B039.椅子譲りゲーム
「敵の本陣に爆撃効果は薄い?」と俺は魔王軍ギルドDDDの突撃を受け潰走しつつある敵正面の軍団を眺めながらスマグウさんとシャンコさんに確認を取った。
「具体的に言うと、敵戦艦の対空砲が怖くて低空飛行しながらの爆撃が困難になります。敵の船団はおよそ15隻の大艦隊なので現状は『マルチフレアー』の魔法を使っても戦艦からの対空射撃で無傷に部隊運用を出来ない状況であります。」と真面目な邪竜スマグウさんが答えるも理屈がイマイチ分からない。
それをフォローする様にお洒落な王冠を斜めにかぶったスケルトンのシャンコさんが、「機械神の地雷魔法が地面に接地するまでの時間が妙に長いんDeathよ、おそらくこの世界はニュートン単位の重力ではないか、魔法が妙に軽いか落下抵抗を受けているかDeahtね。具体的に言うと亜竜が高度140mの時にスケルトン達の地雷魔法の『バスケットヘルデッド』や『踊るマキビシ』を発動して地面に落下到着した時点で魔法の持続時間がギリギリ切れるくらいDeath。」と歯をカタカタさせて説明してくれる。
「となると、敵の対空砲を一方的に逃れられる高度からの爆撃はゲームバランスでブロックされていたという訳ですね。」と俺は口に出してから少し考え込む。
「エーテルモーターも元々射程が20~100mのなのでそちらからのアプローチも不可能になるように設定されている様です。」
「一方的な空軍による高高度爆撃俺TUEE作戦は開発のお見通しという事か。」
「それが通れば今度は地対空長距離ミサイルみたいな物が必要になりますからね。」
むう、それが世界の限界か。それとも開発者なりの誠意だろうか。
「現状、我々の指揮所が最前後方にある状態で最前線の状況が完璧分からないのですが。作戦通りに敵の艦砲射撃が届かないギリギリの位置で泥沼の戦いになっていればいいのですが。」
「それは無理みたいでしたよ、DDD要塞から大量にリスポーンしてきた味方が着てますし。あ、その味方が復帰狩りに襲われてますね!」
さっきまで消えていた吸血鬼とSIVAさんの部隊ははやはりまだ補給路の分断を狙い続けるようだ、俺は要塞からおっかなびっくり走り抜けてくる復帰組みに「復帰狩りの掃除を手伝ってください、今最前線にいっても敵の砲撃を受けるだけですよ。」と広範囲チャットで呼びかけると、彼等はこちらの方に走りよって来て、敵の吸血鬼とSIVAさんの部隊に対峙する構えを取る。復帰組みは真っ先に最前線で死んだプレイヤーなので戦力としてはアテにならない、アテになる戦力は最前線でも倒れないからな。
主戦場後方の魔王軍指揮所兼補給路、魔王軍は60名それに対して敵は70名、しかも敵は生粋のPvPギルドである。
この補給線での戦況は一方的に不利に見えるが、こちらの上空には魔王軍航空部隊が50ユニット控えている。単体戦闘は劣勢だが地形による妨害とダメージで敵への牽制は可能であるが突撃は防がれると見る、俺は復帰組みに、「西方向には近寄らずに東方面から迂回して前線に向かうかここで防衛に付き合ってください。」と声を掛けるも、彼等はわが身が安全と分かると一目散に最前線へ向かい補給路の支援を考えないワガママモンスターばかりであった。
「報告、東軍は双方の要塞砲射程外で膠着を維持ですね。」とオークのバッシーさんから連絡を受ける、そうなれば東は安泰だろうが、問題は西と中央の戦線である。
西部戦線はお互いの戦闘回避により消滅し好き勝手な行動を開始した事は判明している。
今頃イベリウス隊は敵の艦砲射撃をかわしながら敵の復帰狩りに勤しんでいるだろう。その方がPvP効率がいいからな。この行為は裏切りかと言われれば、奴等は「敵が見当たらなかったのでそのまま直進して敵の背後を襲撃した。」という言い訳を通してくるので困る。これはよくPvPギルドから聞くいい訳だ。
「うーん、計画通りだが馬鹿馬鹿しくなってきたな。」と俺は呟くとロドリコが、「先輩そろそろあれが来るっすよ。」と吉報をもたらして来る。戦争には勝つ、その勝利の目的は魔王軍の士気と練度の底上げであるが、その後のプランは過酷を極める。
何せ次は敵の首都を攻めることが確定しているからだ。
この戦争の勢いのままで敵の首都を侵攻する事も可能だが、それを出来ない理由がある。それは、俺が現在魔王と言う総指揮官であるのが理由だ。
戦略という物は最高位である魔王の仕事だろう、だがそれは実の所それほど高度な技術は必要としない。当たり前の内政と外交をこなし、当たり前の振る舞いをすれば積み重なっていく物である、それに対して戦術は違う。兵は詭道なりという孫子という昔いたおっさんの言葉の通り、戦術単位では敵を騙し意表を付く事をしなければならない。
魔王は確かに魔王軍のトップだが、それが勝利の要因にはならず、ファンタジーで言うとその部下の将軍達が大局を担っている事が常である。
ロドリコが言ったアレのタンミングはまさにこの時訪れた。
それは世界全プレイヤーの画面に表示される文字列。
『ビータよりイゾログへ魔王位が譲位されました。』
俺はこのタイミングを待っていた、ギルドのトータルアライメントポイントの1位と2位が入れ替わったのである、理由は単純に最前線で頑張っている部隊がギルド『DDD』であり、我々は地味で実りの薄い補給路の維持でポイントは稼げず。
DDDギルマスのイゾログ君が「俺が新魔王だぞ!ひれ伏せ人間共め!」と威勢の良いチャットを流すが、唐突に訪れた魔王位を手に入れた彼に今後のプランなんてあるはずもない。
『新魔王様、これからの作戦はいかがしましょうか。』と俺は勤めて冷静にはしゃぎまわる新魔王に対しストレートに尋ねる。
すると新魔王は「少し待て、ハリュオン。」と言いながら副官を頼りに相談を始めたが、恐らく答えは出ないだろう。
俺は以前に愛微笑からポンと渡された魔王位にそれほど執着も愛着もなかった。だが、そのネームバリューは絶大で、魔王軍全てを動かすことも出来るだろうし権威も付きつつあるも。しかし、魔王になってから出来なくなった不自由になった事がいくつもあった。
それは航空部隊を始めとする戦術単位の戦力指揮である。
今回の戦いで魔王軍の初動総指揮は成功したと言えるだろうが、戦術単位での行動が正面と左翼で失敗している。つまり、魔王軍にも敵にもまともな方面指揮官が東部戦線以外に居ない事が判明した。
更に言えば正面指揮を執って敵の艦砲を浴びたのは新魔王様の部隊である。
そうなると戦略が思い通りにいかない現状に悩まされる魔王と覇王が残る。
元々俺はその魔王座から降りることを西軍に向けたPvPギルドが失踪した時点で決意した。
まずは信用出来る兵力か信用しないでも戦力になる兵団を揃えるまで待つべきだったのだ。
そして、それを見極めると言うストレスと忍耐を受ける仕事は俺じゃなくても出来る。
見極める頃にはベータテストは終わり全ては水の泡、無駄なのである。
ここらで新魔王様は副官よりの助言で気づいたはずだ、現戦争の生命線である補給路は誰が握っているかを。
案の定、「天魔軍で補給路は維持し続けて欲しい。」と新魔王になったばかりなのに高圧的に要請をしてくるが、これに俺は「貸し一つだぞ。」と短く答え、補給線防衛に回ってくれる戦力を前線から引き抜きにかかる。
「最前線に出すぎても敵の艦砲射撃で一方的に倒されるから下がるなり補給線の確保をして下さい。」とゾーンチャットで流す。
次にする事は、魔王様の傀儡化である。最前線に出て何度も討ち取られる魔王様はマヌケな扱いになってしまうので、「補給路と前線の間に指揮陣をお引きください。」と助言、次には「我が天魔からの航空偵察情報を逐一報告しますので、戦力の分配を各方面軍と相談して敵の奇襲を警戒してください。」更には「味方の軍勢を有効活用出来る様に指示をしてください。特にイベリウスさんの部隊はもったいない配置ですよね。」と戦略論の雨を浴びせてオーバーフロー状態を狙う。
最終的には魔王様がが「ヨキニハカラエ。」くらいしか言えない状況にするのが個人的な理想だったのだが、前前回の魔王である愛微笑にはこれが罪悪感から出来なかったが、今回はそれが出来る。
特にイベリウスさんのギルドとは敵対はしたくないのでイゾログ君を緩衝材に使って飼いならしたい。
そこへイゾログ君の副官であるハリュオンさんが、「前魔王は何を根拠にこの様な上申をする?」と問われるも、これは日本古来から続く暗黒ワード「引継ぎですが何か?」という魔法の言葉で封殺する事が出来る。
「いやー、開放されたわ。」と俺は砲弾飛び交う空へ背伸びをすると、「お兄さんお疲れ様です。」「ビータさんの魔王姿好きだったんですけどねえ。」「やり方が段々カラシに似てきたな少年…。」と労い?の声がかかってくる。
「いいんだよ、魔王位を押し付けられてからこうやって最低限の義務を果たした訳だし、あとは好きにゲームをプレイしたいんだ。内政や外交なんて勝つためには必要だが好んでしたいもんじゃない。もしもの敗戦責任はイゾログ君に移ったしな。だから、愛微笑と俺はもう許された!ハッピーエンドだ!」と俺は人型の姿より黒い巨竜の姿へ変じ、「俺達らしい戦いをしようぜ。西から来るあいつらを天空の覇者である俺達の力を見せ付けてやるんだよ。さあ、俺の背中に乗れよ。」と言った。
・リアル過ぎるゲームはどこで妥協点を見つけるべきか
2037年のこの世界では古典的なファンタジーRPGと近代近未来FPSの文化が交わる時期に差しかかっています。(2017年時点でもMMORPGの戦争はかなり近代化が進んでいますが。)
そうなると古典的な浪漫を求める冒険者と最新技術で敵兵に挑む兵士達の戦闘方法は大きく差がついてしまうので、同じ世界においても二つの世界が発生してしまいます。では戦争MAPと冒険MAPを分ければいいというのが現在の主流ですが、そうするとユーザーが作るコンテンツ(例えばマインクラフトの様なパーソナルな好き勝手さ)が分断された狭い世界では生かし難くなります。人間の最大の敵と遊び相手は人間です。これを上手く生かす方法をネットゲームという物を考える人にとっては大きな課題となります。ネットゲームの開発チームが良いコンテンツを連発する事なんで不可能なのですから。
ユーザーがそれを取り組めるゲームを作るべきだという試みは過去にありましたが、日本では流行りませんでした。
AI技術が発展してMMORPGやFPSに強く介入する時代が来れば、そういった問題は解決出来そうなのですが、日本人はそれをどれだけ早く受け入れられるかが今後のネットゲーの課題になると思います。
・ネットゲーム指揮官の定め
PvEもPvPもそうなのだが、うまい指揮で味方を勝利に導けば味方全体が同じ報酬を受けて、指揮官に対するボーナスはまず無い。指揮の失敗をすると悪評が立ちメンバーは集まらなくなる。指揮官が成功した時にメンバーから贈答品やレア装備のロール優遇もまず受けない、理由は優秀な指揮官の装備が揃ったり承認欲求が満たされちゃうとその指揮官と言う生贄がいなくなる為。悲しい事だが優秀な指揮官は生かさず殺さずを地で行くのが現在のMMORPGである。




