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7話 造形魔導士

村の奥は森に繋がっている。

丁度、森の入口付近にある木の丸太の上に、先ほどの子どもが座り込んでいた。

両手で顔を隠し、小刻みに肩を震わせている。

すると、森の方から村へ近づく足音が一つ。

耳のいい子どもは、瞬時に反応を示した。


「駄目っスよ〜子どもは家にいないと〜。…じゃなきゃ、悪いお兄さんに殺されんぞ」


それは、つい数日前に見た男。

自分たちの村を焼け野原へと変えた男。

魔導士という憎いくて、最も恐ろしい男が目の前にいた。


「っ…た…」


恐怖のあまりか声が掠れる子ども。

「たすけて」という心の叫びは誰にも届かない。




何度か遊ばれるように蹴られ転がされたあと、子どもは力尽きて地面にうつ伏せに倒れた。

意識が朦朧とし、痛みで体を動かすことができない子どもは、声を殺し涙を流す。

そこへどこからともなく、またこちらに向かう足音が聞こえてきた。

子どもは諦めたかのように、目を細め徐々に瞼を閉じていく。


「お…これはこれは。まさかそっちから来てもらえるとは、ありがたい限りっス」


フードの男は見下した態度で、相手に話しかけた。


「………」


現れたのはソレイユであった。

ソレイユは倒れている子どもをゆっくりと抱きかかえあげると、フードの男に背を向ける。

そして、そのまま村の方へと歩み始めた。




「へぇ?この瞬足のルマエダから逃げ切れると思ってるんスか?」


ルマエダだと名乗る人物は、自分の足元に魔力を溜めると、ソレイユの方に向かって一気に走り出す。

あまりの速さに、初めて見たものはそれを瞬間移動だと錯覚する。


「ハハッ!死ねぇ!!」


ルマエダは高笑いしながら、ソレイユの首を目掛けて勢いよく蹴りにかかった。


ーーゴンッ!!


と、鈍い音がソレイユとルマエダの間に響き渡る。

よく見ると、ソレイユとルマエダの間には分厚い透明な壁が出来ていた。

ルマエダは目を見開き、ゆっくりと足を下ろした。


「おかしいっスねー。たしかソレイユさんは、絵を描いてる間は何もできないヘナチョコって聞いたんスけどねー」


たしかにルマエダが蹴る直前、子どもを抱きかかえてるソレイユは、パレットも筆も持つことができず両手が塞がっていた。

それなのにと言わんばかりに、ルマエダは透明な壁を何度も蹴り、すぐさま壊しにかかる。




だが突然、ルマエダの頭上に影が差し掛かり、それにいち早く気がついた彼は、即座にその場から離れる。

すると、離れたと同時に空から大量の矢が、ルマエダがいた場所に降ってきた。


「ひゅ〜。恐ろしいっスね〜」


口ではそう言っているものの、余裕だと言わんばかりの表情を浮かべる。

しかし、やはりソレイユが魔法を使った気配がないことに、ルマエダは疑問に思う。

そして一瞬、眉間に皺を寄せたあと、ルマエダは何かに気がついたかのように叫んだ。


「まさか!!!」


その瞬間、ルマエダの両足がロープによって拘束される。

丁度、足の魔力を発動させようとしていたルマエダは、バランスを崩しその反動で地面に倒れこむ。

すぐさま起き上がろうとするが、それよりも早く、すでに背後にいたソレイユが連続で捕縛魔法をかけた。




「チッ…!やっぱあれはダミーか…!」


完全に体を拘束されたルマエダは、悔しそうに唇を噛み締める。

遠目でもう一人のソレイユの方を見ると、ホモとリュウに子どもを渡したあと、その存在は自動的に消えてなくなった。


「クソったれが…!離しやがれ…!妙な拘束術しやがって…!」


たしかにソレイユの捕縛魔法は、ほかの捕縛魔導士と比べてもやや特殊である。

それは、はたから見ると亀の甲羅を連想させる縛り方であり、捕縛と同時に相手に精神的な苦痛を味あわせるということで、一部の捕縛魔導士の間では有名だったりもする。




「あ゛ぁ!!許さねぇ!!俺だと確実に相性が悪いはずなのに、ふざけんなよクソが!!」


何度も体を大きくうねらせながら、ルマエダは威嚇するように叫び続ける。

だがソレイユは、これ以上暴れないようにと更にロープを絡ませた。

…普通に考えて、スピード系の魔導士であるルマエダは、捕縛・造形魔導士であるソレイユが相手だと、わりと有利な状況なのである。

とくに造形魔法というのは、発動に時間がかかりやすく、相手がスピードタイプだと分が悪い。

発動させる前に倒されてしまうのが、よくあるパターンとされている。

しかし、だからこそ造形魔導士は誰よりも慎重だ。




「相手は完璧に油断していた。あれはソレイユの戦略勝ちだな」


リュウはソレイユたちの方を見てボヤく。

ちなみに、何気に呼び捨てになっていることに本人は気がついていない。


「レイ凄くカッコよかったな〜!帰ったらアリちゃんにも教えてあげよ〜!」


ホモはそう言いながら、怪我した子どもの手当てをする。

だが不器用なせいなのか、もしくは考えが甘いせいなのか、消毒をした傷には、小さな傷でも大きな傷でも全てに包帯を巻いていくホモ。

そのため、子どもの体の半分以上は真っ白になっていて、誰なのか判断しがたい状態だった。

それを見たリュウは、ふとユーリの言葉を思い出す。


『てめぇか。学習能力のねぇワンパターン野郎は』


あのときの言葉は強ち間違いではないのだと、リュウは心の中で思ったのであった。





暫くすると、完全に動けなくなったルマエダを、ソレイユが運んできた。

正確に言えば、ソレイユが絵描いた男性が運んできたのだ。

顔以外の動きを封じられ、ルマエダは言葉や目でひたすら威嚇し続けている。

ソレイユがホモたちと合流すると、ルマエダは二人を見るなり嘲笑いだした。


「ハハッ!ジユージュも堕ちましたねぇ?!なんスかそいつら、新人っスか?!魔力の欠片も感じないんスけど?!」


ギルドに入って今日が1日目のため、リュウはルマエダの嫌味に全く堪えていないようだ。

しかし、ホモは分かりやすいくらいに落ち込んでいた。





「魔力ってのは、必ず人間の体の中に流れてるもんだ。そんなことも忘れたか」


ここ最近で一番聞き慣れた、挑発的な声がした。俯いてしょんぼりしていたホモは、ハッと顔をあげる。

なぜか片手に大量の札束を持っているユーリが、ホモたちの後ろに立っていた。


「アリちゃん!!!」


ホモは、ぱあっと顔を輝かせ、今さっきとはすっかり真逆の表情を浮かべた。


「どうしてここに?今回のクエストはパスするって・・・」


リュウが尋ねると、ユーリは肩をすくめダルそうに答えた。


「セーナに、お前らの様子を見てこいって言われたんだよ。俺の魔法の特性上、俺一人だけならどこにでもすぐに行けるからってな」





ユーリは、ホモたちの前に出て、ルマエダと対峙する。


「魔導士とそうでない人間との違いは、自分の体に巡っている魔力を、何らかの形にして使いこなせるかどうかだ。今コイツらはまだ自分の魔力をイメージできてないが、直に開花するだろう。」


ユーリの言葉に、ホモは安心した。勢いで魔導士になったものの、自分に才能があるのかどうかもわからない現状だったのだ。ホモは救われた気持ちになった。


「魔力を感じ取れないってことは、そりゃあお前に問題があるんだろ。だからこうしてやられるんだよ、えーっと……早漏のルマエダだっけ?」


「あ″ぁ″!?今何て言ったっスか?」


「同じことを二度も言うつもりはねぇよ」


ユーリはニヤッと嫌な笑い方をすると、そのままひらひらと手をふって、この場から姿を消した。

言いたいことだけ言って、しかも最後は下ネタで相手を煽って、煽るだけ煽って消える。

それは、まるで瞬間移動のようだった。




ルマエダは顔を真っ赤にして、悔しげな顔でホモたちを睨む。

しかし、今のルマエダには、それ以外にできることは何もなかった。


文字通りお縄になったルマエダは、やがてソレイユの通報により駆けつけた魔導警察機関の魔導士によって、本当にお縄になった。


「このままで、終わると思うなっスよ・・・ふっ、ふははははは!」



捨て台詞を吐きながら魔導警察に連れていかれるルマエダを見て、リュウは「あんな大人にはなりたくないな」とどこか悟った気持ちになる。

その時、ふとエンジン音がした。音の鳴る方を見ると、小型の飛行機にソレイユが乗っている。

飛行機はどこからどう見ても、ソレイユの造形魔法だろう。


また、ソレイユの運転で帰るのか・・・。

しかも今回は、ちょっとした事故でもシャレにならない飛行機である。

ホモとリュウは一瞬歩いて帰ろうかとも考えたが、帰り道はわからないし、ここがどこかもわからない。二人は、神に祈るような気持ちで飛行機に乗り込んだのだった。

ちなみにクエストの報酬の分け前は、当然ソレイユが10でホモとリュウが0だった。

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