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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
人外魔境に咲く花
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B053.ハイとローファンタジーの境界

「あああああ!!」とルサミナが地団駄を踏み怒りの叫びを上げる、その姿をこいつ頭大丈夫かよといった視線で眺める変わったヘルメットを被った人狼と白装束死神。そこへ更に赤と黒の色合いの甲冑を着込んだ吸血鬼が、「ずいぶんと荒れていますね。」と言いながらこの指揮所に足を運んだ。

「ギルドダークハイチュウ、招致に応じて掛けはせ参じたが、状況は半分ちょいで足踏みか?」と吸血鬼は長い牙を見せるように笑った。

「案の定、ダンジョンボスが強い。木馬の展開が出来るスペース確保まであいつらを押さないと進めないぞ。」と変わり者のダンが困った顔をして肩をすくめる。

「第一次特攻は敵の統制と対策ユニットにより失敗に終わった、成功はクールタイムの都合上で不意打ち狙いにしなければ厳しい。」と死神は他人事のように語るが、まぁこいつらからすればこの戦いは他人事である。


「そのくだんの特攻対策ユニットである魔王にうちのドッペルゲンガー達をぶつけて潰してしまおう。」とジャロニモは対人戦における強キャラ封じの基本策を提案した。

ルサミナがこのギルドに支援要請を送った理由の一つには、彼等が吸血鬼に限らずドッペルゲンガーを多数保有しているのも大きい。ただし一つ問題があった。

「邪魔なユニットは魔王だが、あいつがタンクタイプにリスペックしてるらしくて木馬と同等かそれ以上の強度を持っていてまったく進めない、ドップの変装レベル10でどこまでアレをマネ出来る?」とダンはドッペルゲンガー達をただの妨害ユニットではなく、即席の木馬に使えるかも尋ねる。

「ボス属性のコピーは不可能だ、故に真贋はすぐに見破られるがあの魔王の巨体だろ?恐らくゲーム中一番でかい外見だ、こちらのドップが変装してもお互いの射線と範囲攻撃が命中してドップが先に倒れる。」

と吸血鬼は早速ギルメンを捨て駒に使わないといけない状況に嫌悪の表情を作る。

「ドップは変装後に敵が使う血の絆の恩恵は受けられるか?」と死神の瀬戸本が目を細めて尋ねてくる。

「答えはイエスだ。ドップの変装すごさは敵のBuffも受けられる所にある、そもそもコピーを受けた時点でその対象は勢力もMP表示も不明になる訳だからな。」と恐らくこの中で一番PvPに詳しいかもしれない吸血鬼は答える。

「ほう、ならば簡単じゃないか。全てのドップで同時に魔王に変装してそのドップをボスごと竜散で焼き殺せばいい。」とダンは他人事のように言うがダンからすればやはり他人事である。

「ちっ。」「それしかねえか。」とギルドメンバーに「片道切符」を指示する事になる吸血鬼と死神は嫌そうな顔を作った後に苛立つルサミナへ魔王封じの秘策を提示する。

しかし、ダンもジャロニモも瀬戸本も生粋のPvPプレイヤーである。ここで片道切符から復帰してくる味方の移動経路、つまり補給線について心配が出来てくる。対人MMORPGにおいては戦闘不能になる前提の攻略方法は補給線が一番大事になるのだから。



「敵のウェーブ来ます!」と俺の目の前を撃ち落されずに飛びまわるジノーが可憐な声の警鐘を鳴らす。

敵は相変わらずの死神と思いきや、敵のタンクに隠れる様に進んでくる歩兵である。

新しい工兵か?と思った瞬間に、その追加の歩兵達は敵のエルフ達による風魔法の吹き飛ばしを背中に受けて一気に俺を囲む様に立ち、その直後に巨大なドラゴン、つまり俺の姿に変じた。

左足フットペダルを操作して外部チャットツールにチャンネルを素早く切り替えた俺は「後退する!俺ごと砲撃して退路を確保してくれ!」と素早く伝え、俺は防御耐性を取る。

その直後に後方に控えていたスケルトン達が一斉に機械神信仰魔法マシンボルトを連射し、俺とその偽者達をもろとも串刺しにしていく。

「血の絆は使わなくていい!奴等はスキルスロットをいじる時間がないはずだからバグボディをすぐに使えないはずだ。」と戒めるが、つい癖で血の絆を使ってしまった味方がいたらしく、体力を大幅に削られた俺とその周囲を囲む偽者ドラゴンのMPを均一化してしまう、そうなるとレイド全体のMPは一気に2割近く減る事になる。

「スケルトン隊!魔王様に当てないように攻撃するんDeath!」

「妹達よ!血の絆はまだとっておくでありんす!」と突如敵が繰り出してきた基本的な奇策へ味方の指揮官は無難な対処を徹底させるが、この混乱に続いて敵死神の列が俺や後衛に向かって突撃の構えを取っている。


死神が緑色の光を発し爆発していく、周囲のドッペルゲンガー達はその爆発とスケルトン達の砲撃により瞬く間に溶けていくが、俺の残りMPもかなりやばい。せめて竜散の属性が他の属性になればと思った瞬間に、がりるんが俺の前方に飛び出して果神レベル10のスパゲッティーコードの魔法を展開する。効果は周囲敵キャラクターの攻撃属性をランダムに入れ替えるDebuffを与えるというこういう場面でのみ活躍する微妙スキルだが、ローパーは固定レイドで戦う為に弱点である火や光属性対策にこれを所持する場合は多い。


更に後方からは魔都ロンハイからダンジョンに戻ったナイトウィンドさんが水魔法のバブルラップとミストフィールドを発動し敵の範囲攻撃の弱体化を図る。

「少年、待たせたな…。」と中性的なネレイドのお姉さんが俺の後ろに立ち、その更に後ろには悪魔の少女愛微笑が敵のドッペルゲンガーと死神に対し暗黒魔法をそこそこ的確にぶつけている。

「私は魔王軍ラジヲで実況してますので、あまり支援は期待しないで下さいねー。」と危機感が無いのは相変わらずだ。

「オラー、来たぞ!チマチマ戦ってねえで攻めるんだよ!」とオーガの姉御が新たに出現した偽者のドラゴンの脛を巨大な鉄槌で思いっきり殴りつける。それに隠れるよう付いてきたゴブリンのレオさんが敵の死神に対して弓矢で牽制と足止め、爆発後のトドメを刺しに行く。


とはいえ敵もただのヤラレ役ではない、意志と目的の定まった人間である。奴等は俺から連続発射されるブレスに怯む事無く、盾を構える役、その後ろから削りにかかる役、癒す役ときっちり決めてにじり寄って来る。

目の前でまた緑色の光が弾けた、久しぶりにキル取られるのかなと思ったその瞬間、目の前にシルフの少女達が躍り出て死神の誘いをその身を挺して受け止める。「ジノー!ピヨリンさん!」

バシュドン!という音と共に爆発する死神達の爆風を受けてシルフ達は一瞬で灰になり、ドロップアイテムだろう薄緑の美しい羽や風輝石をキラキラと輝かせながら地面へ落としていく。

「先輩、思いっきり下がってください!ここはもう持ちません!」とロドリコが叫んだ瞬間に俺は奥歯をかみ締めながら後方へ緊急回避を行うと、その直後に「フルルルゥ!」という笛の音が響いた。

まずい!「全軍前進!」と俺は外部チャットで指示を出すが、その命令は外部チャットに接続している指揮官同士にしか繋がっていないので2テンポ命令が遅れた。


その敵味方が攻撃不可能になる湖神信仰の『和平の笛』が響く直前に敵のタンクはこちら側へ思いっきり走り寄って来ていて、空中には自爆する為に飛んでいた死神がフェイントをかける様に空中を飛びまわっている。俺のすぐ目の前には敵のタンクとそれに守られた戦士達、その更に後ろには距離を詰めてきた敵の指揮部隊だろう集団がいそいそと木馬を構築し始めた。


地下6階の防衛も厳しいか、射程距離が長い砲門を持つ木馬二体と15m程度のブレス射程しかない俺が正面衝突した場合は勿論俺が負ける。

よくファンタジー物vs現代兵器が題材の作品は見かけるが、そもそもドラゴンは中世の伝説的な英雄にすら負けているのでモドキといえども戦車二両に勝てるはずもない。

以前のギルドマスターが口にしていた、「精度の高いミサイルはグングニル。レールガンは太陽神の怒り、レーザー光線は魔眼を超え、核兵器はインドラやソドムの天災をも上回るだろう。そして死神の病は絶たれた。では人と神の『力』の境目は何処だったのだろうか。魔法と科学の境目とも言えるがな。」という言葉を思い出す、俺はその時には「ハーバーさんかノーベルさん辺りが境界じゃないですか?」と答えはした、とはいえここはハイファンタジーの世界ではなくローファンタジーに近いMMORPGである。

時には騙し合い、奪い合い、気まぐれの様に信じあう、俗な世界だ。

いくら設定がハイファンタジーでも現実の人間だらけのローへ向かう物語。


木馬に対して塹壕を構築して地道に敵と味方で殴り合いをするしか無いか。となると俺は次の分岐路の角で待ち伏せをする役に回らないとただのでかい的であり、はっきり言って味方ヒーラーからすると厄介者である。

そうなれば俺はその姿を巨大な竜から人型の姿へ変じると、味方の最後列に付いて情報収集を開始する。

敵の死神とドッペルゲンガーが再出撃している場所と移動経路があるはずだ、それを潰さなければ着々とダンジョンは攻略されていく。

時間は現在午後3時。ちょっと疲れたからおやつでも食べるかと戦線から下がった後、俺はHMDとハンドコンソール、フットペダルをはずし。真っ赤なルイボスティーで甘いカステラを胃袋に流し込みつつ考える。

天魔のダンジョンとDDD要塞と幽霊船のダンジョンとスワンプマンのホーム、このゲームの禍根は偶然の流れと言えどここにある。たかが数日といえどホームを奪われた人々はそれがヒロイズムを得た様に奪還を目指し思惑を複雑にしつつある、そこから利益や愉悦を得ようと企てる者が追い討ちをかける、現代世界の縮図だなとは思うが、これらを全て清算しなければならないだろう。

それが魔王の努めである。

そうなれば人は魔王を求める者なのだろうか、では本当は誰が魔王を演じなければならないのだろうか。

複雑に絡み合った運命は解かねばならないだろうか、善悪は必要なのだろうか。

俺はただ一介の高校生だが、答えは持っている。だが、それを果たすには一人では無理だ。


俺は外部チャットツールにより『マギラ3ちゃんを救う会』に入り一つコメントを残しておく。

「世界は魔王を欲している、故に魔王は世界の協力が必要になります。」と、言っている方も実はそれほど理解できていないアヤフヤなコメントを打ち込む、すると。

カラシニコブ:プギャー、お前本当クソ真面目だな、将来苦労するぞ。

という嘲りと同情の言葉を師匠とも言えるドワーフから受け取った。


「あ、ビータさん。敵の補給基地見つかったでやすよ。」とアレキシさんから情報が手に入る、偵察して補給線を見つけるなんて経験値にならない損な役回りをして貰っているこの邪竜には当初抱いていたチャラそうな駄竜の面影は無い、じつに頼れる仲間だ。

補給基地と補給線の発見、つまりそこを叩くための部隊が必要になる。やるとしたらスケルトンのシャンコさんと亜竜スマグウさんの合同爆撃部隊だ。敵の補給基地には爆撃が有効なのは現実の戦争でも一緒である。

「爆撃隊へ、敵の補給基地発見により爆撃をお願いします。座標はグラハティア南西の熱帯雨林地帯だそうです。」

『ギルド骨骨骨了解Death。』『ギルドスカイマスター。スマグウ、承知しました魔王殿。』

後はこの情報をイゾログ君とイベリウスに伝えて敵の戦力を削いで貰うくらいか。

そうなればダンジョン内部のスケルトン部隊が補給路の破壊に加わるので防衛戦力は落ちるが、爆撃と敵の分断により敵の足並みが崩れたほうが利益は出る。


問題は天魔のダンジョンに有らず、故に俺は次のプランを練らなければならない。

敵の補給基地を叩く為の情報を魔王軍HQへ流すと同時に今後の動きと自分の信念をイゾログ君とイベリウスに理解して貰いたい。

耳元に聞こえる幻聴、「根回し、何事も根回しが大事じゃ。」とカラシさんは耳にタコが出来る程に言っていた。

・戦史とゲーム

筆者は古代から中世戦国時代が子供の頃から好きだったのでその時代題材の本ばかり読んでいたが、対人MMORPGをやり始めた頃に近代の戦史も勉強し始めた。

僕が考えた最強のMMORPGを想像する人はネットゲーマーなら少なくは無いと思う。

いつまでたってもEQクローンばかりと言われるこの業界にウンザリしているはずの人は多いはずだ。故に色々なジャンルと戦闘システムを考えなければならないのだが、未来的な戦争も視野に入れたとしても、魔法という物を科学にすりかえれば今後出るゲームは三次元的かつ近代的な戦いになる。

ゲーム技術が進歩すればおもしろいかどうかは不明であるが、そういった進歩はこれから起こるだろう。


・余談

日本ではまったく進んでいないが、現実で将来主兵力になる無人兵器はゲーム操作と同じであり、FPSをやり込んでいた人間はライフルを当てるのもうまく、アメリカの研究ではFPSゲーマーは人に引き金を引くのに躊躇が無いという話もある。

不謹慎な奴だなと言われるかもしれないが、そもそも現実スポーツの野球がまさに戦争の訓練になるスポーツであるので、気づかないだけで実は軍事訓練をしている人は多い。

元野球部員の自衛官が歩兵突撃と手榴弾投擲では実に驚異的な結果を出すのが証拠である。

なおライフル射撃は別にうまくならん模様。


・根回し

現実で部下を持ったり営業をしたり、ネットゲームでギルドマスターをすれば分かるくらいに大事な行動。よくコミュ力と誤解されがちだが、根回しや横つながりはコミュ力と違う区分であると思う。

だって筆者ですら出来る事だから、少しの勇気とメモ帳さえあれば誰だって出来る。

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