表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/44

26話 残念な男

マッキーは、無表情で疑似都市の街を歩いていた。その目つきは真剣で、集中していることがわかる。そんなマッキーの姿がスクリーンにアップされると、観客席からはうっとりとしたため息があがった。

マッキーはたしかに集中し、自身の思考をさらに冴えわたらせ深化させていっていた。


(………ヤバい、クロスぺさんたちどこ行ったんだよ。それに、ここどこだ…?)


しかしその思考内容は、マッキーの表面上の様子に比べて、非常にしょーもないものだった。


(ってゆーか、なんで勝手にどっか行っちゃうんだろう。戦闘中に迷子になられたら、迷子捜索と戦闘のどっちに比重をおけばいいのかわからんし)


しかも、マッキーの中では自分が迷子になったのではなく、クロスぺとジーフーとマツリが迷子になったことになっている。念のため確認しておくが、迷子になったのはマッキーである。クロスぺの話の途中でじっとしていられなくなり、フラフラと自ら迷子になったのは他でもないマッキーである。

ちなみにそのクロスぺたちは、マッキーの捜索中にスペースに出会い、戦闘不能になって今はもう会場に戻っている。


(いや、でもこんな日にまで迷子捜索はしたくないよなぁ)


本職、教員。

普段から、魔法訓練中に迷子になった子どもの捜索や保護をしているマッキーならではの考えというべきか。いや、本人の意思に反して無意識にクロスぺたちの魔力の気配を探っているあたり、職業病ともいえる。


(どうせなら思いっきり戦いたい………でも、迷子を探さなかったら後で怒られるかな)


マッキーの思考は迷子捜索からはなれることはない。もっとも、マッキーがクロスぺたちを探したところで、クロスぺたちはもう会場に戻っているので、マッキーの今のこの時間は、ただひたすら無駄なものだ。


(つまり、合法的に迷子捜索をサボりつつ戦えばいいんだ)


突然、頭の中に名案がおりてきた。

とマッキーは思っているが、もちろんそんなことはない。

しかし、マッキーはやけに自信ありげにニッコリした。そして、背後に向かってナイフを投げた。


「っ!!!」


するとマッキーの背後で気配が動き、ナイフを避けるようにして2つの影が飛び出してきた。


「これだけ離れてても気づくのかよ」


「不意打ちは失敗かぁ」


現れたのは、ホストみたいな髪型の黄色い頭と横流しの青い頭。マギョウのミリゾーとメリゾーだった。それを見て、マッキーは口角をあげる。


「さあ、戦おうぜ」


そう言ったマッキーの声は、スピーカーを通して会場全体に響いた。観客たちから歓声があがる。


「マッキー先生かっこいいー!」


「マッキー先生はつよいんだぞー!」


その中には、普段マッキーが教えている子どもたちもいた。しかし、彼らは知らない。マッキーの残念な思考を。

設置されているカメラは、音声や映像は映せても、人物の心の中までは伝えられない。

そう。観客からは集中したマッキーが、隠れている敵の気配を察知し、先制攻撃をしかけたようにしか見えないのだ。


「俺、あの人のああいう所が嫌いなんだよな」


ボソッと我らがジユージュのマスターが呟く。現ギルドマスターと元ギルドマスターの闇は深いのかもしれない。


さて、スクリーンの向こう側では、マッキーとミリゾー、メリゾーはそれぞれ戦闘体制に入っていた。

まず、攻撃モーションを見せたのは、マッキーだった。

マッキーは右手を宙にかざす。ミリゾーとメリゾーはマッキーの挙動に注意し、警戒して身構える。

すると、マッキーのかざした右手の先に魔方陣があらわれた。その魔方陣は複雑な模様を描き、青紫色に発光している。


「出でよ、そして斬り裂け」


マッキーがそう唱えると、魔方陣から白い柄が出てきた。マッキーはそれを掴むと、スラリと引き抜いた。


「ホワイトアリス」


引き抜かれ出てきたのは、マッキーの愛剣ホワイトアリスだ。ホワイトアリスは白銀の大剣で、厚く平らな刃をしている。


「いくぞっ!」


両手で大剣をかまえ、マッキーはまず狙いをミリゾーに定めた。マッキーの視線で自分に攻撃が来ると察したミリゾーは、指をピストルの形にしマッキーの方に向けた。

マッキーは走りだし、ミリゾーとの距離をつめていく。そして、ミリゾーの間合いに入る瞬間に大剣を振り上げ、それを大剣の重さと重力に乗せておろした。


ガキンッと大剣が何かにぶつかる音がして、柄を握るマッキーの手に衝撃が走る。その隙に、ミリゾーは2歩ほど後ろに飛び退き、マッキーから距離をとった。その直後、大剣をとどめていた抵抗がなくなり、スルッと大剣が下まで降りきった。


「マジかよっ、殺したら反則負けだぜ!?」


マッキーの本気の一撃に、ミリゾーは顔をひきつらせる。それに対してマッキーは、ニヤッとした。


「その辺りの力加減はわかってるさ」


余裕のうかがえる返答に、ミリゾーとメリゾーはよりいっそうマッキーを警戒する。

マッキーが心の中で(ヤバい、そういえばそうだった)などと思っていることは、ミリゾーとメリゾーにはもちろん伝わらない。


「次は、もっと(ちゃんと)手加減してやるよ」


マッキーは何かを誤魔化すように、ミリゾーに追撃をはじめる。距離をつめては、大剣を相手が死なないように振り、何かにぶつかる感覚と同時にミリゾーが大剣の軌道から身をかわす。それを何度も繰り返した。しかし、どの攻撃も手応えはあるのだが、まるでダメージが通っていない。


何度目かの攻撃が防がれた時、マッキーは言った。


「氷の彫刻をアリスにーーー凍てつけ」


すると、大剣ホワイトアリスから白い冷気が漏れだした。刃の部分は冷たく凍っている。


ホワイトアリスは、マッキーが作った魔法具である。

魔法具とは、製作者や使用者の魔力を流すことで魔法の効果を発揮する道具だ。魔法具は、通常は高度な技術を持った専門の職人のみ作成が可能で、市場に売り出されている魔法具は全て職人の叡智の結晶。


しかし、造形魔導士は魔法具を『造形』することができる。造形魔導士は、魔法以外の物質であらかじめ造形したものに、魔力を込める(もしくは、随時魔力を流せるように設計する)ことで武器や便利道具といった魔法具を生みだす。


むしろ造形魔導士の真髄はそこにあるといってもいい。製作者の発想や創造力により、無限の可能性を秘めた造形物は、造形魔導士の最大の矛となり盾となる。

どちらかというと、その場で何かを造り上げる……(そう、例えばその場で絵に描いた物を実物化させるだとか)よりも、マッキーのような戦い方をする造形魔導士の方が多い。


職人の魔法具と造形魔導士の魔法具の違いは、職人の魔法具は魔導士であれば誰でも使用できるが、造形魔導士の魔法具はそれを作成した本人しか使用できないというところだ。

でなければ、職人の商売は上がったりだ。


造形魔導士マッキーの魔法具、ホワイトアリスはマッキーの魔力を氷の魔法に換えた。

ちなみに、マッキーはホワイトアリスを本職の教員の仕事の合間を縫って、約6ヶ月かけて完成させた。


マッキーの保存魔法により、常に最大の威力を出せるよう調整された大剣は、ミリゾーに向かって氷の手を伸ばす。

しかし、その手はミリゾーには届かなかった。


刃と衝突している部分に魔力をまとった冷気が触れると、マッキーの魔法は勢いをなくし消えていく。


「魔法が……吸いとられてる?」


氷の魔法が溶けるようになくなっていくことに気づいたマッキーは、すぐに大剣をさげた。


「おいおい、もうバレたのかよ」


ミリゾーが苦笑いする。メリゾーはため息をついて、相棒に言った。


「まあ、相手はあのマッキーだ。むしろ善戦した方でしょ」


「お前はいつも諦めんのが早ぇんだよ」


手応えはあるのにまるでダメージを与えられないような感覚、そのカラクリを見破るべくマッキーは大剣ホワイトアリスをしまった。


「戻れ、ホワイトアリス」


ホワイトアリスは光の粒子となり、完全にその場からなくなる。


「そして出でよ、風の舞を見せろ」


ホワイトアリスが消えてすぐ、マッキーは次の武器を取り出す動作に移った。青紫色の魔方陣が現れる。そのスピードは速く、隙がない。


「セシリア」


魔方陣から出てきたのは鉄扇だった。マッキーは親指を滑らせ鉄扇の親骨を少しずらしてから、一気に扇を開いた。扇面は浅葱色がベースで、白色で模様をあしらっている。マッキーがジユージュ時代に作った代物だ。


「さあ、踊れ」


マッキーが鉄扇セシリアを振る。すると、マッキーの魔力を風の魔法に変換させた鉄扇は、つむじ風をおこした。風の魔法の攻撃範囲は広く、ミリゾーとメリゾーの二人に襲いかかった。


「おいっ、メリゾー!」


「ああわかってる!!」


ミリゾーは先程と同じように両方の親指と人差し指でピストルの形をつくり、自身の正面とメリゾーの方に向けた。対してメリゾーは、両の手の平を開き腕を伸ばして片手は自分の正面、もう片手はメリゾーの方に伸ばした。


風の魔法は、ミリゾーとメリゾーそれぞれの正面で吸い込まれるように小さくなっていく。


「まだまだッこんなモンじゃ終わらない」


マッキーは何度も鉄扇を振るう。風がいくつも巻き起こり、ミリゾーとメリゾーに牙をむいた。

徐々に風の無効化が追いつかなくなってくる。すると、ミリゾーとメリゾーの魔法にほんの少しのズレが生じた。わずかに、メリゾー側の吸収率が下がっていた。それを見逃すマッキーではない。


「………なるほどな」


教員として、たくさんの子どもたちを見てきた。つまり、子どもたちの数だけ魔法を見てきた。

マッキーの経験から、ミリゾーとメリゾーがどんな魔法を使うのか確信したといってよかった。


「お前ら、範囲魔法を使うのか」


ミリゾーはじっとマッキーを見つめると、ハァとため息をついた。

範囲魔法とは、魔法の衝撃や被害、効果などが及ぶ範囲を操作することができる魔法である。


「金髪の方が縮小の範囲魔法で、青髪の方が拡大の範囲魔法だな」


「そんなことまでわかんのかよ」


縮小範囲魔法のミリゾーはガシガシと頭をかく。メリゾーは苦笑した。


ミリゾーとメリゾーの魔法のコンビネーションは、この国の魔導士の中でもトップクラスだ。

ミリゾーの使う縮小範囲魔法は、相手の攻撃や魔法による災害の被害を縮小することができるが、魔法の特質上効果が及ぶ範囲が狭い。それをメリゾーの魔法で、ミリゾーの魔法の範囲を拡大することで補っている。

正確無比にミリゾーの魔法を拡大させるメリゾーのコントロールや、二人の息があっていなければできない技は相手に魔法の本質を悟らせず、攻略を困難する。


余談であるが、ミリゾーとメリゾーは魔法の相性も性格的な相性も良い。そんな二人がペアの部で優勝できなかったのは、どこかのギルドの魔導士たちが、障害物の網を持ち上げるという卑怯な戦法をとったせいだ。


「こう見えても、普段からいろんな魔法に触れてるんでな」


マッキーは鉄扇セシリアを握りなおす。鉄扇を小刻みにあおぎ、小さな風の衝撃波をいくつも作り出した。

ミリゾーとメリゾーは慌ててマッキーの魔法を縮小していく。しかしさっきよりもさらに数が多かったため、二人は目の前の風をどうにかすることに手一杯で、マッキーがすぐそこまで迫ってきていることに気づかなかった。


「凍てつけ」


マッキーの手にはいつの間にかホワイトアリスがあり、氷の魔法がミリゾーとメリゾーを無力化する。


「しまっ………」


「戦闘不能になったと判断された魔導士は、会場に強制送還される。勝負あったな」


転送魔法がミリゾーとメリゾーにかかり、マッキーの視界から二人が消えた。


「よし、武器回収するか」


マッキーはホワイトアリスとセシリアと、それから一番最初に投げたナイフを拾った。

ナイフはマッキーの造形物のひとつだが、名前を呼び魔方陣から引き抜くという工程は踏んでいない。別に、武器の名前を呼び魔方陣を出さずとも、一瞬で武器を手にすることができる。つまりは、そういうことである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ