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6話 初クエスト

ーー次の日。


ホモとリュウは、ソレイユと呼ばれる人物に連れられ、初めてのクエストに来ていた。

だが、先ほどからソレイユと呼ばれる彼、もしくは彼女は何も喋らない。

ソレイユが二人を連れてきたというのも、ヒノマやセーナから新人魔導士のクエストの手伝いを頼まれたからである。


「今日は宜しくお願いします!ソレイユさん!」


リュウが気まずくて沈黙するなか、とくに何も考えていないホモは元気よく挨拶をする。

それに対してソレイユは、コクリと頷いた。


「あの…」


すると、無視はしないと判断したリュウも口を開く。


そもそも、この人は男か女か。

年上なのか年下なのか。

今日のクエストは何か。


聞きたいことは山程あったリュウは、ソレイユとはどんな人物なのかと観察した。




ワンピースのように丈の長い草色の服に、深碧色(濃い緑)のズボン。黄色のスカーフで首もとを覆い、橙の羽のついた深緑の帽子を目深に被っている。顔は口元しか見えておらず、肌が出ている面積が極端に狭い。帽子の下から見えるショートヘアは、星空色をしていた。


見れば見るほど、性別がわからない。




そもそも、今日のクエストは本当はユーリと行くはずだったのだ。

しかし、セーナの「今回のクエストはユーリの魔法とは相性が悪いから、フォローにレイについていってもらおうと思うんだけど」という一言で、ユーリは即クエストの同行を拒否した。ちなみに、レイとはソレイユの愛称である。


ジユージュのクエストは、一人で行く場合は報酬を一人占めできるが、複数で行く場合はその報酬は歩合制となる。すなわち、クエストの貢献度に応じてもらえる報酬は変わるのである。



「ソレイユと組むとよくて8:2。悪い時は10:0だろ?稼ぎにならない仕事はしない主義でな、今回はパスだ」


と、ユーリは言っていた。





さて、どうしたものかとリュウが考えていると、ソレイユが動いた。スッと両の手の平を上に向ける。すると、キラキラと光が集まり、それがパレットと筆に変わった。



「リュウ、あれって!」


「ああ、魔法だな」



ソレイユは色彩を広げ、鮮やかに宙に絵を描きあげていく。出来上がったのは、車。そしてソレイユが出来上がりのサインを書くと、その絵は実物に変わった。


ホモとリュウが呆然としていると、ソレイユはスタスタとその車に乗り込んでいった。


これは、もしかして。

ホモとリュウは顔を合わせる。なんとなく、ユーリの言っていた意味がわかった気がする。





ともあれ、ソレイユをこれ以上待たせるのは悪いと思った二人は、車の後部座席に乗り込んだ。

車のドアが閉まったのを確認すると、ソレイユはハンドルを握った。


「ソレイユさんって運転もできるんだー!」


「魔法だから自動じゃないのか?」


ホモが体を左右に揺らしてわくわくする横で、冷静な答えを出すリュウ。


「でも自動ならハンドルがないんじゃ…あっ、ほらっ、ここにシートベルトもあるよ!」


「雰囲気作りでしょ」


「なーんだぁ…」


ホモは残念そうに肩を落とす。

だが、このタイミングでシートベルトをしなかった二人は、のちに自分たちの愚かさを恨むのであった。





「あ、そうだ。ソレイユさん、今日のクエストって…ゔわっ!!」


リュウの言葉を遮るかのように、突如発進された車。

一気にスピードが増し、その反動のせいか上手く体を起こすことができない。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」


ホモが鼓膜が破れそうになるくらいの大声で叫ぶ。

すると、ソレイユは両手を振りかざし、先ほどのようにパレットと筆を出現された。


「レイィィィィ!!手放し運転だよぉぉぉぉ!!」


すかさずホモが現状に突っ込む。

恐怖で冷静な判断ができなかったのか、すでにソレイユを勝手に愛称呼びした挙句、敬語も抜けていた。


「ねぇぇレイィィ!!スピード落としてぇぇぇ!!」


ソレイユはそんなホモの悲鳴を無視して、新たな絵を描きあげる。





出来上がったのはミラー。

ソレイユは、そのミラーを運転席と後部座席の間に付けさせた。

途端にホモの声が、ソレイユの耳には届かなくなる。

つまり、ソレイユとホモたちの間には透明な壁が作られたわけだ。


「ーー!!ーー!!ーー!!」


ソレイユがバックミラーで後部座席に目を向けると、大きな口を開けてミラーを叩くホモが映っている。

リュウは既に気絶しているようだ。


「………」


バックミラー越しに、あまりにも様々に表情を変えてくるホモに、ソレイユの口角がほんの僅かに上がったのだった。


目的地につきソレイユたちが車から降りると、一部の村人たちが集まってきた。

村人たちはみな、口々に「魔導士さま」と頭を下げてくる。


「魔導士さま、お待ちしておりました。私は村長のゲンと申します」


村長のゲンは、みなに代わってもう一度、深々と頭を下げる。

ホモとリュウも慌てて頭を下げた。

だが、ソレイユの瞳は荒れ果てた村を見渡していた。

すると、ソレイユの様子に気づいたゲンが、切なそうに目を細め、ぽつりぽつりと状況を話し始めた。




ーーそれは、数日前のこと。

その日は年に一度、呑んで食べて、踊って騒いでの村全ての住人を巻き込んでの大宴会。

朝から晩まで倒れるまで、ただひたすらに遊び明かそうという目出たい日に、事件は起きた。


「キャァァァァッ!!」


一人の女性の悲鳴とともに、場の雰囲気が一気に逆転した。

駆けつけてみれば、数人の若者の男たちが地面に転がっている。

その近くにいた悲鳴の女性と思われる者は、体を大きく震わせ、怯えた目でフードを被った男を見ていた。

よく見れば、フードの男は一人の若者の顔を踏みつけている。


「あんたが村長っスか?」


「な、なんだね君は?!大切な仲間に一体なにを…!」


「シーッ」


「!?」


先ほどまで若者の顔を踏みつけていたフードの男が、瞬きをした間にゲンの目の前に現れていた。

まさに瞬間移動というべきか。





「時間がないので、俺から伝えることは2点っス。食料と金目の物は全てだせ、じゃなきゃこうなる」


フードの男はパチンっ、と指を鳴らす。

その瞬間、村の広場の方でいくつかの爆音が響いた。

あちこちで一気に燃え上がる炎と煙、多数の悲鳴、ゲンは驚きと焦りで声が出ない。


「大丈夫っス。食料も金もない空き家を狙ったんで…まぁ、人がいるかは確認してないっスけど。さぁ、どうしまスか?」


正直、選択の自由など既にない。

魔導士が一人もいないこの村には、この男に対抗できる勢力なんてあるはずがなかった。

「はい」以外は、村も住人も滅ぼすことに繋がってしまう。

ゲンは悔しそうに唇を噛み締め、小さく頷いたのだった。




「私が不甲斐ないばかりに、みなを傷付けてしまったのです…」


ゲンが話し終えると、なぜかホモが涙を流していた。


「酷い…酷すぎるよ…。レイ、リュウ、ぼくはこの人たちを救いたい!」


まるで自分のことのように悲しむホモ。

ゲンはまた切なそうに目を細めた。


「ありがとうございます。今回は、村の復旧作業を手伝って頂けるとのことでしたが…」


ソレイユは頷くと、魔法で数台の車と数十人のがたいの良い男性の人形を描きあげた。

ソレイユの魔法によって、動き出した絵たちはそれぞれの役割につく。

車は木材や機材を運ぶのに使われたり、人形たちは瓦礫を拾い集めたり、木材や機材を村人たちと一緒に組み立てたりと、村の復旧に力を入れる。




ソレイユが他にも様々な絵を描きあげていると、リュウが背後から話しかけた。


「一層の事、木材や機材も出してやれば良いんじゃないか?」


するとソレイユは、首を横に振ったあと、先ほどこの村へ来るときに乗った車を指差した。

そこへ視線を向けれると、ちょうど絵が徐々に薄くなり始めていた。


「…なるほど。魔法は永遠ではないってことか」


「………」


ソレイユはあえて頷かないのか、それとも何かを考えているのか、リュウの問いには反応を示さないでいた。


「おい!魔導士!」


ソレイユとリュウの沈黙が続きそうになったとき、そのすぐ近くでホモが村人の幼い子どもに絡まれた。




「おれは騙されねーぞ!魔導士なんか皆んな同じだ!どっかいけー!」


そう言って、子どもはホモに向かって石を投げる。


「痛っ!」


「ホモ!」


見事に石がホモの額に命中すると、リュウが急いで駆けつける。

ホモは大丈夫だと笑っているが、額はしっかりと赤く腫れていた。

それを見た子どもは、一瞬不安そうにホモの顔を見たが、すぐに表情を戻す。


「お、おれ悪くねーもん!魔導士なんかいなくなればいいんだ!!!」


大声でそう叫ぶと、子どもは村の奥へと走り去ってしまった。


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