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21話 ジャム瓶の法則

団体の部に出場する各地区代表ギルドの魔導士たちは、控え室に集まるように指示された。各地区の代表は、クエスト達成率・魔導士の強さ・規模等の様々な数値の合計を、ギルドメンバーの人数で割った総合値がトップのギルドが原則選ばれる。


すなわち、各地区の猛者ばかりが集まった拾い控え室にて、ホモ・リュウ・エディはぽつんと立っていた。

ヒノマは「ちょっと漁ってくる」と言ってどこかに行き、ソレイユは「モリゾー」と呟いてやはりどこかへ行ってしまった。


団体の部出場の魔導士たちは、観客が見て分かりやすいように、とギルドの名前とワンポイントの刺繍が施された腕章を左腕につけている。

ジユージュの腕章は浅葱色の布に白い糸でジユージュと名前が入っており、目がイッている奇妙なキャラクターが刺繍されていた。


ホモたちに腕章を渡した係員曰く、「じゆーじゅくん」というらしい。

じゆーじゅくんを見て、こいつはヤバいなとエディは思ったが、ヒノマの「俺、このキャラ好きだよ」という一言に、素直なエディは俺の感覚がおかしいのかもしれないと、口をつぐんだ。


周りは各地区の猛者、そして自分たちは新人。ホモとリュウとエディは、少し居心地の悪い思いをしながら団体の部の開始を待った。


特に謙虚なエディは、他の魔導士と目が合うことを恐れて、俯いている。視線を下げた先には腕章のじゆーじゅくんがいて、何とも言えない気持ちになる。

何度見ても、奇妙なキャラクターだ。


そんなエディの視界の範囲内、つまりエディの足下辺りに何かのビンが転がってきた。



「…………ジャム?」



エディは転がってきたビンを拾い上げた。ラベルには可愛らしい いちごのイラストが描かれており、ビンの中身は淡い赤色が詰まっていた。



「あっ、ごめんなさい。それ私のなんです」



いちごジャムの持ち主であろう声がして、エディは顔をあげた。

そしてその瞬間、エディはピシッと固まった。



「………エディ、どうしたんだ?」



エディの様子を不信に思ったリュウがひょいと顔を覗かせ、目を見開いた。ホモも「わぁ」と小さく感嘆の声をあげる。


ジャムの持ち主がタッタッと軽い音をたながら、3人のもとに近づいてきた。ジャムの持ち主が恐る恐る微笑みかけると、ホモはぎこちなく笑みを返し、リュウはさりげなく視線をそらし、エディはあからさまに顔を背けた。


ジャムの持ち主は、可憐な少女だった。全体的に整った顔立ちをしており、ピンクサファイアの瞳は華奢な印象を与える。月色の髪はサラサラで、毛先にいくにつれ蜂蜜がかかったかのような色艶をしていた。


ようは、可愛い女性を相手にすると緊張するのだ。



「すみません。ジャムの蓋が開かなくて、頑張ってたら……手からするっと抜けていってしまって」



少女は、気まずそうにも恥ずかしがっているようにも見える微妙な表情だ。



「そんなに固いの?僕も試していい?」



ホモが無邪気にジャムのビンに手をのばす。そして、力をこめ…



「ん……くっ…………ダメだ」



開かなかったビンを見て、ホモは申し訳なさそうに眉尻を下げる。そんなホモを見て、リュウはにやける口元を手で隠しながら、心の中で叫んだ。


(可愛すぎかよ!!)



「…………俺もやる、貸してくれ」



好きな人の前ではカッコいいところを見せたい、というのはたとえ半分ドラゴンの血が入っていたとしても、男として当然の感情である。そんなことは露知らず、ホモはリュウにジャムのビンを渡した。



「…………なんだこれ」



蓋は、どうしたらこんなにも固く締まるんだと問い詰めたくなるほど、動かなかった。



「俺もやってみていいですか?」



エディが意気込む。エディは壁が高ければ高いほど、燃え上がるタイプである。

そして、唐突にパキャと小気味のいい音をたててビンの蓋が開いた。



「「おおおおお!!!」」



自然と、全員の口から歓声があがった。



「お兄さん、ありがとうございます!」



少女は嬉しそうにエディからジャムを受け取った。エディにお礼を言い、ホモとリュウの方を向く。



「そっちのお兄さんたちも、ありがとうございます」


「いや、僕は全然だったし」


「俺もなにもしてないよ」



ホモとリュウがそう言うと、少女は首を横にふった。



「いいえ、ジャム瓶の法則ですよ。一見何もしてないようにみえることでも、それまでの努力は必ず実ります。一人目のお兄さんと二人目のお兄さんが先に一生懸命やってくれたからでもあるんですよ」



そして、少女は太陽のような笑顔を見せる。


気づけば、少女はホモたちの中にすんなりと馴染んでいた。



「ここにいるってことは、君も団体の部に出場するのかい?」



ホモが尋ねる。



「はい。こういった事に参加するのは初めてなので、少し…緊張しています」



これからのことを想像し緊張したのか、少女は眉を寄せる。エディが少女を安心させるように、明るい声で言った。



「大丈夫ですよ!俺たちも実は初めての参加なんで」


「そうなんですか?みなさん、ギルドはどちらに?」


「俺はジユージュに所属しています!」



リュウはそれに頷いて同意し、ふと浮かび上がった疑問を口にした。



「そういえば、君はどこのギルドなんだい?」


「私は、スペースに。うちのギルドは、大魔導演武が初めてですので」


「スペースって、たしかすごいんだよね?最近まできいたことないギルドだったのに、予選に勝ち抜いていきなり代表に選ばれたんでしょ?」



なんか、トパスさんたちがそんなことを話してた、とホモは興味津々な様子で少女に話をふる。



「たしかに、先輩たちはとてもスゴいです。私は、今回の出場メンバーの中でも一番下っ端なので。………ジユージュは、他の出場メンバーはいないんですか?」


「あー、他の二人は……どこかに行ったっきりなんだ」



その時、拡声魔法により係員の声が控え室に響いた。もうすぐ開始するにあたり、出場者はギルドごとに整列するように指示が出される。


それをきいた少女は、ホモたちにもう一度礼を言い会釈する。それから、スペースのギルドメンバーがいるところへと帰っていった。



「いやぁ、今年は女子の参加が少ないな。非常に残念だ」



ヒノマが戻ってきて、開口一番がこれである。 しかし、今さらその発言について咎めるものはジユージュにはいない。むしろ、エディは嬉々として言った。



「ヒノマさん!ついさっきまで、ここにすっごく可愛い女の子がいたんですよ」


「何っ!?」


「スペースっていうギルドの子です」


「よし、行ってくる!」


「……………ダメ。もうすぐ、始まる」



今来た道をUターンするヒノマを、いつの間に帰ってきていたのか、ソレイユがひきとめた。



「あっ、ソレイユ先輩。モリゾーさんに挨拶はできました?」



ソレイユは無言で頷いた。

団体の部が始まる。

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