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第6.5話『銃の姉妹』

 12月22日・土曜日の朝


田子(タゴ)カンナ』が朝起きると妹ーーカナミが制服姿でキッチンに立っている。


「何やってんの?あんた」

「見たらわかるでしょ?お弁当作ってるの」

「それはわかるけど」


 目の前には弁当箱というより、おせちなどに使う大きな重箱が3段、全体的に半分ほど敷き詰められた状態で置かれてある。


「なんで休みの日に弁当作ってるのかってこと!なんでこんな大きな重箱が必要なのかってこと!」


 妹のカナミはまだ中学生。部活にも入っていないかったから、土曜日に制服着てお弁当作るなんてのはあり得ないのだ。


「今日はボランティアで掃除があるの!それでこれは終わったらみんなで食べようってことで作ってんの!」

「ボランティアぁ?」

「うん、お姉ちゃんと違ってゆぅ〜とぅ〜せぇ〜な私はボランティアにも積極的に参加するの」

「あんたそんなの参加したことないでしょうが!?」

「あるよ!休日はいつもお昼過ぎに起きるお姉ちゃんは知る由もないかな」

「うッ…」


 ――こいつ、所々に毒を含んでくる!


 たしかに心当たりはある。休日、カナミがいないがいない日は結構あった。帰ってくるときはいつも私服なのでてっきり、ゲームセンターにでも行っているものだと思っていた。


「ふーん。でもさぁ、あんたに掃除なんてできるのぉ?」

「お姉ちゃん!当てつけがましいよ!」


 ついに言われた。


「掃除できない人なんてやる気がない人以外いないよ!」

「…」


 お姉ちゃん、負けを自覚する。


「それとお姉ちゃんも来ない?」

「なんで私が!?」

「だって休日いつも暇でしょ? 今日早く起きたのだって偶然だろうし」

「私の立場知ってるでしょ?」

「うん、知ってるよ。1年前の高校最後の通知表、オール…」

「わかったよ! 行けばいいんでしょ!行けば!」

「やった!」


 カナミが少しジャンプし、胸の前で手のひらを握りしめ、ニッコリ笑う。


「…」


 ――この笑顔はいつになっても変わらないな。


 カンナはそう思う


「あ、それと、ジャージと私服は持っておいて」

「ジャージはわかるけどなんで私服?」

「あとで話すから」


 カナミがニッコリしたまま半目でこちらを見ながら言う。


「まぁ、わかったよ」

 ――――――――――――――――――――――――


 同日・午前8時頃


「おぅ、田子じゃん。久しぶり」


 学校に着いたとき1人の青年から声をかけられた。同級生の『甲斐(カイ)シンジ』だ。


「…ひ、久しぶり」


 会いたくない人に会った。


「お前こんなとこにいていいのか?」

「こんなとこにいていいのか?ってどう言うこと?」


 引きつった笑顔で質問を返す。


「だってお前、留ね……」


 素早い動きで甲斐の口をふさぐ。

 さらに素早く周りを確認する。


 ――うん、周りは誰もがいないな。誰も聞いてないな、うん。


「ぅー…!ぅー…!」

「うん?」


 カナミが気づくと、甲斐が青ざめた状態でうめき声で訴えかけている。


「あ、ごめん」

「…ぶはー。お前ひどいよ」


 こっちを見ながら甲斐市が言う。


「だって、君があんなこと…、中学の先生に聞かれたらどうするの!?」

「聞かれてもお前なら仕方ないって思われるだ…へぶッ…!?」


 カンナの拳が甲斐の顔面にクリーンヒットすら。


「このゴリラやろう!そんなんだから留年するんじゃね?」


 甲斐が赤くなった鼻を抑えながら言ってくる。


「ついに言ったわね。ゴリラって言うくらいなんだから、ゴリラを怒らせたらどうなるか、わかってるよねぇ?」


 ぼきぼきと拳を鳴らす。

 甲斐の顔から見るからに血の気が引いていく。


「ラブラブしているとか悪いけど、お姉ちゃん早くいくよ」


 カナミから声をかけられる。


「え?あ、ごめん。ってラブラブしてない!!」


 甲斐を置いてきぼりにし、その場を後にする。

 後ろで甲斐がホッと胸をなでおろす感じがしたので、一瞬だけ振り向き、睨みつけておいた。

 再び甲斐から血の気が引く感じがした。

 ――――――――――――――――――――――――


 ボランティアの清掃は1時間程で終わった。カナミから言われた通りに持ってきた私服に着替える。


「で、今から何するの?」

「ちょっと、()()に行くの」


 カナミがそう言ってニヤッと笑う。


 ――…ゴクリ。


「ほら、いいから行くよ」


 カナミに急かされカンナは慌ててついていく。

 ――――――――――――――――――――――――


「ここは…、ゲームセンターだよね?」

「見たらわかるでしょう?」


 目の前の赤くでかい建物には、でかでかと青い『GAME CENTER』の文字が貼り付けられている。


「ゲームセンターに行くなんて聞いてないよ!」

「だって言ってないもん。…て、なにその目?」

「え?その目って?…んんーー!!」

「あー、禁断症状出ちゃってるよ…」


 そんな言葉はもうカンナには届かない。


「ゲームセンター!!おお!!ゲームセンター!おお!!」

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「で、さぁ、お姉ちゃん…」

「何このクマさんのぬいぐるみ?かわいい!大きい!欲しい!」


 姉がUFOキャッチャーにへばりついている。


「お姉…」

「あー!!これついにここにも実装されたかー!1年前はなかったよー、これ!」


 今度は近くにあった大きいゲーム機を食い入るように眺めている。でも…、


 ――そのゲーム機、どう見ても小さい子供しか入れないよ。お姉ちゃん。


 その大きいゲーム機に姉が入ろうとするので慌てて止める。


「お姉ちゃん!!」

「ひゃ、ひゃい!」


 変な声をあげて姉がこちらを振り向く。


「うわ…、ヨダレ拭きなよ」


 カバンからポケットティッシュを取り出し姉に渡す。


「え、あ、ありがとう」


 姉がティッシュを受け取り、ヨダレを拭き取る。


「そんなんだからゴリ…、いやなんでもないです…」


 姉がこちらを鋭い眼差しを向けてくる。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「で、お母さんからもお父さんからも禁止されてるのに、私がお姉ちゃんを()()に連れてきた理由、わかるよね?」


 カナミがそう尋ねてくる。


「…え?いや、…わからない」

「大会なの!」

「…大会?なんの?」

「ガ・ン・ゲ・ー!!」

「ガンゲー?」

「お姉ちゃん、得意でしょ?」

「え?うん、まぁ…。…いや、多分得意じゃない…」

「なんで!?」


 たしかに私はガンゲーで負けなしと言われていたくらい強かった。でもそれは――


「1年も前のことだよ?私がガンゲーやってたの!」

「それでもまだ感覚残ってるでしょ?」

「そうかもしれないけど…、1年もやってなかったのにいきなり大会なんて…」

「できるよ!私お姉ちゃんに勝ったことないもん!!」


 我が妹ながらよくもこんなに自信満々に言えるものだ。


「…はぁ…、わかったよ、やるよ!」

「わぁ、ありがとう、お姉ちゃん!」


 カナミがニッコリと笑う。


 ――本当に、昔から変わらないなぁ。


「それで、大会まではどのくらいあるの?」

「今日だよ」

「そう…、仕方ない。後何時間ぐらい?」

「うーん、10分くらいかな?」


 腕時計を見ながらカナミが確認する。


「そう、わかっ…、て、えぇ!?」


 カンナも時計を確認すると時計の針は9時50分に差し掛かったところだった。


「10分ぐらいだって」

「なんで?そんな、練習する時間ないじゃん?」

「だって、いつもお姉ちゃん寝てるし、お母さんいるしで、連れてこられなかったし。大会当日は、ギリギリまでボランティア活動が入ってたし」

「うぅ…」


 ――お母さん地獄耳だから、ゲームセンターに行こう、なんて言ったらすぐ起きてくるしなぁ。


「本当は今日はボランティア行かずに大会の準備する予定だったんだけどね。お姉ちゃん連れてくるために口実に使うことにひて、結局行くことにした」

「まぁ、それはナイス判断だね。お母さん、嘘も見抜くし」

「そういうこと。じゃあもう時間ないから行くよ」

「わかったよ。初戦敗退でも文句言わないでよ?」

「流石に初戦だったら文句言うかも」

「そう、じゃあ勝たないとね」

「うん、そういうこと」

 ――――――――――――――――――――――――


 カンナはアサルトライフル、カナミはスナイパーライフルを持って位置につく。


「何このガンゲー?進化しすぎでしょ!?」

「お姉ちゃんが1年前までやってた、『ヴァリアントシューター』の最新型だよ」

「それはさっき見たからわかってるけど…」


 カンナが知っているヴァリアントシューターはごく一般的な、正面の一枚の画面内の敵を倒すゲームだったはずだ。

 でも今回はそこら辺からもう違う。画面は正面だけではなく、横、後、天井、床にまで広がっている。

 さらにこのゲームはゴーグルをかけて行い、そのゴーグルには、照準マーカー、HP、弾数などが映し出されている。


「なんか、負けそう…」

「弱音吐かないの、お姉ちゃん。やるよ!」

「うぅ…。もうわかったよ!」


 今回の対戦のルールは簡単、バトルは2on2で行われる。ポップし続けるCPUを倒しながら、敵の5つの拠点を探し出し、全て破壊する。もしくは、敵を見つけ出し、全滅させることで勝利となる。


 ゴーグルに移されたデジタル時計がちょうど10時を指す。同時に時計が消える。本来なら代わりに制限時間が映し出されるらしいが、今回はルール自体に制限時間がない。


(バトルを開始します。…10、…9、…8、…)


「あぁ、もう始まるぅ。仕方ない! やるよカナミ!!」

「…う、…うん!!勝つよ!!お姉ちゃん!!」


(…3、…2、…)


「さぁ、戦闘開始!!」


(…スタート)

 ――――――――――――――――――――――――


 夕方


 結局、ほとんどの試合を無傷で圧勝し、そのまま優勝してしまった。


「1年もやってないなんて関係なかったじゃん、お姉ちゃん」


 優勝景品を胸の前に抱き抱え、カナミが言う。


「そう、みたいね。今日は普通に楽しかったよ」

「そか、ならよかったぁ。今日ありがとうねお姉ちゃん」

「うん。ただ、少し物足りなかったかなぁ。あまり歯ごたえがないと言うか」

「まだ始まったばっかりなゲームだからね。お姉ちゃんが強すぎるんだよ」

「えー、そう?」

「やっぱ違う。前言てっかーい」

「えー?なんで?」

「だってお姉ちゃんすぐ調子乗るじゃん。今度全国大会もあるんだし、その時まで本調子でいてもらわないと困るしね」

「そうなんだぁ。全国大会あるんだ。楽しみ〜」

「うん、その時までに欠点は解消しておいてよ?」

「うッ…。忘れてたのに」

「忘れててもやらないといけないでしょ?全国大会って言ったらお父さんに頼まないと会場行けないし」

「はぁ…、わかったよぉ…」

「じゃあ帰ろっかお姉ちゃん。この景品の言い訳考えておかないとなぁ」

「うん、帰ろう」


 自宅に向かって歩き出す。

 その時、


「占ってあげようか?」


 見知らぬ男性に声をかけられた。


「え?」


 思わず聞き返す。


「占ってあげようか?」

「え?いや、私占いとか信じてないんでいいです」

「まぁ、そう言わずに」


 ――この人、聞いておいて選択肢1つしかないタイプの人だぁ。


「カナミはどうす…、る…?」


 カナミの方に向き尋ねる。カナミは固まっている。その瞳からは光が消えている。


「わ、わかりました。お願いします。占ってください」


 男性の方に向き直り。意思を伝える。


「ずいぶんと積極的だねぇ。オーケー占ってあげる」


 ――…この人がやってるの?


「僕が占うのは簡単なこと」


 男性が懐から一枚のコインを取り出す。


「今から起こることが君にとって、幸運か不運かについてだ」


 そして、男性がコインを指で弾く。真上で一瞬だけ静止し、男性の手に戻っていく。コインが着地すると同時に男性が手を握る。


「裏と表、どっちが出たと思う?」

「私の意見なんていいんでさっさと見せてください」


 男性が手のひらを広げる。


「――が出た。これから起こることは君にとって――となる」


 男性がそう言い終わった時、カンナを含めて世界から色が消えた。

 カンナの意識は停止した。












































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