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1話 出会い



それは、高く遠い大空を

まるで自分の庭のように悠然と飛ぶ。



真っ青な空に、大きな翼を羽ばたかせるドラゴンを、ホモは町外れの集落の広場から見上げていた。


その日、少年はドラゴンに恋をした。


ハッと新緑色の目を大きく見開き、ホモはドラゴンが飛んでいった方向へと駆け出した。遠くの空を飛ぶドラゴンを見失わないように、生まれてはじめてと言っていいほど必死に、走る。ホモが走るたびに、焦げ茶色の髪がぴょこぴょことはねた。



ドラゴンは真っ直ぐ海のほうへと落ちていく。


今は冬だから海には誰も近づかない。ぼくだけが、あのドラゴンに会えるんだ…!!

ホモがその嬉しさに、足を更に早めようとした瞬間、


「うわぁっ!」


急に辺りが眩い光に包まれた。

思わず目を閉じてしまったホモは、ゆっくりと目を開く。

すると、さきほどまでいたドラゴンの姿がどこにもない。

焦ったホモは、僅かな可能性を求めて海まで走った。



「ハァ…ハァ…い、いない…………」


息を切らしながら浜辺までおりたが、そこにドラゴンはいなかった。ドラゴンの姿が見えなくなってから、そんなに時間はたっていない。しかし、砂浜にはドラゴンがいた形跡はこれっぽっちもなかった。

ホモは、力なく砂浜に仰向けに倒れ込んだ。



大きなため息ついて、泣きそうになる気持ちを抑え込む。


「ーーどうしたの?」


「!?…あ、え?」


ホモは声をかけられたことに驚いて飛び起きる。

目の前には長身のハーフっぽい青年が、ホモを心配そうに見下ろしている。



ホモも美少年の分類には入るが、ホモが思わず言葉を失うくらいには、その青年はとても美しかった。

銀色の髪はサラサラで、前髪が少し長く、青年の左目にかかっている。髪の間から覗く瞳は、氷のような青色をしていた。

青年は首をかしげる。首に巻いた、まるで爬虫類の鱗のようなストールの端がふわりと揺れた。



「そんなところで寝転んでると砂がつくよ」


そう言って青年は、ホモに手を差し伸べる。

素直にその手を取り、ホモは立ち上がった。


「ありがとう。僕はホモっていうんだ。君の名は?」


「ーー…リュウ」


少し答えづらいそうに名を名乗るリュウ。

ホモは何か話題を振ろうと考えた。


「あっ!!ドラゴン!!」


ホモはここへ来た本来の目的を忘れるところだった。




「ねぇ!君!ドラゴンを知らないかい?!とても大きなドラゴンでね、綺麗で逞しくて強そうで、それから…なんだか、とてもカッコよくて…本当に素敵なドラゴンなんだ…」


今の気持ちの全てをぶつけるかのように、ホモはリュウへ語る。

だが、言えば言うほどリュウはなんだか顔を赤らめていった。




「し、しらない……」


リュウはぶっきらぼうに答え、ふいと顔をそらした。

その様子にホモは、リュウはクールな人だなぁ、と印象を受けた。


「そっかぁ………」


ホモはリュウの返答に、しょんぼりと俯いた。




あからさまに悲しそうな顔をするホモに、リュウは罪悪感に苛まれた。

このご時世、ドラゴンは希少だ。ドラゴンの飼育は政府が許可した本当にごく一部のきちんとした施設でのみ、数頭だけ保護することを許されている。

しかし、ドラゴンが希少になればなるほどその価値は高騰し、密猟や裏社会での取引などドラゴンをめぐる犯罪は増えている。

もし今ドラゴンが捕まれば、あらゆる部位を解体されてあらゆる場所に売られることは間違いないだろう。


要は、自分の正体はけして誰にもバレるわけにはいかないのだ。

特に、ドラゴンと人間のハーフだなんて珍しいどころの話ではない。

最悪の場合、政府にすら実験台にされる可能性すらある。

リュウは、ホモに申し訳ないと思いつつも、しらない振りを貫き通すことにした。




ふと、辺りを見回すと、夕日が沈んできていることに気がついた。

ここは海辺だから余計に街頭も少ない。

だから、夜になる前に町へ戻らなくてはいけなかった。


「ぼくはそろそろ町へ戻ろうかと思うけど、リュウはどうするの?家はどこだい?」


「今はない」


「えっ……」


リュウの言葉に、ホモは思わずリュウの顔を見た。


「別に、ホモが心配するような事情じゃない。ただ、世界中を旅しているだけだ」


「そ、そうなのか」


「うん」


そう、リュウの旅は単に反抗期をこじらせて家出をしているだけである。

しかし、そんな馬鹿みたいな理由をしらないホモは、ひとつ提案をした。


「なら、ぼくの家に泊まる?」


「ホモの家に?いや、でも急に行っても迷惑になるだろ」


「いや、全然大丈夫だよ」


ホモは、にっこりと笑った。


「俺には家族がいないから」


「はっ………」


今度は、リュウが驚く番だった。


「ぼく、もともと家族はお母さんしかいなかったんだけどさ。お母さんは体が弱くて、去年………なくなった」


暗くならないように気を遣っているのか、あえて明るく話すホモに、リュウは余計に胸を締め付けられた。


「久しぶりに誰かと寝食をともにするのも、楽しいかなと思うんだ。だから、リュウが来てくれるとぼくも嬉しい」


「行くよ」


考えるよりも前に、リュウは答えていた。





「良かった!それなら町へ食材を買いに行くのに、ついてきてくれないかい?」


リュウが頷いたのを確認すると、二人は町へ向かって歩いた。



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