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15話 修行

【大魔導演武編】

それぞれの後日談といったものが終わった頃、セーナがホモたちを呼び出した。

よく見ると、セーナの他にもギルドメンバーが揃っていた。

全員の注目が集まったところで、セーナが握り締めていたチラシのようなものを、ズイッと目の前に出した。


「大魔導演武に参加するわよ」


「「大魔導演武??」」


セーナの言葉に、主にギルドの新人魔導士たちが聞き返した。

だが、説明をする前に他のメンバーが横槍を入れる。


「えー、出るんですか。やめといた方がいいですよー…」


「いいじゃないか!俺は賛成だぞ!なっ?トパスくん!」


「いやー?俺はどっちでもいいけど…ソレイユさんは?」


「ヒノマさんが出るなら」



相変わらず統一性のないギルドだが、セーナが意味ありげな笑顔でニコリと微笑むと、口々に話していたメンバーが一気に視線を逸らした。

そして、いち早くその場から逃げようとしていたマスターに、セーナがチラシを彼の顔面に擦り付けながら呟く。


「ねぇ、わかってる?お金がないの。これで各部門に優勝したら、それだけお金も貯まるの。…それとも何?あんたがこれだけのお金を稼いできてくれるのかしら?」


「ひぇ…すみません、無理です」


有無を言わさないセーナの言葉に、マスターは速攻で諦めモード。

それを見ていた新人魔導士たちは、セーナが賛成と言えばそれが反対でも賛成になるのだと実感した。

すでに賢いヒノマとソレイユとトパスは、ことの全てを受け入れている。


「ホモたちは新人だから知らないでしょうし、大魔闘演武のこと説明するからちゃんと聞いておいてね」




大魔導演武、それは各地方の魔導士ギルドたちが集まり、己の魔法を素晴らしさを証明するもの。

その証明の仕方は様々で、魔導士同士の戦いのなかで見せるも良し、またはスピード対決、造形対決、早食い対決などもある。

しかし、毎年種目が変わるため、どの魔導士がどの種目に当たるかは予測不可能。


また部門が3つに分かれており、個人の部、ペアの部、団体の部がある。

一人の魔導士が、3つの部門全てに参加することは許されているが、一度3つの部門にエントリーしたら後で取り消すことは不可能。

ただし、戦闘不能などの理由は良しとされている。

だが大概の魔導士は、1つの部門に出るだけで体力や精神力が持たないため、2つ以上の部門に出るケースはほぼないのだ。


賞金についてだが、賞金を渡されるのはどの部門も3位までとされている。

他にも、いくつかの決まりごとがあり…

審判の言うことは絶対。

死人は出してはならない。

ギルドマスターの参加は不可。

不正行為が発覚した場合は失格。

大魔導演武開催中に、休憩中や観戦中などに参加ギルド同士が喧嘩をした場合、どちらも失格。

など、様々である。


…と、これらのことを軽く説明したセーナは、開催は1ヶ月後と告げ、その場を後にした。




…開催は1ヶ月後と告げられたあの日から、ホモが毎日違うギルドメンバーに魔法を教えてもらっているのをリュウは見ていた。

そして、リュウはいつの間にかその様子を「ホモの修行日記」として記す。


その内容はというと…

『ホモが修行を開始してから3日目、昨日はトパスさんに修行してもらっていたが、今日はレイに教えてもらっているようだ。しかし、1時間ほど経過したころ、レイが造形魔法は諦めてくださいと、きっぱりとホモに告げる。それでも諦めないホモが愛おしい。


修行開始4日目、今日はヒノマさんだ。ヒノマさんなら物理攻撃かと思ったが、どうやらハーブを利用した治癒魔法を教えてもらっているようだ。だが途中から、段々と実験対象として扱われているようにも見える。それに気づいていない、無知なホモも愛おしい。


5日目はマスターだった。しかし、待ち合わせ時間は朝からだというのに、昼になっても夜になってもマスターは現れない。結局、一日中待っていたホモだが、それでもマスターは現れない。絶対に忘れている。俺なら1時間で帰る。だが、それでもひたむきに待つホモが愛おしい。


6日目はセーナだった。本人が教えるのかと思いきや、セーナの周りにいる取り巻きたちが、セーナが怪我をしたらどうするんだと、我先にとホモの修行相手に立候補した。そのため、いろんな魔導士から修行してもらっていた。ある意味、一番まともな修行かも知れないが、ホモの周りにいる男たち…ベタベタし過ぎじゃないか?


7日目は、まさかのエディ。何故、同じ新人魔導士を選んだのか聞きたい。お互い修行の成果を見せているようだ。なんだか楽しそう。笑顔のホモを見ると、俺も少しだけ幸せな気持ちになる。だがエディ、許せん』


ーーと、ホモの修行日記というより、ホモの観察日記に近いものを、リュウは毎日書いていたのだ。





「ほら、力を抜いて」


トパスに耳元でそう囁かれ、エディはビクッと腰を揺らした。


「ぁ……トパスさ……ん、っ……」


新人たちが大魔導演武に向けて修行する中、エディを指導することになったのはトパスだった。トパスとエディはギルドに新しくできたトレーニングルームで、マンツーマンで修行をしていた。


トパスの大きな手がエディの太ももを滑り、足を開かせる。


「ひっ……あぁ…っ」


「そんなに硬くしちゃダメだよ」


トパスは困ったように笑うと、今度はエディの上半身に手をまわす。


「っ!!ぁああああっ」


エディの体はガクガクと震え、堪えきれずその場に座り込みそうになる。それを、トパスが抱きとめた。


「トパスさん……トパスさんっ…!」


エディが何か言いたげにトパスを見上げる。トパスは、優しく言った。


「よく頑張ったよ。休憩するかい?」


「っ、いいえ!まだ……やりますっ」


今にも倒れそうなエディだが、なんとか気力でしっかりと立ち上がる。もう十分に頑張ったはずだ。いったいどこからそんな力がわいてくるのかと、トパスは感心した。


「わかった。もう少し頑張ろうか」


エディは、トパスに言われた通りに足を開く。そして、左腕をまっすぐに地面と平行になるように持ち上げた。


「上半身を忘れてるよ」


そう言われ、エディは慌てて肩の力を抜く。


「足ももう少し曲げて、腰を落とす。足の向きはT字になるようにね」


「はいっ!!」


トパスは簡単な攻撃魔法をエディに繰り出す。エディは、つき出した左手に魔力を集中させ、魔力が盾の形になるように変形させた。


「くっ………」


「おお!!ちゃんと防げてるよ!」


オーヤドージョとの戦いで、キューアに言われた「君物理攻撃魔法向いてないよ」の一言。それに非常に憤慨したエディは、強くなるべく日夜修行に励んでいた。

キューアの言ったことはあながち間違いではなかったらしく、物理攻撃魔法はエディにはやや不向きなようで、今は防御魔法を中心に特訓をしている。防御魔法がある程度使えるようになったら、つぎは物理以外の攻撃魔法を覚えるつもりだ。




エディが防御魔法をほとんど習得できたある日の修行終わり、エディはトパスに質問した。


「どうして詠唱魔法は教えてくれないんですか?」


「あー……うん」


詠唱魔法はトパスの一番得意とする魔法だ。エディははじめ、てっきり詠唱魔法を教えてもらえるものだと思っていた。しかし、トパスは修行が始まってわりとすぐに「詠唱魔法はやらない」と遠回しにエディに言ったのだ。


「詠唱魔法ってさ、たしかに発動すればけっこう効果はあるんだけど、発動するのに時間はかかるし、面倒くさい割に失敗率が高いんだよ。本気で詠唱魔法をやろうと思えば魔方陣だって描かなきゃいけないけど、実際の戦闘じゃあ悠長に魔方陣なんて描いてられないしさ。それに、少しでも呪文を間違えたり発音が曖昧だと発動しないし」


トパスはいつもの、少し困ったみたいな笑顔を見せた。


「はっきり言って、オススメしない」


普段自分が使っている魔法をバッサリと否定する。しかし、エディはさらに食い下がった。


「でも、トパスさんはいつも成功させてるじゃないですか。俺、トパスさんが詠唱魔法を失敗したの見たことないですし」


「あー…いや、俺の場合は特殊というか……」


「えっ?」


「なんでか俺の声って、魔力が含まれてるみたいでさ。普通の詠唱魔法って、呪文を正しく言うことが魔力が込められる条件になってて、その魔力を媒介として魔法が発動するんだけど。俺の場合、呪文を唱えている段階でもうほとんど魔法が発動してるんだよ」


「難しいけど、つまりトパスさんだからこそ出来るってことですね」


エディは理解はしていないが、納得した様子だ。


「まあ、そんなかんじ。だから、どうしても詠唱魔法をやりたければ、もう少し魔法が上達してからだな。その時には、俺もちゃんと教えるから」


「はい!」


「ほら、早く帰って飯食って風呂はいって寝るぞ。」


トレーニングルームの鍵を閉め、二人はギルドを後にした。




さて、周りの新人魔導士は頑張っているというのに、自分だけが置いていかれている気がするリュウ。

何度か魔力を扱うことができないかと試みるも、そう簡単にはいかないものだ。

リュウはギルドにある椅子に腰掛け、深くため息をつく。

すると、向かいの椅子にセーナが座ってきた。


「ちょっといい?」


「え?…あ、はい」


いったい、自分は何をやらかしてしまったのだろうか。

正直、心当たりは一切ない。

だがセーナから話しかけられると、なぜか手が恐怖で震える。

リュウは、小さく深呼吸をして、覚悟を決めたように目を見開いた。


「深くは聞かないけど、魔力…使えないんでしょ?私もそうなのよ。体質的なものに近くて、だけどそういうのも魔導士として認められる」


セーナはそのままどこか切なそうに話を続けた。


「魔力が使えないけど、何か特別な力はある。でも、それをどう扱えばいいか分からない。もしくは上手く扱えない、そういう気持ちは私にも分かるわ」


セーナは伏し目がちに、そっと横髪を耳にかけた。

リュウは、ただセーナの話を静かに聞いた。

そして、そこから様々なアドバイスを受けた。

自分との向き合いかた。

特別な力とは何か。

どのようにして、それを活かすのか。


ここからは、まさに自分との勝負だった。

たまにセーナも声をかけてくれるが、特別な力を宿すものとして、人に頼ったところで中々上手くはいかないのだ。

己を高めるために必要なのは、己の強い意志だけ。

リュウは大魔導演武まで、修行に明け暮れた。


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