プロローグ『世界改変《ワールドスライド》』
12月21日・金曜日・午後4時50分
――また負けた。
剣道場の床に大の字に倒れながら四季ユウトは思う。
――せっかく期待されて、スポ薦で大学に合格して……。
「くそッ…!」
大学に合格してからというもの、全く勝てなくなった。それからというもの、コーチからは嫌味を言われるは、クラスメイトからは陰口をささやかれるはで散々である。合格したことに浮かれてるのだと思われてるのだろう。
「なぁ四季、やっぱお前スランプなのか?」
こちらを真上から覗き込みながら、同じく剣道部員の、右田シンタが話しかけてくる。
「そうだろうな…」
不機嫌そうに四季は答える。
「そうだろうなって、自分のことだろ?」
「言っとくけど、自分のことは自分が1番知ってるってのは、多分間違いだぞ」
「それもそうか。ところでさ、日曜日のことだが――」
話し方から分かると思うが、四季とシンタはかなりの親しい仲だ。
「話変わるの早いな。ななつ星見に行くことだろ?それなら大丈夫だよ」
ななつ星とはあの有名な豪華寝台列車のことである。流石に乗ることはできないが、せめて近くで見れるところまで行こうという話になったのだ。
「そうか、ならよかった。それと土曜日、明日はカラオケに行かないか? 一人カラオケってのはどうも恥ずかしくて…」
「お前に恥ずかしいって感情あったんだな…」
「なんか言ったか?」
「なんでもないデス……。悪い、明日は郵便局に入学金を振り込みに行かないと、期限が近いんだ」
「他にやることないんなら行けるだろ?少しぐらい待つよ」
「いや…、午前中は用事が」
「用事って?」
「…」
「そうか仕方ない、他をあたってみるよ」
「そうしてくれ」
――ごめんよ、シンタ。ただゆっくりしたいだけだ。
そんな会話をシンタと交わした後、四季は自宅に帰った。
――――――――――――――――――――――――
12月22日、土曜日、午後3時
郵便局で振り込みを済ませ、四季は帰路に着いた。
――寒い。なんかあったかい物でも飲みたいな。
ちょうど視界に自販機が入る。
正面に立って品揃えを確認してみると、いつも飲んでる微糖コーヒーがちょうど売り切れている。
――最近ホントついてないな…
仕方なく隣のカフェオレで我慢することにした。20円高い。
カフェオレを購入し再び帰路に着いた時、
「占ってあげようか?」
声をかけられた。横を向くと、自販機の影に隠れるように、見知らぬ1人の男が立っている。
「占うって何を? てか、あなたは誰ですか?」
疑いの目を向けながら質問を返す。
「ただの占い師だよ」
「まぁ、占い師でもない人が「占ってあげようか?」なんて聞かないか。見た目は全然ぽくないけど…」
「それで、どうする?」
言葉を遮るように占い師が再度聞いてくる。
「何を占ってくれるかにもよりますよ。それと金額。恋愛占いとかだったら今の俺は興味ないし、適正だと判断できない金額なら、どんな内容でも占ってもらう気にならない」
「僕が占うのは簡単なこと、これから起こることが君にとって、幸運か不運かについてだ」
「いくら?」
衝動的に聞いてしまった。
「おや?占ってもらう気になったかな?」
「はい。それで金額は?」
「君は初めましてのお客さんだからね。今回特別にタダにしておいてあげるよ。」
「後から請求したりしないでくださいね」
再び疑いの目を向ける。
「随分と疑い深いお客さんだな。僕は本当のことしか言わないよ。」
「そうですか。じゃあお願いします。」
占い師が1枚のコインを懐から取り出す。
――随分と古典的な方法だな!?
コインが占い師の手に弾かれる。真上で一瞬だけ静止し、占い師の手に戻っていく。コインが着地すると同時に占い師が手を握る。
「裏と表、どっちが出たと思う?」
「さぁ?どっちだろう?…俺は裏だと思います。」
占い師がゆっくりと手のひらを広げる。
「残念。表が出た。これから起こることは君にとって、幸運となる」
「そうですか…」
――ん?これから?
「…あの、これから起こることって…」
手のひらから視線を正面に戻すと、占い師は消えていた。
ーー幽霊か!?
そんなことを思う。
その時、視界を違和感が埋め尽くした。
「…ッ!!??」
あたりを見渡す。
世界は色を失っていく。
「なんだこれ!!?? これから起こることって!!??」
そんな言葉を発している間に、みるみる世界から色が抜けていく。
「占い師さ……―――――――――」
その時点で四季からも色が抜け、彼の意識は停止した。