表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/44

3話 魚料理

リュウがホモの家に住み着いて、いくらかの時間が経った頃。

リュウもようやく村に馴染んできたようだ。

毎日同じような日々を過ごしているものの、普通の人として過ごせるこの時間が、リュウの中では心地よいものであった。


だが、彼には最近気になることがある。


「ごめん…。今日もちょっと…」


「あぁ」


ここ数日、ホモが毎日のように夜になると、街の方へ出かけるのだ。

あくまでも他人であるため、必要以上の詮索はよした方がいいのか。

それとも、同居人として何かあるなら知っておいた方がいいのか。

ホモは判断しかねていた。




しかし、いつまでもこの状態でいいものなのか。

この先ずっと繰り返すことになるなら…


「悪いなホモ」


罪悪感が残るものの、リュウはホモの後をこっそり付けていった。




「おい、ホモ。今日もアレ持ってきたんだろうな?」


「こないだの分だけじゃ足りねぇ。今度からもっと持ってくるんだ」


「そんな…あれ以上は…」


ホモを付けている最中、ホモが路地裏に入っていったため、リュウは更に後を付けた。

だが、近くで様子を伺っているリュウの耳に、なにやら怪しげな言葉が飛び交った。


(まさか…金を取られて…)


そう思ったリュウが、駆けつけるために立ち上がろうとしたときだった。




「お前の料理、美味いけどバリエーションがねぇんだよ!!」


「たまには魚じゃなく肉料理も作れよ!!」


「だって肉より魚の方が市場で安く手に入るから…!」


会話を聞いて、ガクッと肩を落とすリュウ。

一体なんの話をしているのか、皆目検討もつかなかった。


「…たっくよ。飯を作る代わりにお前の食費は払ってやってんのによ」


「そろそろアリちゃんが飽きたとか言う頃だぞ」


ボソボソと喋る少年たち。

アリちゃんという言葉に反応したのは、リュウだけではなかった。


「アリちゃんって誰だい?」


「!…それはこっちの問題だ。深入りするな」


「また明日この時間に来いよ!!」


少年たちは、あからさまにその言葉から避けるように帰っていった。




「ホモ!」


少年たちが去っていったのを確認したと同時に、リュウがホモに駆け寄った。


「奴等なにか裏がありそうだな。この際だから付けてみるか?」


「たしかに気になるけど…ぼくらだけで大丈夫かな…?」


「いざとなれば…」


策はある

…と表情で語るリュウ。

ホモはそれを信じて、ともに後を追うことにした。




「おいおい、今日も魚かよ」


一方、街の宿場で大きなため息をつく若者がいた。

その隣には先ほどの少年たちが、申し訳なさそうにホモの作った料理を手渡している。


「これを作ってるホモってやつ、ほんとに学習能力がねぇな。味は整ってるが、毎回似たようなものばかり作りやがって。頭おかしいんじゃねぇの」


愚痴をこぼしながらホモの料理を食べる若者。


ーーカランコロン。


すると、宿場の中に客が入ってきた。




「今晩ここの宿場を使わせてもらいたいのだが…」


「これはこれは!ありがとうございます!ですが生憎、今夜は予約でほぼ満席状態でして…」


「そうか…」


残念そうにする客の表情を見た瞬間、若者が目の色を変えた。


「ですが!せっかく数ある宿場の中から、うちを選んでいたお客様にはーー」


そこからは若者の巧みな嘘が客を騙す。

結局、普通の部屋よりも少し高めの部屋に泊まることになった客だが、不満よりも満足気であった。

その一部始終を見ていた少年たち。


「さすがアリちゃん。親父さんが店を任せるのもわかるな」


「予約で満席とか嘘だよな?」


「当たり前だろ。てか、ここではアリちゃんって呼ぶな。ここではユーリって名でやってるんだぞ」




「ともかく明日も頼むぞ。分け前は渡してやるから」


ユーリは軽く舌打ちしたあと、少年たちを宿場から追い出す。


「ふーっ…明日はカジノか…」


そうボヤきながら、ユーリはメモ帳を眺める。

《平日カジノ。休日宿場。》

《ここ最近の食事…朝昼なし。夜は魚一色》

などと書かれていた。


少年達にはアリちゃんと呼ばれ、自身をユーリと名乗る若者は静かに立ち上がった。彼の父親が経営している宿場の壁には、時計がかかっている。とても大きく立派な時計は、時間や分だけでなく、年と月日の針もあった。日の針は、平日を指す。

ユーリはセンスのいいジャケットをはおり、細いフレームの四角い眼鏡をかけた。一部赤と青のメッシュの入った紫色の髪をかきあげ、ワックスで固めた。

ブレスレットやネックレス、指輪をいくつも重ねてつける。

金色の目が、三日月の形に歪んだ。


「さて、今夜俺の財布になってくれる奴はどこだ?」





その頃、ホモたちは…


「はぁっ…はぁっ…あ゛ぁっ!!クソッ!!」


「ご、ごめんよリュウ…」


少年たちの後を追ったはずの二人が、何故かお互いに激しく息を切らせている。

リュウに至っては、ホモを今にも殴りそうなほど激怒していた。


「全く…見た目より体力あるのはわかったけど、方向音痴にもほどがあるでしょ…」


「ごめんよぉ…あ、でも逆にリュウは見た目より体力ないね!」


悪気はないのだが笑顔のホモに、リュウはその頭を鷲掴みにした。




彼らに一体なにが起こったのかというと…

少年たちを追ううちにリュウの体力が尽きてきて、自然とスピードが落ちた。

そのため体力のあるホモが彼を抜かしたのだが、前に出た途端、リュウが左に曲がれというのに


「わかった!!」


と言って右に曲がり、全力疾走したホモ。

結局そのホモを止めるために、追いかけるのに必死だったリュウは、本来の目的を忘れ全力でホモを捕まえに行ったのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ