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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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出立

 いよいよラガート子爵に同行して、王都へと向かう日が来た。

 王都までは約10日間の旅程だが、今回は令嬢アイーダの巣立ちの儀という重要な予定があるので、5日ほど余裕を持たせて出発する。


 出発当日は、ダルクシュタイン城を早朝に出立するので、俺は前日のうちに城を訪れた。

 イブーロからは空属性魔法のオフロードバイクで来たのだが、途中で擦れ違ったり追い抜いた人からは随分と驚かれてしまった。


 空属性魔法で作ったバイクは他の人からは見えないので、俺はキ──ンという風の魔道具の作動音と共に地面スレスレを飛んでいるようにしか見えない。

 空を飛んで向かおうかとも思ったが、現状は風任せだし、安全策も万全とは言い難いのでやめておいた。


 城では、前回招待された時と違って、王都に同行する騎士達と同じ宿舎の一室を与えられた。

 俺が冒険者として大成すれば貴族の警備を行う機会も増えるだろうし、実際に警備を行う騎士達の動きを見せておくという目的があるそうだ。


 貴族らしい豪華な内装の部屋よりも、簡素な騎士の宿舎の方が性に合っているが、先日の訪問の際に魔銃の魔法陣の威力を披露したせいで質問責めにされてしまった。

 全て手の内を明かす訳にもいかないので、空属性魔法で魔法陣を作ると発動することは明かして、あとは創意工夫だと誤魔化しておいた。


 食事時も、俺を囲むように騎士達が集まって来ていたが、共に魔法を披露したジュベールは離れた場所から暗い視線を向けて来ていた。

 てか、俺には負けたけど、相当な威力の火属性魔法を使えるんだから、そんなに卑屈にならなくたって良いんじゃないの?


 もしかして、あの後アイーダから何か言われたりしたのかな?

 そうだとしても俺の責任じゃないし、八つ当たりとかしないでくれよ。


 俺を質問責めにした騎士達から聞いたのだが、王都までは20人の騎士が同行するらしい。

 先触れとして2人が先行し、子爵一家が乗った車両の前方に8人、後方に10人が配置される。


 俺は御者台に乗って警備を担当する……という格好になるらしい。

 そして子爵一家が乗る車両だが、馬車ではなく魔導車が使われるそうだ。


 魔導車が使われる理由は簡単だ。

 馬車の場合、馬が襲われてしまうと身動きが取れなくなってしまう。


 例えば、キラービーなどに襲われた時でも、魔導車は御者台を囲うことが可能だそうで、馬の安否に気を使うことなく走り続けられる。

 盗賊や、山賊などに襲われた場合でも、馬が傷つけられて足止めされるような心配も無い。


 魔導車の側面にはラガート子爵家の紋章が大きく彫り込まれているそうだ。

 貴族を襲うこと自体が大それた行為だが、紋章を施した馬車を襲うことは国への反逆を意味する行為として、通常の盗賊などよりも厳しい対応がなされるらしい。


 言うなれば、国の威信に傷を付けたと見なされるのだろう。

 そのため、貴族の乗った馬車が襲われることは滅多に無い。


 徹底した調査、捜査、そして討伐が行われるので、盗賊としては割が合わないのだ。

 むしろ、貴族の馬車を襲うのは身内や対立する勢力というのが一般的だ。


 今現在、王家では王位継承争いは起こっていないそうだが、そうした争いがある時には貴族が派閥ごとに別れて争うことも珍しくない。

 そうした場合、有力貴族は紋章の入っていない馬車でお忍びで動き回るらしい。


 なんとも面倒な話だが、今回の王都行きにはそうした心配は無いそうだ。

 つまり、同行する20人の騎士は、言い方は悪いが飾りなのだ。


 出発当日、騎士の集合場所へ出向くと、同行する騎士達は煌びやかに着飾っていた。

 警備役としての同行だと聞いていたので、俺は下ろしたての作業用のカーゴパンツとワークシャツにリュックを背負っているという姿で、明らかに見劣りしてしまう。


 一応、余所行の服も持って来ているので着替えた方が良いか、護衛の騎士を指揮するラガート騎士団二番隊隊長ヘイルウッドに聞いてみた。


「いや、そのままで構わないぞ。我々は言ってみれば国民のための見世物だ。これも騎士としての役目だが、冒険者にまでその役目は求めないから大丈夫だ」


 前世日本でも、要人が来日した際に一行の移動に見物人が集まったりしていたが、こちらの世界でも同じなのだろう。

 むしろ娯楽の少ない世界なので、こうした貴族の行列を見物は一種の楽しみなのだろう。


 俺が育ったアツーカ村は、国の端っこに位置しているので、こうした貴族の行列を見る機会は無かった。

 テーマパークのパレードに、飛び入り参加させてもらうぐらいの気持ちで御者台に座ることにした。


 そう言えば、同行する騎士の中にジュベールの姿が無かった。

 昨晩、藪睨みをされていたのは、これが原因なのかもしれない。


 ラガート子爵家の騎士は、王国騎士団の騎士とは違って身分は貴族ではない。

 もしかするとジュベールは、アイーダとの逆玉に乗って貴族としての身分を手に入れたいのかもしれない。


 出発の時間が迫り、俺は魔導車の横で、御者や同行する執事、メイド長などと一緒に子爵一家を出迎えた。

 子爵達も、旅支度ではあるものの一目見るだけで貴族と分かる豪華な衣装に身を包んでいた。


「おはよう、ニャンゴ。道中よろしく頼むぞ」

「おはようございます、ラガート子爵。こちらこそよろしくお願いします」


 魔導車に乗り込む際、ブリジット夫人はにこやかに微笑みかけてくれたが、アイーダはジト目で一瞥をくれただけで眉間に皺を寄せて顔を背けた。

 まったく、ジュベールが同行しないのは、俺の責任じゃないんだぞ。


 と言うか、アイーダを嫁に出したくないラガート子爵の策略じゃないのか。

 巣立ちの儀の後は、王都の学院に籍を置いて寄宿舎で暮らすそうだから、そのうちにどこかの貴族の息子が言い寄ってくるのだろう。


 最終的な結婚は、家の事情に左右されるのだろうし、自由な恋愛が出来ないことには同情するが、貴族として良い生活をしているのだから仕方ないだろう。

 俺は、やっぱり気ままな冒険者生活の方が良い。


 王都で訓練を続けているオラシオが騎士になったら、こんな感じの貴族の娘を嫁にもらうのだろうか。

 猫人のうちよりはマシな生活をしていたが、ど田舎のアツーカ村育ちのオラシオに貴族らしい生活なんて出来るのかね。


 と言うか、王都に行った時にオラシオに会えるだろうか。

 騎士団には何の伝手も無いし、どこに訊ねて良いのかすら分からない。


 今回、ラガート子爵はアイーダの巣立ちの儀に立ち会うために王都に行くが、王族や貴族などとの面会も行う予定でいるそうで、最大10日ほどは王都に留まるそうだ。

 俺へのリクエストは往復の道中の警護で、滞在中は自由に出歩いて良いことになっている。


 その10日の間に、なんとかオラシオと再会するのが最大のミッションだ。

 王都を知るためにも、最初の5日間は子爵家の助けは借りずにオラシオの居場所を探し、面会を申し込むつもりでいる。


 5日経っても面会の目途が立たなかったら、子爵家のコネを使って面会を試みるつもりだ。

 使えるものは全て使って目的を達成するのも冒険者というものだ。


 オラシオとの再会の他に、確かめておきたいのは王都における猫人の待遇だ。

 噂によれば、大きな街に行くほど、国の中心に行くほどに差別の度合いは強くなるらしい。


 アツーカ村でも、体格差によって侮られることはあったが、イブーロの服屋で受けたような露骨な差別は感じたことは無かった。

 勿論、一介の冒険者である俺に、王都における人種差別解消なんて出来るはずも無いが、将来冒険者として名を売ることが出来たならば、一石を投じるぐらいはしてみたい。


 まぁ、こんな事は俺の思いすごしで、猫人も普通の人種として普通に暮らしているかもしれない。

 その辺りは、王都の冒険者ギルドにでも行ってみれば分かりやすいかもしれない。


 冒険者ギルドに行ったら、ついでに王都名物の美味しい店を紹介してもらおう。

 王都での食べ歩きも、今から楽しみだ。


 これも噂なのだが、王都には米があるらしい。

 アツーカもイブーロも、国の北に位置しているので米は作られていない。


 だが、国の南の地域では稲作が行われていると聞く。

 できれば、長粒種ではなく短粒種の炊き立てご飯をワシワシと掻き込みたい。


 おかずはマルールのムニエルでも、黒オークの串焼きでも、何でも構わない。

 俺に炊き立て白ご飯を食わせやがれ。


 それと忘れちゃいけないミッションは、レイラさんへのお土産だ。

 当然、レイラさんにお土産を買うならば、シューレやジェシカさんにも買って帰らないと後が怖い。


 何を買ったら良いのやら、サッパリ分からないけど、それは王都で聞き込みでもして考えよう。

 前世で、東京の大都会を当たり前に歩いていたのだから、ちょっとやそっとじゃ驚かないだろうが、王都を見るのは楽しみでしかない。


 王都までは、あと10日、早く着かないかにゃぁ……。


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― 新着の感想 ―
お土産リストに入ってないオリビエちゃん・・・(合掌)
[一言] あこがれの猫まんま!
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