22話 それぞれのギルド①
団体の部では制限時間は無い。
最後の一人が勝利というわけではなく、最後に残ったのが同じギルドの者であれば、その時点で試合は終了とされ、そのギルドの勝利となるのだ。
戦闘場所については、主催者側の空間魔法により、団体の部に出場する者はそのエリアでの戦闘となる。
今回のエリアは、中心都市ユシアを真似て造られており、建物と広場が多いこの街は隠れて敵の隙をつくのにも、普通に戦闘するのにも最適な場所である。
だが空間魔法のため、観戦者は直に観戦することができない。
そのため、観戦用に映像用の機械が各エリアに設置されていて、観戦者はフィールド内に広がるスクリーンで観戦することとなる。
勿論、主催者側もスクリーンでの観戦だ。
戦闘についてだが、戦って相手を倒すも良し、話し合いで相手を辞退させても良しとされている。
しかし戦う場合、戦意がない者への過度な攻撃や、命に関わる攻撃については強制失格となる。
また、今回は各ギルド代表者1〜5名までの参加となっているため、1vs5のような戦闘でも2vs2でも、戦闘スタイルは自由とされている。
そのため丁度、空間魔法により擬似都市ユシアにそれぞれ配置されたギルドたちが、作戦を練っていた。
「ちょっと〜!!いい加減にしなさいよ!!」
その中でも一際目立つギルドがいた。
それは魔導士ギルド、ウンエトゥーカであった。
会話の様子が映像スクリーンに映し出されている。
「もうすぐ試合なのよーっ?!キカクは何してんの?!」
拳を握ったり地面に向かって足をバンバンと叩いたりして、体全体で怒りを示すこの女性は、ウンエトゥーカのメンバーのブンカであった。
小柄な体型ではあるが、女の子ではなく女性と認識できるくらいの顔立ちではある。
怒っていなければ可愛らしい表情なのだろうが、今は彼女の頭の左右で纏められた桃色の髪が、怒りで足音を立たせるたびに揺れていた。
その横で壁にもたれ掛かっていた赤髪のガタイの良い男が、爽やかな笑顔を向けて声をかける。
「落ち着けって。キカクは髪型が乱れてるから直してくるんだとよ」
「はぁーっ?!試合前になに考えてるのよ!!あのナルシスト!!」
ブンカは眉間に皺を寄せ、更に表情を歪ませた。
そして、赤髪の男の方に向き直る。
「カイからも言ってやりなさいよ!!あのバカには緊張感ってのがないのよ!!緊張感!!」
カイと呼ばれる赤髪の男は、このギルドのリーダーである。
ブンカの怒りっぷりに笑っているが、難癖が強いこのギルドの纏め役であり、本人は一番まともな男である。
その性格の良さ・頭の良さから、一部ではファンクラブもあるらしく男女ともに好かれる。
「ブンカ、ほれっ」
「なっ?!」
突然、カイはブンカの眉間に人差し指を置いた。
それに驚いたブンカは、キカクに対しての罵声をやめる。
「怒んなって。たとえ不利な状況になったとしても、俺が必ずお前らを優勝させてやるからよ」
そう言って、無邪気な笑顔を見せるカイ。
別名、無自覚女性キラー。
この瞬間、スクリーンを見ていた一部の観戦者の女性たちが、その場で胸を打たれ倒れ始めた。
「カイさんって、ほんとキザ」
カイとブンカの近くで座り込んでいた、小柄な少年がソッと呟く。
よく見るとその少年は、ホモが試合前に会った丸眼鏡の少年だった。
となれば、キカクという男はあのときの白いタキシードの男となる。
「…ん?悪い、聞き取れなかった。エーゾ、なんて言ったんだ?」
本当に聞き取れていなかったカイの問いに、エーゾは丸眼鏡のブリッジを触りながら、その問いをさりげなく流した。
そこへ軽やかなステップを踏みながら、あのときと同じように白いタキシードを着たキカクがやってきた。
「やぁ諸君、待たせてすまないと思っている」
手を広げたり縮めたり、体全体で無駄な動きが多いキカクに、やっと大人しくなったブンカがまた動き出す。
「キカク!!遅すぎんのよ!!今度待たせたらアンタのその髪、めちゃくちゃにしてやるわよ!!」
「やめたまえ!神聖なこの私の髪に触ることが許されているのは、世界でたった一人だけなのだ」
一気にキカクはブンカから距離を取る。
そのときでさえ、キカクはステップを踏んでいた。
そのせいなのか、パーマが掛かったような派手な金色のキカクの髪が、風になびき美しく輝く。
よく見ると、毛先だけわざと赤く染めているようだ。
「もう二人とも毎度いい加減にしてってば」
「そうだな。二人とも仲良いのは構ねぇけど、そろそろ本題に入ろうぜ」
エーゾとカイの言葉に、二人は同時に反論したが既にカイの戦闘モードのスイッチが入っている。
それを察した全員は静まり返る。
「本来、団体の部には5人で参加する予定だったが、ヤタイが個人の部で負けた」
カイが言うヤタイという男は、そもそもブンカと一緒に個人の部に出場していた。
銀髪のオールバックで、雰囲気も性格も人に恐怖を与えるような男であったが、個人の部で奴に出会ってしまったのだ。
酒の化け物ナンバーワンに。
「ぁー。たしかセーナって女に跪いた自分の姿がショックで、まだ立ち直れてないんだっけー?」
「ヤタイくんは、プライドだけは高い男だから仕方ないだろう」
そう言って、ブンカやキカクをそのときの様子を思い出して、それぞれ笑みを浮かべていた。
それに注意したあと、カイはまた話を続ける。
「まぁともかくだ。本当は全員ばらけて行動する予定だったが、予期せぬ事態ってのが発生するかもしれねぇ」
そこでと言わんばかりに、カイは地図を広げ全員の配置場所を指差す。
まず、カイとブンカは一人行動と書かれており、キカクとエーゾはペアでの行動であった。
各自のルートが地図に矢印で示されていて、カイが予想した敵の進行ルートまで詳細に示されていた。
ある程度の説明を終えたところで、カイが顔を上げ全員を見渡す。
そして、自信に満ちた表情で言葉を放った。
「信じてるぜ。で、俺を信じろ」
その言葉に、全員が無言で頷いた。
またしても、観客席の方で女性が倒れる音と歓声が響いたのだった。
「ーーなるほどな」
まるでその様子を聞いていたかのように、魔導士ギルド・マギョウのマリゾーが呟く。
そして、周りにいるギルドメンバーに話しかけた。
「みんな、音魔法成功したぜ。近くにいたギルドはウンエトゥーカだけだったから、やつらの進行ルートしか把握できなかったけどな」
「充分だよ!ありがとう兄ちゃん!」
ミリゾーがマリゾーに対して、嬉しそうに礼を言う。
それに続いて、他のメンバーも感謝の気持ちを表していて、なんとも仲が良いギルドだと観戦者たちは思った。
だが、それもそのはず。
このギルドは、普通のギルドの中でも少し変わったギルドなのである。
実は、マギョウはギルドメンバーが全員家族なのである。
そのため、少数精鋭のギルドではあるが、お互いの信頼度も高く、しかも全員仲が良い。
ギルドマスターは父親で、ギルドの事務は母親がしている。
夫婦はもちろん良き関係にあり、子どもが全て男ではあるが5人兄弟。
今回は、その兄弟たちが団体の部に出場しているのだ。
上から長男マリゾー、次男ミリゾー、三男ムリゾー、四男メリゾー、五男モリゾーとなっている。
ちなみに末っ子のモリゾーは、ソレイユととても仲が良い。
「絶対勝とうな!頑張るぞー!」
「「おー!!」」
マリゾーの意気込みに、兄弟たちは片腕を空に伸ばして声を上げたのだった。