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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
人外魔境に咲く花
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B029.キードラゴン

港を放棄して船に乗れ、そんな感じの指示がゾーンチャットで流れたけれど、そうしたらヘヴシンキが敵の手に落ちないかな、と私は思いながらバギーラ達と共に彼等の船へ急いだ。

バギーラの仲間達が乗ってきたのは帆とオールの両方が備わった8人乗りのヴァイキングが乗るようなロングシップと呼ばれるタイプの小型な物だった。これはこのゲームの世界観ではかなりしょぼい船に当たる。

「銃座無くない!?」と私は隣で出港準備を始めるバギーラに尋ねると、

「銃座やハープーン、カタパルトが付いた船は高いんだよ。霊炉エーテルエンジン竜炉ドラゴンハートが乗らない船ではこれが一番速い、そしてやっぱり安い。それに俺らは海の民じゃないから海戦はそんなに強くない。諦めてくれ。」

隣で獣人の男が舌を出して笑いながら、「お嬢さん、ノースマンタンクも良いが海の民タンクも良かったんじゃないか?そっちの方が向いてるぜあんた。」と冷やかしてくるが、私は実用一点張り主義なのでそういったトリッキー職は目指したくない。


「おい、出港準備が出来たぞガストラフェテス!やる事はやったか!?」とバギーラが離れた石橋の上に火神信仰魔法地雷フレイムマインを配置する作業をしていたダークエルフの男へ声を掛けると、「アイアイ、設置完了だ。すぐ戻る!」と言いながらこちらへ走ってくるのが見えた。

「出発進行!ヨウソロー!」と獣人が大声で声をかけると、私達の乗る船に4人の野良プレイヤーが駆け込んで来た。「わりぃ、便乗させてくれ。」「相乗り失礼!」と図々しくも乗り込んできたプレイヤーに対してもバギーラは笑顔で、「ようこそ、我が艦、踊る笹舟へ!当船での船旅を存分にお楽しみ下さい。」と歓迎の挨拶ポーズを取る。アホタン、人間出来てるなあ。


船は港の桟橋を離れつつあるが、そこへガストラフェテスが全力のダッシュジャンプでギリギリ船に飛び乗ってきた。「あぶねえな、後1枠しか無かったのか。」と肩で息をしながらダークエルフは呟く。

このゲームは中の人が疲れていなくてもMPEPSPが減るとアクションが出るのでこの場合はSP不足だ。

「お前の尊い犠牲は忘れないと思っていた所だったよ。取り舵いっぱーい!」と獣人のゴンタが笑いながら舵を切った。

「あ、それとソミュア、これ。」と言いながらバギーラは私と乗組員全員に船の横に貼り付けてあった木製のオールを拾い手渡しして。

「悪いけど、全力で漕いでくんねえかな、お客様扱い出来る余裕は当船にはございませんので。」とばつの悪そうな顔をした。



「制圧したと思った街に突如後ろから敵が来て門を占拠、大ピンチに追い込まれま死た!」

「まぁ、門が一番強いからでぼんね。」

「同胞達よ!門に陣取るヤクザ共を注意して欲しいDeath!」と必死にスケルトン達の統制を取ろうとするが、味方が門上の敵銃座や兵器魔法によりバタバタ倒されている状況で更に復帰地点の大雪原から合流しようと向かってくる味方も敵の防衛網に捕まり各個撃破をされる。

「松本SAN!くなる上は!」

「そうだぼんね、ぼん等の片方が死に戻りして復帰組みの指揮を執るしかないぼん。」

と苦渋の決断に至り敵へ突撃をかけようとする松本SANがピクリと動きを止めた、え?ここにきて回線落ちDeathか!?

その直後、『港に敵はいないからスケルトンは全員港を制圧しにいくぞ!』と私の声がゾーンチャットに響き渡った、「馬鹿な、そんな命令は出さないDeath!」と言おうとしたがそれは声に出ない、文字チャットも出力出来ない、なんじゃこりゃ!

そこへ動きを止めていた松本SANが、「シャンコぼん、なんで二人に増えたぼん?」とその疑問の解答を示す。

振り返るとそこにはこじゃれた小さい王冠を斜めに被ったスケルトン、私じゃないDeathか!

その私そっくりなスケルトンはカタカタと顎を鳴らして笑い、敵の制圧下にある門上にさも覇王軍の様に走り込んでいったが、そりゃ覇王軍だから当然でしょうね!

「ドップでの指揮官潰しでぼんな…。」と松本は喋れなくなった私の肩に手をやり同情の意思を示す。

ああ、私はもう喋れないので後は任せましたよ松本SAN…。と力なく私の白骨の膝は地面を叩いた。



『港に敵はいないからスケルトンは全員港を制圧しにいくぞ!』

『この発言はドップのミスリードだぼん、港にスケルトンは向かわないで欲しいぼん!』

その発言を捉えられるハーピーのおしちぃは「ほねほねの指揮官一人脱落ぅ!」と報告をくれる。

グループチャットには、「スケルトンの指揮官へのジャミング完了。」とドッペルゲンガーのSIVAから報告が入る、眼下のスケルトン達もその攻撃先が門や港へと分散し始めている。こうした二点三点観測による計略は戦争において基本中の基本だ。

「これで混乱してくれるかね。」とチビパンがスケルトン相手に大立ち回りをしているが、

「ネットゲーにおいて真っ当な指揮官の出る確率は知っているか?」とワシは皆に問うてみるが、それには沈黙だけが帰ってくる。

「ワシの経験則で言うと1/70だ。自称軍師様ははずすとして、戦術と戦略が分かり指揮官になれる素養を持つネットゲーマーは恐ろしいほどに少ない。まぁ、実際の軍隊にもあまりいないがな。そこへ更に策謀を考え付く人間はもっと少ない。」

そんな説教を独説しているとチビパンが「まぁた、遠まわしで面倒臭い自画自賛か?」と皮肉を言ってくるが、「違う、ワシはそういう人間が芽あらば身内に出て欲しいと願っているだけだ。」と反論しておく。

「参考に、素養のある人物は誰だった?」とチビパンがやけに食いつくが、こいつは合いの手担当だからなあ。

「まずはSIVA。」と身内から褒めておく、「ヤッタネ!」と小さい王冠を斜めに被るスケルトンの指揮官に化けたドッペルゲンガーは小躍りしたが、それちょっとマイナス点行動な。

「次は身内では無くなったが、ビータだなあ…。」と遠目に映る影を目で追う、

「おいおい、目の前にいる敵じゃねえか、そんなに我が弟子が可愛いか?」とチビパンが冷やかしてくるが、「可愛い弟子?そうじゃよ?だからこそ、今採点中なんじゃ。」とワシは次の手を考える。

あいつを全力で追い詰めてやる、そこからお前の答えを見せて欲しい。

考えても見ろ、自分が手塩にかけて育てた弟子が敵に回るんだぞ、これ以上おもしろい娯楽が他にあるか?



「敵、銃座無し!ハープーンはニカケニで4機でやす!」と現状最速の邪竜アレキシが素早く敵船団の上を通過し偵察と戦力分析を行ってくれる。

高高度の雲の上で待機していた俺達は、「よし、その程度ならいける!急降下用意!」「了解です!」「はぁい」とジノーとエリーンも急降下爆撃の構えを見せる。

現状は空対空ユニットが敵にいないので、陸上からの攻撃に注意すれば一方的にあの船団を沈められるはずだ。

雲に4つの穴を開けた竜とエアエレメンタルは重力と推進力を使い真っ逆さまに街の門へ向かおうとする敵の船団へ攻撃魔法の限りを叩き込む、敵からの反撃は来ない、なぜなら推進力が手動の船は漕ぎ手が攻撃に回ると船速が落ちる及び進路が変わるのでロングシップ系での爆撃に対する備えは舵取りと航海士のみが迎撃に回り漕ぎ手は全速力で逃げる、という現実では考えられない海戦方法が正解だ。

そして、反撃が来なかった理由、それは現状の逃げに徹するなら舵取りと航海士はヒーラーがやった方が安全だからだろう。

船は6つ、ハープーンを積んだ二隻を重点に攻撃する。

急降下爆撃は魔王様が珍しく活躍する場面だ、機械神魔法による兵器攻撃『マシンボルト』や『エーテルモーター』を交互に直射すると敵の船が面白い様に穴が開く。

ハープーンの反撃!鎖の付いた捕鯨用の撃ち出し銛をジェット機並みの速さで爆撃してくるドラゴンやエアエレメンタルに命中させれば大したものだが、まず無理だろう。

案の定、射速の遅いハープーンは竜の尾を踏む事無く中空を捕らえる。


「ちょーちょーちょーちょー!」「もう一丁!」と俺達は妙な掛け声を上げながら空へ戻り楕円を描くようにもう一度急降下爆撃を開始する、その中で。

「なあ、ロドとエリーン!」「なんすかー?」「どしたのお兄ちゃん?」と俺は前々から言いたかった事をこの時点で口にする。

「お前等天空神持ってても意味ないから火か機械の神様に信仰変えねえ?」とオネガイすると。

「あー、そっすかあ…そっすねえ。」「えー。」と微妙な反応が返ってくるが、こいつらは空を飛ぶ事から帰れなくなっているスカイジャンキーなのは分かりきっている。

「ロドは竜の背に乗ればいいし!エリーンは変装で俺かアレキシさんに化ければいいだろ!」と丸め込もうとするが、二人のエゴは硬い。人はこれをワガママというか自由というかは常に悩むという。

他人にロールやプレイスタイルを誘導するのはネットゲームにおいては基本的な『戦術』である、大きいギルドでならマッチングする相手と組めばいいし、現状それが出来るのが、都合の良い本当の身内にそれをやって頂くのがベストだし、妹とロドなら丸め込めそうだ。

そう思った瞬間に即断したのはロドリコだった、「じゃあ火神取りに行くっすね、条件は先輩とデート権で。」と自分に都合の良い条件を見極めて即決するのは本当にあの人の娘らしい。

火神はマミーの弱点である火の耐性を持つBuffもあるらしいからな。

愚妹は「えー、デート権ー?」と本筋からズレたコメントをしているが馬鹿なので仕方ない、こいつは機械神信仰決定だ。機械神様はあのヘッポコ魔王様ですら有効活用出来る素晴らしい信仰魔法だ、そう考えるとエリーンと愛微笑が本気で決闘する場面がちょっと見たくなってきた、案外良い勝負をするかもしれない。



「上から来るぞー!」「気をつけろー!」と半笑いでバギーラとゴンタが掛け合いをしているが、現状笑う以外に打つ手が無い、あるとしたら必死にオールを漕ぐアクションキーをポチポチ押すくらいだ。

「あ、ガレー船の方やべえな。」と航海士のガストラフェテスが他人事様に敵ドラゴンの爆撃に貫かれるガレー船を見て呟く。

「取り舵いっぱーい。」と操舵手をゴンタより引き継いだバギーラは舵を切る、もう少しでヘヴシンキ西門の北へ接岸出来る。そうなれば後は援軍に混じって門を修理した後に街へ雪崩れ込めば我々の勝利だという構図は見えてきた。これを描いた指揮官はあの有名な『笛吹き爺カラシニコブ』マギラ2では散々苦しめられたあのドワーフも今では味方かあ、感慨深いなあ。

「旗艦大破ぁ!」とゴンタがにこやかに惨状を報告するが、半端に目立つ船は集中攻撃されて当然だ。

「二番艦も逝くかあ?」「微妙だな。ようそろー!」と私達の小船は半島を北に迂回し西へ直進する。

「あちゃー、ありゃ駄目だな、全滅しなかっただけマシだが、ガレー一隻何人だっけ?」とバギーラは尋ねると、「20人くらいだ、敵さんポイント丸儲けだな。」とガストラフェテスが呟いた。

「泳いで浜辺に行けんかね。」「無理だろう、海には敵対NPCがわんさかいる。海の民以外は大体そいつらに食われるさ。」

と溜め息交じりの発言を耳にして沈んだガレー船を見ていると、砕けた木片や救命ボートにしがみついたプレイヤーがちらほら見かけられる。

「へー、あんな細かい救済措置あるんやね。」と私はその必死に生き延びようとする味方を見て呟くと。

「なまじリアル過ぎるよりサクっと戦闘不能になった方が精神衛生上いいんじゃないかな。」とバギーラが相槌を打つも同感である。

「どの道、我々には助ける余裕も無いし進む以外の道は無い。前進異常無ようそろ!」

「あ、二番艦大破ぁ!」「この人でなし!」と私達は必死に西門を目指した。



「敵のガレー2撃沈、小型船舶は駄目でやすね。的が小さいでやんすし。」とアレキシが残念そうに首を振るが、「40人くらいを半数以下の戦力でリスポーンに叩き込んだのは大勝利ですよ。戦術的には、ですが。」とバッシーさんが眼鏡クイッとした。

「西門の奴等と合流したのは沈没させた数とほぼ同数、これで戦力は敵70対こちらは我々と街中スケルトンと大雪原からの復帰組みスケルトンと頭の悪い亜竜とハーピー多数。数では優位ですが、大局的敗北は目前です。」

「そもそも点呼が取れない状況っすからね。」「烏合の衆はいつだって辛いものだ、マギラ2でよく見た光景さ…。」とロドリコとナイトウィンドさんは悲観的に状況を見ているが、こうなれば打つ手はベストを尽くすしかない。

問題は指揮系統の分断がされている現状がまずいのであって、指揮系統の回復から図らなければならない。そうすると、ボランティアするかぁ、と俺は決断する。

「ドラゴン以外の方は市街に降りて西門の突撃を警戒して下さい。俺、アレキシさん、ジノー、エリーンはその間に復帰スケルトンの空輸に当たります。」と俺は敵が行った兵力の集中をまずマネする事にした。

「問題は敵のチャージがこちらを削りきるかが問題ですね。」とバッシーさんがまた眼鏡の位置を直すと、「じゃあオイラはニンゲン達がやってたみたいにバリケードを使って戦えばいいんだね。」とレオさんも理解を示してくれる。

そう、現状は攻守が逆転してしまったのに問題がある。敵が街を攻める側になり、こちらは街に立て篭もるといった状況が問題だ、さすればまず敗北は決定なのだが。前提として我々には目的があったはずだ。

「余裕があれば港を念入りに破壊して下さい。敵の街を焼き国力を削ぐ、これが達成すれば例え全滅しても戦略的勝利もしくは痛み分けで済みます。では、スケルトンの輸送作戦開始します。みんな、頑張って堪えて下さい。」

『こちら竜軍、グランデボーンへ…。』



・設定 オートモーションシステム

マギラ3から搭載されたシステム、キャラクターのMP EP SPの減り具合により自キャラが勝手に肩で息をしたり、かすれた声になったり、震え声、挙動不審になるといった人間種ではとても不利になるモーション。

モンスター過ぎる種族はこのモーションが普通の人には分かり難いので一部から不満の声が出ているも、

無表情でダメージ受けてたりステータス枯渇してる方が怖いじゃないですか。という開発の根強いポリシーにより実装され続けている。

現在調査中だが、レベルが上がる毎に緩和されていくモーションではあるらしい。低レベルの時のステータス強化補正を考えると、高レベルの形骸化を避ける為のギミックの一つとして実装されているらしい。

マギラ2に搭載されなかったのはレベル制ゲームでは無かった為。


・設定 霊炉エーテルエンジン

火、氷、風、大地、水の輝石や呪石を組み合わせて作られる内燃機関。

素材は安価だが作成と運用には高い技術力が必要とされる、テクチャルとエンシェントエーテロイドの技術。マギラ2の時代では技術劣化している。


・設定 竜炉ドラゴンハート

竜の心臓等の主要基幹とブレス袋を切り取り加工、死神か血神の魔法でそれを維持し、熱及び低温のエネルギーを得るエネルギープラント。素材も竜のグレードによるのでピンキリなお値段で出力もピンキリだが、事故を起こすと漏れなく大爆発と竜血被爆を受ける。


竜の血、動脈からの血は強化剤となるが、静脈からの血は汚染物質になる為にドラゴン狩りや運用は意外と注意が必要とされる。という細かい設定はあるけど実装はまだされていないらしいですよ。by愛微笑

これもマギラ2では人竜協定により禁止されています。



・雑談

アロッズオンラインというネットゲームでファンタジー世界なのに宇宙空間みたいな場所で戦艦同士の戦いをやるコンテンツがあったのだけど(日本ではまったく流行らなかった)、砲手、操舵手、航海士、にロールが分かれ、航海士と舵取りは持ち場を離れたら砲撃戦でピンチになるのでDPS職がやるのが好ましいが、航海士と舵取りを出来る技量を持つ人間は責任感の違いだろうか、DPS組みからはまったく出なかったのを本作を書いてて思い出した。

船同士が接近すると普通のPvP戦闘になるので甲板に出れるロールはやはりタンクとヒーラーが欲しかったが、この操船配置とPvPはまったく違う練度の為に、配属でよく内輪揉めが絶えなかった。

筆者はCCerだったけど航海士いつもやらされてたよ。頼られている?いえ、誰もやりたがらなかっただけですよ。

とはいえ、日本でそのコンテンツに到達した時点では敵味方合わせて一日200人くらいしかログインが無い時代ではあったので海戦遭遇は珍しかった。

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