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黒猫ニャンゴの冒険 ~レア属性を引き当てたので、気ままな冒険者を目指します~  作者: 篠浦 知螺


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フォークスの日記(フォークス)

 ワイバーンの討伐から戻って、チャリオットは1週間の休暇に入った。

 弟のニャンゴは、この3日ほどフラフラと出掛けていたようだが、戻って来たと思ったら急に俺に声を掛けてきた。


「兄貴、明日なんだけど、土の採掘場に行こう」

「えっ、お前まさか……」

「あぁ、ゴブリンの心臓はもう食わせないから安心して」

「いや、そうじゃなくて、あの見えない乗り物に乗って行くのか?」

「いやいや、違う違う。陶器工房の護衛の仕事に加わるから、兄貴も見学に来なよ」

「おう、本職の人の仕事が見られるのか。じゃあ行くよ」


 いくつかの陶器工房が共同で管理している土の採掘場へは、去年の暮れに一度行っている。

 弟が魔法で作った見えない乗り物で、物凄い速度で移動させられて肝を冷やし、ゴブリンの心臓を食わされて、ぶっ倒れるまで魔法を使わされた。


 当日は、なんて酷い目に遭わされたんだと思ったが、その日を境に格段に魔力量が上昇して、これまでよりも広範囲に強く魔法を使えるようになった。

 弟も、魔物の心臓を食べて魔力量を強化してきたそうで、やはり本気で冒険者を目指している奴は違うと感心したものだ。


 ところが先日同行した遠征では、どこかの冒険者が弟が仕留めたワイバーンの心臓を口にした途端、全身から血を噴出させ、苦しみ悶えて死んでしまった。

 まさか俺がゴブリンの心臓を食べた時も、こんな感じになるかもしれなかったのかと問い詰めると、そんな事は無いと言っていたが、尻尾がウネウネしていたからたぶん嘘だ。


 一応、危険だと前置きしていたし、ヤバくなったら思いっきり魔法を使えとアドバイスしてくれていたけど、薄切りにした心臓をポイポイと俺の口に放り込んでもいた。

 まぁ、実際魔力量が上がって助かっているんだが、ニャンゴよ、もう少し考えて行動してくれ。


 翌朝、夜明け前の西門に行くと、3人の若い冒険者が待っていた。

 以前にも弟が一緒に依頼に出掛けたことのある、トラッカーというパーティーだそうだ。


 今回一緒に依頼をするにあたって、色々と年末の件の説明が大変だったらしい。

 どういう経緯なのか分からないが、それでも弟が参加することで依頼を受けられるようになったので、一応3人も感謝しているらしい。


「カルロッテ、フラーエ、ベルッチ、おはよう。こっちが、うちの兄貴」

「お、おはようございます。フォ、フォークスでっす……」

「よろしく、フォークス」

「ニャンゴには世話になってるよ」

「今日はよろしくね」

「ど、どうも……」


 トラッカーの3人は、俺よりも1つか2つ年上のようだが、気さくに声を掛けてくれたのだが、上手く言葉が返せない。

 顔見知りじゃないと、緊張してしまって頭の中が真っ白になってしまうのだ。


「兄貴は土属性だから、陶器工房の仕事を見学出来ればと思って連れて来たんだ。一応雇い主には話をしてあるからさ」


 どうやら俺の知らないところで、弟は色々と手を回してくれているようだ。

 弟がワイバーン討伐の様子などを話している横で、俺が頷くだけの置物のようになっていると、一台の大きな馬車が近付いてきた。


 馬車は陶器工房イルサラのもので、降りて来た4人はいずれも屈強な牛人の男性だった。

 俺が言うことじゃないけど、弟はまだしも、トラッカーの3人も工房の職人より小さいとか大丈夫なのか。


「おはようございます、今日はよろしくお願いします」

「おはよう、陶器工房イルサラのゼルーカだ。君がニャンゴだね。ワイバーンを仕留めたそうじゃないか」

「はい、パーティーの仲間や他の冒険者の協力もあっての成果です」

「ははっ、随分と謙虚だな。冒険者というと普通は俺が俺が……な感じだけどな」


 ゼルーカは、俺達全員のギルドカードを確認した。

 トラッカーの3人は、カルロッテとフラーエがDランク、ベルッチがEランク、俺は勿論Fランクで、弟はBランクに昇格していた。


 弟のBランクカードを見て、陶器工房の4人は目を見開いていた。

 猫人で、弟の歳でBランクなんて、普通では考えられないが、まるで気負ったところが無い弟の振る舞いが、ランクの裏付けとなっているように感じる。


 馬車の手綱はゼルーカが握り、御者台の隣にはカルロッテ、ベルッチとフラーエは荷台から後方を警戒するようだ。

 俺と弟は、陶器工房の3人と向かい合わせに座って馬車に揺られていく。


 尻の下と身体の周りには、弟が魔法で空気の布団のようなものを作ってくれているので、真冬なのに寒さを感じない。

 それどころか、ポカポカと暖かくて、馬車の揺れも手伝って瞼が落ちそうだ。


「兄貴、採掘場に着くまで寝ていていいよ」

「いや、俺だけ眠る訳には……」


 いかないと言いたいところだが、陶器工房の3人はもう寝息を立てていた。

 採掘場に着けば、ぶっ通しで採掘作業に取り掛かるそうで、今は英気を養う時間と言う訳だ。


 陶器工房の3人が寝込んでも、弟は魔法を使って外の様子を監視しているようだ。

 俺には真似は出来ないが、せめて採掘場まで起きていよう……と思ったのだが、結局睡魔に負けて寝込んでしまった。


「兄貴、もうすぐ着くぞ」

「ふにゃ……にゃ、しまった、眠ってた」


 弟に膝枕してもらい、丸くなって眠っているなんて、元々無い兄の威厳が地にめり込んでしまう。


「まぁまぁ、兄貴は昨日も一日中、拠点の前庭で練習してたんだろう。今日はこれから本職の人の動きを見て、色々勉強させてもらいなよ」

「すまん……ここからは、目を見開いて勉強させてもらうよ」


 採掘場の周囲は、トラッカーの3人が見張り、弟は範囲の外にいる魔物を駆除するらしい。

 今年は採掘場に現れる魔物が増えてしまっているらしいので、個体を減らす必要があるらしい。


 ただ、ワイバーンの討伐でイブーロの有力なパーティーが揃って遠征に出掛けていたので、通常の討伐依頼が溜まってしまっているらしい。

 その為、この採掘場の護衛依頼も、なかなか引き受け手がいなかったそうだ。


 この護衛は他の依頼とは少し違っていて、採掘場の近くになるべく魔物を近づけないために、一定の範囲内では魔物を討伐出来ないし、持ち帰れない。

 オークの討伐の場合、討伐の依頼料よりも肉を売った金額の方が遥かに高い。


 その肉を持ち帰れないのだから、依頼としては人気が無いのだ。

 弟が、この依頼を受けた背景には、トラッカーの3人だけでは戦力不足と見なされて依頼を受けられないという事情があるらしい。


 通常の討伐依頼の多くも、イブーロの東にあるカバーネ村からのもので、自前の馬車が無いトラッカーの3人では依頼を受けられないのだ。

 そこで弟が加わって戦力を補充し、かつ俺に採掘場での仕事も見せようという狙いらしい。


「じゃあ、こっちは任せたよ。何かあったら大声で呼んで」

「あぁ、なるべくニャンゴに頼らなくて済むようにするが、ヤバそうだったら即助けを呼ぶよ」


 トラッカーの3人と打ち合わせを終えた弟は、空中を走って山の中へと入っていった。

 魔法で足場を作っているのだが、初めて見た陶器工房の4人は腰を抜かしそうに驚いていた。


 トラッカーの3人は、魔物除けの鉄の輪を鳴らしながら持ち場に散っていく。

 ガシャン、ガシャン、ガシャン、とテンポ良く鳴らされる鉄の輪の音を聞きながら、陶器工房の4人も仕事の準備を始めた。


 馬車の荷台に渡し板を乗せて積み込み用の傾斜を作ると、採掘場に下りて土の状態を確認する。

 俺には見分けが付かないが、掘る場所によって微妙に土の質が違うらしい。


 確認を終えると、道中眠りこけていた3人もバリバリと働き始めた。

 採掘場の地面や壁に手をついて、魔法を使って大きな円盤状に土を固めていく。


 固め終えた土は、転がして馬車へと積み込んでいく。

 円盤は、俺の身長と同じぐらいの大きさで、かなりの厚みがある。


 見よう見真似で俺も作ってみたのだが、形作って更に固めるので、ごっそり魔力を消費する感じだ。


「ほぉ、これ兄ちゃんが作ったのかい?」

「は、はい……ど、どうでしょう?」

「いや、大したもんだよ。慣れてないから形は少し歪だけど、初めてでこれだけ出来れば大したもんだ」

「あ、ありがとうございます」


 採掘した土は工房に持ち帰ってから空気を抜くように練り直し、それから陶器の形にしていくらしい。

 だから、ここでは少々形が歪んでいても問題無いそうだ。


「よし、兄ちゃん、ちょっと手伝ってくれ。帰ってから一杯奢るからさ」

「い、いいんですか?」

「勿論さ、よろしく頼むぜ」


 工房の職人達は、素早く円盤を作り上げて硬化させると、4つほどまとめて馬車へと運んで行く。

 俺は、1つ作るにも時間が掛かるし、運ぶのも1つずつがやっとだ。


 それでも、誰かに仕事で必要とされるなんて、生まれてこのかた初めてだ。

 とにかく、少しでも役に立てるように、俺は一心不乱に土の円盤作りに取り組んだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白いです。コミック化したら、かわいいニャンゴがみられるかな。
[良い点] フォークス可愛くなってきたな
[良い点] フォークス兄ちゃんが真っ直ぐに成長してるのを見てほっこりします
感想一覧
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