第6話『時の概念』
外に出ると空に満月を見つけた。
――さっきまで気づかなかったけど、出てたんだね。
「もうそんな時間!」
後ろで田子が声をあげた。
「もうそんな時間って、時計あるの?」
「うん、あるよ」
田子がポケットから懐中時計らしきものを取り出し、時間を確認する。
――あれ?順番逆じゃね?
「やっぱもう1時だ」
「今何を見て時間を確認したの?」
「月だよ。ここでは常に満月で、同じ時間に月が上がり沈みするみたいだし、時間の予測は簡単だよ」
「あんま、空とか見ないからわからないな」
「私もあんまり見ないけど、小さい頃お父さんからよく言われてたの、もし迷子になったら空を見ろって。そして、昼なら太陽を、夜なら北極星を見つけろって。それが迷子から救ってくれるって。それで、今がその時だって思って空を見てたら時間の感覚も覚えちゃった」
父親のことを語る田子の表情はとても嬉しそうだった。
「お父さんのこと、好きなんだ」
「うん、大好き。君は?」
田子が笑顔で聞いてくる。
「……好きだよ。俺もめちゃくちゃ…」
「そうなんだ。君のところも仲良いんだね。でも喧嘩でもしたの?なんかちょっと言いづらそうだったけど?」
「うん、ちょっとね。俺から聞いておいてあれだけど、この話はしばらくはやめてくれないかな?」
「うんわかったよ。でも、早く仲直りしなよ?」
「うん、ありがとう、そうする」
――田子さんって優しい子なんだな。
四季は心からそう思う。
「それと、君も覚えておいた方がいいよ」
「え?」
「迷子になった時の話。道のない村の外に出るんだし、迷子にはなりやすいだろうしね」
「わかった、覚えとく」
「それと、これ持ってる?」
田子が時計を持った手を振りながら四季に聞く。
「持ってないよ」
「じゃあ……」
田子がさっきの建物の中に戻る。
「これ」
すぐに出てきた田子がこちらに何か投げてくる。懐中時計だ。
慌ててキャッチする。
「この建物の中いくらでもあるから、持っておきなよ」
「そっか、ありがとう」
お礼を言う。
蓋を開けて見てみると、確かに時計の針は1時を指す寸前まで来ていた。
「ホントにこんな時間だ、早く寝ないと。…そこの家には誰かいる?」
丁度右横の家を指差しながら田子に聞く。
「いないよ、そこで寝ていいよ」
「そっか」
「それと、後ろの大きい家以外、家の中に日常品の自販機があるから使いなよ。お金を入れる穴はあるけど、なぜかタダだしね」
――日常品の自販機?
「わかった、ありがとう、そうするよ」
そこで田子とひとまず別れた。
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家の中に入ると、かなりの広さの家だった。廊下もない簡単な作りの家だが、浴室、化粧室、洗面台、冷蔵庫、ベッド(特大)など、色々と揃っていた。
――ホント、世界観ごちゃごちゃだな。
そして、それもちゃんとあった。
自販機の中には皿、コップ、飲料水、歯ブラシ、歯磨き粉、トイレットペーパー、ティッシュなどの日用品の他に、目隠し、耳栓などの、あったら嬉しいな、程度の品も入っていた。
――ホント、世界観ごちゃごちゃだな。
その中から、体の手入れに必要なものを購入(?)し、寝る準備を済ませる。
目隠しと耳栓を使って寝ることにした。周りは暗くて静かなので、ほとんど必要ないし、今までも使ったことはないのだけど。
――こんなに時間に寝るのは初めてだから、より熟睡できる状態にして寝ないと。
午前1時40分。人生初の夜更かしを経験した四季だった。