B055.特技は魔王とありますが?
「左翼コビット庄よりエルフ共が攻撃を開始してきましたが、いかが対応しますか魔王様?」とオークの副将がメガネをくいっと上げながら尋ねる。
バランス調整の為に敵の大物に出馬を要請した以上、それらしい対応をせねば今後ゲームをしていく上での『信用』が揺らぐ、茶番を仕込む。
茶番というのは普通に戦う事よりも難しく、ドラマティックかつ大円団の終末を目指すにはコネは勿論にして誠意も必要となる。
機械仕掛けの神はいる、だが彼等はフルオートではなく我々出演者の努力も求めてくる物なのだ、世界はそういう物なのだ。
「アルカントス将軍に出馬を願いますか、敵に強い手札出させてこちらも使わないのも失礼ですしね。」と俺は応え、オークの老将へ出撃の依頼を出す。
すぐに返事は来た、YESやNOではなく「エールートは左翼ですか?城門ですか?」という内容である。これに対しては現在調査中としか答えられない。
エルフの女王は確かに目立つプレイヤーだが、似た様な外見を作るエルフが多いから影武者みたいな奴が多くいる。冷静に考えると過去のファンタジー作品のエルフはどれも似た様な外見をしているだろう?今の彼等がまさにその状況なのでモンスターを見慣れてしまった俺にエルフを見分けるのは結構きつい。同じ犬種の犬をずらっと並べられて当てろと言われる様なもんだ。
似たり寄ったりのエルフを見極めれるのはローパーかオークくらいなので、そこは将軍達オークに期待したい。敵将の位置は侵攻作戦においては実に重要な情報である。
エールートを巻き込んだ以上、奴は半端な攻撃はしてこない。これはマギラ2でカラシさんのリードの下で何度も挑み負けた記憶からある通り、奴は勝てない戦いには絶対出てこない。
エルフのプライドを維持する為にはどんな手でも使う男だが、さてはて、相手が魔王だった場合のエルフは常勝であったかといえば古典ファンタジー理論で言えばNOである。
つまり、エルフは魔王に負けてもエルフ性を失わないから負けてくれる可能性もある、と信じたい。
「左翼に天魔の木馬隊とオーク及び天魔の歩兵を当てて、右翼エルスローン攻略にギルドDDD主体と野良募集で集めた人々と爆撃隊を使う。」と俺は様々なチャットチャンネルを使い分けて指示を出す。現状の俺はノッシノッシと進む通信指揮車みたいな物である。
「そすっと先輩の周辺の防備がやばいっすよ。」とロドリコがもっともな事を口にする。例えばこの状況でコビット庄から攻撃を仕掛けてきている戦力が突然覇都に集結してからこちらの大将首、つまり俺を戦闘不能に出来れば敵の防衛的勝利は成立する。
故に俺の師匠筋に当たるカラシニコブは執拗に親衛隊を組織し維持していたが、今の俺にそこまできっちりした身内は多くない、風呂から上がって夕飯を食べた後に参戦したジノーとエリーン。木馬の指揮を獲るレオさん、参謀のバッシーさん、偵察に専念して貰っている最速ドラゴン、アレキシさん。ヨグの姉御とナイトさんと愛微笑はハイロンの防衛と中継に回ってもらっている。
覇都と魔都、ダンジョンと違い元々存在するいわゆる種族ホームにはチュートリアルとボスキャラを兼ねるNPCはいるものの、そのホーム自体を占拠出来る自勢力が無い。
敵対勢力はホームをダンジョンや要塞で封印する事は出来ても、防衛側はギルドでホームを「我々の所轄である。」という意志を示すことが出来ない。これはシステム上の設定に不備があったか、わざと落とされ易くしているテストだったのであろう。
どの道システムに踊らされているのが現状である。しかし、まだまだテストは終わらない。
ゾーン及びいくつかのチャンネルでオークの将軍より皺のかかったボイスチャットが響く。
「魔王より全軍出撃の依頼がありそれを承諾、よって今を持ちまして『風雲火神城』は閉鎖させて頂きます。今までご愛顧ありがとうございました。グリーンボアギルドマスター、アルカントスより。」
という拠点放棄宣言が響き、それに応じて様々なホームや狩場より敵味方が更に増えていく。
「左翼、突出せずに防衛を重視しながら100m程北上して下さい。」と方面指揮官をして貰っているレオさんに指示を出す。レオさんは「指揮なんてオイラしたことないよ。」と最初は嫌がったが、今では木馬の上でノリノリにジャンプしながらシャウトチャットで指揮を執っている様子だ。
左翼の敵は冒険者及びエルフの混成部隊、的確なCCと視界妨害、塹壕戦のプロである敵に対してこちらも歴戦のマリッドの姉御が率いる歩兵と対塹壕兵器である木馬を全てぶつける。
覇都は既に敵の防衛長距離砲がこちらの前線へ届く状況なので、俺はこれ以上前には進めない。ただのでかい的になっているからだ。
かといって人型になっても見た目が小さくなるので味方の戦意高揚を妨げてしまう、軍団においては象徴が分かりやすいというのはとても重要である。
覇都攻略の前線指揮官はイゾログ君である、こいつは典型的な「突撃!」しか言えない猪武者だが、こういう場面では実に頼もしい。賢すぎる指揮官が集まり過ぎても戦争というのはうまく進む訳でも無い。賢い参謀はいくら居ても良いが、参謀には戦闘支援も出来て欲しいのは少しワガママな願いか。
現状は勝っている様に見えるが、実に様々な所へ手を回し、ワガママを乱発しているだけの暴君にも見える。しかし、魔王ならそれくらいで良いんじゃないかと俺は自己正当化をしておく。
「自己を正当化出来ない人間に人を使う事はできんよ。」という言葉がドワーフの声で脳裏に過ぎる。
「補給路の分断部隊が敵から出たようです。」「方向は?」「砂漠方面からです。」「イベリウスさんに駄目もとで頼んで、駄目だったらそのままでいいですよ。」と俺は敵の補給線分断作戦を見過ごす様な返答をするが、正直に言うと『俺個人』から影響を与えれるコネでの動員はもう既にキャパシティーオーバーである、そうなると別のコネを持つプレイヤーを巻き込むしかない。
現状で補給線を切られて困るのは最前線で「オラオラー!魔王軍根性見せてやれー!」と突撃を繰り返し手勢の死に戻りを繰り返すイゾログ君である、そこへ「補給線に敵だよ。」と情報を流してやればたとえイゾログ君が突撃馬鹿だとしても、その副官であるハリュオンさんが事態の深刻さに気づき補給線分断を防止する部隊を組織してくれる。ほら、世界は機械仕掛けの神で動いているだろう?
更に言えば、今回の戦いにあの最悪の商会ギルドである『Destiny trading』は物理的な介入をしてこない、理由は彼等の頭領に『バランサー』を依頼しているからだ。
はっきり言う、対人ネットゲームは『見えざる手』に全てを任せたらクソゲーになる、これはカラシさんが常日頃口にしていたワードでもあるし、俺も同意見である。
戦場に裏方が必要な様に、ゲーム世界にも裏方は必要になる。
運営がそれをやるべきだと主張する人も多いが、開発や運営にも事情があるのだろう。ヘタなてこ入れやイベントを打てば失敗した場合の責任は取らされても、成功した場合の評価は無い典型的なサラリーマン状況なのだと思える。
草原で盾を打ち合い剣舞を繰り広げる勇者達、城門で塹壕を掘り進みながらお互いの砲火と爆撃に怯えながら進む英雄達、彼等の物語は脆く儚い。伝説が伝説たりえるのはその奇跡が起こる確率とそれを観測される事態の上に成り立つ、作られた世界ではそういった伝説は自らの手で作らなければならない。
「顧客満足度アップに貢献。」と俺は小さく呟くと、俺の背中に跨るエンシェントマミーのロドリコが、「大学行かないで就職先はネットゲーの会社にします?」と嫌な囁きチャットを口にする、「俺にゲーム製作の歩兵に必要なプログラミング才能は無い。だから大学に行ったら社会学を学びたいんだ。」と周囲には聞かれない囁きで返した、「ハハッ!ゲームで魔王様してる場合じゃないっすね。ちゃんと勉強しないと。」と言われるがお前に言われるのは癪だな。
「ネットゲームで魔王をして人間や街を滅ぼして回りました。これって好印象アピールかな?」と囁き返すも、「フフッ、反社会的かつ破壊的、尚且つ用意周到。そんな人間うちの親父くらいしか高く買わないっすよ。」というロドリコの笑い声が耳をくすぐる。
となるとこの時間はただの贅沢なごっこ遊びになるな。だが、俺はこの時間に後悔などしないだろう。
「爆撃隊、長距離砲の妨害及び破壊を重点にして下さい。炸裂及び四連砲の射程外ギリギリまで俺も前進します。」とスマグウさんとシャンコさんに伝え、俺は更なる前進をした。
「カラシニコブと!」「アドミラルの…。」「「マギラ3戦争実況配信。」」「パフーパフー。」
「どうしたアドミー、元気ないな。五月病なのか?ワシは北海道育ちだからよく分からないんじゃよゴガツビョー。」
「カラシニコブさんはそういうのなさそうですからな。後、北海道はたぶん関係ないですよ。」
「ああ、ワシは嫌だったら学校も会社も普通にサボるもん。」
「不真面目な、だからご家庭が酷い事になるんですよ。」
「くっそ!誰からそんな話を聞いた!エールートか!?」
「いえ、ずっと黙ってましたけど、私は元々ギルド永久凍土のギルメンですよ?」
「うっそだー!・・・マジデ?んじゃ今回の戦いって全部横繋がりありですやん。つまんねー!」
「冷静に考えて下さい、続編で尚且つクローズドベータですよ、客層がかぶらない訳がないでしょう。」
「それでも新規プレイヤーとかさ!客層広げるとかさ!そういうのあるじゃん?」
「現状、このゲームはマギラ2より尖ってますよ。むしろ今が一番ユーザー多いんじゃないかなとは思うのですがね。」
「悲しい事言うなよ、確かに正式サービスよりベータの方が盛り上がったゲームは星の数ほどあるけどよ。ところで今そっちはどんな塩梅じゃ?」
「黄金のシロッコ艦隊でハイロンの城門を崩して、そろそろロンメルファントムの揚陸を始める所ですよ。」
「ノルマンディー!ダダダダダ!」
「いや、これだけ艦砲射撃してるんですから揚陸妨害なんて無理ですよ。そもそもここまで霊炉と竜炉を用意したのは貴方でしょう。」
「ちぇ、もっとクソみたいな展開になって欲しかったんじゃがな。」
「ベータ1でゲームの息の根を止めに来ないで欲しい、運営はすぐにこのドワーフをBANするべきでしょうな。覇都周辺は現状かなりまずいらしいですが、こちらも艦隊が控えてますのでタダでは負けないでしょう、それにエルフの女王も居ます。」
「え?あいつがニンゲンの都なんて守ると本気で思ってるの?」
「え?そこまでの人だったんですか?」「そうじゃよ…。」
「こちら魔王軍ラジヲのレポーター前々魔王の愛微笑です、えっへん。どうやら敵さんはハイロンへ対して『変わり者のダン』率いるロンメルファントムの木馬隊を出してくる様子です。いやー、木馬って倒すのがきつい上に戦艦からの援護も受けてますからねー。正直お手上げと言いたいのですがベストは尽くしましょう、おー!という事でこうやって長距離砲を操作してる訳ですが、偏差撃ち?っていうんですか、敵の艦隊って微妙に動いてるから先読みしても結構はずれるんですよね。え?お前へただから砲手すんな?いやーそう言われるとおつらい。では敵の戦艦と木馬の展開する状況をご覧下さい~。」
脇に抱えた木製の箱が少女の声で状況を説明している通り、変わり者のダンは木馬を展開しつつある。
今回出す木馬の素材はランク8、つまりレベル40相当の材料を使う木馬隊である。
搭載エンジンは竜炉の乙式、これは覇都の艦隊より取り外した竜炉をハイロン攻めの旗艦に差し替えて、その旗艦に元々積んでいた最高の竜炉をこうやって木馬に搭載するという覇王様直々の指示と援助だ。
貧乏くじに当たる天魔のダンジョンに残してきた4両と12人には悪いが、俺はこの最高の木馬で花形を飾って見せる。
木馬が組みあがると次に大砲と竜炉を搭載する。木馬内のギアが血神魔法により脈動し始めた竜炉より突き出たコンロッドに押され回転を始める。霊炉と違い竜炉の始動には血神か竜神の信仰魔法が必要になる、レベルは0でも構わないらしい。
今まで木馬に竜炉を積載出来なかったのはこれも理由にある、木馬乗りは大体砲弾が切れる事を想定して機械神か火神を信仰する。今ではその取る事すら難しい信仰ではあるが、ロンメルファントムは多少の無茶をしてでもそれらを獲得した根性のあるメンバー揃いだ。せっかく取った信仰を竜炉の起動だけに捨てる訳にはいかないので、今まで使う機会はなかった。そもそも竜炉が手に入らなかったのもあるが。
『ブラボー、ぐだーりあん準備良し!』
『チャーリー、カーリーよーし!』
『デルタ、タイタントリオン。行けるぞ。』
『エコー、オブイエクト。オッケー。』
『フォックストロット、散る葉。良し。』
『ゴルフ、コベチェンコ。いいぞー。』
「全車両に告げる、敵の長距離砲及び中距離砲に警戒しつつ蛇行しながら敵の城門真下に張り付き衝角攻撃及びゼロ距離射撃により開門を目指す。その後は各車両に搭載済みの新兵器を状況次第で使用する。よろしいか覇王?」とダンは覇王と各木馬に乗り込んだ死神達に、「本当にやるんだよな?」と確認を取るように尋ねた。
・軍団の象徴
旗は軍団においてとても重要な役割を示すのは古代から近代までの基本であるが、現代戦だと隠密性を重視するので隊旗は近年見かけられなくなった。理由は良し悪し関わらず教育法の発展である。
・自称ネットゲーム開発関係者
長年ネットゲームをプレイしていて3人だけそう自称する人間を筆者は見かけた。
様々なタイトルのゲームが生まれては散っていく時代なのでそういう人間が自称ではなく本当にそうだという可能性は否定出来ないが、彼等は口を揃えて言うのは「お上が冒険を嫌がる。」というワードなのがおもしろい。
最近のソシャゲーの流れを見ると確かになその言葉に納得が出来る。
それにFF11で黒字を出す前の日本MMORPG業界は本当に儲からない時代だったから仕方ないか。
恐らく今もそこまで黒字でも無いだろうが。




