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8話 ゴリマッチョ ヒノマ

【オーヤドージョ編】

飛行機から降りた一同は、真っ直ぐにギルドへと向かう。

約2名ほど、三半規管が壊れたのか、フラフラと左右に移動しながら前へと進んでいた。


そしてギルドへ帰ると、二人の男性が床に寝かされていた。

どちらも酷くうなされている。

寝かされているうちの一人は、エディであった。

主に外傷が目立ち、セーナが軽く手当てをしていた。

そしてもう一人の男は、ホモたちがまだ見たことがない男であった。


工事現場の土の色をした髪を短く刈り上げているその男は、気配に気づいたのか、うっすらと目を開けホモたちの方を見た。丸い眼鏡の奥からは、ただ光を反射するだけのガラス玉のような瞳がこちらを覗いていた。

その男は、ぐったりと倒れている様子すら絵になるほどハンサムだった。

しかし、ハンサムな顔よりも目を引くのが、その体だった。


男は上半身が裸のまま床に倒れているが、その上半身は一体体脂肪率はいくらなんだ?いやむしろ体重のほとんどが筋肉じゃないのか?というほどムキムキだった。ボディビルダーもびっくり、ゴリマッチョなんて生易しいものじゃない。ものすごくいい体をしていた。



「あのっ……」



その人は誰ですか、と尋ねようとホモが口を開いたその時。



「ヒノマさん!!!」



ホモの横を緑色の何かが通りすぎる。けして低くはなく、かといって高いわけでもない少年のような少女のような声でソレイユがその男の名を呼び、男のもとへとかけていく。


倒れているヒノマを発見してからのソレイユの行動はとても早かった。あまりにも早かったので、(あぁ、これってもしかしてソレイユは意外と若いぞ。)とリュウの脳は、よくわからない思考をした。



ソレイユは床に寝転ぶヒノマの上に覆い被さるようにして、ヒノマの筋肉質な首に腕をまわし抱きついた。



「心配してくれてるのか」



ヒノマはそう言うと、大きな手でソレイユの頭を撫でた。ゴツい見た目とは裏腹に、軽さのある優しい声だった。



「ヒノマさん・・・」



まるでロミオとジュリエットの最後のシーンのような光景に、ホモとリュウは目を奪われる。


(いや、あの・・・レイのリアクションが俺らの時と全然違うくない?)


リュウは心の中でそう思った。

ソレイユとヒノマを見つめるホモとリュウに、マスターが話しかける。相変わらず抑揚のない話し方で、やはり焦点は定まっていなかった。



「初クエストお疲れー。ソレイユさんとのクエストって大変だったでしょー。あの子はヒノマさんにしか心を開いてないからなー・・・俺なんか、あの子の視界に入っただけで不機嫌になられるし」



そこまでボソボソと言うと、マスターは唐突に遠い目をした。そして



『ハァ・・・』


「ん?」



気のせいだろうか、今マスターの顔の半分を隠しているキツネの面がため息をついたような気がした。

マスターはそのままフラフラとどこかへ歩いていく。あの人大丈夫なのか、とリュウが心配して見ていると、フラフラするマスターをセーナが捕まえバシッとはたいた。



「ちょっと、しっかりしなさいよ!どう見たってこれはジユージュへの宣戦布告よ!」



聞こえてきたセーナの言葉に、ホモとリュウは目を見合わせる。



「宣戦布告?」


「そうなのよ。エディとヒノマさんがオーヤ地区のギルド、オーヤドージョから攻撃を受けたの」



セーナはそう言いながら、棚から一冊の本を取り出した。


ーーそもそもギルドはいつかの地区に分かれている。

ギルド自体も移動型ギルド、孤立ギルド、無名ギルドに分かれているが、ほとんどの魔導士は普通のギルドに属していた。

ちなみに、ホモたちがいるギルドは、キノ地区という場所に分類されている。


地区によって治安の差が激しいところもあり、オーヤ地区はキノ地区に比べれば、かなり治安が悪い場所であった。


そんなオーヤ地区のギルドの中でも、最も強大な力を持っていると噂されている『オーヤドージョ』から、宣戦布告を受けたのである。

実はオーヤドージョとジユージュは、何世代も前から仲が悪く、お互いを敵対視していた。


毎年のごとく今回の件と同じように、オーヤドージョがジユージュに喧嘩を売るのだが、毎年決まった時期に来るため、ジユージュはそれを恒例行事化とし、あまり相手にはしていなかった。



「…まぁ、いいんじゃないですか。二人ほど倒れてるけど、物理的攻撃を受けたのは実際一人だし」



そのため、攻撃をされたとしてもこのように、全く危機感がないのである。

ましてやギルドマスターがこれでは、周りの意識も自然と低下する。



「もう…これだからマスターは…」



先ほどまで怒っていたセーナでさえも、すでに諦めモードである。

さらにホモたちも、セーナから渡されたギルドの本に集中し、会話をほぼ聞いていない。

そんな状況を一応まとめるために、マスターが口を開く。



「まぁ何かあってもそのときは…、そのときの俺がなんとかするから大丈夫さ…。てなわけでエディの治療と、ヒノマさんのメンタルが回復したら解散ってことで」



話がまとまったところで、ホモがふと疑問に気づく。

今、自分の目の前にいるソレイユと仲が良いヒノマさんと呼ばれる男性と、ハーブの香りが漂うおしとやかヒノマさんと呼ばれる女性は、兄妹か何かなのだろうかと。

ホモが段々とそわそわし始めたせいか、リュウはそれを察する。



「えっと…ヒノマさん?初めまして…ですよね?」


「……。あぁ」



ヒノマはリュウの問いに、一瞬だけ意味深に間を置いたが、そのあと笑顔で頷いた。

リュウはそのまま質問を重ねていった。



「ははっ!やだなぁ、俺とヒノマは兄妹でもないし、違う存在さ!」



いくつかの質問に答えてヒノマは、笑いながらそう答える。

たしかに、名前こそ同じだが見た目といい性格といい、明らかに違いがある。

冷静に考えれば分かることなのにと、リュウは自分の考えなさに肩を落とす。



「いやぁ、それにしても何だか気持ちが晴れやかになってきた気がするぞ!」



数分前とは打って変わって、ヒノマは勢いよく立ち上がる。

ついでに、たまたまヒノマの首にしがみついていたソレイユも、ヒノマとの身長差の分だけ宙に浮いた。

はたから見れば異様な光景だが、ヒノマとソレイユにとってはこれが日常である。



「よぉーし!明日も力こそパワーするぞぉーっ!」



ヒノマはソレイユを首からぶら下げたまま決めポーズをする。

そこにホモが話しかけた。



「ねぇねぇヒノマさん!どうして寝込んでいたの??」



せっかくメンタルが回復したというのに、すぐにそれをほじくり返すホモ。

ヒノマは「あ゛ぁぁぁぁっ!!」という叫び声とともに、膝から崩れ落ちた。


一体ヒノマに何があったのか。

それは、数時間前のこと。


エディとヒノマはクエストから帰る途中であった。

突如、オーヤドージョの一員たちに襲われ、ザコなのか一人一人は強くなかったが、あまりの数の多さにエディが先に力尽きた。

だが、そのあといくらザコたちがヒノマに襲い掛かっても、全く歯が立たない。

片手で軽くあしらわれたあと、必ず最後に「力こそパワーだぞ」と耳元で囁かれる。

あまりに強大で、あまりに異様なヒノマの行動に、一人のザコが諦め半分に大声をあげた。



「や、やーい!去年、フラれて絶賛独り身のヒノマー!」


「ぐっ…!?なぜそれを…!?」



ヒノマは胸元をエグられたような錯覚に陥る。

苦しそうに胸を押さえ、片膝を地面に付けた。

それを見たザコたちが、一斉に声をあげた。



「今年のクリスマスの予定はどうですかぁ??」


「やめてやれよ〜サミシマスにに決まってんだろ〜?」


「やーい!ぼっちっちー、ぼっちっちー、ヒノマは一生ぼっちっちー!」



まさに集団とは恐ろしいものだ。

一人に貶されるならまだしも、集団となれば傷がそれだけ大きくなる。



「あ゛ぁぁぁぁっ!頼むぅぅぅっ!やめてぐれぇぇぇぇっ!」



ーーそして、現状に至る。

ヒノマは物理的攻撃こそ受けていないものの、精神的攻撃を受けてしまったため、ある意味物理的攻撃よりもタチが悪い。



「俺だって必死だったんだよぉぉぉ…」



両手で頭を抱えるヒノマ。

ホモはアタフタとしながら慰めようとする。

ふと視界に入ったヒノマの手を見ると、小指に指輪をはめていた。

そういや、女性の方のヒノマも小指に指輪をはめていたなと思い出す。

もしかして隠しているかは分からないけど、ヒノマさん同士は結婚しているのかなと、ホモは不思議そうに指輪を見つめた。


しかし、結婚指輪は薬指にはめるものであって、小指にはめるものではないのだと、ホモの頭の中には誰も指摘できるものはいなかった。


すると、指輪をひたすら凝視するホモが気になったのか、セーナが何かを思い出したかのように声をかけてきた。



「あ!そういえば、まだこれを渡していなかったわね。一応これを持ってるとジユージュの証になるから」



渡されたのは、銀色の細い指輪。

一箇所だけ透明な宝石が付いていて、それがワンポイント的な役割をしていた。


ジユージュの一員は、全員この指輪を持っている。

きちんと指にはめるものもいれば、輪にチェーンを通してネックレスとして付けるもの、肌身離さず持っているが身に付けないものがいる。

ちなみにだが、指にはめるなら一定の決まりがあり、男は中指に付け女は人差し指に付けることが決まりである。


その辺りの説明を一通り受けたホモと、それを横で聞いていたリュウは、ハッと顔を見合わせた。



「「ヒノマさんは…?」」



そして二人同時に最大の矛盾を呟いたのだった。

セーナはその問いに対して、クスクスと笑うだけであった。

すると、すぐ隣で叫び声が聞こえる。



「エディーー!!大丈夫かー!?生きろー!!」



いつの間にか、またメンタルが回復したヒノマが、エディの体を軽く揺さぶっている。

反応がないため、ヒノマはポケットからハーブを取り出した。



「あ!男の方のヒノマさんも、ハーブ愛用者なんだ!」



当たり前のように出されたハーブを見て、ホモがそうボヤく。

ヒノマはエディの上半身を起き上がらせると、ハーブを素手で握り潰し小さく丸めたあと、エディの口の中に突っ込んだ。


粉々になったハーブが乾燥した口内に入り、呼吸とともに喉奥に貼りつく。

エディは、カッと目を見開いた。



「ゴホッゴホッ、ぐっ……ごふあっ」



エディは体をくの字に折り曲げ、激しく咳き込む。その衝撃で、怪我をしている箇所がミシミシと痛んだ。



「あ″あ″あ″ぁぁああ……」


「エディ!今からハーブティーを作るから、15分くらい待っててくれ。そのハーブは応急処置のやつだから、待ってる間はちゃんともぐもぐしておくんだぞー。」



そう言われたエディは、素直に先輩命令に従いハーブをガシガシと噛んだ。ハーブは独特の匂いと苦味があって、泣きそうになるくらいマズい。しかし、不思議と体の傷の痛みはおさまっている。エディは、涙目になりながらも噛み続けた。



「いいぞいいぞー、その調子。よし、レイさん。鍋とマグカップの用意をよろしく」



ソレイユは頷き、絵を描く準備をしていく。

その様子を見ていたセーナが、ヒノマに言った。



「マグカップといえば、ヒノマさん。ヒノマさんが割った、私があの子にあげたマグカップ……ちゃんと弁償しました?」



その瞬間、ヒノマはその場に崩れ落ちた。

いや、崩れ落ちたと言うよりは、膝をつき手をつき頭を地面につけていた。



「すいませんでしたぁぁぁあああ!」



全身で謝罪の意を表明するヒノマに、ソレイユは口元だけでフッと笑った。

そして、できあがあった鍋とマグカップをスッと差し出す。


そのマグカップは、ソレイユのイニシャルとまるで部屋のすみっコに生息してそうな謎の生き物の絵が入った・・・そう、今は亡きソレイユの



「あ″あ″あ″ぁぁああ……」



ヒノマはそのまま、バタリと倒れた。

エディは「俺いつになったら解放されるんだろう」と思いながら、ハーブをもぐもぐし続けた。

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