第0話『イレギュラー・コア』
虚無、あるいは空白。《それ》が産まれた時、あったのはそれだけだった。
――ここは何処? 自分は何?
そんなことを永遠に考え続けていた。
違うな。思っていただけだ。答えを出そうとしない以上、考えてるとは言えない。
何年?何十年?そんな数字では表せないほどはるかに長い時間。そんな思考、いや、思を数えきれない時間続けてきて、やっと《それ》は気づいた。
これは無意味だ。むしろこれは虚しい。悲しすぎる。
《それ》は思考するのをやめた。
そして、《それ》には欲望が生まれた。
知りたい。感じたい。動きたい。と《それ》は思った。
《それ》はまず自分を表す記号を考え出すことにした。
――『我』、偉そう。
――『私』、可愛い。
――『俺』、カッコいい。
――『僕』、子供っぽい。
――『余』、これも偉そう。
――………
「俺! 俺がいい!!」
――!?
その瞬間、《それ》だった《俺》は気づいた。
自分は知っていることに。感じることができることに。 動けることに。
「…なんだ。全部叶っちゃった」
そんな言葉が漏れる。
「なんでだろう? 難しいな。俺は考えてるだけのつもりなのに、この身体は勝手に音を発する」
まず彼は身体になれることから始めることにした。
その背中を月の明かりが照らす。