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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
人外魔境に咲く花
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B023.優しい笛の音

ダンジョン地下階の水中で障害物用に配置した岩陰で敵を待つ、すると相棒が突然「いかな。」と呟いた。

「どうした鮭殿?」「わるかボス設定わするった。」「ああ、ダンジョンボスか、この絶望的な状況でそんなものいるのか?」「ほしかおも。」俺達は冒険者モンスター達という挑戦者をたった二人で食い止めなければならない。

ダンジョンマスターの権限があればダンジョンボスを同じギルドのメンバーから指名出来る。

別にダンジョンマスターがボスである必要も無いし、大きい勢力に攻められる理由も今まで無かったのでなし崩しに放置していた問題だ。

ダンジョンボスのメリットは当然強くなる事だ、設定されればそのダンジョン内でMPEPSPがぐっと増える。

デメリットとしては自身の種族アイテムドロップ率が質と量共に上がるという事とダンジョンコアが弱体化するという事だが、このダンジョンにおいてダンジョンコアの弱体化は問題にならない。そういう仕組みのダンジョンだ。

「レベル的には俺の方が1高いが鮭殿は湖神信仰を持っているから、生き残り易い鮭殿に設定したいのだが、どうだ?」

「わかりもした、おいがやい。」と相棒が快くダンジョンボスロールを引き受けてくれるらしいのでダンジョンコンソールでボス1設定をサーモンラブに登録、すると相棒が光に包まれてから頭上に表示されたMPバーが装飾された表示になる。

「しょぶはこいかあじゃ。」「そうだな、最後まで諦める訳にはいかないからな。」


上層からの階段を下り地下階を一同は目指す。階段を下っていくと周囲は苔むした壁に光るキノコが生えているじめっとした空間と水の音が響く。

「天井が低いでやすね、亜竜のサイズで飛んだら頭ぶっけちまうでやすよ。」とアレキシが試しに目の前に広がる水面の前でジャンプをしてみると強かに頭を打ち付けた様なゴンッっという音が響いた。

「水中ステージになるんすかね、これ。そうしたらダンジョンチェッカー通らないと思うんすけどね。」とロドリコがキョロキョロと暗い水深の分からない水辺を見回すと。

「あったよ!丸太!」「でかし…じゃなかった。どうすんだよ丸太で!」

暗い水面を良く見ると確かに未加工の丸太がプカプカと結構な数が浮いている、あれは大昔のムービーで見たことがある貯木という物だろうか、あれが足場になるからダンジョンチェックはセーフですと言いたいのだろうか。

「これは、あの丸太を足場に使って進めっていう事ですかね。」

「オイラ大昔のゲームでこういうステージ見たよ。」

俺は正直に言うと古いゲームはあまり知らない、のでレオさんに尋ねてみる。

「参考に、それはどういうギミックでした?。」

「丸太の上に乗ると丸太がくるくる回りだして歩き続けないと水中に落ちるんだよ。」

「水中に落ちたらどうなるんですか?」とジノーが合わせて尋ねると。

「でっかい魚に食べられて死んじゃうんだ。」と怖い事をおっしゃる。

「じゃあ、これもやばい奴ですね。」

「ダンジョンには心が篭っている物です。ヤバくないダンジョンなんてこのゲームではまず存在しないでしょう。」とダンジョンに拘りを持つインテリオークは目を細めながら丸太を見つめる。

「んー、ロド。ちょっと試しに渡ってみてくれ。」

「え、僕そんなにアクションゲーム得意じゃないっすよ。」

「嘘付け、初見殺しに合うのが嫌なだけだろ。」「ちっ、バレてるっすか。」と言いながらロドリコはジャンプで丸太の上に乗ると、丸太がくるくると本当に回りだした。

「ちょ、ちょ、これ回転速度が微妙!」「理論上キャラクターの移動速度に調整されるはずだから、歩くとかダッシュとか切り替えはしない方がいいよー。」

丸太の上で踊るように転落を回避するロドリコは必死に斜め歩きをしながら次の丸太に近寄りジャンプをして次の回転丸太へ移動する。今度は丸太のど真ん中に着地したのか、丸太は回転せずにその場でピタリと止まる、うまいもんだ。

「あんな感じで進むんですか。」「いっそ泳ぐか、飛ぶか…。」「俺っちは泳ぎになるでやすね。」

「おーい、ロド。一回戻って方法を統一しよう。」

「そっすね、丸太に同時で二人以上乗るリスクを考えても水中か空中の方がマシっすよこれ。」

「じゃあ、私はジノーちゃんに化けるね。」とエリーンはジノーの分身となる。

これで現状は飛行可能が人型の俺、シルフ2、一応飛べるロドリコと愛微笑の5人となる、残りのナイトウィンド、レオ、バッシー、アレキシは飛べないがナイトさんとアレキシさん以外は恐らく飛行ユニットで牽引が可能だろう。ナイトさんとアレキシさんは運ぶにはちょっと重い。

「重いという判定を食らったのは遺憾だが、水生のある私は水中でも構わんが…。」

「俺っちが足引っ張ってるでやすね、ここで待ってた方がいいでやすか?」とアレキシさんの健気な気遣いが痛い。

「駄目だよ、みんなで冒険する事に意味があるんだよ。みんなで笑い、苦しみ、泣き、喜ぶんだよぉ。」とエリーンが人が簡単に口に出せない様な事をすらすらと語る、すると周囲のメンバーもその心意気に打たれたのか、水中の調査を重点に進行作戦を議論しだす。

妹はわしが育てたと今胸を張って言いたい。「エリーンはワシが育てた。」言った。


結論としては丸太のギミックは無視する事にした、数名が挑んでみたが難易度が高すぎるのだ。

水中には肉食の魚がウジャウジャと居た、それに紛れて海の民の二人組みが水底深くから遠距離魔法でこちらを削りにかかってくる。敵の攻撃力はかなり高い部類だが、こちらはヒーラーとタンクが二人いる。この時点で敵からの暗殺は厳しいだろう、それに敵はDPS職であるらしいが、ステルススキルは無い。

ところが、アレキシさんが水面を泳いで渡ろうとすると突然巨大なその亜竜が水面より姿を消した。

「あひぃ!」とアレキシさんから悲鳴がグループチャットで響く。

「まずい!引き寄せ系だ!」「救助に向かうぞ、水魔法の水中呼吸をかけるからかかり次第突入してくれ。」

水中は肉食魚と海の民の包囲網できっちり固められていた、こちらはナイトさんの水中呼吸の魔法で溺死はしないが、明らかに敵とこちらの動きが違いすぎる、唯一の救いは回復魔法の射程距離が陸上と変わらないという所だろう。攻撃力も刺突や水属性以外は大きくダメージが減衰する上に発動と命中に時差があると言う事が判明した、前作のマギラ2に水中戦は存在しなかったのでこの戦いは人生初の水中戦となる。その点敵は水中戦のプロだ、DPS職のはずの敵一人がナイトさんの水魔法や愛微笑の兵器攻撃を受けてもしぶとく妨害に回る、その海の民の頭上に表示されたサーモンラブという名前とMPバーは豪華に装飾されて描写されている。ここにきて自身をダンジョンボスに設定したか!

倒せばダンジョンコアに対する攻撃ボーナスBuffを得る事が出来るが、正直言うと倒すのは厳しい。

水中の移動速度に差があるのもあるが、ぶくぶくと倒れ水底に沈み行くアレキシさんを救助しなければいけないからだ。

「みなさん、海底で守りながら戦いましょう、戦力差でじりじり詰めるしかありません。」

「エリーン、敵に化けろ。対象はボスの方だ。」「はいはいおにいちゃーん!」

敵からの攻撃を過小評価していた、見え透いた攻撃は防げると高を括ったのが仇になった。

敵はNPCモンスターの肉食魚を巧みに盾として使いながら引き寄せスキルの銛の様な物をこちらに打ち込み巻き寄せる、そして回復魔法の届かない範囲に入った人物を集中攻撃し潰しにかかる。

水中移動速度はこちらがかなり鈍足である為に味方の戦闘不能になった人物への蘇生も遅れる。

こちらも負けじとロドリコと敵に化けたエリーンが敵へ引き寄せスキルを使用するが、敵はSP消費の緊急回避で難を逃れ、敵の攻撃はEP使用の水魔法をメインにしているのでリソースバランスも完璧だ。

アレキシさんを蘇生しても次は愛微笑が囚われタコ殴りにされ撃沈、次にそこまで行くとレオさんがボロボロにされるも生き残る。バッシーさんは俺が壁になり守り着る。ナイトさんは敵の前線すれすれで味方の回復に回る、彼女は引き寄せを食らっても水中戦の強いネレイドな為に敵の包囲を易々と突破する。

「エリーン、敵の信仰魔法があるだろ。あれを使えるか?」「うん、わかった。これだね。」

とエリーンは『フルルルウ!』と湖神信仰の和平の笛を発動させる。

予め敵のどちらかがこのマニアックなスキルを所持しているのは判明していたので、こちらもやばい状況になったからには今度はそれを利用させて貰おう。


「あ、和平の笛か!」「やいなす。」海の民必勝法と言われる水中戦は敵のスワンプマンにより妨害を受けた、敵のダウンはまた二体取れたが全滅には追い込めなかった。

しかし、「もたすいなすな。」「ああ、あいつらしぶとい。今までに全滅か半壊までに追い込むチャンスは3度あったが全て切り抜けてやがる。」「さがいもさん。」「そうだな、船まで戻って最終決戦に挑むしかあるまい。」


「敵が水面に向かっていくよ!」

「肉食魚が減ったから劣勢と見たんだろう、本当に後1-2人海の民がいたら全滅してたぞ。」

「愛ちゃん助けたらこちらも浮上するっすよ。」「少し敵を追尾してくる…。」「あまりご無理はなさらずにお願いしますよ。ヒーラー1はきついですからね。」

敵の追尾にいったナイトウィンドさんはすぐに帰ってきて「あいつら丸太の上をちゃんとうまく飛びながら逃げていったが、ダンジョンの入り口の方に向かったぞ…。」と妙な報告を受ける。

「ダンジョンの入り口に逃げたんですか、コアは守らないでダンジョンを捨てたとか?」

「この奥にダンジョンコアがあるとも限らないっすよ。」「それな。」

肉食魚を処理しながら水底を皆で進むと突き当たりに当たった、浮上して水面から奥を見ると突き当たりには木製の扉と小部屋がありその部屋の中にはイミテーションの財宝が綺麗に配置されたザ・宝物庫ですという部屋であった。

「ダンジョンコアが無いですね。」「やられたな。」「どういうことー?」「こっちのダンジョンコアは配置出来ないから覇王軍のダンジョンコアが無い訳では無いみたいですね。」と相談しあう仲間達に俺はロドリコとアイコンタクトを取ってから推測を伝える。

「恐らく、このダンジョンのコアは最初の部屋の戦艦の中だ。あそこが一番このダンジョンで硬かったからな。」

「ほえー、最初の部屋が最後の部屋って珍しいですね。」

「確かに、戦力を考えればあそこが一番妥当ですね。」

「ずっと考えていたんだ、あの戦艦を破る方法を。」「なんとなく僕も考え付いたっすよ。」

「ほう、んじゃ言ってみろ。」「先輩が先にどうぞ。」「やれやれ、思うんだがあれってさ…。」


戦艦の弾薬準備よし、照準はダンジョンの奥地、必ず奴等はこのダンジョンの秘密に気づき、すぐにここへ来るだろう。

隣で相棒が「たっちきこんか…」と呟いているがガチの鹿児島弁はちょっと分からないから困る。

ダンジョンの奥地から赤い名前の表示、来た!敵だ!

俺達の秘密基地を、ギルドからすれば小さな戦略性のない拠点だが俺達二人には大事な宝島へ獣共が迫ってきた。「奴等に海の民の侘び寂びを叩き込むぞ鮭殿!」「おいにまかせんか!」と俺達は主砲と副砲を敵へ斉射するが、敵の取った行動はこちらの意表を付いて来た。

敵のいる地面は移動床である、移動床は船を中心に時計回りにくるくる回る様に配置しているが、奴等はその移動床に逆らわず流されず、そのまま移動床の方向にそって全員で走り出したのだ。

その移動速度は陸上特化ユニットの高機動に匹敵する速度を持った。

「速い!!」「まさきおわん!」

その敵の動きにこちらもやたらめったら砲撃を開始するが、敵の回転速度に砲身の移動が間に合わない、先置きして砲弾を敵の移動速度に予測して当てようとするも、そうするとしても砲台の次弾発射までのクールタイムに間に合わないし、こちらの戦艦内での砲台間移動時間も間に合わない。

砲撃が命中しない事を確認してからか、敵は一斉に亜竜に跨り始めその翼でこちらへ跳びかかって来た。

「まずい、奴等飛んだぞ!」「といちたか!」頭上の甲板から船内への扉を砲撃開始する音が響き渡る、戦艦の砲弾を避けられて敵の翼破壊や巻き付きを妨害できない現状ではこちらに打つ手は少ない、俺達は急ぎ、外へ向けていた戦艦の主砲をはずし、敵の来るだろう扉の方角へ向けた。こうなれば戦艦を枕に戦って散るしかない。その作業は二人で迅速かつ無言で行われた、ぶと相棒の顔を見ると笑顔でこちらに向かって頷いて返してきた。俺は薩摩武士じゃないけど、お前のインチキ薩摩モンプレイに最後まで付き合うよ、相棒!


「扉、崩れます!」「チャージカウント、3.2.1.今!」「オラアアア!」「だりゃあああ!」「うーらー!」と扉が破られる瞬間に思い思いの掛け声で戦艦内へ踊り込む、突如目の前には激しい炸裂!敵さんは船内で砲台を発射してきたのだろう、「大丈夫だ!怯まず進め!」とヒーラー二人が後ろから援護してくれているのでこちらも怯まず敵の海の民へ襲い掛かる、翼がもげようと、血しぶきの表示が激しく散ろうとも。

敵も「くそがあああああ!」「チェストオオオ!」と叫びを上げながら砲台の操作と水魔法、物理スキルを回転する様に繰り出してくる、お互いに必死だ、なぜ人はゲームであろうともここまで必死な形相を出来るのだろうか、闘争本能は死す殺さずとも満たされるのだろうか、満たす必要があるのだろうか。

敵の片方が倒れる、こちらは数で有利だとしても防御力の薄いジノーが敵の目暗撃ち砲撃で倒れる、レオさん、俺、アレキシさんで狭い船内で生き残るダンジョンボスをボックスしタコ殴りにする。

「いっすん!ぶんとおお!」と雄叫びを上げながらダンジョンボスの海の民は最後まで暴れまわるが、やがてそれも力尽き倒れた。彼等のドロップアイテムを拾い、屍を越えて最後の扉を突破すると、船長室だろうその部屋にはダンジョンコアが神々しく鎮座していた、こいつを破壊すればこのダンジョンは泡と消える、彼等の小さな夢を踏み潰す。

背中から「畜生、畜生…。」という声が聞こえてくる。その声に俺は背を向けたまま、ダンジョンコアを砕こうと剣を振りかざすと周囲に『フルルルウ』という優しい笛の音が響き渡った。

その笛の音を鳴らしたのは敵に変装したエリーンの物以外にない、俺はその音を聞いて剣を下げる。

「駄目だよ、お兄ちゃん。」「駄目か。」「うん、駄目。」「分かった。」という兄妹のやり取りを見た周囲のメンバーも一様が小さく頷き、その決戦の地を後にした。


「さて、入り口から出るか、展望台から出るか、どの道もっかいNPC掃除はしないといけない。」

「展望台から帰ろうよ!綺麗だったし!」

「そうですね、もう一度彼等の夢を追いかけてから次に行きましょう。」

戦艦の甲板から跳び出た俺達はダンジョンの奥地へまた向かう、俺達の背中に砲弾は飛んでこなかった。

しかし、入り口の方が何やら騒がしい。

「あ、やべえっす。あれはやべえっす。」「ああ、多いな。」

その大量の覇王軍、既に生まれ故郷の無い人型の種族。

「「祖国の為に仇を討て!」」と唱和しながらテクチャルの軍団がこちらを迫り来るのが見えた。

「逃げるしかあるまい…。」「早く逃げるでやすよ!」「三十六計逃げるに如かずですよ。」

と俺達は海鷲の巣へ向かい走り抜け展望台より青空へ海の民達の夢から逃げ去っていった。

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