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過去と未来と君と僕と  作者: @PrincipiaX
第三章 過去から未来への夢の彼方に
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3章-12話 砂漠の夜空の星の下で

 「なんだよ、ここにあるなら、最初に来た時に寄ってけばよかったぜ」


 裕也はリーアとエリス、それにジェシカとニースを連れて、再び天空城の城下町を訪れていた。六大魔女を奉る神殿は天空城からさらに上空に位置する場所にあることをルシファーから聞き出し、向かっている途中だ。


 リーフレットさんの案内で、天空人たちが使用している浮遊石を借り受け、裕也たちは、神殿へと通じる天空城の最上部へと登っている。


 そこから先はジェシカの瞬間移動で、神殿へと飛び移るしかない。瞬間移動であれば、わざわざ天空城まで足を運ばずとも、どこからでも行けそうなものだが、六大魔女を奉る神殿だけは、特別な封印が施されており、その場所からしかワープできないらしい。


 浮遊石は非常にゆっくりした速度で移動するため、裕也とリーアはその間、天空城から見下ろせる絶景に見とれていた。エリスは軽い高所恐怖症の気があるようで、裕也にしがみついている。


 裕也が可愛いところあるじゃないかとからかうと、顔を赤らめながらも、鞭で首を絞められるのと、余計な口を閉めておくの、どちらが言いかと脅してきた。それでも、しがみつく手を放そうとしないのだから、やはり可愛い。ジェシカとニースは半分、呆れ顔だ。


 ビネガーを倒してパトラを救い、ゼウシスからのシスイ王国を丸ごと脅かす程の脅威まで退けた裕也たちだったが、最後にもう一つ、大事な仕事が残っていた。そもそも裕也がシスイ王国を訪れた一番の目的、シルヴィアの救出である。


 白猫亭での打ち上げを予定していた裕也たちだったが、街の人々からのたっての願いとパトラを元から敬っていた兵や官僚たちの希望により、国を挙げての大々的な宴が催されることになった。


 こうなると準備に色々、人手と時間が必要になってくる。裕也も手伝いを申し出たのだが、エリスから、だったらこの間にルシファー様に会いに行きましょうと勧められ、他の仲間たちからも賛成された。馬車なら数日かかる道のりも、ハルト達の乗ってきた翼竜なら一瞬で事が足りる。


 ハルトに頼んで翼竜にのせてもらい、アストレアに直行すると、ルシファーに天空城の城下町にいたリーフレットさんから聞いた話を、打ち明けた。パトラもついてきたいと言ったが、彼女には宴のほかにも、シスイ王国を立て直すための大事な仕事が山のようにある。


 裕也の手を掴んで、なかなか放そうとしないパトラだったが、宴の前には戻ってくるからと約束すると、ようやく納得してくれた。パトラになつかれると、それだけでこれまでの苦労が一気に吹き飛び、幸せな気分になってしまう。


 サリーとニーナにも明日まではシスイ王国に残って、一緒に宴を楽しむように勧めた。二人は快諾し、今は街の人々と一緒に宴の準備の他、荒れた街の掃除やら、片付けやらまで手伝ってくれている。


 ルシファーは裕也の来訪を歓迎してくれたが、当時の状況を語るときは流石に辛そうな表情を見せた。


 「六大魔女を奉る神殿か。ああ、確かにそこで姉さんは氷の棺に自らの意志で閉じこもったんだ。俺の見ている前でな。なんだ、姉さんは今、あの地に戻ってるんだな。最初から分かっていれば、姉さんの居場所を探す必要はなかったわけだ。わざわざ大変な思いをして暗闇の塔から天空城まで行ってもらったのにすまない」


 ルシファーは裕也たちに頭を下げる。だが、最初から分かっている者などいるわけがない。当然、裕也たちの中でルシファーを責める者は誰もいない。


 「あのときはまだ、神殿には封印などかかってなくてな。暗闇の塔の転移装置から直接行くことが出来た。だが今は天空城を経由する方法でしか行けなくなっている。それもジェシカの瞬間移動を使ってだ。やはり、ジェシカの協力を仰いでおいてよかったよ」


 シルヴィアさんは、ルシファーの見ている目の前で、自らを封印した。その封印を解く方法についてだが、これについてはニースのリストアの力と、ジェシカの持つ、まだ裕也が知らなかった能力、アプローチと呼ばれる人の五感を自在に操る力の両方を組み合わせるらしい。


 らしいというのは、この方法はルシファーが考案した方法なのだが、実際にこの方法を実用した例はない。つまり今のところ、あくまで机上の空論にすぎない。ちなみにニースのリストアは、その場に会ったものを一定時間に戻り元に戻す能力だ。


 裕也には理論体系の細部までは理解できなかったのだが、ルシファーが長年かけて研究した内容によると、ニースのリストアの能力と、ジェシカのアプローチの能力を、力のバランスを巧みに調整しながら組み合わせて発動させることで、シルヴィアさんの氷の棺の解呪に必要となる新たな能力を産みだせるらしい。


 いわば混合魔法の超強力版のような形を想定しているようだ。これにより、シルヴィアの救出が理論的には可能なはずとのこと。ジェシカとニースはやり方をすでにルシファーから聞いており、何度か練習も重ねているようだった。後は本番環境で試すだけだと言っている。


 ただし実例、前例がない以上、確かなことは言えない。裕也に出来ることは、ただ、ルシファーの考案とジェシカ、ニースの力が上手く発動してくれることを祈ることだけだ。一同はジェシカの力を借り、六つの神殿のある場所に降り立った。そのうちのひとつの神殿に入る。


 入口からはいって、すぐのところに大きく開けた空間があった。多数の色彩を持つ大小様々な結晶によって彩られている。神秘的とも幻想的ともいえる光景に、一同は思わず感嘆の声を上げる。そして、その中心に巨大な氷の塊が安置されていた。中に閉じ込められているのは、ルーシィと同じ綺麗な銀髪を持つ女性。シルヴィアだ。


 「ようやく会えたな。シルヴィアさん。ルーシィが待ってる。そして、きっといつの日か必ずゼウシスに再開できる日も来るはずだ。頼むぜ、ジェシカさん、ニースさん」


 裕也の願いに、リーアとエリスも同調する。


 「マスター、この時のために、すごい色んな事を頑張ったんだもんね」


 「ああ。きっと上手くいくに決まってるさ。なんたって裕也は、何故か物事を最終的にいい方向にもっていく不思議な力の持ち主だからな」


 ジェシカとニースは頷き、シルヴィアの解呪を試みる。シルヴィアを閉じ込める氷が眩い光につつまれていく。やがて、氷は表面部分から徐々に溶け出し、蒸発していった。裕也たちは固唾をのんで、ただひたすらに成功を祈り続ける。


 氷が全て溶けだすと、中にいたシルヴィアはそのままの姿勢で、空中に浮遊した状態となって浮かび上がってきた。その状態でシルヴィアは停止する。実際にはほんの数分くらいだったのだろうが、その時は永遠とも思える沈黙の時が続くように思えた。シルヴィアの目が少しずつ開いていく。


 「こ・・こ・・は・・」


 シルヴィアが目覚めた。喜びのあまり、思わず裕也は近くにいたリーアとエリスに抱き着いてしまう。リーアだけでなく、エリスも顔を真っ赤にする。だが、裕也の抱擁を離すような真似はしなかった。


 「シルヴィアさん。よかった。本当に、よかった。俺は裕也って言います。こっちはリーアにエリス。で、ジェシカさん。ニースさんは既に顔見知りですよね」


 「裕也さん、それにニース。ああ、久しぶり。懐かしいわ。はっ、いけない。夫の・・ゼウシスの呪いで・・」


 「その心配はもういりません。ゼウシスさんは、今後、人を殺めたり、呪ったりすることはないと思います。俺、ゼウシスさんに話したんです。何年たっても、必ず戻ってくるようにって。ルーシィも待ってます。帰りましょう、シルヴィアさん。まずは、ルーシィに会って、いっぱい色々な話をしてあげてください。それからルシファーにも会ってやって欲しいんです」


 シルヴィアは驚いて、裕也を見る。彼の言うことは、にわかには信じられないことだ。生身の人間が、変貌を遂げたゼウシスと会話など、まず考えられない。しかし、目の前の男は嘘を言っていない。そのことだけはシルヴィアに確信が持てた。


 「ルーシィ・・ああ、ごめんなさい。ずっと一人で寂しい思いをさせてしまって。ルシファー。今どうしてるのかしら。裕也さん、でしたわね。あなたにはおそらく、ルーシィもルシファーも、そしてゼウシスでさえも大変な世話になったのでしょう・・ルーシィのところに、連れて行ってもらえますか?」


 「もちろんです。ルーシィの奴、シルヴィアさんに会えたら、どんな顔するか楽しみです。だろ、みんな」


 裕也の中に喜びが広がっていく。他の面々も同じ気持ちだ。これで、ゼウシスさんもいれば・・あ、そうだ。ついでに、あれを使ってシスイ王国の街に組み込めば、パトラも喜ぶに違いない。裕也はふいに閃いたことがあり、その場のみんなを呼び止めた。


 「シルヴィアさん、連れていく前に少しだけ、お時間もらえますか?すぐに済みますので」


 裕也たちはシルヴィアから、あるものを受け取った後、再び翼竜にのって、シルヴィアをルーシィのいる、クリスティ邸に連れて行った。ルーシィはシルヴィアに会えたことをすぐには信じられなかったようだ。


 「マ・・ママなの?」


 「ああ、ルーシィ。大きくなったわね。ごめんなさい。ずっと長い間、寂しい思いをさせてしまったわ。会いたかった。ちゃんとご飯は食べてるの?病気とかしてない?お友達とは上手くやってる?」


 「ママ・・ルーシィ、そんなにいっぺんに答えられないよ。ゆっくり、ゆっくり話そう・・ママ・・会いたかったよ・・」


 シルヴィアがルーシィを抱きしめる。ようやくルーシィの中で、これが現実だと実感がわいてくる。親子水入らずの状態に、余計な口出しは無用。裕也たちはシルヴィアとルーシィをその場に残し、シスイ王国に戻っていった。


 「裕也さん・・裕也。どうだったの?シルヴィアさんは救出できた?」


 戻ってすぐパトラが、裕也のもとに駆け付けてきた。全部うまくいった旨を話すと、パトラは裕也に抱き着いてきた。


 「やっぱりね。裕也なら絶対、上手くいくと思ってた」


 「いや、今回は俺は何も・・ルシファーとジェシカ、ニースのおかげだよ」


 「ううん、そんなことない。彼らだって、裕也がいたから協力できたんだと思う。やっぱり私の裕也は最高よ」


 え?私のって、いつの間に、そんなことに?俺、本気にしちゃってもいいの?ここまできて社交辞令だったら、本気で泣いちゃうよ。裕也は焦りながら、しかし、そういうことなら喜んでといいそうになる。パトラの感触が裕也に押しあたる。やばい、あっちも元気になってきてしまった。内心で慌てまくる裕也。

 

 「ちょ、ちょっと、パトラ。マスターは、ボクのマスターなんだからね。クレア姉にエリス、ニーナもいるってのに、これ以上、増えられるとボクの立場ってものが困るじゃないか」


 リーアがふくれっ面でパトラに抗議する。裕也がパトラとの妄想にふけっていると、ふいに誰かに後頭部をひっ叩かれた。振り返るとエリスが機嫌悪そうに、裕也を睨みつけている。


 「ったく、デレデレしてんなよな。それより、さっき天空城から帰ってくるときに、お前が言ってた案。街の人々も協力してくれるってよ。ほら、早く来いよ」


 エリスに連れていかれて、裕也はその場を後にする。パトラもついて来ようとするが、それを制止させる。後で、パトラをびっくりさせたかったから。不審がるパトラだが、裕也は後で分かるからと、去っていった。



*************************************



 エリスに連れられた裕也が辿り着くと、ガタイのいい街の男たちを中心に据えた集団が出迎えてくれた。他にも調整役や、シスイ王国の兵士たちの姿まである。


 「おお、いい感じに出来上がってきてるじゃん。たったの数時間でここまでの仕上がりとはな。たいしたもんだぜ、まったく」


 裕也が感心していると、屈強そうな働く男たちが、歓迎の意を示してくる。


 「なぁに、ビネガーやゼウシスの脅威からこの街を救ってくれた大恩人の頼みとあっちゃ、張り切らねぇわけにはいかねぇさ。それに、何よりこれは俺たちの明日にも、大いに関わってくることなんだからよ。おい、てめぇら。もうひと踏ん張りだ。気合い入れてけよ」


 「おお、任せろや。それにしても、このあんちゃん、魔法使いか何かなのかよ。信じられねぇぜ、まったく。今さっき、この街救ったばかりだってのに、またもう一回、街の助けになろうとしやがる」


 「へへ。兄ちゃんよ。出来れば、ずっとこの街にいろよな。兄ちゃんには、まず一番最初に味合わせてやるからよ。楽しみにしてろな」


 すげぇな、シスイ王国の街人パワー。裕也は、半分呆れてしまった。裕也の目論見では、どんなに早く見積もっても一週間以上はかかるかと思っていたのだが、もう既に完成形が見えてしまっている。この分だと、今夜の宴の前に事が済んでしまいそうだ。


 すると、裕也たちのもとにパトラが駆け寄ってきた。


 「もう、裕也。なんなのよ。なんで私には内緒なの?あ、もしかして、私が邪魔だったの?私、嫌われちゃったのかな・・」


 「ったく、そんなわけないだろ。パトラってなんていうか、結構、思い込み激しいとこあるよな。まあ、それもパトラの魅力のひとつなのかもしれないけどさ。断言してもいいぜ。今後、未来永劫、俺がパトラを嫌いになることは絶対にない。後でちゃんと教えるから。ほら行こうぜ。こっちはもう大丈夫みたいだから、パトラの手伝いに回るよ」


 裕也の言葉を聞いて、顔を赤らめるパトラ。そこにリーアが不満げに文句を言ってくる。


 「うう、マスター。だから、あんまり、誰にでも優しくしないでって。でもパトラなら仕方ないし。ボク、どうしよう・・」


 勝手に悩むリーアを肩にのせながら、裕也がパトラを慰めていると、間髪入れずに男たちの冷やかしの声が聞こえてきた。ああ、もう、煩い。おまえらは仕事に集中してろ。やりかえす裕也は、そのままパトラを連れて、その場を後にする。



*************************************



 「それでは、シスイ王国に迫っていた脅威を取り除けたことと、この国の新たな発展を願って、乾杯」


 宴は裕也が想像していた以上に、大規模なものとなった。城の中を借りて催すのかと思っていたが、野外で街中を使って行うようだ。ところどころにキャンプファイヤーの火がたちあがり、数々の屋台が並んでいる。裕也たちは揃って、思い思いの料理と酒を手に取ると、仲間たちとともに街の中に複数あるキャンプファイヤーをしている場所の一つに、集まっていた。


 「しっかし、裕也。おまえ、どうやってゼウシスとやり合ったんだよ?」


 「裕也君って、こうして見ると、やっぱり普段通りの裕也君なのよねぇ。なんかぼうっとしてるし。本当に不思議な子だわ」


 口々に周囲の面々が裕也とゼウシスの戦いの様相を聞いてくる。最初は謙遜していや裕也だったが、だんだん自分が持ち上げられている感じが気恥ずかしくなってきてしまった。ちなみにリーアはとっくに飲みすぎでダウンしている。


 最初はボクのマスターがこの国、救ったんだよと自慢しまくり、飲みまくってたリーアだが、ハルトたちと同じ分量に挑戦していたのが間違いだったようだ。明日は間違いなく二日酔いだろう。断りなく勝手に裕也の服の胸元に入って、そのまま眠っていた。


 「いや、俺、そんな褒め殺しとかされると、逆に困るって。全然大したことなくも・・なかったけど、っていうか、すげぇ大変だったけど、でも、皆のおかげなんだし・・」


 「照れてんじゃねぇよ。ほらグラス空いてんぞ」


 「いや、もう結構限界きてんだって。だぁっ、お前らのペースに付き合ってたら、潰れちまうぜ。ちょっと酔いをさましてくる」


 裕也はその場を逃げ出し、適当に街の中をぶらつく。そこにパトラが駆けつけてきた。パトラは裕也に自分の腕を絡ませてくる。裕也は照れながらも夜の砂漠の城下町をパトラと二人で歩ける今に感激する。二人はそのまま、街を散歩することにした。


 「裕也、本当にありがとう。あなたは、私も、この国も救ってくれた。でも私は不安なの。今回の件で色々失敗しちゃったから、私なんかが、この国の王女なんか務めていいのかなって。やっぱり私には無理なのかな」


 「なにいってんだよ、パトラほど、この国のためを思って行動してる奴なんていないって。ああ、そうだパトラ。一つプレゼントがあるんだ。さっき言ってた、パトラに内緒にしてた件だよ。この国の人ってすげぇな。本当はもっと何日もかかるもんだと思ってたんだけど、もう出来上がったみたいなんだ。ちょっと一緒に来てくれるか?」


 裕也はパトラをつれて、街を見下ろせる高台になっている場所に腰をおろした。ここには滅多に人は来ないが、ここからだと、夜景に浮かび上がる城下町全体の様子がよく見える。


 「あの、裕也。こんなところに連れてきて、どういうつもりなの?」


 「いいから。いいから。ほら、あそこ、見える?」


 パトラは裕也の指さす先を見つめる。最初は何か分からなかったが、目を凝らしてその姿を見ると、思わず口に手を当てて、驚きの声を発した。


 「嘘・・え、なんで、どういうことなの、裕也」


 パトラの視線の先には、河が流れていた。シスイ王国にとっては、貴重な資源であるはずの水が絶え間なく流れている。


 「用水路だよ。この城下町の外周に沿って、堀をつくってさ、そこに水が流れる仕組みを作ったんだ。ほんと、この街の人々のパワーには脱帽だよ。こんなに早く仕上げてくれるなんて、俺もびっくりしちゃってさ」


 「水は・・水はどこから流れてるの?」


 裕也はニッと笑って、懐からあるものを取り出して、パトラに見せた。


 「携帯可能な、転移装置。ゼウシスが作ったやつだよ。シルヴィアさんに聞いたらさ、試作版だったらまだいくつか残ってるから、持って行っていいって。ゼウシスさんもこういう使い方なら了承してくれんだろ」


 裕也もパトラと一緒に流れる水を見つめる。


 「翼竜でアストレアの近くにあった海の中に放り込んできたんだ。だから流れているのは海水。実際に水にするときは塩分を抜いたりしなきゃだけど、そこは工夫の仕方をこれから検討して・・ちょ、ちょっと、パトラ?」


 パトラは感極まって、裕也に抱き着き、そのまま唇を合わせた。裕也は突然のパトラの行動に激しく動揺する。パトラは裕也を開放すると、出来上がったばかりの用水路を見つめながら、裕也に囁いた。


 「もう、本当に、なんて人なの。私やこの国を救うだけじゃまだ飽き足らず、国の皆が長年抱えていた水の問題まで、解決しちゃうなんて。私なんかより、裕也がこの国を治めちゃえばいいのよ。ねぇ、そうしましょ。私と一緒に・・」


 裕也はパトラの申し出を心から嬉しく思ったが、その申し出を受けることはなかった。


 「ごめん、パトラ。俺には国の政治とか、責任重すぎるよ。前にも言ったかもしんないけど、根がいい加減だからさ」


 パトラは裕也をしばらく見つめていたが、やがて諦めたように長く息を吐くと、裕也に改めて向き直る。


 「あーあ、振られちゃったか。残念。本当に欲しいものって、手に入りづらいのよね。裕也って、意外と残酷だよね。私にこんな思いさせておきながら、事が解決したら、すぐに去っていっちゃうんだもん」


 ふてくされるパトラを、今度は裕也が抱きしめた。見上げるパトラに裕也が告げる。二人の背景には砂漠の夜景と星々が明るく輝いている。


 「なあ、パトラ。俺、王国の政治とかは無理だけどさ。どこにいても、困ったときにはパトラのもとに駆け付けるパトラの専属ナイトってのは、ダメかな。あ、いや、ナイトと呼ぶには実力不足は重々分かってるんだけど、でもこの先もパトラの力になるってことでさ」


 パトラは顔を真っ赤にして、裕也の胸元に頭を埋めた。再び見上げて、勝ち誇ったように宣言する。


 「ふふ。いいわよ。ゴブリン三匹倒すのがせいぜいな、だけどこの上なく頼もしいナイトさん。じゃあ、早速、私の最初の命令を聞いてもらいましょうか」


 パトラは抱き合ったままの姿勢で、裕也をその場に押し倒した。星々が輝く砂漠の空のもと、二人は朝まで想いを行動に溶け合わせた。


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