は半信半疑といった表情をしているが、魔力回復の魔法陣も使って強力なバーナーを発動しているので、洞窟の内部は焼却炉のようになっているはずだ。


 一時間近くバーナーを作動させた後、全部魔法を解除して洞窟に近付いてみると、入口から五メートル以上離れていても凄い熱気が伝わってきた。


「うわっ、物凄く焦げ臭いですね」

「これだけ焼いてしまえば、他の魔物の餌になる心配は要らないでしょう」

「そうですね、ですが念のために、ここも巡回するようにいたします」

「お願いします」


 この後も、魔物と遭遇しないか気を付けつつ、キンブルに薬草採取のレクチャーをしながらアツーカ村へと帰還した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 1人戦術兵器っぷりが堂に入ってきたな 属性魔法で魔法陣を形作る難しさが想像つかないけど 空属性なら誰でも出来るんだろか
[良い点] 砲撃馬鹿の次は焼却馬鹿ですね 笑
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