ポイントさえあれば何でも手入れる世界
プロローグ
茂垣剛はいつも、自分が現実に死んでいると思ってる。
通勤して、ご飯食べて、トイレ行って、寝て起きて…
自分の存在する意味は何だろう。少なくとも、あのデブ主任の愛想笑いにはない、一晩枕を交わしたOLたちの体にはない、この果てしなく広い鋼の森のような大都市にはない。
「自分はもはや腐った」と彼はいつもこう思った。24歳の時からずっと。そしていつか灰になって、名前だけこの世に残して、いや、名前を残るすらできないんだ。だって、絶対だれもが彼のことを覚えてない。だれがただの一サラリーマンを覚えることか。彼がどうであろうと、この世の一粒の砂に過ぎないのだ。
「君は、命の意味を知っていますか?真の生き方を…得たいのか?」
ある日の朝、茂垣剛は自分の席に座ってパソコンを開いたら、モニターにはこんな一言が映っている。どっかの未熟なハッカーのトリックだろう、と茂垣はそう思った。この程度の小細工には、確認ボタンとキャンセルボタンどっちを押してもウイルスがバックグラウンドでこっそりダウンロードされますから、右上のバツ印を押せば問題ないと。
茂垣は考えもなく、マウスをバツ印へ移動して、ガチャっと、クリックした。
その一瞬、強烈な眠気が襲い掛かったかのように、瞼を開くことはできなくなった。意識が完全になくなる直前、茂垣の頭には、「真の生き方を得たいのか」、こういう一言だけでした。