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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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カバーネの野営地

 カバーネの野営地には、良く見知った顔ぶれが集まって来ていた。

 ジルが率いるボードメン、トラッカーの三人、テオドロが率いていたレイジングの元メンバーなど、殆どがイブーロ所属の冒険者だ。


 それに加えて、ラガート騎士団からも騎士や兵士が派遣されて来ている。

 ヴェルデクーレブラは、ブロンズウルフやワイバーンと同様に危険な魔物で、行動範囲が広いために討伐が難しいそうだ。


「これから打合せを行うから、各パーティーのリーダーは集まってくれ」


 今朝イブーロを発って、夕方にカバーネに到着して野営の準備をしていると騎士団員が冒険者達に声を掛けてきた。

 ヴェルデクーレブラを討伐する場合は、予め持ち場を決めて手分けして警戒するらしい。


 チャリオットからはライオスが打ち合わせに向かった。

 俺達は自前の幌馬車があるので、天幕を建てる必要はないから簡単な夕食の準備をする。


 野営地には、カバーネの住民やイブーロの行商人が屋台を出していた。

 当然、イブーロの街中で買うよりも割高な価格設定だが、冒険者の中には最初から食糧の準備をせずに来て、食事は全て屋台で賄う者もいるらしい。


「もっと殺伐とした雰囲気かと思ったのに、何だか拍子抜けね」


 野営地の風景を見ながら、ミリアムが話し掛けてきた。


「まぁ、みんな今日着いたばかりで、誰もヴェルデクーレブラを確認していないし、犠牲者も出てないからじゃない」

「やっぱり犠牲者が出るものなの?」

「ブロンズウルフの時も、ワイバーンの時も、何人か冒険者が犠牲になったよ」


 特にワイバーンの時は野営地が襲われて犠牲者が出たと話すと、ミリアムはギョッとした表情を浮かべてみせた。


「まさか、ここも襲われたりするの?」

「さぁ……?」

「それは無いわ……」


 俺が返事に困っていると、シューレが説明してくれた。

 ヴェルデクーレブラは、ワイバーンのように人が集まっている場所を襲ったりはしないらしい。


「ミリアム、ヘビが食事する様子を見たことある……?」

「いいえ、無いです」

「獲物に巻き付いて絞め殺し、頭から丸呑みにする時は無防備になる……」


 前世の頃、テレビの動物番組でヘビがネズミを飲み込む様子を見たことがある。

 大きな獲物を飲み込むために、自分で顎をはずしていた映像が頭に浮かぶ。


 ヴェルデクーレブラも獲物を飲み込む時には無防備になるので、人が沢山集まっている場所には近付いて来ないらしい、

 野営地が安全だと聞いてミリアムは胸を撫で下ろしているが、別の見方をすれば複数の人がいる場所には姿を見せないという事でもある。


 つまり、ブロンズウルフの時のように、パーティーで固まっての探索が出来ないのだ。

 では、どうやってヴェルデクーレブラを探すのか、その答えはライオスが持って帰って来た。


「笛……ですか?」

「そうだ、ヴェルデクーレブラを見つけた者は、こいつを吹いて周囲の者に知らせる」


 ライオスが打ち合わせから持ち帰ったのは、竹筒を使った呼子笛で、今もあちこちからピーピーと試し吹きの音が聞こえている。

 日が暮れた後、この笛を持って川の両岸に散らばって、ヴェルデクーレブラが現れるのを待ち構える。


「待っているよりも、昼間のうちに隠れていそうな場所を探した方が良いのでは?」

「そうしたい所だが、どうやらヴェルデクーレブラは川の中にある巣に身を潜めているらしい」


 川岸を掘り進んだ巣穴の内部には空気があるが、出入口は川の中にあるらしく、外から見ただけでは発見出来ないそうだ。


「とにかく、一つでも多く目撃情報を集めて巣の位置を推定し、その周辺で待ち構えて討伐する」

「じゃあ、当分の間は捜索に専念するんですね?」

「その予定だが、倒せると思ったら別に見逃す必要なんか要らないからな。特にニャンゴ、チャンスがあったら仕掛けてみろ」

「了解です」


 今夜のヴェルデクーレブラの捜索は、日暮れから夜半までと、夜半から夜明けまでの交代制で行われる。

 明日以降は、日暮れから夜明けまで通しで見張り、その分監視の範囲を広げる予定だそうだ。


 チャリオットは、日暮れから夜半までの担当だ。

 監視は、川の両側に五十メートルほどの間隔を空けて冒険者が並び、川面に目を光らせる。


 といっても、この日の空はドンヨリと曇り、辺りは闇に閉ざされている。

 光源は各自が手にした光の魔道具だけで、身体強化魔法が使えない者では殆ど見えない暗さだ。


 チャリオットのメンバーの内、ミリアムはまだ身体強化魔法が使えないので馬車で留守番している。

 他は俺よりもずっとベテランなので心配は要らないと思うが、念のために川岸に探知ビットをばら撒いておいた。


 これで少なくともチャリオットの持ち場を突破されずに済むはずだ。

 チャリオットの布陣は、上流からライオス、セルージョ、俺、シューレ、ガドの配置だ。


 前衛の二人とシールドを張れる俺で、セルージョ、シューレをカバーする態勢だ。

 チャリオットに限らず、どこのパーティーも持ち場に就くと互いの距離が遠いせいで話が途切れた。


 川幅は十メートル以上、深さはどの程度か分からない。

 意外に流れが速く、川面がうねっているのが見える。


 耳に聞こえて来るのは川の音だけで、辺りは静まり返っていた。

 目を凝らし、耳を澄ませているが、何の反応も無い。


 探知ビットをばら撒き、身体強化魔法を使い、ステップでちょっと高い位置から川を眺めているが、魔力回復の魔法陣も使っているので魔力切れの心配は無い。

 なんなら、明りの魔法陣をばら撒いて、周囲全体を照らすことも可能だが、明りに驚いてヴェルデクーレブラが出て来ないと困るので、今夜は様子見だ。


 結局、夜半まで監視を続けたが、呼子笛は鳴らず、交代の冒険者が来たところで馬車へ戻った。

 ミリアムが火の番をしてお湯を沸かして待っていたので、お茶を飲みながらライオスを中心にして今夜の状況を話し始めた。


「セルージョ、見張ってみた感想を聞かせてくれ」

「天候次第だが、やはり暗いな。あの暗さでは、いきなり襲って来られたら対処が遅れそうだ」

「シューレは、どう思った?」

「同じね、もう少し川から離れていた方がいいわ……」

「ガドは?」

「ワシは盾を使えば攻撃は防げるだろうが、毒までは分からんからな」

「ニャンゴは?」

「やっぱり暗いですよね。毒に関しては、俺がみんなの前にも空属性の壁を作っておけば大丈夫だと思います。それと、ヴェルデクーレブラが現れた後なら明かりを灯すこともできますよ。こんな感じで……」


 空属性魔法で、明かりの魔法陣を五つほど頭の上に作ると、周囲がパッと明るくなった。


「こいつは良いな。奴が現れる前に灯してしまうと警戒されてしまうだろうが、追跡や討伐する時には照らしてくれ」

「了解です」

「いや、ちょっと待てライオス」

「どうした、何か問題があるのかセルージョ」

「その場が明るくなるのは良いが、それでニャンゴの攻撃力が削がれちまったら意味ねぇだろう」

「それもそうだな……」


 確かに、複数の明かりの魔法陣を展開すれば、その分の魔力は削られるが、魔銃の魔法陣などの他の魔法陣が使えなくなるほどではない。

 それに、今日のような暗闇の中では、いくら身体強化魔法を使っても視認に限界がある。


「魔銃の魔法陣や他の魔法陣で攻撃を仕掛けるとしても、真っ暗じゃ狙えませんから、明かりは灯した方が俺としてもやりやすいです」

「確かに、ニャンゴに照らしてもらえれば、俺も弓の狙いは付けやすいな」

「ならば、自分の攻撃に支障をきたさない範囲でニャンゴに照らしてもらおう」


 明日からの監視では、呼子笛が聞こえたら明かりを灯し、みんなの動きの補助をする事になった。

 この後は、笛の音が聞こえない限りは朝まで休息し、起きたら川岸の調査を行う予定だ。


 羊を丸呑みにするほどの大きさだから、這った跡などが残されているはずだ。

 獣道のように、決まった場所を通っているなら待ち伏せもしやすいだろうし、監視範囲の絞り込みも出来るだろう。


 仮眠の時間、シューレの抱き枕はミリアムに任せて、俺は幌の上で丸くなった。

 空属性魔法でクッションと念のために屋根も作っておく。


 ウトウトとし始めた頃、パラパラと雨が降り始めた。

 ドーム状の屋根に当たる雨音は次第に大きくなり、やがて本降りの雨となった。


 この雨の中で監視に立っている人達は大変そうだ……と思いながら、再び丸くなる。

 周りで野営をしている他のパーティーが灯していた篝火も消え、辺りは暗闇と雨音に包み込まれた。


 しばらく目を閉じていたのだが、すぐ近くで雨音がするので気になって寝付けなかった。

 起き上がって魔法を使って視力を強化しても、すぐ近くの天幕さえぼやけて見える。


 ふと、呼子笛の音が聞こえたような気がしたが、すぐに雨音に掻き消された。

 本当に聞こえたのか、それとも俺の思い込みなのか自信が持てない。


 耳をそばだてて雨に煙る闇を透かして見ても、呼子笛は聞こえてこなかった。

 やはり気のせいだったと思い、一度伸びをしてから丸くなって目を閉じた途端、今度こそ呼子笛の音が聞こえて来た。


 一つ、二つ……笛の音が増えると共に、野営地に明かりが灯され、勢いを増した雨の中にぼんやりと天幕が浮かび上がった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ニャンゴが空魔法で体を覆ってわざと丸のみにされて、内部から火や雷魔法で焼き尽くす作戦をしてほしかったな。 外側の革は綺麗に残るだろうからいい値で売れる。
[一言] こーゆーの相手だと餌を使った罠が使えそうだが、サイズ的に罠自体は役に立たないかもだな。川岸に羊でも繋いで、血を付けておくとかして誘い出す手段ぐらいしか思いつかん。
[一言] ワイバーンの時みたいに野営中も奇襲を警戒する必要がないのはいいけど 見つけるまでが面倒くさい魔物だな
感想一覧
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