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ギルマスワークス!外伝.戦場の花を捕まえて  作者: 真宮蔵人
人外魔境に咲く花
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B010.土竜は大地を進む

「まずは双方の戦力評価からしてはどうですか?」とインテリオークのバッシーさんがメガネを上げながら発言をする。

「こちらはよく訓練された飛行部隊、敵は戦い慣れた陸戦部隊。砲兵の数は互角です。」

俺は努めて冷静に対策を頭の中で考える、この差に抜け道は無いのか?

「野良Zerg vs野良Zerg化しているのがネックっすね、別の所へ行くのもありっすよ。」

ロドリコはこの泥沼の戦いには否定的だ、こいつが否定するなら相手も同じ状況だろう。

「そうなっちゃえしまえば魔王軍負けちゃうじゃないですか、やだー。」

愛微笑は立場上にメンツを守らなければならない。しかし、問題点がある。

「敵はこちらが機械神の神像を奪いに来たと言ってたけど、オイラ達はどうやって奪えるんだ?」

「ああ、それはですね。ギルドアライメントポイントの高いギルドで権限を持つ人がポイントを使用してダンジョンや砦や村を作ることが出来るんですよ。すると周囲が自軍の支配下になります。」

「ああ、前にそんな事言ってたでやんすね。つまり、小競り合いは大局に関係しないという事でやすか?」

「そうとも言えるな…。拠点を敵の困る位置に作り、復帰地点や領域を広げるのが重要らしい…。」

ナイトウィンドの水魔法は主砲なので頭脳労働よりも前線に出て頂きたいが。


帰宅夕飯から一同と合流を果たしたジノーが基本的に質問をする。

「ダンジョンや村を作るにはポイント以外に必要な物はあるんですか?」

「爪がある種族は素手でダンジョン作成がいけるみたいですが、武装がある種族は村と砦が作れる代わりに道具が必要みたいです。」

「うーん。」と一同が悩む中で俺は天啓を受けたように閃いた。

「空戦、諦めましょう。」「え!?」「マジでやすか。」「ふむ。」

俺は困惑する周囲に構わず発言を続ける。

「村や砦の出入り口は複数用意できるはずです、つまり地下に作るタイプのダンジョンも出口が二つ出来てもおかしくないですよね?」

「あ、ハイ。ダンジョンは出口を複数用意する事も可能みたいです。」

このやり取りですぐに気づいた人は出た、バッシーさんは

「ほう、土竜攻めですか。少し古典的だがおもしろい作戦ですな。ポイントも大胆に使う所でしょう。」と理解を示し。

ヨグさんは「空戦よりも遥かに歴史のある戦い方でありんす。」とコロコロと笑いながら応じる。

「つまりどういうことだってばよお兄ちゃん。」とエリーンは解説を促す役からぶれない。

これは全員の承認を得たい作戦なので説明や意味はちゃんと聞かせないといけない。

「俺とアレキシさんと化けたエリーンで地下ダンジョンを掘り進め、敵の裏手まで掘り進めます。

問題は掘り進む速度が分からない事と、航空積載ユニット減少により敵の空爆を警戒しないといけなくなる所です。」

この作戦は確実性が無いので作戦とは言えない実験である。

しかも、ダンジョン作成に使うギルドアライメントポイントは相当数で、それを失えばギルドスキル獲得等の恩恵は遠のく上に、それも皆がコツコツとプレイヤーキルをして稼いだポイント、通貨よりも大切な物だ。

「分の悪い賭けですが、一回試してみませんか?ベータですし、それに…。」

「あの男に正面から勝つ自信は無い…か?」

「正面から戦わない男にクソ真面目に挑む必要はねえよ坊や!アタイは博打好きだしね。」

「分かりました、ベータですしね。皆で負けても笑える思い出を作りましょうか。」

「全て無くなっちまう前の戦いだ、オイラもその博打にかけるよ。」

「勿論、勝利の目を期待していますよ。」

「所で、亜竜三体でそんなにうまく作れるかね?」

「まずはそこが問題なんですが。人手がどれくらい必要か分からないんです。」

「ああ、私で良ければ参加しよう。砲兵は野良の人の方が強いのでな。」とタージリンさんがダンジョン作成に手を貸してくれるらしい。

タージリンさんは昨日今日に始めたプレイヤーなのでLvは低い。だが、ダンジョン作成にはLvはあまり関係ないという設定なので、人手が増えるのは助かる。

それに今回はダンジョンの肝である地下階層作成はB1Fまでしか作らなくても良い、狙いはあくまで敵の後方を突く為の坑道である。

「では皆さん、ビータさんの作戦で行ってみましょう。今日も笑いながら戦いましょう。」と愛微笑は魔王様らしからぬ笑顔で戦線の維持に飛んだ。


前衛、マリッド、レオ、オーク戦士達。中衛、ロドリコ、ア・ヨグ、セルフバンジー。

後衛、バッシー、ナイトウィンド。空対空戦、愛微笑、ジノー。

身内で展開するとこういった組み合わせになる。ナイトさんの水魔法は強力だが、敵もそれを警戒してかエーテロイド達は前面に出ずに砲撃モードから位置と役割を崩さない。

空戦は野良の味方亜竜やシルフ等のユニットが敵のテクチャルやゴーストとドッグファイトに明け暮れるが、亜竜やテクチャルの飛行船といった爆撃や揚陸ユニットを有効に運用する程のチームワークは無い。

ベータテストとは所詮こんなものである。だけど、ベータだから無駄が見える戦いに楽しさも感じる。

プロチームの団体スポーツと子供の頃にルールも分からず遊んだスポーツもどき、どちらが楽しいかと言われれば甲乙付けられる人は少ないだろう?

とはいえ、その子供の遊びじみた戦場にガチで殴り込もうとしている勢力が二つあった。


「坊主が見つからないな。」空中を単独で飛行かつ瞬間移動を繰り返しながら進むという奇妙過ぎるドワーフは敵と定めた男、弟子ともいえるくらいに戦術を叩き込んだ巨竜が空にいない事を確認した。

「カラシさん、最大EP少ないんだからあんまり前に出んでくれよう。」とドワーフを守る様に動くゴーストと亜竜に化けたドッペルゲンガーが自身達の棟梁が暴走する様を抑えに来る。

「ギルマス、もう一体の晒されていた竜も見つかりません。」

陸上から敵の死角を見極めつつ雷鳴と影の如く移動する死神、跳び陽炎からの報告が入る。

「いない?」「逃げたんじゃねえの?」「キャラチェンとか?」「学生にそんな余裕あるかね。」

「もう学生辞めてたりしてな。」「だとしたら間違いないカラシさんの責任だな。」

そんなメンバーの軽口にドワーフの男は渋い顔をしながら愛弟子の弁護に当たる。

「あいつはそんなタマじゃねえ、逃げも隠れも、いや、隠れるか?」

「雲に隠れたか地に潜ったか、現状いないもんはいないんですよ。」とドッペルゲンガーは笑いながら言ったが。

「おい、今なんつった?」と空を飛ぶドワーフは鋭い声でドッペルゲンガーSIVAの発言に反応した。

「うわこわい、いないもんはいないです?」「その前だ。」

「雲に隠れたか、地に潜ったか?」

ドワーフは鋭い舌打ちをすると共に大きな喜びも感じた。

「あいつを見失ってから何分経った?」「もう30分は見かけてねーな。」

「やられたか?陽炎。敵中ではなく後方を監視しろ。」

「マスター、復帰狩りなら味方が死ねば判明しますが?」

「ちゃう、補給線の確保が敵の狙いだ。復帰狩りは一回潰せばそれで終わりだが、これからもっと面倒な事が起こるぞ。」


ダンジョン作成、ギルドアライメントポイントを使用してダンジョンを作成します。地下一階層の作成には50万ギルドアライメントポイントが必要です。『了承』

亜竜二体、それの紛い者、トロル。その4体が暗い地下坑道を掘り進む。壁を掘り進める役が二名、外へ土を捨てに行く役が二名、ソロでこれをやれと言われれば、いくら巨体で人から外れた種族になったとしてもお断りだ。過去のファンタジー作品のダンジョンはどれほどの苦労と孤独と暗闇との戦いだったろうか、それともこのゲーム程細かい設定が無いから何かの御都合主義デウスエクスマキナがあったのだろうか。

穴を掘るという作業は空を駆け巡るという事の対極であると思える。

しかし、これは一時の好機かもしれないし、長く続く戦いの始まりかもしれない。

「おにいちゃーん、これつまらんねー。」「こんな作戦につき合わせて申し訳ないとは思っている。」

「いいでやすよ、バイトよりは楽しいでやす。」「アレキシ殿は苦労している様だな。はっはっは。」

和やかに進められる単調作業でこの人選は当たりだったと実に痛感する。

効率を求める人が加わると失敗後が怖いし、会話が出来ない人と無口のままやり切れる作業ではない。

操作の激しい戦闘や大縄跳びギミックが苦手な人とやるには楽しい作業だな。

なぜかというと、エンドコンテンツが苦手な人は大体トークスキルが高いらしいからだ。

以前、マギラ2でギルマスが言っていた「トンマな人間は言葉でそれを補う。よって人は優劣が付き難い。なあ、マグミさん。」「ひどーい、私こんな事を30年近く言われてるんだよー。」「ぐっはっは!」

懐かしい日々は敵を倒すための材料となる。

しかし、これは一種の救済措置なのだろうか。

ネットゲームは大体がとある領域に達すると脱落者が出始めるコンテンツが出る。

これはエンドコンテンツと昔から言われているが、エンドするのは和やかな人間関係だとも言われる。

「へいへいほー♪へいへいほー♪わたしは穴を掘るー♪」とエリーンがついに狂ったのか色々メロディーが混じった歌を自作し始める。穴掘り開始から20分が経つが、妹の忍耐力が低いのは知っていた。


ワールドマップを拡大しながら掘り進めている方向と位置を調整する、戦場の範囲はゲームの都合上200mを超えない、戦況が膠着状態の現在ではむしろ狭まっている可能性もある。

となると、もうそろそろ敵と機械神像の裏手に回った頃だろう。

「では、坑道の中央にダンジョンコアと復帰地点を配置してきます。出来るだけ掘り進んだらその後に天井に穴を開けましょう。」

「了解でやんす。」「わかったよー。」「うんうん。」

俺はダンジョンを進んだ道から戻り、大体中心だろうという位置にダンジョンコアと味方の復帰地点を作成する。これで消費されるポイントは30万、もう後には引けない。

復帰地点を設置した直後に続々と味方の戦線復帰者がPOPしてくる。

彼等は口々に「ここどこだよ。」と呟いているので、

「ここは戦場の地下です、これから敵の後方に突撃を仕掛けるので皆さん付いて来て下さい。」

と味方で溢れつつあるダンジョン内で出来るだけ声を上げる。

「陸上部隊へ、ダンジョン完成。すぐにこちらから突入し回り込みを開始してください。」

とギルドチャットで呼びかける。

ダンジョンの入り口より味方が突入してくるのを確認出来たので、俺は先頭を進み、最後の穴掘りを実行した。


「マスター、敵の陸上部隊が逃げていきます。」

「逃げる、お前にはそう見えるか?ワシには罠にしか見えんがね。それに、まだコアタイムだ。」

「なんだよカラシ!そんなタマじゃねえだろ!突っ込むんだよ!」

と返り血に塗れた阿修羅のチビパンは腕を体操する様に振り回した。

「しゃーないな、エールート。わしらの突入に合わせろ。」「ほい。ユニグロ、総員突撃用意。」

「マスター!後方より敵Zerg確認!」

「速く突っ込め!突っ込め!出遅れるな、全員走れ!」

覇王軍の軍勢は敵の後方からの奇襲を味方に周知させる前に突撃の号令を出した。これは正解である。

後ろを見たら負ける、挟撃に有った場合の鉄則である。選りすぐられ訓練された兵士ならば全員が反転し後方の敵を各個撃破する事も可能だが、野良では攻撃力と反応速度が圧倒的に足りない。

出来る命令コマンドは、砲撃、突撃、停止。野良だとこれしか出来ないのだ。

「オラアアアア!」とドワーフの男は叫びながら最前線を走り、後退しながら迎撃をしようとする敵の的役を引き受け、その攻撃を空神Lv9の瞬間移動でピュンピュンと姿を消しながら回避する。

敵の後方部隊より更に後ろの位置にそれは有った。

『天魔のダンジョン』と解説文字が画面上に表示される。

「空挺か土竜攻めかと思ったら地味な方選びやがったな!全員、このダンジョンへ突撃しろ!」

「罠の可能性はいかがしますか?」

「こんな短時間では無理だろ。後、罠作成なんてスキルライン取ってる奴なんてまだいねえはずだ!」

「カラシ、後方より圧力が増えましたよ、これはあれですかね。」

「ダンジョンの構造を見ないと分からん!しかし、敵の狙いは一つだ!」


「敵の後方へ突撃し続けてください、復帰組は周囲の状況を見て味方の合図を待ってから一斉に加わってください。」俺は出来るだけ敵に轢き殺される再出撃者を出さないように情報を伝達する。

問題はダンジョンコアの破壊条件だが、これはコアを配置した時に『ビータがダンジョンボスに設定されました。』と表示が出たので自分が沈まなければダンジョンが易々と落ちないギミックだと悟った。

ボスが近くにいるとダンジョンコアは強化される、復帰地点は破壊される前に追撃を加えて妨害するか再配置を繰り返す。

後はひたすら敵の尻尾に食らい付けばこの戦いは勝ちになる。圧倒的な戦力差が既に付かない状況に陥っている為に、拠点を完成させた方は遥かに優位になるが、作戦としては回転空城の計という訳のわからない戦法だ。

そして、ダンジョンが完成した今、ここは魔王軍領である。

ワールドマップの勢力図が動く、それを理由に全国から敵味方が興味本位で集まってくる。

ダンジョン内部で敵味方が倒れると恐ろしい勢いでポイントがギルドへ入ってくる。それを使用して味方の再出撃コアを破壊されても配置する事が出来る。

陣地の無い敵にはこれが出来ないので必然的に兵力の集中時間はこちらが優位となる。


「ダンジョン内で水平砲撃は?」「無理、展開が間に合わない。」

「真上にこちらも築城するのはどうだ?」「敵が突撃モードを崩さない限りは難しい。」

「爆撃隊の編成は?」「テクチャルで気の利いた奴がいればいいんだけどな。」

「そもそもお前が得意な手だろうが。」「あの少年がキッチリ決めてきたのは嬉しくないか?」

ドワーフとエルフが言い合いをしている中で遠目に見える巨竜ビータ。

その下には階級表示がされ、内容は『ダンジョンマスター』。

「一本取られた状況じゃねえか。」「別に俺等に損な戦いでもないしな、死ななければいいし。」

と阿修羅とドッペルゲンガーは前向きな意見だが。

「ウチとしては負けておりませんが、覇王軍としては負けを認めなければなりませんね。」

と涼しい顔でエルフは敗北宣言を突きつける。

「一歩下がって二歩進めて来たのは評価してやるわい、だが。」「だが?」

「対策は思いついた、次回は戦況有利に持ち込むさな。」

「流石笛吹き男、私は自分のギルド利益だけ考えれば済むこの状況が嬉しいですがね。」

「お前がこっちに肩入れするならマギラ2も終わりが見えたな。」

「ネットゲームをユーザー同士で調整してた今までが異常だったんですよ。」

「おい、喋ってねえで進めよ!轢き殺される前に轢き殺すんだよ!」

とチビパンが逃げ遅れた敵を切り刻むのに続く、追い立てられる様に、追い立てる様に。


友情破壊ゲーム

筆者は正直者なのでエンドコンテンツでしくじった人間には馬鹿正直に失敗の原因を突きつける癖がある、これが理由で友人と思えた人間を結構無くしているが、勝利への渇望を捨てられない葛藤がある。

大体の人間はこれを見て無ぬ振りをしてブラックリスト等に対象を入れて終わりらしい。

結果、筆者の友人は聖人みたいな性格な人物かサウスパークのカートマンみたいな人間しか残っていないが別に後悔はしていない。

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