14話 後日談どす
あれから、およそ一週間。
ジユージュとオーヤドージョ、互いのギルドが喧嘩をすることは無くなった。
というより、オーヤドージョがあの事件以来、ギルドを解散せざる終えなかった。
ギルドマスターである、オ・カーノは魔導警察により捕まり、今回の事件のだいたいの責任を背負わされた。
また、キューアとモエも同様に捕まったという。
そして、ミノは死亡と判断され、シモラは行方不明、もしくはどこかで死亡しているという結果に至った。
ジユージュは、誰も逮捕されることはなかった。
怪我人は多いものの、死亡と判断されたのは痕跡が一切なかったがユーリだけであった。
ジユージュは、ギルドの解散はないものの、崩壊してしまったギルドそのもの。
建て直すのには、少しばかり時間が掛かった。
「どうしたんだ、ホモ」
ギルドの復旧作業中、ぼーっと宙を見つめるホモにリュウは声をかけた。
「………ああ、うん。ちょっとね」
ホモはリュウの方に振り返った。しかし、その瞳はリュウではなく何か違うものを見ているようにぼんやりとしていた。
「アリちゃんのことか?」
「それもあるけど…………僕、夢を見てたみたいなんだ」
「夢?」
リュウはそう聞き返すと、壊れたギルドの廃材の上に腰をおろした。それからホモに手招きし、自分の隣に来るように促す。ホモは、静かにリュウの隣に座った。
「ドラゴンが、僕を助けてくれたんだ」
「っ…………」
予測していなかった話題に、リュウは息を飲む。リュウは自身の表情が固まり、冷や汗が出るのを感じていた。幸いなことに、ドラゴンに想いを馳せているホモは、リュウの様子がおかしいことに気づかなかった。
「そうだ!リュウは見なかったかい?」
「えっと、……ドラゴン?」
「そう。とても大きなドラゴンでね、綺麗で逞しくて強くて、とてもカッコよくて…本当に素敵なドラゴンだったんだ」
「………い、いや。俺は見なかった…よ」
とても耳が熱い。きっと自分は今真っ赤になっているだろうと、リュウは顔を隠すためにうつむいた。
しかし、ホモの次の言葉で、リュウは隠していた顔をバッとあげることになる。
「僕、あのドラゴンのことが好きなんだ。きっと、恋をしている」
「はっ!?」
「リュウに初めて会ったあの日、リュウに会う前に僕はドラゴンを見かけたんだ。見間違えてはないと思う。だって、初めて見たときから、僕は………」
ホモはへへへ、とはにかんだ。今度はハッキリとリュウを見る。
「意識もはっきりしてなかったし、もしかしたら夢かもしれない。でも、僕はあれは夢じゃなかったと信じたい」
「……………」
「リュウはどう思う?」
「……お、俺は……ホモが信じるなら、俺も信じるよ」
それが夢じゃないことは、リュウが何よりもよく知っている。
「そうだよね!ありがとう!!!」
ホモは元気よく立ち上がると、何かが吹っ切れたかのようににっこりと笑った。そのまま勢いよく建設中のギルドの方に走っていく後ろ姿を、リュウはただ見ていた。
「マジかよ………」
これはハッピーエンドでも何でもない。どうやったって、自分には勝てるはずがない。思わぬ形で現れた恋敵に、リュウは頭を抱えた。
ジユージュがギルドを建て直している頃、その少女は、愉しげに町を歩いていた。あまりにも軽快に歩くので、少女の真珠色の髪は大きく揺れる。
髪型は少し特徴的だ。眉毛を隠すように前髪を真一文字に切り揃え、長い髪は後で団子状にまとめたものを、桃色と白色と薄緑色のみっつの丸い飾りのついた簪でとめている。
踊るように滑らかに町を進むが、彼女の赤い瞳は油断することなく鋭い光を放っていた。
「きいたか?この前のジユージュとオーヤドージョの戦争」
「ああ、死人が出たらしいな」
八百屋の主人が、客とそんな話をしているのが聞こえてきた。少女は、はたとその店の前で足を止める。
少女に気づいた八百屋の主人が、言った。
「お嬢ちゃん、ここらでは見ない子だね。どうだい?お嬢ちゃん可愛いから、このりんごをサービスするよ」
主人は、人好きするような快活な笑顔でカッカッカッと笑った。
「相変わらず可愛い子には弱いねぇ、大将。また奥さんに怒られちまうぜ」
「はっはっは、違いねぇ。まあ、見ていきなよ。うちは新鮮なものを揃えてるからさ。お嬢ちゃんにはサービスもしちゃう!」
八百屋の主人と客は、楽しそうに少女に手招きをする。少女も、フッと笑った。
「ええのですか?うれしいどす」