B042.オークロード
ギルドDDD要塞から北東部戦線、前作から将軍と名高いオークの頭領アルカントス率いるオークの精鋭部隊と野良募集で集めた魔の軍勢はその老将に率いられ、敵東部覇王軍を覇都という敵最重要拠点を背中に残すまでに追い詰めつつある。東部戦線異状なし、敵も天才でも凡庸でもない手堅い指揮官だろう。数で勝るこちら側からの連続攻撃で決壊せずに後退防御の姿勢と斜線陣を崩さないのは凡庸な指揮官には出来ない戦い方だ。
指揮官として自分は確かに経験は豊富である、どのMMORPGでも常にオーク種の頭領の立場に辿り着き、現実でも退職したとはいえ元々は多数の部下を持っていた身だ。ただし、自分とて無敵や無失敗では無い。
この前線では重装備に身を固め剣と盾を構えるエルフと弓と杖を構える長いローブを纏ったエルフ達が緑色の肌を持つオークの大男と必死に戦っている。オークと魔物vsエルフと冒険者達、この戦いに勝利での終わりを私は望まない、私は指揮官として失格である。
「時よ止まれ。」
自分語りになるが、私がオークである理由は自身の少年期に流行ったサブカルチャーでのエルフに対する強い憧れの思いが曲がった結果であった。
本の中から憧れであるエルフの想像を巡らせるだけだった身から、いざ自分がエルフに演じられるTRPGやゲームが出た頃には自分の心に違和感と汚れがある事に気づいた。内なる理想のエルフ像が高すぎて自分の熱意と期待に齟齬があったのだ、エルフは熱意とかあまりなさそうだから。
心からエルフになりきれない、でもエルフと戯れたい、その選択の答えがオークである。
ファンタジーの聖典にはオークはエルフを魔改造して生み出された残虐な兵士という種族であると書かれている。つまり、それは歪んだエルフの形であり自分と合致した種族だと悟ったのだ。
という悟りの話をポロリと口に出した日から周囲のオーク達は共感を示し、エルフの中からもオークへ転向する者が出だし今に繋がる。
エルフを襲撃したり反撃されたり、それは至福の時だが、そこへ近年驚きのエルフが現れた、そのエルフ女の青年をエールートと言う。彼もまた狂気的なエルフ信者であった。年齢は私より1/3程度だろうその青年は理想のエルフという姿を現していた。そのプレイスタイルは頑固で規律に厳しく時に陽気で残酷な凡人ならざる性格と神経の太さである完全無欠のエルフであった。
若い頃の私がエルフになれないと悟ったのは自己の変異性という人間の枷である、人は変わる者だ。
しかし、このエルフ狂いは突如現れたマッドサイエンティストに「今からお前をエルフに改造して不老不死の存在にしてやる。」と言われても「では、お願いします。耳の長さは縦長タイプで長すぎずにお願いします。」とサラリと口に出せる様な人物である。
私はこの若者に対して尊敬と憎しみと憧れと悲しみの思いを抱いた。最初は味方陣営であったので彼のエルフ性がどこまでエルフしてるか計ったのだが、これが本当にエルフをしている。お前ゲームじゃなくてエルフプレイがしたいだけだよなというその完全無欠さが私の心にチクチクとダメージを与える。
「時よ止まれ、お前は美しい。」その文言を心が痛む度に心中で何度も唱えられる。
「時よ止まれ。」と私はもう一度小さく呟いた。
すると副官のオークが、「将軍、後方より敵が迫ってくると連絡がありました。」と、この美しい戦いへ水を注す勢力の到来を告げる。
「敵がこちらの補給路分断に成功したのか?」と私は脳内がエルフ畑になっていたので状況を目や耳で確認出来ていない、よって目と耳の役割をしてくれる副官に仔細を尋ねる。
私は老齢な為に副官が必要というポジションを維持している為に戦闘中に別の事を考えても咎められる事はない。
「将軍は御歳を召されているから我々が補佐せねばならない。」という刷り込みはオーク達には既に徹底されている。
「いえ、報告元は新たに加わった補給路を防衛していた部隊からです。こちらへの強行突破に成功した勢力があると。」と副官は不揃いな牙が生える口を動かす。
その状況を頭の中のエルフ畑を焼き払い指揮官としての思考に切り替え考える。
「意図は読めた、前方敵の突撃とCCに備えろ。それとイベリウス君がそろそろこちらに来る頃か確認を取ってくれ。補給線防衛部隊にはそのままこちらへ向かってくる様にとも伝えてくれ。」と私は指示を出す。それを聞いた副官は「後方からの敵への対策はしなくてもよろしいのですか?」と真っ当な進言をするが、「敵中突破や背後強襲ってのは浪漫はあるが、混乱しない相手には意味がない。ましてやネットゲームは時差なしの無線通信がデフォルトで存在するのでそういう作戦は見つかった時点で失敗だ。我々に対しての奇襲にはならない。」と答え、「全軍、防御体制。目標1分間、後方から敵が来るタイミングで前方敵が突撃をしてくる。それを凌ぎきれば我々の勝利だ。繰り返す!全軍防御体勢を取れ!」と言った直後に敵の斜線陣が崩れ楔形の突撃陣形で突進を開始した。
「突撃!」というノトーの叫び声と共にジリ貧であった戦線に決定打を打ち込もうとする味方、敵の後方には味方がかく乱をしてくれる部隊が来ると聞いた。
全力疾走する味方の波と共に私もそれに続く、陣の中央で敵に浸透攻撃による更なる敵混乱を狙うカシヲ率いる冒険者部隊が視界妨害エフェクトと毒ガスの嵐の中に消えていった。私は「うちらも負けてれらへんで!」と叫びながら正面の敵部隊へ歌神や氷神の守護を受けながら突き進み、死神と火神と光神の神罰を加えつつ近接戦へと持ち込む。
信仰魔法はトリッキーかつ強力な魔法が揃っているが、乱戦に持ち込んでしまえば頼りになるのは種族レベルと装備によるステータスの底上げと個々の実力である。敵は精鋭のオークが主力だがこちらも精鋭の冒険者達が主力だ、敵も味方もお互いに自分達は『選ばれた者』だと信じるプライド高い人種だ、まるで物語の主人公の様に、世界滅ぼす軍団の様に、お互いの戦意に不純さは無い。
敵のオークへ私はシールドバッシュや策神信仰を始めとしタンクとして肉弾CCの鬼と化す、体に雨あられの様に矢や魔法のエフェクトが私にぶつかるが見た目ほどのダメージは無い。サブキャラである私のレベルは低いので現状は策神の挑発スキルと武装スキルと種族レベルにしかステータスをほぼ振っていない。つまり現状まったく迷いの無い純タンクである為に、相手が自分よりもレベルが高くてもレベル差補正がかかりこちらの方がタンクとしては優秀になる場合が多い、これはレベルは上がれば上がるほど単純な強さから遠のくゲーム設計である為だ。
文字通り矢面に立つ私にバギーラが後方からのステルス対策である曳光弾と回復の日差しの魔法を切らさずに展開しつつサブタンクとして背中を守ってくれている、突出して来た敵には獣人のゴンタが私を壁にしながら弓と両手ハンマーによる強烈な攻撃を加え、敵が密集したならばガストラフェテスや味方の魔法使いが強力な火神魔法を敵へ向かい放射する。
無論、他にも20名の仲間がいる私達ソミュア隊は中心よりやや西側にいる為にオークの集中攻撃は免れるが時々中央戦線から流れてくる敵も対処しなければならないので二番目にきついポジションとして配置された。一番きついのは勿論カシヲ率いる中心の部隊である。ノトーともう一部隊は中央から東側に展開している。ノトーから東は崩されてもすぐに建て直しが利くので言い方は悪いが寄せ集め感のある部隊である。ヒーラーとタンクのバランスは各々の部隊できっちり揃えられているが、レイド単位の指揮官は現状では私とカシヲとノトーくらいしか信用されていないらしい。覇王軍は深刻な指揮官不足なのである。だって大体冒険者だもん、戦争屋ギルドは固まっちゃうからね。
敵の後方は確かに混乱している様子だが、最前線の敵オーク達はそれに動揺せず私達に向かい斧やハンマーといった粗野な武器を振り回し威嚇と反撃をしながら突撃しているはずのこちらに怯む事無く不動として下がる気配は無い。
その中で一匹の筋骨隆々なオークが前に進み出て「歴戦の冒険者達とお見受けいたす!我が名はイーベイ!オークの戦士!こんなしみったれた小競り合いなぞせずに俺の挑戦を受ける者は覇王軍にはおらんのか!」とこれまた時代錯誤で威勢の良いアホが大声を上げながら出てきたなと思ったら、
「そこがオーク!私の名はバギーラ!ヘヴシンキより来た戦士である!貴様の相手に俺は挑もう!」とやっぱりこいつはアホやった。
周囲もその一対一の決闘に円陣を作り野暮な遠距離攻撃や回復魔法を加えず決闘の空気を崩さない。崩壊した西部と中央部戦線は真面目だから消滅したのは分かるけど、やっぱ東部戦線はアホ正直揃いだったんか。そもそも構図がオークvs冒険者だからなあ。
「よし来た!行くぞ人間!オークの鉄槌の味を試すが良い!」とイーベイと名乗ったオークの戦士は私より前に進み出たバギーラへ向かって燃え盛る拳を突き出しながらイノシシの様に突進をした。
お前さっき鉄槌使う言うてたやん、鉄槌使えよ。
それに対してバギーラは盾を構え敵の突進攻撃を逸らしてから素早く、刃が波打った両手剣へ持ち替えて武装ラインの基礎攻撃『ストライク』を発動させる、その攻撃もオークは盾を構えそらしてから火神強化魔法と呼ばれる、『エンチャントファイア』『セルフバーニング』といった火属性の加護を纏い盾を構えながらそのまま近接線に持ち込む、これに対してバギーラは両手剣の攻撃スキルを連打し敵のSPとMP減少を狙うも敵の装甲は固く、バギーラは敵が纏う炎にジリジリと体を焼かれる。
決闘を挑んでおいて防戦に回るのは卑怯だと思われるが、PvPにおいてはリソース管理がとても重要になるので少ない消費でボチボチの成果を得るのが勝利の鍵となるので仕方ない、無論何かを特化させて一気に押し切るといった方法もあるが、失敗した場合は即敗北に繋がるので基本的にPvPは省エネ型持久戦型が強い。
オークの戦士もバギーラもまさにその省エネ持久戦型の典型である、防御に徹していたオークはそのMPをそこそこに減らし、バギーラは物理スキルと緊急回避をする為のリソースであるSPは大きく失った、このタイミングで攻守は逆転するが、そこへバギーラは光神信仰魔法の『日差し』を展開し敵の反撃と自己回復に備える。
オークの戦士がニヤリと笑いながら盾と片手ハンマーから両手ハンマーに持ち構えバギーラを滅多打ちにする、それに対してバギーラはダメージシールドである『光の翼』を展開し、それでもMPが三割削れた所で『集中光』によりオーク戦士をフラフラ状態にしてから再び両手剣に構えなおしてオークへ殴りかかった。それに対して敵のオークもニヤリと口に笑みを作りながら怯まずに両手ハンマーでバギーラへ殴りかかった。
攻撃力はオークの方が火神の加護で上回り、バギーラは光神の加護により敵よりも遥かに高い回復速度を持つ、バギーラが緊急回避を使い敵の背後に転がり込む、それを察知してオークも前方に突っ込み反転しながら突進スキルを発動、その短い距離で獲物を盾に持ち替えてきっちりバギーラはブロックを成功させる。周囲が固唾を呑んで見守るその名勝負はお互いの指揮官からの苦情により終わりを告げる。
「ソミュア隊、前進して下さい。」とノトーから少しきつめの声で指示が来た、それに対して私は「ノトー、今いいとこなんよ。」と言い返すも「勝つ事が一番良い事じゃないんですか?」と言われるも私はこの勝負を目の前にして悩み、目を瞑りながら「ソミュア隊前進。」と味方の娯楽であった決闘に終止符を打つ。
敵と味方の波がまた攻め合い押し合いを始める、その中で能天気で「おい、また今度やろうぜ!」というバギーラの声が響き、それに対して「ああ!また今度な!人間!」と応じる声が聞こえて、私は冷静な顔を作っているつもりだけど、たぶん今は引きつった顔をしていると思う。
この様な状況は東部戦線の中央でも起こっていた、
「我こそはオーク最強の戦士、野風!我を阻む豪の者は覇王軍におらんか!」とこちらも筋骨隆々なオーク戦士が好敵手を求めて双方の腕に握り締めた二本の片手斧を振り回し覇王軍の兵士達を蹴散らしていく。そして、その重機の様に戦い続けるオークも好敵手に巡り合う事が出来た。
「おいそこのクソオーク!俺が相手をしてやるよ。」と重装備を身に纏った人間種が突如そのオークに討ちかかったがオークの戦士は最強を名乗るだけあってそれをすんなりブロックした直後にその人間種、名前表示はカシヲとなっているプレイヤーへ嬉々として自身の持つ必殺のラッシュ攻撃を加えるが、その人間種は巧みにそれを緊急回避で避ける、野風はそれを風の様に追いかけ食らい付くも、その人間は緊急回避直後にこちらへ手をかざすモーションを取るとオーク戦士の動きはビタリと止まった、CCスキルか。
野風は舌打ちしながら打破コマンドを発動しCCの解除にかかると直後に自身の動きが遅くなるのを感じた、状態変化ラグ。こいつは驚いた、果神信仰魔法を持つ覇王軍兵士がいるとはな。
果神の神像は要塞化されてはいないものの、ワールドマップ最南端にあるので魔王軍の深い領地にある、それを自分の足で取りにこれるくらいの実力を持つ敵だという事が分かり野風は内心大いに喜んだ。
「人間!なかなかやるじゃねえか!」と堪えきれずに敵を称えると。「オークの中にはそこそこ強そうなのもいるんだな、俺は今までオークに負けた事は無い。」と余裕そうな返答が来る。
「じゃあ俺がお前を初めて倒すオークだな!よろしくな!」と自慢の斧を振り回しながら肉迫する、その状況にカシヲは握り締めた両手槍を中段に構え、オーク戦士の持つ片手斧二本から繰り出される風車じみた頭上からの回転攻撃を正確に斜め上に繰り出す連続突きで相殺する。
この対処方法には「なにい!?」と野風も驚いた、これには理由がある。このゲームにはお互いの武器の攻撃モーションに判定があり、敵の攻撃を遠距離近距離問わずはじいたり相殺する事が出来るシステムが一応あったのだが。
普通はこの動作を盾でやる、よってモンスター過ぎる種族以外は大体盾持ちになるのが現状の武装スキルライン持ち種族でブームだが、この人間は攻撃速度は速いが突属性しか持たないという弓の下位互換ではないかと評価されている槍で見事にオークの連撃を相殺したのだ。
この状況が成功した例はまずない、なぜなら魔王軍の強いプレイヤーは大体武装スキルラインの無い人外種ばかりだから武器同士で戦うというパターンが少ないからだ。
「ヒュウ!」と相殺した本人であるカシヲも口笛を吹く様な顔をしているが、このプレイヤースキルは果神信仰の敵をラグ状態にしなければまず成功しない、カシヲくらいしか使わない奥義であり心理戦である。
必殺の一撃が防がれたDPSの精神は例外なく脆くなる、野風はまさにその状況に追い込まれたが、「ニンゲェェン!まぐれだ!そんな馬鹿な事があってたまるか!もう一度だ!」と怒りながら突進をまた繰り出すのはたいした精神力だが、「悪い、二回目は無理なんだ。また今度なら付き合ってやるよ。」と言いながらカシヲはその人間の姿テクスチャをグチャグチャのバグ状態に変えながら野風の後ろ突き進んでいった。「逃がすか!」と野風はそれを追いかけるも二人の距離はアマゾネス男であるカシヲの高機動スキルにより差は開くばかりだった。
「アルカントス将軍とお見受けする、その首頂戴します。」とエルフの戦士達が私の首を狙いに来た、「時よ止まれ。」と私は心の中で何度目かの文句を呟いた。
「将軍、お下がり下さい!」と副官のパナラが私の前に進み出て盾となろうとするが、お前はヒーラーだろう、お前が下がってくれ。この状況を見た周囲のオーク達は敵がエルフだけあって恐ろしいくらいに私の周りを囲むように集まってくるが、敵は後方からも迫っているので精鋭の密集よりも散兵戦術に徹して欲しいものだと心で愚痴を言う。
「左様、オークギルド『グリーンボア』が頭領のアルカントスだ。お前達はエールートの子飼いの、フィートス、マイルズ、ヤーズ、センチメル、サトリ、だな。」と私が口にすると、相手のエルフ達は驚きの表情を表した、そんな事は頭上のネーム表示を見れば分かる事だと思われるが、サトリに至っては里里と表示されているので読み難い名前だ、その読み方が分かるという事は相手をよく知っているという事である。いいぞ、その驚きの表情、スクショとっとこ。
「我等が宿敵にして最大の敵!オークの頭領よ覚悟しろ!」とエルフ達は私にはもう口に出来ない純情なセリフを突撃と共に発し私の首を狙いに来る、素晴らしい。
私の子供も成人し所帯を持ち、孫の顔も見られそうだし妻もボケずに好きな事をやって老後を過ごそうとしている私の人生においてこの今こそが至福の一時である、家族には悪い気はしているが、今私が浮かべている笑みはこういう状況でしか出ない。
「将軍!ここは我等が!」としゃしゃり出てくるオークの仲間達、気持ちは分かるが私はこの状況を作るまでに耐え続けたのだ。
「黙れ小童ぁぁぁ!」と私は全力の大音量で敵味方問わずに怒声を浴びせる、後で妻から苦情が来るだろうが、後で謝ろう。
「貴様等小僧っこエルフやオークに翻弄される私ではない!未熟なエルフ共よ!私を打ち倒して見せろ!物語の英雄の様に私を踏み越えて伝説を作って見せろ!さあ!さあ!」と私は今まで見せた事の無い激情の表情に敵も味方もポカーンと呆気取られる、これはドン引きか恐怖か分からないが、私は今幸せだ。
「クッ、気おされるな、皆行くぞ!」とリーダー格のフィートスが私に向かい、ヤーズがそれに続き、マイルズが弓を構えセンチメルとサトリは魔法を唱え始める、そんな正攻法などなめられたものだ、これだからエルフは頑固なのだ、そして愛おしいのだ。
「うおおおおああああ!」とエルフらしからぬ雄叫びを上げながら突っ込んでくるフィートス。
それが、ガッ!っと激しい音と共に上空へ高く跳ね上がった。「ああああ~~~」とドップラー効果で離れ行くフィートスの声はやがて消えた。
目の前からメインタンクが消滅し狼狽するサブタンク、必殺の陣形を崩されて狼狽するエルフの後衛。
即断は出来ぬか、亀の甲より年の功、私は武装スキルラインの突進で一気にセンチメルへ距離を詰めそのまま手に持った巨大な鉄槌を振りかざした、この娘が魔法DPSだという事は調べがついている。
エルフはオーク達に変質的に愛されている、故にその個体情報がデータベースとしてオークギルドには出回っている、そして私の様なオークはそれを全て暗記している。
振りかぶった鉄槌の前に詠唱を止められない意志の弱いエルフの少女が「ひっ!」と恐怖の顔に歪む。
そうだ、いいぞ、いいぞ、これが老後の楽しみって奴だ!私はその少女に向かって鉄槌を容赦無く振りかぶり叩き込む、血しぶきの様なエフェクトと大ダメージとノックバックを与える、これは心にも傷が残るぞ。
次はその更に後方にいたサトリ、この娘は一番メンタルが強いエルフだといわれているだけあって、私が突進を最初にする時点で即座に詠唱を中止し緊急回避を行うが、私はもう一度突進を使いこのエルフの娘に食らいつく、背中にマイルズが弓を構える気配を感じたが。「しょ、将軍に続け!」と呆気取られていた味方が混乱するエルフ達に襲い掛かる。背中に矢を受けるエフェクトを感じたがそれに構わず私は逃げ続けるサトリを追撃する。
「みんなごめん!」と言いながらサトリは全力で敵の群れに混じるように逃げて行った、PvPプレイヤーとしてはそれで正解だがエルフとしては減点さな。
私はそこで空を見て天から「あああ~~~!」と叫びながら落下してくるフィートスを待ち、着地後の瀕死状態に一撃パコンと弱攻撃を決めて戦闘不能へ追い込む。
私のステータスは現在、武装レベル10と湖神レベル10とオークレベル5、オークハイレベル3しかない完全な近接DPSでしかも湖神という扱いの難しい信仰を取っている。
これは生産の為もあるが、何よりレベル10のスキルがフィートスを一撃で行動不能にした様にインパクトがとても強い。
このエルフ達を一方的に滅多打ちにするオーク将軍の姿を見て敵も味方も私を畏怖するだろう。既に高齢である私は高いプレイヤースキルを持っていない、若い者には勝てない場合は多いが、こうして勝てる部分もある。
若者は精神に引きずられやすい、未来や夢を持てば持つほど精神攻撃に弱くなる。私に出来る事はそこを狙う、それだけで良い。
味方の左翼は敵の後方と前方の進撃を受けて大損害、中央と右翼は私の突撃により前進。
兵力は東部魔王軍160vs東部覇王軍100、勝敗は決したと見ても良い。
「そして時は動き出す、か。」私は混乱から秩序を取り戻しつつある軍団を見て呟いた。
・エルフ狂い
筆者が新社会人の頃の上司がこれであった。PSOではニューマンを、FF11ではエルヴァーンを渋々使うネットゲーマーでもあった。TRPGでも常にエルフらしく、本当にエルフかそれっぽいキャラしか使わない人。
ちなみにエルフではないがスレイヤーズの話題が出た時に「可愛いほうの王女だよ!なんだっけ?」と第三者が口に出した時に筆者は「ああ、ナーガですね。」と答えた同時にその上司は「アメリ・・・ああ!?」と言った時が唯一その人がキレた瞬間を見せた事件だった。
・ネットゲーの悲しみ1
今やおっさん手前になった筆者が強かった時代はあった、具体的にいうと日本で1-2位のランキングをマイナーなゲームではあるが何度も取った事がある。やがてその黄金期が過ぎる、時が新しい時代に進むのは当たり前の事である。
そうなると今度は後ろの世代から黄金期を背負った人間が何人も現れて、数年の黄金期を爆発させる様に使い日本一や世界一に目指し散っていく。十数年ネットゲームを続けるとこのサイクルを何度も間近で見られるのでとても悲しい気持ちになる。散っっていった人々に再びあの日の栄光が訪れることを願わん。