006.南の森の女王は(男)
新装備に身を包んだロドリコは開幕からあざとかった、そのギルマス製装備一式は猫の顔を象ったショルダーアーマーや哺乳類系の肉球のマークがデカデカとついた胴鎧に、頭の上には二つの獣耳用の突起がある通称『ケモミミ兜』(多種族も装備可)をかぶり、カラーリングはホワイトとブラックとブラウンで三毛猫模様風になる按配に染められている、ギルマスの仕事あざーといっす。
武器はチタニウム製クロー(スキル70素材、斬撃属性武器)を採用しているが、その武器もデザインが猫の手とツメの様な形になっている。
ロドリコは「ええと、メールによると、胴体と脚だけブリガンディ(金属と革複合鎧)にしたと書いてあったっす!これで防御力も底上げっすよ!」と言ったが、そのザインには突っ込まないのかよ。後ろでチビパンさんがゴリゴリとした声で笑っている、それを見て集まってきた他のギルドメンバー達から笑いと「パーフェクトケモ装備はかわいいなあ。」と言った声も聞こえてくる。
自分は笑いと突っ込みをせずに一応補足をする。
「防具の胴体と脚だけレザーや布素材ではないのには理由がある、このゲームは胴>脚>頭=盾>その他部位の順に装備の基礎防御力が高い、だから胴と脚と頭は素材を金属寄りにする場合が多い、ブリガンディは金属と革の複合生産で作れる面倒な装備だが性能が良い、頭がケモミミレザーヘルムなのは完全にギルマスの趣味だ。」
ギルマスは確かに素晴らしい装備を生産専用のサブキャラで作ってくれる、しかしそのデザインは毎回拘りがあるものの頭装備だけはいつも『ケモミミ兜』だ。たとえギルメンがどんな種族、トロルに対してもケモミミ兜を送ってくる。頭装備の表示は設定で頭部をむき出しにできる仕様があるゲームとはいえ、その設定をいじらないとギルメンは大体この『ケモミミ兜』、ギルメンの中にはケモミミ兜からは下は純和風の鎧を着た奴も居る。自分は頭装備非表示にしてある。無論、頭装備表示ありにすると『ケモミミ兜』になる。
ロドリコが首を傾げ質問してくる。「一緒に送られてきたマホガニー製の弓が木工だと思うっすけど、木工って杖と弓以外何あるんすか?金属、布はまだ需要が分かるんすけど、木工はいまいち幅が狭いと思うっす。」
その質問に対しては生産マスターの一人であるチビパンさんが答えた「木工は確かに実装当初は杖、盾、弓、のみ作成と不遇だったが、アップデートで木製防具、藤甲や竹アーマーといった物が追加された。こいつらは性能はいいんだが火属性耐性に大きくマイナス補正がかかるのでバランス型には敬遠されている。」
そこへ東方の三賢人が内一人とされるキールさんが合いの手を入れる「木製防具を使い火を避けて戦うなら吸血スキルもよく併せて取られるな、吸血鬼になると火に弱くなるが、火属性を使ってこないPvEではこのパターンが強い。余談だが、藤甲や竹アーマーはどんな木材を使っても藤甲や竹アーマー表記になるのはファンタジー設定だ。」
その回答にロドリコはもっともな疑問を口にした「所で布装備はなんで火に弱くないんすかね。」と、その一言に周囲のギルメンは押し黙ってしまった。知らんよ。
エーテロギア暦第2期956年収穫の月24日、自分とロドリコは西方王国内での活動を諦めて南方の森林同盟の地へ赴いた。
緑色だらけの首都『フィルモア』は西方首都ローラントより遥かにプレイヤーが少なく静かだが、首都自体が狭いためにNPC達がHMDの視界内に多いために寂しさを感じないバランスが取られている。MAPが狭いために銀行と生産場が近く、生産を極めんとする玄人は他国民でもこのフィルモアを拠点とする傾向がある。
首都でいつものコラーダ氏への果たし状テンプレートをロドリコがゾーンチャットで流し、スキル上げの為にロドリコへ相応しいランクの狩場へ移動する。行き先は大パブリックダンジョン『深迷森』、やはり他国だけあってここに来るのもまた自分も初めてだが、ギルマスはよくランク80素材の『エルチウム』やらを集めに火属性を使う魔法使いのサブキャラで来るらしい。
予め情報は持っていたので、このダンジョンの為に自分は以前にギルドでレイドダンジョンに挑んだ時に譲ってもらった数少ないレリック武器を持ってきた。しかし、分かっていても自分を試したいものだ、10代の男は何時だって無鉄砲だ。
二人で道中の森林地帯を戦術スキルで走り抜け、ダンジョンへ入り次第に手近なウッドゴーレム(ボスランク1)単体に対し、セルフBuff(自己強化スキル)の全てを掛け、愛刀のレイピア『スズメバチ』を構え襲い掛かる、初手は十手による盾スキル『シールドチャージ』!スタン2秒、その後敵のスタン中に片手武器スキル『介錯』でダウンスタン中の敵へダメージボーナスを得る。それを2発加えてその直後に戦術スキル『乾坤一擲』(次の攻撃威力UP防御力大ダウン)から片手武器ウルティメットスキル『連撃』を発動しその後に片手スキル『ストライク』のライトアタックキャンセルを連打ぁ!
…分かってはいたが、自分が全力で襲い掛かったウッドゴーレムは刺突と衝撃に高い耐性があるのであまり体力は減っていない。ちらりと横で傍観しているロドリコを見る。
「先輩なんすかそのDPS(瞬間攻撃力)、なめてんすか?ボクですらもっと威力出ますよ?ポンコツっすか?」とそのクリクリした目が語りかけてくる、口にはしていないがこいつは絶対そう思っている顔をしている!
さすがに自分も『カッコいい先輩』を維持したいお年頃でもあるので、愛刀スズメバチへの思いを哀悼へ転じ、しぶしぶと武器を切り替える。切り替え先の武器は『ファイアブランド』名前はシンプルだが時間のかかるレイドクエストボスのドロップレリック(滅多に出ないユニーク物)武器である。
基礎攻撃力はスズメバチよりやや下回るが、この剣の攻撃属性は斬撃40%火属性60%という植物や虫の多い南方モンスター殺しの武器である。
ギルマス曰く「自国モンスターに特効性のある装備は間違いなく他国にある。」という訳で北国もある東方も火属性が通るのでこれは西方王国にあるレイドクエストのドロップレリック武器であった。
この剣に切り替えて片手武器スキル『必殺旋風剣』を発動する、このスキルは発動すると勝手にしばらく殴りかかるので使い所はこういう時でしかない、CC(足止め)を受けた敵には大体『介錯』を使うからな。旋風剣は武器を握った利き腕をぐるぐると子供のケンカパンチみたいに回転させて斬り付ける技だ、剣と書かれているが別に斧やハンマーや槍でも発動できる。ウッドゴーレムをそのスキルで斬り刻み続けるとみるみる内にそのMPを減らしていった、こうかはばつぐんだ。
武器持ち換えですんなりとウッドゴーレムを倒した自分はまたロドリコの方をチラ見する。するとなんとさっきの侮蔑の眼差しであった瞳が尊敬の眼差しへ変わっているではないか、これでメンツは保たれた!
その眼差しを気持ちよく受けていた所に後ろから知らない声のボイスチャットで話しかけられた。またこのパターンかと思って振り返ると、そこには金髪碧眼エルフ、ここまでは良い。しかし、小太り低身長で釣り目でタマネギの様な変な髪形の男が立っていた。そのエルフ?曰く「ウォウ!あんた果たし状の人だろ?あんた動画見たよ、最高だね!ファンになったんだ、もし邪魔じゃなければ同行させてくれよ。」と言い出した。
考える、ケース1.コラーダ側からのスパイか?2.心無い冷やかし。3.ただの変人。4.そういうロールプレイ。とりあえずうさんくさいので、お断りしよう。と思ったらロドリコがそのエルフを既にグループへ誘ったらしく彼は晴れてグループメンバーとなった。畜生、同盟についた後で重さを感じた(回線遅延)のでリログ(再起動か再ログイン)した時に移動したグループリーダー権をロドリコから奪うのを忘れていた…無念。
ロドリコは「楽しそうな人っす、よろしくっす!」と爽やかに言い放った。
自分はそのエルフの名前をグループ表示で確認する表示は「Adoring-fan」?という、どういう意味だか英語力の低い自分には判断出来なかった、なんかのファンなんだろう。当のエルフはジャンプと同時にシャドウボクシングモーションをしダンジョンへ進む催促をしてくる、その憎らしい顔も相まってかなりうざい。
ダンジョンを少し進むとクエストが2つあった。これは要約すると、薬にする木の根を集めて欲しいという雑魚乱獲クエストと料理に使う素材を求めているという奴で後者は道中の中ボスと最後の大ボスがドロップするアイテムの様だ。このダンジョンは人の出入りがとても激しい人気の狩場なのでクエストの達成は容易だろう、他人と一緒に敵を轢き殺して回ればいいだけなのだから。
グループを組んだ直後に後ろから更に一人、ダンジョンの奥地の方へ躊躇せずに突っ込むプレイヤーがいたので彼を先導者にして尾行しようと思った、だってこのMAPに詳しくないんだもん。
3人のグループと知らない人の4人集団がダンジョンを突き進む、さすがに4人だと数匹固まった敵や中ボスに時間がかかる、ここはスキル70以上推奨のダンジョンなのだからスキルカンストしていても多少は苦戦する。
グループの変なエルフはなかなかおもしろいスキル構成だった、恐らく竜神信仰、元素魔法、罠、耐性メインだろう、時よりシャドウボクシングしてるのはブラフか癖かロールプレイか判らない。
しかし、罠の使い方がイマイチヘタで自分の出した罠スキル『パンジステーク』(トゲ付き落とし穴)に敵と一緒に自らの陥穽の計の中へと消えた、転落後にはトゲダメージを敵と一緒に受けながら口から竜神元素複合スキル『ファイアブレス』を出し応戦、文字通り熱い地中戦の中で「スーズータン?すーずーたん!」と叫びながらその意味不明な戦法を繰り返す。
敵を罠に落として元素魔法で遠距離から焼くんじゃないのかよ。しかも『スーズー・タン』は時空神で竜神じゃないぞ。更にその変なエルフは時折「どうした有名人?肩でも揉もうか?」と良く分からない労わりをしてくるが、そんなサービスいらねえよ、戦え。
ダンジョンを進むに連れて野良の道連れが増えていく、その数は全員で7人となった。敵の群体より多いその集団はもりもりと雑魚や中ボスを轢き殺し、ついに最後のボス『サウザントイヤーズフングス』のいる大広間前につき皆でたたらを踏んだ。この巨大キノコボスは強い事で有名である、プレイヤーが7人もいながらお互いが顔を見合わせ伺う「誰がファーストアタックすんだよ。」という顔だ。
この7人の混成部隊の内にボスの引き付けだろう役目は自分の盾スキルか、ロドリコのペットその2号である、大熊の本人曰く『熊のカンパドール』という強い部類の複合召喚獣とペットその1号の巨大リスを交互にぶつけるくらいだろう。だが聞いたことがある、南方住民がこのボスへ突撃しないのには理由がある、このボスは単体攻撃と範囲攻撃しかしないのである、そしてその範囲攻撃がえらく痛い。
この沈黙に耐え切れなかったオークの戦士がボスへ向かって行く、戦闘モードに入った巨大キノコはそのオークへ単体攻撃の体当たりの一撃を食らわせオークのMP7割を削った上にノックバックを与え動けなくなった直後に『死人胞子』と呼ばれる広間全体の攻撃を発動した、これによりファーストアタックをしたオークはあっさりと戦闘不能に陥る。
残り6人全員のモチベが『死人胞子』による全体攻撃で3割も下がる、これは痛すぎる。
つい舌打ちをしながら自分はその巨体に挑発スキルを発動させる、ギルマスに言われたが「舌打ちする癖は大人になるまでに必ず治せ。」という言葉を思い出す。ボスの近接ノックバック攻撃は前振り(予備モーション)があるのでガード系スキルで防げる。問題はボスの自然回復力を上回る火力を味方が倒れずに出せるかどうかだ。
ロドリコが2匹のペットをボスへぶつけた後に戦闘不能へなったオークへ駆け寄り、格闘80スキル『闘魂注入!』を使用し蘇らせる。格闘は純粋な攻撃力よりもこういった蘇生スキルや補助効果スキル等のトリッキーな効果が強い、ロドリコが『闘魂注入』獲得まで格闘スキル上げを達成していたのは素直に驚いた、だが弓スキルはまだ低いままだろう。オークは立ち上がると「ありがとうございます!」と叫びながら薬を飲みボスの裏手に回る様に走り寄って来た。
ボスの単体攻撃は自分で完封できるが、問題は死人胞子だ。このボスによる全体攻撃が5回目になると回復手段の薄いキャラクターと自然回復と最大MPの低い順から倒れていく、さらにこれは病気属性の攻撃なので装備による耐性はまず取られない、それこそ竹アーマーや藤甲を装備し吸血鬼スキルを上げたキャラクターが相手をする様なボスだ。
自分はまず落ち(戦闘不能)ないだろうが、自分一人の火力ではボスを押し倒しきれない。
『死人胞子』により一人また一人と倒れ崩れていく、ロドリコも奥の手であるアクアビッテ(大回復スキル)を使ったようだ。しかしボスのMPは残り80%もある、壊滅かなあと思った時にボスの広間へエルフの女とオークが入って来た。
その姿にグループ内の変なエルフが叫び声を上げる。「陛下、ご助力お願いします!タスケテ!」と、お前意外としぶといな。
その陛下と呼ばれた緑髪のエルフ女はよく見たことがあった、それはウォーデルタ地帯の戦場である。
通称『南の森の女王(男)』と呼ばれている。とても美形なテクスチャの顔である『彼』には伝説がいくつかある、まずは南方森林同盟最大手ギルド『シマムラァ』のギルマスである、連携呪文やスキルで『ゲリラ戦法』という戦い方を行うプロ中のプロである。大勢のオークやエルフ男を引き連れ戦に挑む姿は『歩く薄い本』と言われたが、オフ会を開催した時に姿を現したらなんと女ですらなく、しかも美青年であったという。
そのギルマスのリアル姿に動揺したギルメン達は「声はどうしてた!?」と質問をすると、「ボイス変換ソフト、最近の奴は出来が良いよ。」と答えたらしい。今までは誰もがこのエルフ女をゲリラ戦術を巧みに扱う理想の女王と思っていて、その崇高さに中の人の事にはわざと追及してなかったのである。この事件により彼は一気に南方有名人のトップを飾った。
なお、彼以外の南方有名人はほぼ全員がウータンギルド『ゴリラゴリラゴリラ』のメンバーである。
女王(男)はその悲鳴に対し小さく頷くと、音楽と森神信仰と召喚を器用に使い分け戦線の建て直しを図る、お得意の『連携術』は3人いないと発動出来ないらしいので女王(男)単体の性能を見るまたと無いチャンスだ。
お供のオークは恐らく光神信仰と元素魔法系だろうオークで魔法型は珍しい、オーク魔術師は女王(男)から一定の距離を保ち火属性の攻撃魔法をボスへ飛ばしつつ光神魔法で倒れそうなプレイヤーを回復している。
ロドリコは闘魂注入(蘇生技)を戦闘不能者へ食らわせ回っている。
女王(男)は音楽スキルの『命の歌』と『賛美歌』を併奏しつつ、森神系ペットであるウッドゴーレムやキノコ人間をボスへぶつけている。
この音楽スキルにより自然回復35%上昇と魔法防御+1を得る、これにより巨大キノコ討伐は一気にヌルゲーとなった。倒れる不安に苛まれる事の無くなった各々が最大火力でキノコへ殴りかかりその巨大なMPバーをゼロへと押し込んだ。
勝利の歓声が上がる、各々がボスの死体へ群がる。するとその時、エルフの女王(男)から自分に声を掛けられた「果たし状の有名人がなんで南方に来た?」と。
自分は返す、「一応、全国を回るつもりだしメンバーの育成もあるんだ、女王様は素材集めですか?」
見た目エルフ女は答える「素材集めは正解だ。しかし、君やオタクのギルマスは本当に馬鹿だな。」と言うが、自分はその返答にむっとして問う「なぜ馬鹿だと?」
エルフ女(男)は溜め息を付きながら答えた。
「西方の人間を探す、まず最初に西方へ行くのはわかる。しかし、なぜ次に南方へ来た?普通は1番と2番は西方か自国(東方)を探すんじゃないか?」
その返答に対して言葉が詰まった、確かに南方を探すメリットは薄い、時間を急ぐならこいつの言葉が正しい、もしかして自分は何時の間にか、この旅をただの初心者育成ゲームになっているのではないかとも思えてきた。
そこへ大王は続ける「シマムラァとゴリラに新規加入者はここ最近出ていない、恐らくあの戦士は南方にはいないだろう、長居せずに自国を探してみてはどうかな?」と。
自分は少し考えて「ありがとう、忠告感謝する、大王様。」と答えてダンジョン入り口のクエスト報告NPCへと走った、グループ内の二人もその突然の脱兎に驚きつつ続いた。
後ろから「大王言うな!」というシャウトが聞こえた。
全速力でダンジョン入り口に辿り着きクエスト報告を終えると、まだ居た変なエルフが「あんたの剣さばきはさすがだな!」と褒めて来た、こいつはまだグループを抜ける気がなさそうだ、困ったな。
そこでロドリコと変なエルフへ自分の意見を伝える。「リアルの用事が溜まっているので今日はもう落ちる(ログアウト)、明日はログインできないから解散としたい。あ、ロドは料理スキルを100までとりあえず上げて置いた方がいい、倒れにくいプレイヤーはアクアビッテと蘇生メインが良いし、残りのスキル枠も決まってないだろう?」と早口で多少伝えると。
ロドリコは敬礼モーションを取り「合点承知の助っす!」と元気良く答えた。変なエルフは忘れよう。
この日から自分の心に複数の疑問が湧いてきた。
設定
・ウルティメットスキル
各々のスキルラインや複合スキルにはウルティメットポイントを使用することでスキルが使えるものがある、片手武器だと『連撃』両手武器だと『遠心回転撃』ウォーデンだと『エレファントチャージ』等である、ウルティメットポイントは攻撃時やダメージを受けた時にポイントが溜まっていく。
・シナジー
味方が特定のスキルを使ったり、敵を特定の状態変化へ追い込むとスキル発動者以外がシナジーボタンを押すことで特殊な効果が発動する。
余談だが、シナジーシステムを最初に見たのはTL○tRoであるが、それが後にES○になると本当によく出来てる発想だと思った。