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12話 あの日のドラゴン



一方その頃、ホモたちはミノの重力魔法にやられ、身体の自由が効かない状態であった。


「リュウ…凄く重いよ…立てない…」


「弱音吐くんじゃない。無理でも抗わないとただ負けるだけだ」


そうは言うものの、リュウもミノの重力魔法から逃れることが出来ずにいた。

そんな二人の状態を見て、ミノは残念そうに呟く。


「僕としてはもう少し対等な戦いをしたいところだけど、こうも力に差があると弱い者いじめをしているみたいで嫌だな」


ミノは振りかざしていた両手を片手に変えた。

すると、リュウの重力が軽減される。

だがそれとは逆に、ホモの重力が一気に増す。



「ゔぅっ…!!がはっ…!!息がっ…!!」


「ホモ!!!」


圧迫され呼吸が出来なくなるホモ。

リュウは駆けつけようとするが、ミノがそれを止めてくる。


「いいのかい?今いくと君も同じ痛みを…」


「構うものか!!」


ミノの言葉を無視して、ホモに触れようとするが、いきなり足だけに重力が掛かり、立ち上がれなくなってしまう。


「人は目の前で仲間を失うと、強くなると聞いたから試してみたいんだ。悪いけど大人しくそこで見ていてくれ」


そう言うと、ミノはホモとリュウの間に座り込み、二人の様子を伺う。



早くしないとホモが死ぬ。

ホモが俺の目の前で死ぬ。

俺が弱いから死ぬ。

俺のせいで死ぬ。


ホモが…死ぬ……


混乱を起こし始めたリュウの脳内。

表情も見るからに青く、呼吸が荒い。

それでも重い足を引きずりながら、少しずつホモに近づき手を伸ばす。


「ホモ…ホモ…!」


「…リュ…ウ……」


今まさに自分が死にそうだというのに、ホモは「逃げて」と言わんばかりの眼でリュウを見つめる。


「くそ…絶対俺が助けるからな…!!」



リュウはぐっと血が出るほど強く唇を噛んだ。そして、意を決したように立ちあがると、まるで獣のように吼えた。


「待っててくれ、ホモ」


それは火事場の馬鹿力と呼ばれるものなのか、リュウはこれまでとは一変してホモに背を向け、走り出した。


「………あらら。まさか逃げちゃうとは」


ミノは小さくなっていくリュウの姿を、追いかけるでもなく眺めた。

それから、唐突にフッと笑うと、下品な猫なで声を出してホモに言った。


「お仲間に見捨てられたねぇ~、かわいそうでちゅね~」


「っ………」


「仲間が腰抜けの裏切り者だと大変だなぁ。ジユージュも落ちたものだ」


「リュウ、の………ジユージュの悪口は言うな!」


ホモが絞り出すように言った言葉は、押し込められた怒りを孕んでいる。圧倒的不利な状況にもかかわらず、気丈にこちらを睨み上げるホモを見て、ミノは口角をあげた。


「じわじわと、限界まで苦しめて殺してやるよ」





一方その頃、オ・カーノはターゲットを新たに定め、攻撃していた。


「チョロチョロと逃げ回ってないでさ、戦おうよ」


雷がユーリに牙をむく。ユーリは己の魔法で、それを回避した。

ユーリの魔法は、空間魔法だ。ユーリは自身のまわりの空間を切り貼りすることで、まるで瞬間移動をしたかのように高速で移動、長距離を一瞬で移動できる。


(それにしても、これじゃあいつか殺られるっ……)


オ・カーノが攻撃のモーションを見せてから、瞬時に攻撃範囲と時間を計算し魔法を使って逃げるが、雷の速度はあまりにも早く、ユーリは徐々に追い詰められていた。

そもそもユーリの空間魔法は、あくまでも移動手段や、1個下の次元に行くというユーリの個人的な願望を叶えるためのもので、攻撃には使えない。

ユーリの収入のほとんどがギルドのクエストではなく、宿場やカジノという点でも、いかにユーリの魔法が実戦向きではないということがわかる。


「もっとこう、ガムシャラになってもいいんだよ?もっとも、君が攻撃魔法を使えないというのは知ってるんだけどね」


サァァァ、と雨が降ってくる。


「……雨?こんなに青空なのに、なんで」


オ・カーノが攻撃を繰り出す仕草を見せる。ああ、逃げないと。そう考えて、ユーリは固まった。

空間の認識が上手くいかない。


「空間魔法は繊細でさ、空気中のゴミやチリがあまりにも多かったり、水の中や雨の日は、結構魔法に影響が出るんだよね。まあ、俺もギルドマスターだからさ。結構魔法には詳しいんだよ」


「っ、まさか…」


それは雨ではなく、オ・カーノの魔法だと気づいたときにはもう遅かった。


(なんとか、しないと)


雷撃がユーリに当たり、大きな破裂音をたてた。



眩い光がおさまったそこには、誰もいなかった。オ・カーノは眼鏡を外すと、眼鏡専用のクリーナーでレンズを拭く。


「あれ、逃げちゃった?」


オ・カーノは魔力の気配を探るが、ユーリの魔力はどこにもない。しかし、たしかに手応えはあった。


「ってことは、殺しちゃったかなー」


ニタリ、と。

オ・カーノは蛇のような狡猾でおぞましい笑みを浮かべた。


「まあ、一人くらいいいか。さっさと次に行こう」


オ・カーノは何でもないという風に、歩きだした。





ホモを置き去りにし走ってきたリュウは、ホモとミノがいる場所からさほど離れていない木陰で立ち止まった。


(ホモを助けるために、俺ができる事……)


できるだけ早く、ホモをあの重力から解放してやらないと。あれは人間の、しかもついこの間までは魔法と関わったことすらなかったホモには、とても耐えられるようなものではない。


(ギルドの先輩たちに一刻も早く知らせないと)


そう考えて、リュウは自身でその考えを否定した。

先輩たちがどこにいるかはわからないし、運よく見つけたとしても、おそらくオーヤドージョの魔導士たちと交戦中だろう。確実に間に合わない。

打つ手なし、というわけではない。


魔法動物界脊椎動物門鳥類網龍科ドラゴン属、要はドラゴンの力を使えば多分何とかなるだろう。

しかし、ホモが住んでいたような田舎の集落の上空を飛ぶならまだしも、こんな町のど真ん中でドラゴンの姿になるのは非常に好ましくない。

それに、ホモを助けに来たドラゴンなんて、タイミング的にどう考えてもリュウだとミノにバレる。

そうなった場合、困るのはもちろんリュウだ。最悪、国に保護もとい拉致監禁されてあんなことやこんなこと(実験とか)をされることになる。


時間がないのに、どうしようもなく思考はまとまらずぐるぐると同じところをいったりきたりする。

その時、ふとリュウの頭のなかに声と映像が流れた。


「目撃者はすべて消せばいいのよ。殺っちまいなさい!」


ピッと親指を立て綺麗にウインクをする美女は、リュウの母親である。

幻覚、幻覚ではあるのだろうけど……。

リュウは顔をしかめた。そうか、証拠は隠滅すれば……


「って、それは殺人だろ!!!」



自分で自分にツッコミをいれたリュウは、その直後急に思考が覚めていくのを感じた。


(そうだ、そうした場合、俺は人殺しになるのか)


今リュウが思い付く限りの最善策では、ホモを助けることはつまりそういうことである。

そして、リュウは柔らかく笑った。

ホモを見捨てることと、自分の手を汚すこと。たとえそれによってどれだけの罪悪感に苛まれようとも、どちらが大切かなんてわかりきっていた。

ホモには笑顔でいてほしい。


「惚れた奴守らなくて、他に何を守りてぇんだよ!」


そしてリュウは、己の力を解放した。




限界まで苦しめて殺すと宣言した通り、ミノは決定的な一撃を与えずにギリギリの手加減でホモを痛めつけていた。

重力による苦しさと、そこに何度も繰り返される蹴りで、痛んだ箇所が熱を帯びている。


(……苦しい)


痛みはじくじくと鮮明に感じるが、それとは対称的に意識はだんだん朦朧としてくる。


「ちっ、もう終わりかよ」


反応の鈍くなってきたホモに、ミノは舌打ちをする。そして、右手に魔力を集めると、その塊をホモにむけた。


「もういいや、バイバイ」


(あ、僕………死ぬのか)


しかし、最期の痛みはいつまでたっても訪れなかった。


「ひっ、な……なんで、こんなところにっドラゴンが」


ミノのひきつった声に、ホモはうっすらと目を開く。

それは、高く遠い大空を

まるで自分の庭のように悠然と飛ぶ。

真っ青な空に、大きな翼を羽ばたかせるドラゴンが、こちらに向けて急下降してきた。



ハッ、とホモは大きく目を見開いた。ホモはそのドラゴンを、よく知っていた。


「あの時の………」


痛みも忘れて、ホモはドラゴンに見惚れる。目をキラキラさせ頬をほんのり赤くするホモは、やはりそのドラゴンに恋をしていた。


ドラゴンは、ちらりとホモを見た。そしてホモのもとに近づく。ドラゴンとなったリュウは、ミノの重力に苦しめられることはなかった。


「君は、どうしてここに?」


リュウは、答えなかった。そのかわりに、もう大丈夫だと安心させるように、ドラゴンの頭をホモにこすりつける。ホモが怪我をしないように、優しく丁寧に。

ホモはしばらく呆然としていたが、まるで自分を守るかのように自分とミノの間に立つドラゴンに、ふっと肩の力を抜いた。もうとうに限界を超えていた身体は、そのまま崩れた。


「遅くなってごめん」


意識をなくしたホモに謝る。ボロボロになったホモを見つめ、その元凶の方に向き直った。


「ホモが寝てくれてよかった。その方がやりやすい」


「その声、まさかっ」


ドラゴンに勝てるはずがない。ミノは二・三歩後ずさると、そのまま背を向け逃走した。


「逃がすかよ」


人間とドラゴンのスピードは比べるまでもない。リュウは一瞬でミノの背後に距離をつめると、ドラゴンの鋭い爪を振りかざした。

肉が爪に絡みつき、血が顔に飛ぶ。とても気持ちのよいものではない。しかし、リュウはミノが息絶えるまで、何度も何度も繰り返した。

リュウが人間の姿に戻ったとき、それはもう原型をとどめてはいなかった。


「…………」


手足や顔に付着した血を、自身の鱗と同じ色と模様をしたストールで乱暴にぬぐう。無理矢理意識をミノからそらし、倒れているホモのところへ急いだ。



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