3話 魚料理
リュウがホモの家に住み着いて、いくらかの時間が経った頃。
リュウもようやく村に馴染んできたようだ。
毎日同じような日々を過ごしているものの、普通の人として過ごせるこの時間が、リュウの中では心地よいものであった。
だが、彼には最近気になることがある。
「ごめん…。今日もちょっと…」
「あぁ」
ここ数日、ホモが毎日のように夜になると、街の方へ出かけるのだ。
あくまでも他人であるため、必要以上の詮索はよした方がいいのか。
それとも、同居人として何かあるなら知っておいた方がいいのか。
ホモは判断しかねていた。
しかし、いつまでもこの状態でいいものなのか。
この先ずっと繰り返すことになるなら…
「悪いなホモ」
罪悪感が残るものの、リュウはホモの後をこっそり付けていった。
「おい、ホモ。今日もアレ持ってきたんだろうな?」
「こないだの分だけじゃ足りねぇ。今度からもっと持ってくるんだ」
「そんな…あれ以上は…」
ホモを付けている最中、ホモが路地裏に入っていったため、リュウは更に後を付けた。
だが、近くで様子を伺っているリュウの耳に、なにやら怪しげな言葉が飛び交った。
(まさか…金を取られて…)
そう思ったリュウが、駆けつけるために立ち上がろうとしたときだった。
「お前の料理、美味いけどバリエーションがねぇんだよ!!」
「たまには魚じゃなく肉料理も作れよ!!」
「だって肉より魚の方が市場で安く手に入るから…!」
会話を聞いて、ガクッと肩を落とすリュウ。
一体なんの話をしているのか、皆目検討もつかなかった。
「…たっくよ。飯を作る代わりにお前の食費は払ってやってんのによ」
「そろそろアリちゃんが飽きたとか言う頃だぞ」
ボソボソと喋る少年たち。
アリちゃんという言葉に反応したのは、リュウだけではなかった。
「アリちゃんって誰だい?」
「!…それはこっちの問題だ。深入りするな」
「また明日この時間に来いよ!!」
少年たちは、あからさまにその言葉から避けるように帰っていった。
「ホモ!」
少年たちが去っていったのを確認したと同時に、リュウがホモに駆け寄った。
「奴等なにか裏がありそうだな。この際だから付けてみるか?」
「たしかに気になるけど…ぼくらだけで大丈夫かな…?」
「いざとなれば…」
策はある
…と表情で語るリュウ。
ホモはそれを信じて、ともに後を追うことにした。
「おいおい、今日も魚かよ」
一方、街の宿場で大きなため息をつく若者がいた。
その隣には先ほどの少年たちが、申し訳なさそうにホモの作った料理を手渡している。
「これを作ってるホモってやつ、ほんとに学習能力がねぇな。味は整ってるが、毎回似たようなものばかり作りやがって。頭おかしいんじゃねぇの」
愚痴をこぼしながらホモの料理を食べる若者。
ーーカランコロン。
すると、宿場の中に客が入ってきた。
「今晩ここの宿場を使わせてもらいたいのだが…」
「これはこれは!ありがとうございます!ですが生憎、今夜は予約でほぼ満席状態でして…」
「そうか…」
残念そうにする客の表情を見た瞬間、若者が目の色を変えた。
「ですが!せっかく数ある宿場の中から、うちを選んでいたお客様にはーー」
そこからは若者の巧みな嘘が客を騙す。
結局、普通の部屋よりも少し高めの部屋に泊まることになった客だが、不満よりも満足気であった。
その一部始終を見ていた少年たち。
「さすがアリちゃん。親父さんが店を任せるのもわかるな」
「予約で満席とか嘘だよな?」
「当たり前だろ。てか、ここではアリちゃんって呼ぶな。ここではユーリって名でやってるんだぞ」
「ともかく明日も頼むぞ。分け前は渡してやるから」
ユーリは軽く舌打ちしたあと、少年たちを宿場から追い出す。
「ふーっ…明日はカジノか…」
そうボヤきながら、ユーリはメモ帳を眺める。
《平日カジノ。休日宿場。》
《ここ最近の食事…朝昼なし。夜は魚一色》
などと書かれていた。
少年達にはアリちゃんと呼ばれ、自身をユーリと名乗る若者は静かに立ち上がった。彼の父親が経営している宿場の壁には、時計がかかっている。とても大きく立派な時計は、時間や分だけでなく、年と月日の針もあった。日の針は、平日を指す。
ユーリはセンスのいいジャケットをはおり、細いフレームの四角い眼鏡をかけた。一部赤と青のメッシュの入った紫色の髪をかきあげ、ワックスで固めた。
ブレスレットやネックレス、指輪をいくつも重ねてつける。
金色の目が、三日月の形に歪んだ。
「さて、今夜俺の財布になってくれる奴はどこだ?」
その頃、ホモたちは…
「はぁっ…はぁっ…あ゛ぁっ!!クソッ!!」
「ご、ごめんよリュウ…」
少年たちの後を追ったはずの二人が、何故かお互いに激しく息を切らせている。
リュウに至っては、ホモを今にも殴りそうなほど激怒していた。
「全く…見た目より体力あるのはわかったけど、方向音痴にもほどがあるでしょ…」
「ごめんよぉ…あ、でも逆にリュウは見た目より体力ないね!」
悪気はないのだが笑顔のホモに、リュウはその頭を鷲掴みにした。
彼らに一体なにが起こったのかというと…
少年たちを追ううちにリュウの体力が尽きてきて、自然とスピードが落ちた。
そのため体力のあるホモが彼を抜かしたのだが、前に出た途端、リュウが左に曲がれというのに
「わかった!!」
と言って右に曲がり、全力疾走したホモ。
結局そのホモを止めるために、追いかけるのに必死だったリュウは、本来の目的を忘れ全力でホモを捕まえに行ったのだった。