37話 久しぶり。覚えてる?
一応、町を鎮めることができた二人は、疲れた足取りでギルドに戻ってきた。
町でのことをセーナに伝えると、また何か言われるんだろうなと思いつつも、諦めてギルドの扉を開ける。
「!!?」
ギルド内を見渡すと、マスターは衝撃のあまり声が出なくなり、トパスダヨは呆気にとられている。
「またですか…」
ギルドの扉は破壊されても、オーヤドージョのとき以来、ギルド内がめちゃくちゃになることは暫くなかったというのに、またもや酷く荒らされたギルド内。
その様子は、先ほどの町の様子とさほど変わらない。
椅子や机などは派手に壊されていて、床や壁は傷だらけ。
「…よろしい。ならば戦争です」
相変わらずの無表情ではあるが、久々にマスターがお怒りだ。
「ぎゃぁぁ!」
突然、マスターたちの背後からホモの声が聞こえる。
振り返ると、ホモを始めとして、ソレイユを追いかけたギルドメンバーが帰ってきていた。
ギルド内が荒らされたことを把握したメンバーは、なんとも言えない気持ちで立ち尽くす。
「これも…偽物?」
ソレイユがマスターに尋ねた。
マスターは少し目を逸らしたあとに、小さく頷く。
だが、目を逸らした拍子に、奇妙な物が視界に入り込んだ。
マスターは床に転がっていた、異質な魔力を感じる水晶のような物体を拾い上げた。
「それ、造形魔法だ」
ソレイユはマスターが拾い上げた水晶を取り上げ、その水晶に自分の魔力を少し与えた。
すると水晶は真上に光を飛ばし、そこから映像が流れ、人影が映り出した。
そこに映っていたのは、ソレイユの姿だ。
「あっ!レイだ!」
今の状況的に考えれば、その人影が本物のソレイユでないことは皆わかっていた。
…一名を除いて。
『久しぶり。覚えてる?ふふ…忘れるわけないよね』
「!!」
偽物が話し出すと、ソレイユは途端に顔を青ざめさせた。
こんなソレイユの表情を見たことがなかったエディは、心配そうに様子を伺う。
『私からのプレゼントは気に入ってくれたかな?結構頑張ったんだよ?』
ホモとエディには、プレゼントの意味が理解できていなかったが、他のメンバーは偽物を睨みつける。
『それよりさ!これを見てよ』
すると、画面が切り替わり、大きな木に磔にされた女性らしき姿が画面の中央に現れる。
画面はどんどんズームになっていき、誰が映っているか分かりそうになったところで、マスターとトパスダヨが「あ…」と呟いた。
「セーナ姐さん…?!」
そこにいたのは、体中傷だらけで意識を失っているセーナの姿があった。
本来なら、先に戻ってきたマスターたちが留守を守るといっていたセーナがいないことに気付くべきなのだろう。
だが、この者たちにそんな気回しができるわけがなかった。
『さすがに5対1の一斉攻撃じゃ敵うはずないのにね。それにしても綺麗な人…でも、綺麗なものって、ぐちゃぐちゃにしたくなるよね』
「えぇっ、そうかなぁ?ぼくならーーー」
「君は黙っていなさい」
セーナを使った偽物の挑発に、真剣に答えようとするホモ。
それに対して、さすがのリュウも口出しした。
すると、また画面が切り替わり、画面を360度回転させて周りの風景がゆっくりと流れた。
『私、退屈なの。早くきてね!』
そこで造形魔法は消えてしまった。
「セーナ姐さんがいなかったこと、早く言って」
「あ、いや…」
ギルドを傷つけられたことの方に気を取られていて、全く気がついてなかったとは言えないマスターは、またもやソレイユから目を逸らす。
「まぁともかくだ、皆んなでセーナさんを一刻も早く救出しにいこう」
「え、皆んなでですか?」
ヒノマの言葉に、また留守の間にギルドが壊されるのが嫌なマスターは口を挟む。
だが正直なところ、これ以上壊されるものもないため、マスターは仕方なくその案に乗ることにした。
「でもあんな風景だけじゃ、どこに行けばいいか分からないですよね」
エディは不安そうにボヤいた。
そこへヒノマが床に転がっていた地図を拾い、皆に見えるように広げた。
「俺には心当たりがある。地図でいうと、多分ここだ」
「なんでそう思うんだい?」
自信ありげなヒノマに、トパスダヨが疑問を投げかけた。
なんでもヒノマ曰く、珍しい薬草が沢山採れるから、何度かこの土地に訪れたことがあるらしい。
いつもは力こそパワーのヒノマだが、こんなときは役に立つものだ。
「じゃあ、一旦体制を整えてから行きますか」
珍しく話を纏めたマスターの声が響き、一同はそれに頷いたのだった。