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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
人外魔境に咲く花
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B057.妄執を洗い流す破壊応酬

「えー!?あー、再出撃、再出撃!北西の防狼地区か南東の魔界関所区か魔王城の本丸から急いで再出撃お願いします!」と魔王軍ラジヲのレポーターでもありハイロン防衛総指揮官でもある愛微笑がその不条理な一撃から逸早く立ち直り、放心や罵倒で統制の取れなくなった防衛隊の建て直しを計る。


愛微笑はかなり死に慣れたプレイヤーなので精鋭でありプライド高いア・ヨグ率いる『Falling Liliums』よりも素早く立ち直ったが、ハイロン内にある5つの復活地点で3箇所に復帰箇所を分散命令をしたのは下策だろうか、正解だろうか。それなりに歴戦の戦士であるナイトウィンドにも判断つきかねた。

復帰地点の魔王城本丸から吹き飛んだ川見地区を見下ろすと、黒を基調とした禍々しくも美しかった町並みは打ち捨てられた黒曜石の採石場の様に荒れ果て、輝石灯は折れ曲がり、気合の入ったデザインの建物も大量のNPC達で活気に溢れていた市場の跡形は既に無い。その荒地には緑の雪の様に、竜汚染されたエーテルが中空を死者達の魂が如く漂っている。


そんなバーチャルリアリティが生み出す幻想的な非現実に放心している場合ではない。急ぎ確認する事は3つ、まずはドロップアイテムの有無、これは今後予想されるであろう竜心爆弾における報復戦争へ発展した場合にメリットがどこまであるかを判明させる。

次に確認するのは敵の木馬の残り台数と竜心爆弾の数、一発でこの破壊力であるならば1地区に一つ爆発させるだけ、トータル4個の竜心爆弾があれば首都ですら廃墟に出来るだろう。しかし、魔王城の本丸は不思議と耐久度をそれほど減らしていない。

最後は魔王城を除く他の地区は城壁で十字に区切られてはいるもののそれぞれの通路には城門が存在しない関所程度の区切りなので敵木馬の再突撃からの竜心爆弾特攻がまた来た場合にはどんどんハイロンの地区はご覧の通り全てが焼き落ち、緑光に包まれて廃墟となるだろう。それの対策を早急に考えなければならない。


素早く物見の為の展望台からナイトウィンドは敵の木馬を確認する、距離はここから約500m。

このゲームで描写できる最大の描写距離に煙を上げながら佇む木馬の群れは5両、一両は何処へ行った?と探していると、敵木馬の前方にぽつんと一両の木馬残骸が存在した。

味方に対してもダメージ判定がある竜心爆弾はフレンドリーファイア時のダメージ減衰があるのかが気になるが、まずは復帰地点から集まった防衛隊に前進させて木馬の妨害か破壊を目指さなければならない。敵の木馬の後ろにはピタリと張り付いた海の民らしき集団が見える。

「覇王海兵隊か…。」制空権を奪われて確実に統合作戦をする魔王軍に対して陸戦で不利を強いられていた覇王軍がレベル上げよりも揚陸訓練をしていたという情報は確かにあったが、確かに艦砲射撃が既に川見地区崩壊の為に不要となれば今度は制圧戦に来るだろう、だが本当の問題は敵がもう一度竜心爆弾特攻を仕掛けてくるかにかかっている。


敵の再出撃ポイントは川を挟んだ向こう側か北西に広がる狼の森を越えたスワンプマンホームに築かれた城砦か川を挟んで南西のエルフのホームからと少し遠い所にしか無いはずので歩兵を無駄に使う事はして来ないと思う。戦艦を再出撃ポイントにする事は出来ない上に近場に敵の城砦やダンジョンが新たに築かれたと言う報告も無い。

いや、そもそもこの進撃自体に無理がある、いくら海の民を訓練したといっても所詮奴等は海戦特化の種族である、その事実が覆ることは無い、覇王の狙いはハイロンの制圧ではないのか。

色々悩みながらナイトウィンドは「全軍、方陣を意識しながら突撃し、戦闘不能時にはすぐ再出撃をする様に。」と現実ではまずやってはいけない戦術を指示する、いくら死のないゲームの世界といえど考え無しの突撃で負ければ味方の心は萎えて厭戦ムードや『落ち』等の脱落者が増大し戦力は大幅に減る。

心が折れれば戦死と同じ。ならば現状で打つ手は既に無い、少年の願いとはいえとんだ貧乏くじを引いたな、この埋め合わせはして貰うぞ。とナイトウィンドは思いながら突撃を怯む戦列に加わり突撃の号令を下し前へ進んだ。



「敵、突撃してきます。」とソラチが言うが、そんな事は見れば分かる。

「敵さんは恐らく自棄になっているのだろうな、たかが4人程度のプレイヤーと兵器であれだけの損害が出るんだ。防戦は無意味と悟るしかあるまい。そうなればこちらの竜心爆弾が切れるまで誘発を狙う以外に手はない。」とダンは淡々と木馬を修理しながら答える。

「各車、耐久度の一番低い木馬は何処か?」とダンは次に自爆する木馬の選定にかかる。

『カーリー号45%まで修理完了、たぶんウチが一番低いな。』と溜め息と共に通信が入る。

「あまり面白味の無い作戦だが、こんな玩具を用意してくれたスポンサーの意向に背く訳にもいかん。」

『嫌ならやめればいいんじゃよ、とはいえそうなると木馬ギルドの存続は危ういか?』

「大規模ギルドのお抱え部隊として入れればいいんだが、木馬乗りは策神と砲兵系の信仰と高い生産スキルが必要になるのでメンバーが固定化し、大規模ギルドだと身分差みたいな物が生じて運用に制限や人間関係が絡み合い面倒な事になる。」

歩兵ありんこなんかより木馬の方が楽しいからなぁ。』

『では、カーリー号。一花上げてくるぞ。』と通信と共に横に並んでいた木馬が北上しながら敵集団の背後を狙う動き見せた。



敵の木馬が一両だけ戦線を離脱する様に北上した後に東へ、つまり我々の真北へ回りこもうとしている。

「愛、南に250メートル下がって我々の集団を実況する様に…。」とナイトウィンドは低い声でレポーターに伝える。「250メートルなんてピンポイントで分かるもんじゃないですよー!」と前々魔王様は慌てて南の空へ飛び立って行くが、出来ればもっと急いで欲しい。

現在は敵へ突撃真っ只中である、策神の魔法により素早い動きをする味方集団が目の前に迫る木馬群に近寄るその寸前に、木馬群の後ろに隠れていた敵の海の民が一斉に盾と短槍を構えながら木馬の前に立ち塞がった。

木馬を盾にしない、つまり歩兵よりも木馬の方が価値があるとこれで判明した。つまり、木馬全てに竜心爆弾が積まれている可能性が高くなった。

前方集団が敵の海の民と衝突し、それに合わせて敵の木馬の砲門が火を噴くが、こちらは血神信仰者が多いので攻撃力には欠けるが生命力は高い。

ア・ヨグの部隊が歩兵よりも木馬の耐久力を削りに森林魔法を連打する、歩兵に対してはCCを出来るだけバラ撒いて動きを封じている程度に抑えている。

そろそろだな、「再出撃に備えろ!」とナイトウィンドは味方に全滅前提の命令を発する、それに合わせて勘の良い奴は塹壕を掘り始め、果神信仰の者は3秒間無敵となるスキルを発動。

直後に後方から緑色の輝きとさっきは見る事ができなかったきのこ雲を視認し、直後に激しい爆風と物理エンジンの計算により飛び散る破片が当たり判定を表示させてくる。

この破片を防御コマンドで防ぎながらひたすら血神信仰魔法を発動させる、耐え切れるか?

「愛、撮影と配信は出来ているか…?」と南の彼方よりこの状況を配信していた悪魔の少女は「はい、バッチシ撮れてますよ。」と答える声は心なしか震えている。

二発目の竜心爆弾は突撃をした我々の後方で炸裂した、これにより味方後衛はその緑光に巻き込まれ倒れ、前衛は後衛のサポートを失いそのMPを減らしていき、盾と槍を構えた海の民に削り倒されていく。

これで判明した、覇王軍の狙いはハイロンの攻略ではなく、竜心爆弾の運用実験とバランス調整とその威力とインパクトを見せ付ける所にあったのだろう。

「大規模な茶番。」と少年は我々に協力を依頼したが。ベータ1テストでこの世界の最終戦争を演出したかったのがこれで分かった。

ア・ヨグの部隊が狂ったように一両の木馬に食らいつき破壊しにかかる、悪鬼の形相で迫るその女怪は瞬く間に木馬一両を残骸へ変えていく、たいした者だ。

その様子を見た敵の木馬は一斉にその車両を見棄てて南下しながら砲撃をア・ヨグの部隊へ一斉射撃する。

「ウルゥゥガアア!」と人間らしからぬ雄叫びを上げながらゲーム中一番レベルの高いと言われる生粋のPKerのア・ヨグとその取り巻き達は木馬を一両道連れにしながら散って行った。

海の民に囲まれつつある私も時期に倒れるだろう。



『オブイエクト大破!くっそ!なんてしつこさだ!』とオブイエクト号から通信を受けた直後にその搭乗員達のMPは瞬く間にゼロとなった、我々はその怪物の群れから距離を取りつつ砲撃を加える。

『あれが噂の人食いか!』『木馬も食われちまったな…。』と軽口を叩きあうも、残りこちらの木馬は3両である。

前方はカーリー号の自爆攻撃により更に竜汚染の緑光に包まれた。

「対空砲手、竜汚染の被害はあるか?」とダンは自らもその緑光に包まれた世界へ身を乗り出し確認を取る。

『Debuffの類や地形ダメージは特に付いてない。未実装だという噂は本当らしいな。』とコベチェンコ号の対空砲手が確認を裏付ける。

「アドミラル、海の民の海兵隊をもう少し強くした方が良い。随伴歩兵が頼りないとこちらに無駄な犠牲が出るだけだ、お前等は現実のタンクデサント以下だ。」とダンはスポンサーの一人である覇王に悪愚痴をこぼす。

「海洋ギルドの宿命だ。それに敵は人食い華の集団だ、魔王軍内でもトップクラスの戦力に丘に上がった河童が勝てるはずがないだろう、だからこうして貴殿に援助をしているのだ。」とご高説ありがたく受け取るが、これ以上木馬と爆弾を無駄にすると当初のハイロンを廃墟にするという計画が失敗に終わる。

ダンはここに来て敵を見習って賭けというか自棄に出る事にした。

「よし、決めた。全車両全速前進!目標は出来るだけ敵の奥地に侵入して自爆だ!」

『おい、スポンサーと連携はしねえのかよ。』『いいぞダン!どうせ死ぬ世界じゃない!好きな様に行こうぜ!』と百足手号は全速前進を開始しそれにぐだーりあん号とコベチェンコ号は後に続いた。



「狭いな。」「今度は1ドラゴン分か、木馬は一両しか出せないぞ。」と冒険者と木馬乗りは口を曲げて前方の警戒と木馬の構築に乗り出す。木馬はリスキーロマ号、道幅が狭い為に一両出すのが精一杯であるが、ないよりはある方が良い。

問題はわざわざ木馬を出せる広さのダンジョンをこちらの侵攻を察してから敵が用意した所にある。

木馬を背中にしながら一同は光神信仰魔法でステルスしているだろうローパーを警戒しつつ進む。

分岐路があればテクチャルの天空神信仰者を偵察に出して素早く行き止まりの有無を調べる。無論、この偵察が敵のローパーに囲まれればその場で嬲り殺しにされた挙句に救助に向かう場合には部隊全体の進行が遅れるのでテクチャルの中で高い生存率を誇る者がこの任に就くが、この地下9階に入ってから不思議とどの偵察兵も倒れずに迷路の開拓を進めていく。

ここまで来て倒れてしまえば再出撃してからの合流は絶望的になる距離だ。


「ワープ床も移動床も無い、ましてや水場も無い。ただの時間稼ぎか?」とルサミナが警戒をしながら前進を指示すると呆気なく地下10階へ続く階段が発見された。

今度の要所である階段も螺旋階段で、下のフロアには暗闇が広がっている。

突如その闇が囁く様に語りかけてきた。

「時間押してるよー。」と、「確かにちょっとやばいな、今で午後9時半だろ?」と最前線のカシヲがその声に何も疑問を持たず返事をしながら階段へ向かっていった。

階下は更に狭いフロアであった、もはや木馬も出せるスペースもドラゴンも通り抜けるスペースも無い。

「竜種やトロルが防衛に来る事はもうないかもな。」「いや、最後の部屋にいるのかもしれないぞ。」「んじゃーそのドラゴンやトロルはどうやって出入りするんだよ。」「あいつら人型になれるのもいるしなあ。」とどうしようもない会話が始まるが、彼等は既にこのダンジョンに入って12時間以上が過ぎている。

これに対して既にルサミナは強く命令等を言えない立場だ、もし味方の心がここに来て決壊してしまえば悲願達成は叶わずサーバーは世界は無常にも過去の憎悪を忘れたようにこの状況を拭い去るだろう。

そんな最悪の未来の予想に両手で顔を覆ってしまうルサミナを見て、パイスが「ルサ、顔ヲ上ゲテ。」と小さく囁いてくる。

私は今そんなに酷い顔をしているのだろうか。ルサミナは憎悪の力で背中を押してきた仲間達を振り返りここにきて後悔の念が生まれてきた。激情に駆られて色々な人を巻き込んだ、たかがゲームの故郷を取り返すのにここまでの時間、人様の人生を浪費させてしまった。

「何今更になって泣きそうな顔してるのルサ?もう戻り道は無いんだから、ほら、いつもの様に前進前進!って言えばいいんだよ~。」とユウファイが私のパワースーツに包まれた肩をバシバシと叩く。

地下10階を彷徨う事1時間、特にトラップは無かったが待ち伏せに適した部屋や通路は大量にあったが、そこらにローパー達は待ち受けていなかった。

一同が進むと目の前に『最後の間』と書かれたプレートがドアノブにかけられた扉が映った。

「最後の間、本当かよ。」とカシヲが呟くが、ダンジョンにしても戦闘にしても、もう既に14時間以上彷徨っている我々にはたいした余力と気力は残っていない。

「これがラストバトルじゃなかったらマジできついな。」「セーブポイントが無いダンジョンってこんなにきついと思わなかったわ。」と緩むメンバーにルサミナは血を吐くような声で「最後まで!戦いましょう!共に戦ってください…。」と声を上げる。

カシヲはその声に首を少し傾けてから、おもむろにその扉のノブを掴み、開いた。



「エルスローン城門残り5%です。」とジノーの報告が届く、ジノーには申し訳ないが鈍重になった俺の眼の役割をして貰い、エリーンには影武者をして貰い。ロドリコとバッシーさんは参謀や敵の特攻対策として身辺を守って貰っている。

「んじゃ、予定調和といくか。アレキシさん、タージリンさん、準備お願いします。」と頼れる大人に手を汚してもらう。

「んじゃ、いってくるでやすね。」「ぼんばー!」とスケルトン一匹を爪に掴み背中に竜心爆弾を括り付けた邪竜は味方本隊より南西へ迂回する様にコビット庄へ向かって飛び立つ。

コビット庄と覇都エルスローンの間に挟まれる様に布陣している我々だが、覇王軍の主力である海洋戦力はハイロンをズタボロに攻めている状況なのでこちらには戦力はそれ程残ってはいないとはいえ、コビット庄からはおよそ500の敵兵と覇都には200の兵士が篭城していると報告は受けている。

更に覇都東の川岸には戦艦が20隻が浮かびおよそ100人のプレイヤーが居る、つまり総合800人前後の敵兵がこの周囲に集まっている。

それに対しこちらの兵力は既に計測が難しいが、1100匹近いのモンスター集団という圧倒的な兵力が密集してる状態である。


愛微笑の中継から流れる竜心爆弾が爆発する映像は見た、とはいえ竜心爆弾の数は既にその製造元に問い合わせているので双方の保有数は判明している。こちらにある竜心爆弾は2つ、本来なら魔王軍では技術的に製造不能であったこの兵器を2つ程、覇王軍の商会ギルドから譲り受けた。

理由は単純、使い道を考える事とゲームバランスを維持する為である。

このゲームの行く末をプレイヤーが考えなければならない、過去にいくつも秀作なMMORPGは存在したが、プレイヤー達の小さな行動がそのゲームの行く末と終末を早めた例は数多い。

「ベータで出来る限り酷い戦いをする。」これが敵味方首脳で一致した意見である。

そして、俺はさっきそのイチギミックを頼れるドラゴンに依頼した。

単騎の竜が飛び去った、これに対応する様にコビット庄から攻めて来る敵が唐突に塹壕を掘り始めたのを遠目で分かった。その後しばらくして西の地平線が緑色に輝き、爆音爆風が微風の様に頬を撫でた。



「赤竜でやすか!?」とアレキシは覇王軍では珍しいドラゴン達に包囲されつつある。

「そりゃー竜人は覇王軍でも序盤に多かった種族でボン。いっぱい居てもおかしくないボン。」と爪に挟んでるスケルトンの松本さんがもっともなセリフを言う。

敵の赤竜は恐らく急造の部隊ではあるが、その動きから天空神を信仰している速度だという事が分かる。

では空戦においてどういう攻撃が有効か?CCは有効か?答えはNOである、理由は双方の相対距離が地上より開き気味になるので射程30mに届かないCCスキルは天空神信仰同士の空戦では意味が無いのである。

「よってたかったうざったいでやすなあ!」とアレキシは威嚇と目くらましのファイアブレスを放ち急上昇しながら雲の中へ逃げ込む。

「松本さん!なんか良い手はないでやすか?」と今では相棒になった機械神から竜神信仰へ転向したスケルトンに尋ねると。

「暗黒魔法、届かない上に魔法の弾速より飛行速度の方が速いぼん。竜神、レベル8の竜眼が25mだぼんね。これなら使えるけど、速すぎて難しいぼん。」とスケルトンは他人事の様に言うが彼に出来る事はアレキシの背中に括り付けられた爆弾を起爆させる以外特にない。

「雲の中から急降下して爆発させる以外ないでやすね。もうこの世界一と自称出来るくらいに飛べるあっしでやすが、爆弾が重過ぎて等速以上の奴等に囲まれると厳しいでやす。」とアレキシはこの作戦がもう少しうまく行くと思っていたのか大きな溜め息を付く。


「落下速度が分からないから合図が欲しいボン、合図から3秒後に爆発するボン。」

「了解でやす、もう起爆していいでやすよ。」とアレキシはスケルトンに不意打ちの合図を送るとすぐに急降下を始め、元は牧歌的だったろうが今では兵士達の再出撃ポイントと化しているコビット庄へ向かい落ちていく。後方からは赤竜が同じ様に急降下を始め、竜達は飛行機雲を出しながら地表を目指した、赤竜達からの天空神信仰による引き寄せ魔法を緊急回避をしながら避け、アレキシと松本は狙いを違わず地面へ衝突の直前で緑色の光に包まれて爆ぜた。



カ!ドドォォン!という音と風を受けた直後にジノーから「城門空きました!」という声が響く、これに対して俺は「全軍突撃!後方は見なくて良い!」と言いながら自らも前進し敵の城門へ突き進む、頭上からは熱した油や4連装砲が降り注ぐが、味方の回復魔法や緊急回避の連打で俺はこれを凌ぎきろうとする、前転を繰り返す巨大なドラゴンがそのまま敵の城門を潜るころには味方の兵士が城門上にいた守衛達を沈黙させる。

ここで止まってはいけない、「全軍、入門後に北上し時計回りにNPCとプレイヤーを轢き殺して回るぞー!」と俺は指示を出しながら今度は建物の物陰を利用する様に動く、直後に敵の艦隊から市街地へ向かって容赦の無い艦砲射撃が飛んでくる。

砲弾が頭上や路上で弾ける中で、「タージリンさん、お願いします!ロドリコ、エリーン!付いてやってくれ!」と俺は予め決めていた人選で本隊とは逆回りに向かう部隊を送り出した。

竜心爆弾の二発目、これの使用方法も既に決めてあった。これは現実でも議論されている話であるらしいが、船舶に対しての戦術兵器は有効か否かである。

敵の艦砲射撃は俺のいる本隊を追い掛ける様に飛んでくる、遮蔽物だらけなのに砲撃が放物線を描いて正確に飛んでくる。つまり覇王城の展望台辺りに観測手がいて、それに従って戦艦が砲撃を加えている事が分かる。すると敵は少数精鋭部隊に構ってる余裕はないはずだ。

北上しながら街の住人や建物へブレスを容赦なく吐きながら突き進む俺はまさに悪竜その物であるが、伝説上の怪物、それよりも悪い事を現在進行形でしている。

東の方角で激しい爆発音と光が昇った。今度は崩れた石材が飛んでくるので情けない話だが、図体のでかい俺は伏せてこのダメージ判定をやり過ごさないといけない。魔王様といえどは高楊枝とは行かないのだ。



「前方に敵3!そーれまっきまきー。」と敵の冒険者を包帯で絡めとり動きを止める、その横をラグビー選手の様に無心に突き進む二匹のトロル。片方のトロルの背中には心臓の様な物が乗っているが、トロルを正面からみた場合はその巨体に隠されて背中に乗ったびっくり兵器に敵は気づく事はない。

せいぜい「お調子者が群れにはぐれて攻めてきた。」くらいの認識しか持っていないだろうが、その考えは実に甘い。

MMORPGにおいて自爆攻撃とそれ専用の構成はよくある話である。それを初撃から見て察するのは難しい、多くのプレイヤーはその技を食らったとしても翌日には忘れて対策を怠るような人間が多いからである。

復帰してきてすぐな無用心である敵の中で対応しそうな動きをする敵だけを的確に包帯で足止めをする、人の顔を伺うのは十八番だ、私がいかに嫌がらせ特化の職が向いているかがよく分かる。

「こんな性格でも愛してくれ先輩ー!」と心で叫びながらと思ったら本音が口に出ていた。

オープンチャットなので先輩には届いていないと思うが、エリーンちゃんにはバッチシ聞こえたなあ。

その証拠にトロルの片方が右手とその親指を空に上げたのが見えた。

敵の艦隊が目の前に迫ってくる、やっと我々の突進に気づいたのか敵艦隊はこのトロル二匹へ向かって短距離砲である散弾砲を打ち出してくるが、私は既にトロルの一匹の頭に包帯を発射し、引き寄せる力と遠心力を利用してトロル達の目の前に飛び出し、包帯の盾を展開した。

敵の散弾を集中的に受けた包帯は千切れ飛び、私の体もズタズタに引き裂かれるが、包帯に隠れて並走してきたシルフのピヨリンさんが血神信仰魔法でトロルの背中にある竜心爆弾を起動するのが見えた。

『再出撃しますか?』という文字が黄金のマスクを桟橋に落としながら転落する私の画面に表示される。

いや、もうちょっと見守るよ。とその直後に私が守ったトロルの巨体が姿を消し、敵の船団の中心にいた旗艦だろう場所へワープしたのを見た。



ズドン!という音と共に甲板に突如トロルが現れ「よう!お届け先はこちらでいいかな?」とにこやかな顔で尋ねてきた、「くそ!俺も貧乏くじかよ!」海の民アルマースは呟いた直後に視界は緑の光に包まれた。



「敵の木馬が突撃してきたぞー!」「馬鹿者予定外だぞ!」『ロードキルはあるのかなあ。』と様々な回線で阿鼻叫喚の声を拾う、変わり者のダンは全てに聞く耳を持たず、にハイロンの城門に突っ込んだ、モンスター達がその木馬の突進に体を乗り出し止めにかかるが、これに対してはベコン!という音とアライメントポイントの増加という解答を出して終わる。

「ぐだーりあん!北上しろ!コベチェンコは俺に付いて来い!」とヤケクソ気味にダンは叫ぶ。

『ぐだーりあん了解、オープンベータもよろしくな!』『コベチェンコ了解、先に逝かせて貰うぞー!』と狂気で陽気な仲間達の木馬が敵の出遅れた迎撃の雨を突き抜けてひた走る。

北西で緑の輝きが起こったのを見た、直後に爆風を背中に受けて速度を早める百足手号、コベチェンコ号はその衝撃と敵の迎撃で足回りをやられたらしく、その場で動きが止まる。

『ダン!ここまでだ!またな!』と短い別れを告げるコベチェンコ号に百足手号は背中を向けた直後に激しい爆発に巻き込まれたのを感じる。百足手号の耐久力は残り3%、爆風を受けながら北上しているとベリ!という音と共に木馬の外壁がはがれた。その部位って壊れるんだな、とダンは思いながら木馬の穴に近寄ると、その隙間からおぞましい茨の触手が木馬内に飛び込むと同時に、美しくも禍々しい女怪が車内へ踊り込んで来た。

刹那、ダンの首辺りに赤いエフェクトが走り、ダンのMPは一気にゼロへ持っていかれる。

「人食いめ!」「特攻馬鹿が!」とお互いが罵りあう中で、車載してある件の竜心爆弾を起爆手がこっそり作動させるのを見た。

「ちっ!まずい、どうすればいいでありんす!?」と女怪は怒り顔を見せながら起爆手を血祭りに上げるが、そこへ更に割り込んできたネレイドの女が竜心爆弾の目の前に滑り込み手をかざすと破裂寸前であったその爆発は動きを止めた。

「竜心爆弾は血神で停止可能か、設定上なら死神でもいけるらしいぞ…。」とネレイドは呟くと、木馬内にある魔王軍ラジヲを流している木箱が「最後の竜心爆弾起爆停止に成功したらしいですよー!ブイー!」と呆れるほどに明るい声を発した。


再出撃しますか?と表示される画面にダンは残心の気持ちで『はい』を選択した。

・魔都ハイロンの東等

ワールドマップに表示はされていないが、北に竜神が巨体で海を通せんぼしている以外の東西南は地続きである、西にはジャングルが広がり南には果ての砂漠という不毛な大地、ロンハイ東には魔界と呼ばれる土地がある。実装は拡張パックとしてされるらしい。


・レイドや戦争で人を集めて失敗した時のつらさといったら。

ネットゲームにおいてこれ程きつい物は無い。今後の信用問題云々ではなく、意図せずとも無計画かつ無謀な冒険で失敗をしてしまった時にリーダーの心が折れるか折れないかでそのゲームのリーダーの数が決まると言っても過言ではない。レイドを失敗させたリーダーを叩く風潮のあるゲームや勢力は基本的に弱体化して行く。そうなると強いリーダーと身内兵士を育てるゲーになっていき、結局廃人コースやんけ!となるのがMMORPGの基本である。

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