表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/44

25話 ヒノマVSブンカ

「はぁーっ、歩き疲れたーっ」


とある噴水の広場では、噴水の前に設置されたベンチで休んでいるブンカがいた。


「カイがここには必ず敵が現れるって言ってたのに、全然会わないし超つまんない」


ふてくされた顔でブンカは愚痴をこぼす。

なんでも、このような場所に現れる者は、景色に吊られてくる者か、変わり者のどちらかだという。

ブンカはその言葉を信じて、わざわざここまで足を運んだのであった。


バシャ、バシャバシャ。


突然、ブンカが座ってる方とは逆の位置から、水音が聞こえてきた。

ブンカは慌てて立ち上がる。

そして、警戒しつつ距離を詰め始めた。


「げっ…なにあいつ…」


そこにいたのは上半身裸の男、つまりヒノマであった。

ヒノマは噴水の水を自分の顔に掛けている。


「ちょっと!そこの露出狂!」


そう言って、ブンカはヒノマの方に指を指す。

ヒノマは腕で目を擦ると、声がした方へと振り向いた。


「おぉ、丁度良かった。君、タオルかなにか持ってないか?」


「はぁーっ?!持ってたとしても貸すわけないでしょ!!」


てっきりすぐにでもバトルが始まるのかと思っていたブンカは、ヒノマの言葉に拍子抜けした。

そんなことはお構いなしに、ヒノマは顔の水気を払うために頭を左右に振って水を取る。


「…って、ボーッとしてる場合じゃない!変身魔法!」


ブンカは胸の前で両手を組み合わせる。

すると、ブンカの体は眩い光に包まれた。

そしてその光が弾けたとき、猫の姿に変身したブンカがいた。


「おぉ、動物系の変身魔法か」


「なによ?じろじろ見ないでくれる?」


猫になったせいか、少し声の調子が変わったブンカがヒノマに威嚇する。

そして爪を鋭く尖らせ、ヒノマに襲い掛かった。


「おっと」


体を逸らせ軽々とかわすが、その攻撃は繰り返される。


「参ったな。俺は形だけでも紳士を目指しているからな。女性に手をあげる気はないんだ」


ヒノマはそう言うと、近くの建物に入っていった。

逃がすまいとブンカもその後を追う。

階段を駆け上がる二人の足音が響いていく。


「猫じゃキツいわね…解除!」


また眩い光に包まれたかと思うと、ブンカは元の姿に戻った。

そして、そのまま勢いよく階段を上っていく。


「逃がさないわよ!」


書斎のような場所へ逃げ込むヒノマ。

その後を少し遅れてブンカが入っていった。


「全く、逃げ足だけは早いんだから」


ブンカはそうボヤくと、円を描くように彼女の周りに並べられた本棚を見渡す。

200度ほど回転したところで、ヒノマらしき人影が見えたため、ブンカは脚に攻撃魔法をかけ、その本棚を蹴飛ばした。


ドタドタドタッ


と、本棚からいくつもの本が落ち、本棚自体も倒れていったが、ヒノマが挟まれた様子はない。


「もぉ!ちょこまかと動いてマジでありえな…えっ」


円を描くように並べられた本棚が一つ倒れたことにより、ドミノ倒しになった最後の本棚がブンカの背後から襲いかかる。


ドタンッ…と、派手な音が部屋全体に鳴り響く。

その様子をスクリーンで観戦していた会場内は、静まり返っていた。


「…あれ」


痛くないと言わんばかりの驚きに満ちた表情で、ブンカは瞳を大きく開く。

その背後には、本棚から自分を庇うヒノマの姿があった。


「なんで…」


「君が女性だから…なんて、そんなカッコいいことは言わないが…」


ヒノマはそう言いながら、本棚を元の位置に戻した。

そして、ブンカの方に少し振り返る。


「気づいたら体が勝手に動いていただけさ」


困ったように微笑むヒノマを見て、ブンカはその場に座り込んだ。

三角座りになって、その膝の間に自分の顔を埋める姿は、まるで幼い女の子のようであった。


「どうしたー?!腹でも痛いのか?!ここにハーブが…!」


「ブンカよ」


「ん?」


突然、名を名乗るブンカに対して、ヒノマは不思議そうな表情を浮かべる。


「あんたの名前は?!こっちが名乗ったんだから早く言いなさないよ!!」


何故か逆ギレするブンカに、ヒノマは「こいつヤバいやつだ」と心の中で思いつつも、素直に名前を名乗る。

マサキの名前を聞いたブンカは、少し満足げに微笑んだあと、ハッとした表情を見せて急に黙り始めた。


しかも、そのだんまり状態が5分以上も続く。

さすがに痺れを切らしたヒノマが口を開いた。


「わかった。俺の負けだ」


「は…?」


「審判!俺は辞退をここに宣言するぞー!」


ヒノマの発言に、観客席が騒ついた。

それに、誰よりも早く反応したのはコーチであった。


「えぇっ!なんですの?戦意喪失でっか?」


「一度した辞退宣言は、取り消しは不可能ですよ」


コーチの驚きの声に被せて、審判が割り込む。

そして、名簿のようなものにチェックを付けたあと、


「ギルド・ジユージュのヒノマの辞退を決定とする!」


と、フィールド内と会場内へとその声を響かせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ