B021.小島はまずい
「今度は攻める側か?」と俺は感慨深く目の前にある、砂浜と岸壁に深く抉り込まれた大地の裂け目を見つめる。
「数ある小島の中で戦略的に無意味な場所にあるダンジョン、これはあれですね。」
「ただのロマンダンジョンだな…。」「秘密基地だよね?」
しかし、これがダンジョンという物なのだろう、俺達が作り上げた難攻不落かつ政治的に縛られたダンジョンなぞダンジョンでは無くただの地獄である、それを作り上げた主要人物である俺が言うのもなんだが、ダンジョンは夢やロマンがあってなんぼだよ、うん。
「未知への探検!」とエリーンがはしゃいでいるが、俺だって内心ウッキウキではしゃぎたい。
「でも海賊のアジトと言っても人類は覇王軍同士、つまり人間を襲撃出来ない海賊って何か変じゃないっすか。」
「知らないのか、海賊はファッションなんだぞ。」と俺は真顔で言い切る。ちょっと自信ないけど。
「でもマギラ2の山賊は本気でしたよね。」とジノーが遠い目をしながら言うが、もしかしたらそういう勢力の人はマギラ3に来る事は無いのかもしれない。
同族を襲う事を趣味とする、ファンタジーなゲームに限らずそういった趣味を持つ人は多い。同族とはつまり人間の事だ。
戦いには禁忌と義務と必要性と娯楽の要素が絡み合う。だが、戦争にしても多種族を襲うにしてもネットゲームでは全員が戦いを求めている訳でも無い。
「となると、今回は完全にこちら側がお前の考える悪い山賊側に回るぞ。ダンジョンを、人が精魂こめて作った秘密基地を破壊しに行く訳だ。これは、冒険とはそういう事だ。」
「相手もこちらの種族を攻撃しているかもしれないから予防的に巣穴を襲うという論法は通じませんか?」と悪魔の少女はきっちりと俺のメタ理論に相槌と突っ込みをくれる。
「自己正当化をするならばそれでなんとかなるだろうし、もしかしたら、ダンジョンを破られる事を望んでいる場合も否定出来ない。だからこそ世の中もゲームも栄光と転落が存在するんだと思う。」
「少年、『見えざる手』の話はなしにして素直に進もう…。その話の先は奈落だ。」と年長のお姉さんは諭すように俺の話を遮る。
「ネトゲーから仏門にでも入るかね?若い世代はもう少し単純に物事を考えても良いと思うがね。」
と凶悪難易度ダンジョンメイカーのバッシーさんもとりあえずダンジョンを攻略する事に挑みたがっている。
「では突入します。サイズの都合上で俺は人型で戦うから至らぬ所があったら申し訳ない。」と俺はダンジョン突入前に一応念を押しておく、人型で戦うのは本当に久しぶりな気がする。
「洞窟も俺っちがぎりぎり通れるサイズでやすしね。俺っちの位置は中衛がいいでやすかね。」
「そうですね、アレキシさんが前衛に出ると敵を包囲しにくく、後衛にいると戦力になりませんので、それが正しい位置取りかと思いますよ。」とバッシーさんがメガネをくいっと上げる。
「お兄ちゃんが人間らしく戦うの見るの久しぶりだね!」「いや、別に人間っぽく戦う気はないぞ?」
「え?その姿で!?」エリーンが驚きの表情をする。だって別に人間型のスキル多い訳じゃないし。
「ああ、ブレスとか吐けるしな。」と俺はスキルスロットを見てブレスの発動可否を確認する。
「美人なお姉さんがドラゴンブレス吐くってちょっとロマンありますよね。」と愛微笑のロマンは相変わらず少しズレがあると思う。
「所で覇王軍側はモンスターの代わりにダンジョンでは何が湧くんすかね。」とロドリコがキョロキョロと見回し敵を探すとダンジョンの横を流れる流水から鉄砲魚みたいなモンスターが顔を出して水魔法のウォーターカッターをパーティーの横から加えてきた。
「あ、やべ。後衛は流水の反対側に移動してくれ。」自身の体に赤いしぶきが上がるのが見える。ドラゴンの体でいるより人間の方が痛そうに見えるのがつらい。
「わわ、結構ダメージ大きいよ!」「回復に専念するぞ…。」「私もそうしましょう。」
「前衛で叩きに行きましょう、ターゲットはレオさんと俺とアレキシさんで敵を分散して持って、後衛は出来れば俺の持っている敵に集中攻撃してくれ、エリーンはバックアタックを狙え。ロド、CCは通りそうか?」
「水中から敵を引き寄せるんでそれを叩いて欲しいっす。」
「分かった、メインアタッカーはロドに変更だ、回復が間に合うならターゲットの分散はやはりなしにしよう。」
俺はエルフ製の盾を構えながら敵の魔法を受け流す。今回は前衛として頼れるマリッドの姉御がいないのでタンクロールは俺とレオさんになるが、戦法がイマイチ定まらない、敵が水中から遠距離魔法でじわじわとこちらを削るスタイルというのもあるだろう。
ロドリコが包帯により敵を引き寄せる、そこへ俺はファイアブレスを敵へ向かって発射する、ブレスは案の定口から出た、重装備に盾を構えたお姉ちゃんがファイアブレスを吐く姿はシュールだがダメージの通りはなかなか良い。
「あ、ADD、奥からリザードマン?が数体攻めてきます。」とジノーが風魔法を鉄砲魚から新手に向かってくるリザードマンへ向かって発動させる。
NPCモンスターのリザードマンは魔王軍だろ?と思っていたら、名前表示は『裏切り者のリザードマン』と丁寧に表記されているので微妙に納得してやる事にする。
「アレキシさんとレオさんでリザードマンを足止めしてください。魚はロドと俺で処理しておきます。」
「オイラに任せろ!」「別に倒してしまっても構わないでやすね?」と頼もしい掛け声を発しながら二人はリザードマンの対処に向かう。
二正面戦闘は避けたいが、更に悪い事は重なるという事を考えないといけない、案の定。
「更に来ます、敵プレイヤー2名!」と愛微笑が叫ぶと俺への回復魔法が途切れて回復組が敵プレイヤーのCCの専念に動く。
「エリーン、敵PCの方に回ってくれ!」と俺は魚に化けてバックアタックをヒットアンドアウェイで繰り返しているエリーンにスワンプマンが最も役に立つだろうロールへ回って貰う。肉弾CCは大事だ。
「先輩、ポーション足ります?」「ああ、大丈夫だ、めっちゃ薬草食ってるからな。」
「よく薬草食べながらドラゴンブレス吐けますね。」
「ブレスと一緒に薬草が飛び出たらお互いに気まずいだろ!」
よし、会話が出来るという事はまだ余裕がある証拠だ、現状敵の追加で攻めてきたプレイヤーは愛微笑とエリーンで相殺できるか悩ましいが、鉄砲魚かリザードマンのNPCを処理しない事には援護も難しい。
何せこのゲームのNPCは結構賢い。その昔、NPCが賢すぎるRPGが発売されたらしいが、それは一部のファンには受けた物の、世間の判定はクソゲー扱いであった。
なので最近のRPGはAIやbotが発展しようとも、人間様が勝てる程度の知能に設定されている。
最近では「ミスをする。」「動揺する。」といったNPCロジックも開発されているらしいが、後者はちょっと罪悪感が生まれそうだな。
「愛ちゃんいくよー!」「エリーンちゃん、頑張ろうね!」と悪魔とスワンプマンの少女達は敵の海の民二体と対峙する。
「魔王軍か!本部!こちらSW12基地、支援を送れ!」「数はイチフルグループ!」海の民達はエリーンの変装スキルによりチャット妨害が成立する前に味方へ連絡をするとすぐに突撃を仕掛けてくる。
その突撃に迷いは無い、これが海の民の根性か。
「あ、ちょっと!」「あれ?スルー!?」と敵プレイヤーの妨害に向かったはずの愛微笑とエリーンがあっさりと突破され、こちらで一番体力の減っている目標、つまり俺に対して敵二人は息の合った攻撃を仕掛けてくる。
「そのタマ貰ったぁ!」「オラアア!」と冒険者とは違う殺意のよくこもった戦人の声で迫るが、俺はそいつらに目くらましのファイアブレスを使用し大翼と天空神の加護による飛行速度でリザードマンの集団に苦戦している前衛陣まで逃げ込む、それに続いてロドリコも包帯でアレキシさんに巻き付き敵から距離を取る。
「魚の魔法は耐えるしかないが、問題は敵のプレイヤーだ。一撃受けたけどDPS組は一瞬で溶けるかもしれない攻撃力を持って。」と言い終わる前に敵の海の民は鉄砲魚の水魔法に合わせて更に水魔法の攻撃でこちらを削りに来る。
敵は俺がタンク職に近いことを察してか、次の狙いは最初にスルーした愛微笑に狙いを合わせるが、愛微笑も機械神の信仰魔法で海の民と鉄砲魚をまとめて野戦砲撃を開始しはじめる。
回復の厚いこちらとDPS二人のプレイヤーではあの世への道連れを確保出来たとしても勝利は厳しいだろう。
もう一度魚に化けていたエリーンが敵海の民にバックアタックを決める。うまい、あいつは日に日に暗殺職に近づいている、時間はかかっているが目標には近づけるものだな。
その重い一撃を受けた海の民の相方は突如、笛の様な物を取り出し、フルルルウという音を周囲に響かせる。するとこちらから敵に対しての攻撃判定がなくなり、敵からの攻撃がNPCからも含めピタリと止んだ。
「あ、これ湖神信仰ですよ。」「非戦闘状態にするっていうアレか。」
「はい、今の内に回復と攻撃準備をしましょう。」「敵さんは逃げてくっすね。」
「次は間違いなくこちら以上の戦力を用意してくるぞ…。」
「今みたいにNPC戦に紛れて攻撃されるのもきついでやすね。」
各々は戦闘位置をまた戻し回復をした上でまたNPCとの戦闘を開始する、鉄砲魚が一番厄介という事なので、リザードマンはレオさんとアレキシさんに抑えて貰っているその間に他メンバーは全員で鉄砲魚を攻撃し殲滅する事にした。
鉄砲魚が全滅すると残りは組し易いリザードマンである、リザードマンは人型の部類なのでトリッキーな攻撃が来ないだけ倒しやすい。
「誰も倒されなかったのは良かった。」「一人くらい倒れるかもとは思いましたよ。」
「必死で回復魔法してましたから、寝かせませんよ。」と余裕を取り戻した我々はダンジョンの先を進み曲がり角を過ぎた瞬間、目の前が急に広がり、そこには大きな水溜りとそこに浮かぶ一隻の戦艦、そして水溜りの周囲地面には戦艦を囲む様に移動床が配置されている。
「え、そんなんあり?」と俺は正直逃げたい気持ちに駆られる。
「敵も考えましたね。あ、砲身が動きましたよ。」と他人事に悪魔の少女は感想を漏らし。
「とっつげきー!」とエリーンは叫びながら移動床へ向かって突っ込んでいった。
「密集して回復を固めて戦うしか無いな…。」「ヒール速度間に合います?」
「エリーンちゃんがヒーラーに化ければギリギリ行けるんじゃないか…。」
「エリーン!はぐれないでヒーラーやってくれ!」「私ヒーラーやったことないよー!」
「回復魔法ボタン押してれば大丈夫ですよ。それに、戦艦に暗殺は無理でしょう。」
敵戦艦の砲台が移動床で運ばれるこちら側をドッカンドッカンと的撃ちにしはじめた。
全員のMPがガリガリと削られるが、回復魔法でそれもなんとか持ち直している。
「こうなるとどうやって戦うんですか?」「困ったな。」
「飛行して敵の船に乗り込めないか…?」「翼がもう破損したので無理でやすよ。」
「絶体絶命かあ。」「最近楽して勝っていたからたまにはこういう地獄もいいじゃないっすかね。」
「お前の趣味って相変わらず変わってるな。」
・設定
キャラクター名:サーモンラブLv16 ミズーリLv17
種族:海の民
水魔法 水属性の魔法を覚えます
海戦 海中及び海上で戦闘補正が大きく付与されます。船舶の建造が可能になります。
信仰心 信仰魔法の威力にボーナスを得ます。
自然崇拝 地形効果を大きく受けます。
武装 装備品の幅が広がります。
変異先
アルカイア→デブグルー
ヴァイキング→シールズ
・雑談 自己人体実験:時間
1年くらい毎日短い日記を書いている、暇だから。そこで分かった事が数点。
寝起きから1時間経った後から6時間はテンションが晴れやかである。
それ以後は少しテンションが落ちる。
午後6時を過ぎたらもう何をやってもやる気が出ない。
鬱躁の病気かと言われれば幼少時よりこの感覚はなんとなくだがあったのでなんとも言えない。
具体的に言うと若かりし頃の寝起きからのハイテンションで時間にクッソつまらない学業で過ごすというのはとても苦痛であった。
他に無職の人間や働いている人間に似たような話を聞いて見た所、個人差はあるものの「集中力のある時間」というのは存在するらしい。つまり、一日の24時間は24分割すると各々で時間に価値が違うという事が分かる。というのはどっかの偉い学者さんも昔言ってた気がするけど、試してみると確かに存在する。
ここ数日、その駄目な時間である午後6時以降に本作を書いて見た所、内容と閲覧数が酷く悪化している事に気づいた、つまり何を言いたいんだい?と言われると。
何か楽しい創作物を書きたいのならば寝起きから頭の整った時間帯を有効に使うべきだという事を夢を持つ人々に伝えたい。
ただ、夕方からテンションの上がる人がいたらこれは適用されないが、24時間の中で経験値ブーストみたいなのがある時間は存在して。それが現在の社会生活、労働や学業の時間にマッチしているかどうかを考えてみるのはオススメしたい。
という統計結果と内容を友人に話した所、「無職の特権だな。」と言われるも、人は大概何か夢を持っているので折り合いが難しいだろうからこれは嫌味にしか聞こえないだろうか。
個人的にはその一日であるブーストタイムで自己性能差は本気で2-3倍は変わると思う。
後は週間や季節による性能差も実験中である。




